テキーラ専門のバー、六本木「 AGAVE」へ
ことの発端は、お酒の席で知り合ったひとりの男性、Sさん。
もともとは大森、地獄谷のバーでバーテンダーをやっており、今もお酒関係の仕 事をしているほどのお酒好きだそうなんですが、その方が「今、おもしろいのは テキーラですかね~。専門のバーもあって」なんて教えてくれて、がぜん興味を 持ってしまったんですよね。
「へ~、じゃあこんど連れてってくださいよ! あ~楽しみだな~」なんつっ て、せっかくだから事前に取材の約束もさせてもらい、割と軽い気持ちでやって来てしまったのが、
六本木「AGAVE(アガベ)」
六本木のバーですよ。
あ、やべ、自分、こういうとこぜんぜん慣れてない!
どうしよう、急に緊張してきた……。
震える右手を左手で支え、重厚なドアを開け、細い階段を降りて行くと、
スタイリッシュな看板がお出迎え
うわ、かっこよすぎてソワソワする~。
こちとら普段は、赤は赤でも、丸っこくて「お酒」だの「おでん」だの書いてあ る、ああいうのがぶらさがってるお店しか行かないすからねぇ……。
店内は想像以上に広いです
カウンターに着席
目の前の棚にあるのは、すべてテキーラ
さて、ここまで来たらジタバタしてもしかたないですし、心を決めましょう。
今日はここでテキーラへの知識を深め、大人の男に一歩近づくぞ!
「よろしくお願いします!」
こちらの、僕が将来的にこうなりたいと願う理想の容姿、佇まいの条件をすべて 満たしている男性が、マスターの佐々木さん。
今日は直々にテキーラのことを教えていただけるそうで、なんとありがたいことか。
そもそもテキーラってどんなお酒だっけ?
テキーラとは、「アガベ(竜舌蘭)」を原料に作られる蒸留酒。
アガベとは、メキシコを中心に米国南西部と中南米の熱帯域に自生する植物で、さっきの写真のカウンターの上にどーんと飾ってあったやつです。
どのように作るか?
まずは、アガベの葉っぱをぜ~んぶ取っちゃいます
で、その根茎の部分「ピニャ」を「マンボステラ」というレンガの釜で、24~36 時間くらい蒸し焼きにしちゃいます
すると、甘くて繊維質の強い、ふかし芋のような状態になるので、それを
「タオナ」という石臼のような道具をロバに引かせたりしながら、搾汁していきます。
こうしてとれた甘いアガベジュースを発酵、蒸留したものがテキーラ。
もちろんこれは昔ながらの作り方で、今では各工程を機械化している蒸留所も多い。
ちなみにこのアガベ、収穫までに5年以上という長い年月のかかる植物で、メキシコはハリスコ州、テキーラ市周辺の
アガベ畑
は「テキーラの古い産業施設群とリュウゼツランの景観」として世界遺産に認定されていたりします。
そして、次も試験に出るポイント。
こうしてアガベから作られる蒸留酒はメキシコの特産品なわけですが、そう簡単に「テキーラ」と名乗れるわけではないんです。
実はアガベには200以上もの種類があり、「テキーラ」の原料として認められているのは「アガベ・アスール・テキラーナ・ウェーバー」というただ1種のみ。
他に産地や製法にも多くの規制があり、ではその他の種類(約50種が使われてい る)のアガベから作られた蒸留酒がなんと呼ばれているかというと、「メスカル」といいます。
お店には、もちろんメスカルの在庫もたっぷり
このメスカルについても、名乗るためにはきちんと規定があったりするわけですが、今回は入門編で、そこまで手を広げられないので割愛!
テキーラはボトルがかわいい
お勉強モードで頭痛がしてきた方、もしくはとっくに脱落してしまった読者の方もいらっしゃるかもしれませんが、僕自身はなんか「ティーチャーズ・ハイ」と でも呼びたいような楽しい気分になってきたので、続けます。
これだけ厳しい規制のもとに作られたテキーラなんですが、実はボトルの形には規制がないんです。
で、陽気なお国柄ゆえでしょうか、ユニークでかわいらしいボトルが多い!
一見するとボトルに見えないものも多数
日本でいうところのお盆「死者の日」を象徴するガイコツ「カラベラ」 のモ チーフは定番
佐々木さんがテキーラの世界に目覚めるきっかけとなった「PORFIDIO」のボトル は、中にサボテンの細工が
イモムシの形。作った人、運搬する人のこと考えてないでしょ!
野球のバットとボール
いや、百歩譲ってバットはわかるけど、ボール意味なくない!? と思ったら、ボールの方にもお酒が入ってるんだそうで。
なんかもう、やりすぎちゃったやつ
なんとこちらは、日本のカップ酒にヒントを得て、ショットグラスをベースに作られた商品
「プレミアムテキーラ」飲み比べ
ではここからは、いよいよ実際にテキーラを味わっていきたいと思います。
でもその前に、本日の大前提をもうひとつ!
