特集 2019年10月24日

コーヒーと世界史

コーヒーは世界中で親しまれている飲み物だ。だからこそ外国に行くと、知ってるはずのものがビックリするような飲み方をしてたりする。練乳を入れたり、かち割り氷を入れたり、カップをひっくり返したり…。

そんな「世界のコーヒー」について、大阪の下町にある純喫茶で教えてもらった。歴史や、流行の話も。スエズ運河とか20年ぶりに聞いたぞ。

 

※この記事は、 世界のカルチャーショックを集めたサイト「海外ZINE」の記事をデイリーポータルZ向けにリライトしたものです。

海外ZINEは、世界各地のカルチャーショックを現地在住ライターが紹介する読み物サイトです。 / 1984年生まれ、大阪出身。海外ZINEの編集長です。ベトナムに片足をつっこみながら記事を書いたりサイトを運営したりしています。

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エチオピア産コーヒーの味が紅茶に似ている理由

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エチオピア産コーヒーは紅茶のような味がするんです。
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……あ、ほんとだ! なんでですか?
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エチオピア産のコーヒー豆
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『ボストン茶会事件』って知ってます? 簡単に言えば、イギリスが植民地時代下のアメリカへ輸入しようとした紅茶が、厳しい税法の反対派によってボストン港に棄てられた事件。それをきっかけにコーヒーが紅茶の代替品として広く飲まれるようになったんです。だから当時栽培されていた原産国であるエチオピアのコーヒーは、紅茶に似ているんですね。

そんなコーヒーエピソードを教えてくれた人物は、大阪・天王寺の、1974年創業(執筆時で45周年)になる純喫茶『ルプラ』二代目店主の西峯(にしみね)さん。

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私と地元も世代も近く、おもしろい活動をしている(後述)と思って個人的な興味が湧いてコンタクトをとって会ってみた。すると、コーヒーを軸に世界の話がぞくぞくと飛び出すではないか。これはおもしろい!と思って、急遽、取材させていただくことになったのです。

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大阪の中心部ながら閑静な住宅街にある、『喫茶ルプラ』。左が焙煎所で右が喫茶店。
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渋い店内にしびれる。

“コーヒー・ロード”をたどると歴史が見える

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エチオピアって確かにコーヒーのイメージはあったんですが、そもそも原産国なんですね。知らなかった。
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そうなんです。それからコーヒーがさまざまな場所で市民権を獲得して、世界各地で品種改良が重ねられて現在につながります。
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今ここで飲んだエチオピア・コーヒーの味が、20年以上前に教科書から学んだ話(ボストン茶会事件)とつながってくるとは思わなかったです。
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右が後述の黄金のコーヒー、色味がまるで違う。
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それでいうとこの話も教科書で学んだことにつながります。17世紀頃、インドのコーヒーはヨーロッパでは『黄金のコーヒー』と呼ばれて高級品として扱われていました。黄金と見るかは人それぞれですが、それを再現しているものがこの豆で、確かに黄色がかっています。
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ほ~、ほんとだ。黄金といえば黄金だ。
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これ、わざわざ収穫後にモンスーン(季節風)をあてたりと、手間暇をかけてこうしています。
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えっ、すると美味しくなるんですか?
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いえ、その逆。後味が苦くて、現代の評価でいえば良いとは言えません……。
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なぜわざわざ!? 確かに味は、古い感じがしますけど……。

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というのも。当時、インドからイギリスへの貿易ルートはアフリカ大陸を大回りするしかなかった。そのため2~3ヶ月かけて運んでいたのですが、すると必然的にモンスーンを受けながら天日干しされた状態になるので、到着する頃にはこの色になっていたんですね。

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うん、うん。

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しかし、船は帆船から蒸気船へと変わり、スエズ運河も開通したことで、航海日数は大幅に短縮されたことにより黄金のコーヒーは歴史から姿を消した。それが今「オリエンタルでミステリーでノスタルジー」と謳われ、逆に価値が生まれて再現されているという訳です。

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スエズ運河! あったなそういうの~! つまり、「大航海時代の味」ってことか。日本で言えば「蘇(※)を再現したった」みたいな。※古代日本でつくられたチーズ
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西峯さんの口からコーヒーのトリビアがとめどなく飛び出す

ルプラ二代目店長西峯さんの”寄り添う”コーヒー

ここで歴史や世界からいったん離れて、西峯さんについて聞きたい。そもそも興味を持ったきっかけは、発信している情報から「喫茶店らしかぬユニークなことをしてる」と思ったからだ。それはたとえば、お店でコーヒーを淹れるばかりでなく、焙煎や淹れ方について教える出張教室をしていたり、リヤカーを引っ張ってフリーマーケットで出張カフェを行っているとか。

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焙煎教室をしたり、
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出張カフェをしたり(地元テレビでも取り上げられた)。

そして、『純喫茶ルプラ』は創業してからそろそろ半世紀。しかし西峯さんは36歳とお店よりも年が若い。ということは、自分ではじめたお店ではなさそうだ。

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僕は二代目で、2011年、ちょうど東日本大震災の一週間後くらいに父が亡くなり家業を継いだんです。

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なるほど……。では、それまではルプラで働かれていたんですか?

