ピエロになる
8月12日、東急ハンズでピエロの服とメイクのセットを買ってきた。その日の夜、新宿の知人の事務所で着替えてメイクをさせてもらう。
これで街に出て軽くようすをつかんでおこう。夜からはじめるのはずるいかもしれない。だって酔っぱらいにあっというまに囲まれてしまうかもしれないから。
あれ?
……しかしメイクをするうちに気づいたことがある。
怖いぞ、おれ。
あまり楽しげな雰囲気がない。いや、いま室内だから悪夢っぽいのかもしれない。そとに出れば違うかもしれない。
夜の新宿に出ることにします。
怖い…。
テラスで飲もう
オープンエアーの店を選び、テラス席で街ゆく人にアピールしてみよう。場所柄、外国人も多いので期待できるかもしれない。
「ばっちこい!」の気分
5分後
10分後
不安は的中。誰も寄ってこない。店先にへんなのに座られてしまった店の人もいぶかしげにこっちをみている。
「はやく帰らないかな…」
でも、ビールを持ってきたときに
「すごいっすね」
と言ってくれたので「いや、いいですから」と返したが店員はもういなかった。だめだ。耐えられない。場所を変えよう。
はやくも泣きそう
土砂降りのなか、ピエロは逃げるように移動
行動でおかしな感じをアピール
新宿は変わった人に優しい街だ。タイガーマスクの覆面かぶった人が普通に新聞配達をしている。
僕がスカートをはいたときだって誰にもなにも言われなかった。だからピエロが目立たないのかもしれない。
服装だけではなく、行動でもアピールする必要がある。
こんなピエロ珍しいだろう
ピエロが人を楽しませるのを忘れて自分が楽しんでいたらどうだろう。バッティングセンターで。酔っぱらったカップルが寄ってくるかもしれない。
しかしあらためて写真をみて思う。
バット持ってるのがまずい。やすっぽいメタルバンドの裏ジャケみたいだ。目を合わせてはいけない。
キシャー!
その場のルールがあるのか
バッティングセンターに併設されているゲームセンターにものすごくゲームのうまい人がいた。
その人のまわりに人だかりができていた。人だかりのなかにピエロ。地味なうえにかわいそう。
うまいなー
目立つには場所に応じたアピール方法を考えなければならない。
いや、今回の特集は「目立つ」ではなく、「目立つのに地味に振る舞う」なのだが、第一段階の人が寄ってくるという状況が作れないでいる。
子供だ。ピエロが好きなのは子供だ。子供がいない夜に行動してもうまくいくはずがない。あした、昼に再度チャレンジしよう。
そう思ってこの日はそそくさと帰った。
服装で目立とうとしてはいけない。
昼なら何とかなるさ
翌日、家でメイクをして外に出た。昨日の反省をふまえ、目のまわりのメイクを少し変えている。目の上を重点的に塗った。
大家さんに会わなくてよかった
住宅街を歩いてみよう。寄っておいで、子供たち!ピエロだよ。
前方に子供発見!
不自然に避けはじめた
耐えられず、会釈してしまうピエロ
街の空気がだいじだ
ああ、辛い。住宅街はどうもまずい。だって住宅地にピエロいないもん。
お祭りっぽい雰囲気の街のほうがなじむのではないか。年中祭りみたいな街、渋谷だ。渋谷に行くことにしよう。行くのか?この格好で。
とりあえず山手線の駅までタクシーに乗ることにした。
帽子がパツパツでスイムキャップみたい
「あついですねえ」
「ほんとに」
タクシーの運転手さんはまったく僕がピエロであることに触れようとしない。
・芝居やってまして、パンフレットの写真を…
・友達のイベントの手伝いで…
考えておいたいいわけ(全部うそ)は使わずに済んだ。
渋谷まで山手線
駅にも子供達はいたが、みなポケモンスタンプラリーに夢中でピエロは眼中にないようだった。まあ、いい。渋谷に行けばなんとかなる。そんな前向きなことを考えながら電車で移動していた。
しかし、あとから写真を見るとすべて目が半開きだ。いま自分がいる状況を受け入れたくなくて無意識に目を閉じようとしていたのかもしれない。
別に平気です
仕事ですから。
もうなれました。渋谷到着
渋谷の感想
渋谷を歩いていても反応は鈍い。こどもも若者も寄ってこない。そりゃそうか。足早に移動しているだけだからか。
目的地を代々木公園にする。あそこならば大道芸をしている人も多いし、ピエロが歩いていてもカジュアルに人気者になれるかもしれない。
渋谷は祭りのように人がたくさんいるとです
通り過ぎる人は目を合わせないのだが、通りすがりに
「うわっ」
「超こわいんだけどー」
という声が耳に入ってくる。あとあれだ、通り過ぎる人は笑わないが、車とかお店のなかにいる人は笑っていた。
ガラスで守られているという感覚がそうさせるのかもしれない。ガラス越しに見たいものになっているんだな。僕が。
そして代々木公園に
なにもしないというパフォーマンスを
ストリートミュージシャンやパフォーマーがいる通りに立ってみる。
子供が集まったところで、パントマイムもジャグリングもせずに、「どう?最近」とか言ってみよう。
ここならばそんな地味なことを言うという目的も達成できそうだ。35度を超える夏の日、しばらく立ってみることにします。
…………。
ピエロですよー(小声で)。
ミーン ミーン ミー
ミーン ミーン ミー
ミーン ミーン ミー(蝉の声)
………。面白げなポーズをとったりしてみたのだが、誰も足を止めない。
そのときのようすを動画でどうぞ。
耐えきれずにポーズをとってしまう
素通り
声を掛けられて大喜び
パフォーマンスを諦め、帰ろうとしたときに声を掛けられた。写真の専門学校に通う学生さんだった。
「コケシ持って立ってください。」
そういう課題だそうだ。シュールな絵が撮れたと喜んでいた。ここで僕が「いや、そういうのやってないんで」と言うべきだったのだが、ピエロとして認められた嬉しさで
「顔の角度はこっちでいいですか?こ、こっちのほうがいいかな?」
と、求められてもいないポーズを連発してしまった。
「コケシもってくださーい」「はい!」
こんどは人形。なんでもやるよー。
僕が間違ってました
外見だけでわーきゃー言われようとした僕が間違いだった。ビジュアルが派手なミュージシャンだって楽器を弾いている。パフォーマンスあってのルックスなのかもしれない。ほんもののピエロのみなさんもすごい技術を持っている。
なので、こんどはもっとキャッチーな格好でなにもしない、を狙いたいと思います(反省してない)。