実はテキーラには、49%までの使用を認められている「副原料」、つまり、アガベとは別の原料から作った蒸留酒を合わせた「ミクストテキーラ」と、「アガベ100%テキーラ」の2種類が存在します。
ここ「AGAVE」に置かれているのは、全てがアガベ100%テキーラ。
つまり冒頭で言った、クラブなんかでわーっとふるまわれるパリピテキーラはどちらかというとミクストテキーラが多いかと思われ、純粋にアガベだけから作ら れたテキーラにこそ、奥深~い世界が広がっているというわけなんです。
※ちなみにこのアガベ100%テキーラ、わかりやすく「プレミアムテキーラ」なんて呼ばれることも多く、ニュアンスも伝わりやすいので、ここからはそう呼ばせていただきます。
また、テキーラは、熟成の度合いにより、
ブランコ
↓
ゴールド
↓
レポサド
↓
アニェホ
↓
エクストラ・アニェホ
というクラスに分けられています。
このうち「ゴールド」は、ブランコとそれ以上に熟成したテキーラをブレンドし たものなので、今回は、それ以外の各クラスのおすすめをいただくことに。
ではお願いします!
メモ用紙とボールペン、手にはカメラで完全におのぼりさん
1杯目:KAH(カー)ブランコ
すべてのしぐさがかっこいい佐々木さん
まず一杯目に注いでくれたのは
「KAH(カー)ブランコ」
ブランコとは、できたテキーラを樽などで熟成せず、すぐに瓶詰めしたもの。
一般的なショットグラスではなく、内部に香りが充満し、飲む時には甘味が舌のちょうど良い部分にストンと落ちる設計になっているという専用のグラスで、それぞれストレートで味わっていきます。
一杯目なので、いたって真剣に香りをチェック
クイッ
ほぉ~……なるほど!
なんというか……「アガベ!」って感じ。
って、伝わらないか。
若いだけあって鼻に近づけた時のアルコールの刺激感はかなり強いんですが、すごく甘みも強い。
これがたぶん、僕が今まできちんと意識して味わったことのなかった、アガベ本来の甘みなんでしょう。
それから植物由来の青さやスパイシーさも心地良く、「あ、美味しいテキーラって、こういうことだったんですね!」と開眼しちゃった感じがあります。
うまいな~、テキーラ!
チェイサーも独特です
テキーラのチェイサーとして、現地で最もポピュラーなのが「サングリータ」 (左)。
それから、それよりは少しマイナーだけど、お店おすすめの「ベルディータ」 (右)。
どちらもただのジュースではなく、本場でもお店ごとに独自の調合があるらしいのですが、こちらのサングリータは、トマトジュースベースをベースに、オレン ジ、ライム、ハラペーニョ、ウスターソース、塩胡椒などを加えたもの。
熟成の進んだテキーラに特に合うそうです。
それからベルディータは、パイナップルジュースを基調に、ミント、コリアンダー、ライム、ハラペーニョなどを加えたもの。
こちらはどちらかというと、若いテキーラと交互に飲むと、アガベの青々しい香りとの絶妙な橋渡しが楽しめるそう。
確かに、先ほどのKAHと交互に飲んでみると、刺激的なマリアージュがなんとも爽快です。
というかどちらも、塩気や辛味が加わっているので、ちょっとスープっぽくもあり、純粋に飲み物としてうまい。
これ、甲類焼酎で割ってもかなりいけるんじゃないかな~!
(六本木のバーで甲類焼酎の話をしてすみません)
2杯目:Agavales Premium(アガバレス プレミアム)レポサド
お次は「レポサド」
レポサドとは、2ヶ月~1年未満の短期熟成テキーラ。
こちら、「Agavales Premium」なら、アメリカンオーク樽で8ヶ月。
原材料アガベ100%でありながら比較的リーズナブルで、アメリカを中心に空前 のヒットを記録したテキーラだそうです。
ウイスキーなどと同様、樽で寝かせているだけあって、ほんのりと黄金に色づい ていますね。
先ほどのブランコに比べて甘みがさらに強まり、トゲトゲしさはなくなり、それでいてアガベの香りはしっかりと感じる。
すごくバランスがいいですよ、これ!
うわ、たった2杯飲んだだけでバランスとか言っちゃった……。
3杯目:Gran Orendain(グラン オレンダイン)アニェホ
続いて「アニェホ」
アニェホの熟成期間は1年以上3年未満。
こちらはホワイトオーク樽で1年と8ヶ月。
鼻先に近づけるとふんわりと甘く官能的な香りが漂う
どれ~どれ……
うわーっ! うめーっ!