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いえ、とある結婚式場で副料理長をしていて、「いつかは継ぐのかなー」とゆるく考えていたんですが、急な展開ではありました。ただ、料理は問題なくてもコーヒーのことが分からない。そこで勉強しようと思って、大手カフェチェーンやメーカーもふくめてセミナーを見て回ったんですが、言うことがバラバラだったんですね。

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バラバラ。
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料理人時代の写真は少ないそうで、手元とソーセージを撮ったものだけ。
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なにしろ元副料理長、料理も絶品!(ってまだ食べれてないけど)
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料理だとどのジャンルでも基本は同じなんです。「食材が生臭くならないようにあらかじめ熱した鍋に入れましょう」、みたく。ただコーヒーについては、「挽きたてがいい」とか「2~3ヶ月熟成させてから」とか……それぞれの主張がバラバラで。そもそも、コーヒーって挽目を1メモリずらしただけで味が変わる。でも、そういったことはセミナーでは教えられず、どこも「こういう(決まった)やり方でいいんだ」という感じでした。

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なんでだろう、理由は想像つきます?

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今だから分かるのですが「教えづらい」からだと思います。味を変えることは簡単だけど、条件が絡み合う。濃くするだけでも、挽目を細かく、湯温を高く、抽出時間を長く、といったように。それでまた水質によっても変わったりするので。そういうことを分かっていく中で、「もっと飲む相手の好みに合わせた……つまり”寄り添った淹れ方”があるのでは?」と思うようになりましたね。

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それから、ひょんなことから奈良最古のカフェの店主と仲良くなり、コーヒーに対する姿勢や考え方を学んだという。この焙煎機はその方を通じて譲ってもらったという、国内でたった五台しかないという90歳の焙煎機。

コーヒー屋としての西峯さんの原体験を聞いているうちに、こだわりの一端が分かった気がした。話によると、コーヒーの世界では「あの人が淹れたから美味しいのだ」という職人的ともアーティスト的ともいえる意識が強く、「バリスタの大会で優勝して名を上げたら焙煎作業に集中したり焙煎機の開発に携わる」というキャリアパスを思い描く人も多いらしい。

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コーヒー豆から炭酸ガスが出ており、フタを開けるとポンッと小気味よい音が鳴る。

そんな背景もあってコーヒーの淹れ方については門外不出のブラックボックス化していることもあり、教え合うことは少ない(むしろ、その「淹れ方」の条件をデータ化してセットできる焙煎機もありそのデータが売買されているくらい)。一方でレシピ本が数多く出たりと「教え合う」ということが当たり前の料理人の世界から来た西峯さんにとっては、その文化が衝撃的だったようだ。

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お湯が注がれると……
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生きているようにコポコポと音を立てながら泡立つコーヒー

もちろん、コーヒーに関わる人にもあらゆる人がいて、考え方もさまざまであることは言うまでもない。が、西峯さんは、「これだけ多くの要素によって味が変わるのなら、相手の味覚や状況によって好みの味を探る、つまり”寄り添う”淹れ方を常に意識している」という。

コーヒーの嗜み方と付き合い方から見る世界

訪日観光客が増えた昨今、口コミでも評判ということもあって、純喫茶ルプラにはいろんな国籍の人がやってくる。「韓国人の団体さんがよく来るなぁ」と思っていたら、どうもコーヒーをテーマとしたツアー先に組み込まれていた、なんてこともあったらしい。また、焙煎教室をやっていることもあり、「自分もカフェを開きたい」という人の相談に乗ることも多く、ちょうど今は「済州島(朝鮮半島南西にある火山島、リゾートとしても知られる)で開きたい」という韓国人の方もいるという。

これだけで韓国にコーヒーブームが起こっているということがよく分かる。

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各地でコーヒーの好みに違いってあったりしますか?

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ありますね、たとえば香港の方は薄味が好みです。以前香港からお客さんが来られたことがあって、それを知っていたので狙って薄く出したんですが「まだ濃い」という感じで、最終的に四回淹れたことがあります。

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四回も!(笑)

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口コミサイトで「四回も淹れてくれたいい店だ」って評価してくれたみたいです(笑)。

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そりゃあそうだ。いい店ですよ。ほかの国にも、好みの味覚、また飲み方の特徴ってありますか?

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ありますよ!

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韓国は味が濃くてアレンジ好き

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まず韓国では、もともとの食文化の影響を受けてかコーヒーの味も濃いものが好まれますね。

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先日旅行に行ったんですが、食べた限りだと料理の味は確かにどれも濃かったです。

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あとはとにかくアレンジが好き、そこにかけては異様といえるほどの興味を持ってると感じます。

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ほーー、たとえばどんなアレンジが?

