はじめに
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ライターに地元のうまいものを紹介してもらうコーナーが終了しまして、昔からずっとある店を紹介してもらいます。5回目はパリッコさんからです。
東京都練馬区、思い出の「35」
母方のいとこに、男、女、男の順で、それぞれ3歳違いの3兄弟がいる。まんなかの女の子が僕と同い年。しかも僕の実家が練馬区の大泉学園で、彼らの家はその隣、石神井公園(現在の最寄りは、その後に新駅として誕生した練馬高野台)にあったので、子供時代は、それはもうよく遊んだものだ。
彼らの家は団地で、僕はそこへ遊びに行ったり、泊まりに行ったりすることが本当に楽しみだった。当時はどんな遊びをしていたんだっけな。覚えているのは、兄弟の二段ベッド使った秘密基地ごっことか、公園や石神井川が近くにあったからそこを探検するとか、あとはまぁ、ファミコンしたり、だらだら漫画を読んだり。
で、数時間そんなことをしているとたいてい、「『35』行こうか!」ということになる。それだけ聞くと意味がわからないだろうけど、数字は団地の35号棟のことを指していて、その1階にはいくつかの商店が入っており、そのなかの1軒に駄菓子屋があった。つまり「駄菓子屋行こうか!」というわけだ。
親からもらった100円玉を握りしめ、それぞれ10円とか数十円の「うまい棒」や「モロッコヨーグル」や「マルカワフーセンガム」などを、金額ぴったりになるように選んでゆくわくわく感。それらを目の前の公園で食べるときの、僕たち全員を光が包み込むような幸福感。それは、僕の子供時代のなかでも、特別キラキラと輝く思い出だ。
中学、高校と進むにつれ、いとこたちと遊ぶ機会はどんどん減っていった。当然、35に行くこともなくなった。けれど、僕は今もそう遠くない場所に住んでいて、行こうと思えばいつだって行ける距離にある。
まだあるんだろうか?
数年前の夏、ふと気になって35のあった場所へ行ってみることにした。あんな天然記念物のような店が、この時代に残っているなんて、むしろ不自然なくらいだ。そんな気持ちのほうが自分のなかでだいぶ勝りつつも、35号棟が見えてきた。
はたして35はあるのか? ドキドキドキ……結果、思いっきり現存していて、思わず笑ってしまった。
あのころのままだ! と興奮しつつ、もう大人なので金に糸目をつけずに買いものをする。ただ、お会計時にご主人にお話を聞いたら、ここはもともと先代であるお母様が営まれていた店で、当時はパンなどの食料品や日用品も扱う、今で言うコンビニのような店だったそう。それを数年前に引き継ぎ、完全に駄菓子屋としてリニューアルしたのが現在。つまり僕が、あのころのままだ! と感じたのは少し間違いで、ざっくりと昭和生まれくらいまでの日本人が共通認識として持っているであろう“あのころのまま感”を、むしろ増幅させて今に至っているというわけだ。すごくないですか? ちなみに現在の正式な店名は「おかしのみもの くごしょうてん」。
帰宅し、せっかくなので買ってきた駄菓子を食べながらゲームをしてみる。当時と大きく違っている点は、「ガリガリ君」をそのまま食べるのではなく、チューハイに浸して「ガリガリ君サワー」にアレンジした点。子供時代も楽しかったが、大人はもっと楽しい。
終わって解説です
「『35』行こうか!」と言って、駄菓子屋行くのいいですね。数字は団地の35号棟のことで、その1階に駄菓子屋があるのだそうです。小学生っぽい言い方でかわいらしいですね。
サンドイッチはホットサンドになっているところがいいですね。
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