実は「国産石材の博物館」の国会議事堂
現在の国会議事堂は、1936年(昭和11年)に完成した。かっこよく書けば 「since1936」である。建築からすでに80年以上経過している。
参議院のウェブサイトによると、国会議事堂の建物は、地上3階(中央部分4階、中央塔9階)地下1階の鉄筋コンクリート造。となっている。中央塔の高さ65.45メートルは、竣工当時は日本でいちばん高い建物であったといわれている。
日本一高かった建物、国会議事堂
国会議事堂建設のための資材は、当時の最高品質の国産品を使用している。
『新版 議事堂の石』(新日本出版社)という本によると、議事堂に使用する石材は、全部国産品を使用する方針を実行し、外装用の花崗岩・安山岩を全国各地から集め、石材試験や化学分析が行われ、内装用には全国各地の大理石の名石が集められた、とある。
大正末から昭和始めにかけて建設された建築物には、国産の石材が使われていることがあり、とりわけ国会議事堂は「国産を貫いているだけではなく、現在では掘り尽くされて入手が困難のものを含め、最も豊富に日本の名石を一つの建物に集めている。(中略)議事堂はまことに『日本の石材博物館』となっている」(『新版 議事堂の石』)という。
建築用の石材は、大正末ごろから徐々に輸入が増え、戦後はほぼ輸入石材ばかりになったことを考えると、国産にこだわった国会議事堂の石材がどれほど貴重か容易に想像できる。
建築中の国会議事堂(1927年)「帝国議会議事堂建築報告書」営繕管財局編纂より)
国会議事堂の見学はなんどか来たことがあるけれど、石材にはまったくといっていいほど注目していなかった。盲点だった。「日本の石材博物館」だなんて、なんだか楽しそうじゃないか。
そこで、石材に詳しい人と一緒に国会議事堂を見学し、主に石材に注目して建物を鑑賞してみたい。
左から、西村、西本さん、国会議事堂。議事堂の色白さよ
参議院、衆議院、どっちに行ったらいいの?
さて、日本の国会は、みなさまご存じのとおり、参議院と衆議院にわかれている。国会議事堂を、警視庁のある方から見ると、右が参議院、左が衆議院となっている。
右が参議院、左が衆議院
参議院と衆議院はまったくの別組織で、国会内の見学コースも、参議院と衆議院で内容が異なっており、まとめて見学することはできない。(一日で両方別々に見学することは可能)
しかし、議事堂内の作りは、ほぼ左右対称になっているので、どちらかを見学すれば、もうひとつの方も、中の構造はほぼ同じと考えていい。
というわけで、特に深い理由はないが、今回は参議院に取材をお願いした。
のっけからトップギアで石材鑑賞
取材といっても、普通の見学コースとほぼ同じコースを見せてもらう。したがって、普通の小学生の社会科見学の間にまぎれて取材することになる……のだが、待合わせスペースから国会内に入る場所でいきなり石が気になってしまう。
あれ、徳山石ですよ
白い斑(ふ)が特徴
西本さん「あれ、徳山石ですね」
――徳山石……徳山って山口の?
西本さん「そうです、周南市(旧徳山市)の黒髪島という島でとれる御影石です、九州なんかに行くと、墓石はこれが多いですね、白い斑(ふ)が特徴なんです、白いところはカリ長石と呼ばれる石ですね」
――白い斑(ふ)……普段、石の模様なんか気にしたこと無かったですけど、言われれば確かに白い斑がはいってますね。
御影石は、石英や雲母、長石などのさまざまな鉱物の粒が混ざり合い、それがどれだけ含まれているかによって、独特の風合いが出てくる。
徳山石は、まさに議事堂に使われた。ということで、知名度があがって使われるようになった石材で、高級品だが現在でも生産はおこなわれている。
外の通路からしてもうこれだ、のっけからトップギアで石に注目である。この記事は長くなるかもしれない。
化石の入ってる石がたくさんあるぞ
建物に入っても石が気になるのは止まらない。今度はぼくが気になってしまった。
西本さん、あれ、あそこの石
――西本さん、あそこ、あの壁の石。あれ、化石じゃないですか?
西本さん「そうですね、化石でしょうねこれ。貝の化石かな? これ、おもしろいのは、模様が上下で対称になってますね」
――あ、ほんとだ。
上下で模様が対称になってる
西本さん「大きい塊だった石を、薄くスライスしたときの隣同士だった石なんでしょうね」
――こうやって、対称に見えるようにきれいに並べるってのは、やっぱり石工さんとか、施工した職人さんのセンスでしょうね。
そんな中、西本さんは、足元にある石が気になったようだ。
西本さん「この白い石、ピサの斜塔の石ですよ『ビアンコカララ』です」
白い大理石、ピサの斜塔の石です
――え、外国産ですか?
西本さん「そうですね、イタリア産です」
冒頭で、クドいぐらい「国会議事堂は、国産の貴重な石材を使っている」と強調したが、ここに来てあっさりイタリア産が出てきた。
しかし、これにはわけがある。現在、わたしたちがいる場所は、平成に入ってから改修された場所である、最近に改修された場所では外国産の石材も普通に使われているのだ。
とはいえ、床にさり気なく使われているこの石ひとつとっても、それが何なのかわかるとそれはそれでたのしい。
西本さん「ビアンコカララは、例えばミケランジェロのダビデ像とか、そういうものに使われているんです」
――あぁ、たしかにダビデ像は大理石でしたね。
西本さん「ボンゴレ・ビアンコなんて言ったりしますけど、ビアンコはイタリア語で白ですね、で、カララは産地の地名です」
ぐうの音も出ないほどに「ほー」だ。まだ、国会議事堂見学のメインたる本会議場さえもみていないというのに。
先にすすまない
やっと、建設当時から変わってない部分に入る。
ふつうの階段だが
ふつう、一瞥することもなく、通り過ぎそうになる階段ホールの壁。しかし今日は違う、壁の石をしげしげと観察する。
――西本さん、この壁の石、穴ぼこだらけですけど、なんて石ですか?