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今は廃れているかもしれないですが、たとえば、ロックグラスに濃いめのコーヒーとかちわり氷を入れて、ウィスキーのように時間をかけてちびちびと飲むとか。あと、コーヒーの上に綿あめを浮かせて、湯気で溶かして砂糖を落としていくというスタイルもありますね。

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あ! それベトナムのカフェで見たことがあって、調べると元ネタは韓国だったことがありました。

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韓国の場合、コーヒーについては、伝統に沿うというより新しいものを生み出していく傾向がありますね
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これは昔ベトナムで飲んだものだが、元ネタは韓国のカフェ発だった。

インドネシアのおしゃべり文化とちびちびコーヒー

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インドネシア(スマトラ島周辺)では、ホットコーヒーを注いだコップの上に皿を置いてえいっとひっくり返し、その縁から漏れ出てくるものをストローで飲むというスタイルがあります。これによって冷めずに長い時間をかけて飲めるそうです。
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変化球!……あ~でも、以前インドネシアに住まれている武部さんが書かれた記事で、「ノンクロン文化」というものを知って。直訳すると「しゃがむ」なんですが、要は座り込んでおしゃべりするってことで、「インドネシア人なら行きつけのノンクロン場所がある」んですって。もしかしたらそのコーヒーの飲み方とも、どこかで文化的な文脈でつながっているかもしれないですねぇ。
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このようにひっくり返すという

ノンクロン文化について知りたい方はこちらの記事(『インドネシアと武部洋子』後編:ロックとわたし)をお読みください。

フィンランドは天才が決定づけた味に沿う

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フィンランドをはじめとした北欧圏では、酸味がありあまり焼いていないコーヒーが好まれます。原理主義と言わないまでも、「これこそがコーヒーのオリジナルだろう」と思っている傾向があるようです。
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なぜ??
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焙煎師の世界大会で最年少チャンプを輩出しているんですね。そんな彼のフォロワーがたくさんいて、「そこから逸脱するとよくない」という意識が根強くあります。
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ひとりの天才の功績が国民性のレベルで好みを決定づけた、って感じなんですね。

ちなみにフィンランドでは一日4~5杯という世界トップクラスでコーヒーが飲まれる国で、その理由のひとつには「あまり社交的ではないから会話のツールとしてコーヒーを飲む」という話もあるようです(参考)。おぉー、まさしく飲み方に国民性があらわれている……。

ベトナムコーヒーはフランス文化と流通規制

また、ベトナムでは、かなりおおざっぱに言えば、北部はお茶で南部はコーヒーと地域色があります。コーヒーはほぼ間違いなく、旧宗主国であったフランスの影響。あとこれは個人的な仮説なんですが、フランスからの独立のあとに南部はアメリカの影響を強く受けつづけた(からコーヒー文化が強い)と言えるかもしれません。

そして、いわゆるベトナムコーヒーは苦味が強いロブスタ種に練乳を入れるスタイルが定番ですが、「配給時代で流通が規制されており生乳の入手がむずかしかったため、保存の効く練乳が使われるようになった」という話をベトナム人の友人から聞いたこともあります。

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選択肢が増えた今は少ないだろうが、「コーラに練乳を入れる」という飲み方もある。
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西嶺さんがコーヒーを淹れる様子(ラーメンの湯切りっぽくも見える)

韓国の味覚がスペシャルティコーヒーを牽引?

最後に、よく聞くようになったサードウェイブについて西峯さんから興味深い話が聞けた。

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サードウェイブって、「世界的な味の評価基準をつくった」というところに意義があると考えているんですね。
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え、そういうものだったんですか? てっきり素材を活かす浅煎りコーヒーみたいなものだと思ってました……。
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もちろんそれもあるし、ブルーボトルコーヒーのような雰囲気のカフェが増えるムーブメントにもつながってくる話ですが、背景にあるものは「きちんと味で評価しましょう」という、スペシャルティコーヒーと呼ばれる世界共通の評価基準ができたことがあります。
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それまでは味が評価されていなかったということ??
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それが国によってバラバラだったんですね。「豆の大きさ」とか「標高の高さ」とか。ちなみに、日本では香りを気にしますが、ほかの国では酸味(acidity)とカップのきれいさ(clean cup)が最優先事項で香りには重きを置いていないんですよ。
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香り気そんななんだ! そしてカップのきれいさ!?
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また近年では韓国でサードウェイブブームが起こっていて(参考)、「スペシャルティコーヒーを評価する資格保有者6人に1人が韓国人」という状況になっています。
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おぉ、サードウェイブにコリアンウェイブ……。
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そうすると、さっきお話しした「味の濃いものが評価される」という、韓国の味覚にどうしても寄ってくるものです。もしかしたら今後は良いコーヒー、つまりは高値がつくコーヒーの基準が、「味が濃くて強いもの」に変わってくるかもしれませんね。
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カッピング(ワインでいうテイスティング)の評価表

コーヒーというフォーマットで文化が見える

そんな、世界のコーヒーのお話でした。

最後に少し話に出たように、日本では「香り高い」ことが良いコーヒーの条件ともされていましたが、それが実は日本の中だけの話だったとは衝撃。その国や地域で良いとされる基準から、歴史が分かり、世界の味覚や文化までも見えてくる。世界中の嗜好品というフォーマットだからこそ、価値観の違いが見えておもしろかった。

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90歳の焙煎機が動く様子は蒸気機関車のようでした

 

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