ここに来て急激に、あえてわかりやすく例えるならば「シングルモルトウイス キー」に近づきました。
いわゆる、バニラ香やチョコレートのような甘み、ナッティーな風味を感じるというやつでしょうか。
含んだ口の中が幸福に包まれる、本当に良いお酒のあの感じ。
ただそれだけではなく、しっかりと原料のアガベを感じるんですよね。
その点こそがテキーラの真骨頂であり、おもしろさなのかもしれません。
4杯目:FORTALEZA(フォルタレサ)アニェホ
こちらも同じく「アニェホ」ですが……
個性の違いを感じられるようにということで、別のタイプのアニェホも出していただきました。
伝説の作り手ドン・セノビオ・サウザの5代目が、「マンボステラ」や「タオナ」を使って昔ながらの製法で作るテキーラ。
って、なにそのかっこいい成り立ち!
約3年熟成でありながら、ウイスキーに寄るというよりは、よりアガベの風味を 残したまま深みを増したような、テキーラの真骨頂とでも言いたい味わい。
製法やさまざまな要素でこんなにも味や香り幅が出るのもおもしろいですね。
5杯目:HERENCIA HISTORICO 27 DE MAYO CRISTALINO(エレンシア ヒストリコ 27・デ・マヨ 5年 クリスタリーノ)
アニェホの上の「エクストラ・アニェホ」
フレンチオーク樽による5年熟成。
なのに色が無色透明なんですが、これ、特殊フィルターによる濾過を3回行い、 熟成した味わいはそのままえに、クリアな色合いにしているんだそう。
「一体なぜそんなことをする必要が!?」と思ったら、テキーラの世界ではこの工程を「クリスタリーノ」と呼び、こういった商品を作るブランドも増えてきてい る、最近の流行なんだそうです。
ここまで来るともう、圧倒的にふくよかで、芳醇な香りと旨味が口の中に長~い余韻を持って広がる、といった感じ。
アガベの青い個性は薄めですが、ぜひ一度は飲んでみたい一杯といえるでしょう。
ちなみにテキーラ、エクストラ・アニェホより上のクラスはないのかというと、 標高が高く、年間の平均気温が高い産地の土地柄、熟成スピードも揮発スピード も早いんだそうで、年間に12~3%も樽から蒸発していってしまうため、このく らいが限界なんだそうです。
ワインやウイスキー作りにおいて、熟成中に蒸発してしまったぶんのお酒を「天使の分け前」なんて呼んだりしますが、メキシコの天使はずいぶんお酒好きのようで。
料理も美味しかったです!
こちら「AGAVE」、テキーラによく合うメキシカンフードのラインナップも充実しており、気になったので少し味わってみました。
そしたらこれがまた、うまい!
「ウチワサボテンのサラダとスモークサーモン」(1,500円)
サボテン、あんまり食べたことないけど、テキーラに合わないわけがなさそう!
メキシコ人の主食「トルティーヤ」に巻いて食べるそうです
当初の緊張はどこへやら、このあたりまでくるとだいぶ酔っ払っており……
ついカメラに収まりきらないほどのスピードで料理にかぶりついてしまう
酢漬けのサボテンが絶妙にシャキシャキ感を残しながらも柔らかく、ぜんぜん抵抗なく食べられます。
パプリカのピクルスとかに近いかも。
「ナチョス(ハーフサイズ)」(1,300円) ※レギュラーサイズは1,800円
こちらはカリッと焼き上げたトルティーヤにたっぷりのチーズと「サルサロハ」 (ピリ辛のソース)。
ナチョスは実はメキシコ料理ではなく、メキシコ風アメリカ料理だそうなんです が、そんなことどうでもよくて超うまい! 大好き!
マスターに「これ、うまいですね~! 本物の『ドンタコス』って感じで!」と 言ったらちょっと困惑した顔をされていたんで、その感想は間違いだったようですが。
「ビーフタコス」(¥1,500)
ひき肉じゃなくて「細切りのステーキ」って感じの牛肉が豪華。
中央は「青唐辛子の醤油漬け」で、若干の和風アレンジがまたいいアクセントに。
飲んで食べて、最後はもはや居酒屋にいる気分に
以上、知っている方にとっては本当に基礎の基礎だったかと思いますが、お酒好 きなら一度は味わってみないともったいない「プレミアムテキーラ」の奥深い世界でした。
ちなみに今日飲んだテキーラは、それぞれ一杯1,600円~3,600円まで。
自分には取材じゃなければ簡単には手が出ない価格ですが、お店には1,000円~ ラインナップが用意されていますし、たまには背伸びして、こんな世界に飛び込 んでみるのも大人の楽しみなんじゃないでしょうか。
なにしろこの記事をここまで読んだあなたなら「『ブランコ』で最近入ったやつ ありますか?」なんて、ちょっとだけ通ぶってみることだってできるんだから!
ちなみにこの体験で興味を持った僕は、さっそく酒屋さんへ行き、まだ銘柄の違いまではわからないので、1本2,000円くらいと手頃だった、アガベ100%テキーラのブランコを購入。
これがもうね、今後の夏の晩酌の大定番になりそうなおいしさ!
超おすすめです。