穴ぼこだらけの石
西本さん「これは『琉球石』ですね」
――琉球、沖縄の石なのか。しかしこれ……よく見ると化石じゃないですか?
西本さん「そうです、化石ですよ」
よく見ると、巻き貝的なものやサンゴ的な化石があちこちにみつかるのだ。
巻き貝?
サンゴ?
ほら、あそこちょっと大きいサンゴの化石
大きめのがあった
琉球石は、琉球石灰岩とも呼ばれ、南西諸島にたくさんある石である。とくに沖縄では建材としてよく使われていて、家の周りの石垣などに使われているのがそれだという。
竹富島の石垣
化石のせいでできた不規則な穴が、独特の模様になっていて、同じような模様がふたつとないところなどは、ながめていてとてもおもしろい。
議場で、強行採決がどうだとか、造反議員がこうだとかやりあってる間にも、国会議事堂の階段には、何万年前もむかしのサンゴや貝の化石が静かにあり続けているというのが味わい深い。
などと、石材ひとつずつにいちいち感動しているので、なかなか先に進まない。
案内してくださった衛視さんに「そろそろ行きましょうか」と促されて次に行く。
タージ・マハルが白い理由
先ほどから石灰岩、大理石、御影石やら花崗岩みたいに、かなり適当に書いている。読んでいるうちに混乱してしまうかもしれないので、ちょっと整理しておきたい。
建物に使われる石の種類は、おおきくふたつに分けられる。大理石と御影石だ。その他の石も使われることもあるらしいけれど、あくまで「その他」なので、ひとまずここではおいておきたい。
そして、大理石、御影石という呼び方は「石材」としての言い方だ。もうちょっと学問的な呼び方(岩石名)としては、大理石は「石灰岩」、御影石は「花崗岩」となる。(ただし、花崗岩ではない石を石材として「花崗岩」と呼ぶこともあるらしいし、石灰岩じゃない石を大理石としてまとめることもあるらしい、ややこしいけれど、例外もたくさんあるのだと心得てください)
建物で使われる石材の大雑把な表
大理石と呼ばれる石灰岩は、大昔のサンゴ礁や貝など古代の生物が堆積してできたものと、炭酸カルシウムが沈殿してできたものの二種類があり、化石が見つかるのは前者の石灰岩だ。
一方、御影石と呼ばれる花崗岩は、ざっくりいうと、マグマが冷えて固まった岩石である。だから、化石が入った御影石というのはあまりない。
建物では、御影石は、主に外装用に使われ、大理石は内装用につかわれる。確かに、先ほどみた、花崗岩の徳山石は、外装に使われていたし、石灰岩の琉球石は内装に使われていた。
西本さん「大理石が外装に使われないのは、日本は雨がたくさん降って大理石が溶けてしまうからなんです。酸性雨なんていいますけど、雨はもともとちょっと酸性なんですよ、だから、雨があまりふらないところだと、外装に大理石をふんだんに使った建物があるんです、タージ・マハルとか」
タージ・マハルが大理石でできているのは雨の影響が少ないから
タージ・マハルのあるインドのアグラは、雨季と乾季で雨の降る時期がはっきりしている。日本のように程度の差こそあれ一年中建物が雨にさらされる環境に比べると、雨の影響が少ない。だから大理石を外装に使っても平気なのだ。いままで考えたことなかったけれど、言われてみればめちゃくちゃ納得できる。
石がひとつもない
続いて向かったのは本会議場。総理大臣を決める首班指名選挙や、法案の採決などが行われる場所だ。
参議院の本会議場
参議院の本会議場には、天皇陛下のためのお席が議長席の後ろにある。この席は、衆議院の本会議場にはなく、天皇陛下が臨席する国会の開会式では、衆参の国会議員全員が参議院の本会議場に集合して行われる。
天皇陛下の御席
普通の見学であれば、ここの見学がメインになると思う。
ところが、西本さんは「石がひとつもない」と、ぼやく。
石がひとつもない……
本会議場は、椅子から壁からなにからなにまで、木できている。申し訳ないけれど、今日に限っては、木はおよびでないのだ。
――どこか、石はないですかね、天井は……ガラスと漆喰ですね。
ガラスがかろうじて石のなかま? 惜しい
――でも、おそらくこの木も調べたらちゃんとした産地のしっかりした木材なんですよね。
衛視さん「本会議場の木材は欅(けやき)ですね、反響防止を配慮して、なるべく木材を使っているんです」
西本さん「そこはやはり日本らしいですよね、欧米だと会議場でも石を使うとおもうんですよ。例えば国連の会議場とか、このまえ安倍総理が演説した演説台の後ろの石、蛇紋岩(じゃもんがん)なんですよ」
たしかに国連の演説台の後ろ、緑色の石だ。あれ蛇紋岩っていうのか。
西本さんは、国連で演説するトランプ大統領のニュースをみても、まず「蛇紋岩」に目が行くという。持っている目がわれわれと違う。
西本さん「国連の蛇紋岩は、イタリア産ですね」
――産地!
西本さん「蛇紋岩は、もともとマントル物質だったんですよ」
――マントルって……地殻の下? でしたっけ。なんでそんな深い場所の物質があるんですか?
西本さん「いい質問ですね……プレート同士がぶつかって、マントル物質が地表にグシャーと押し出されちゃったんです」
――え、じゃあ取れる場所が限定されるかなり貴重な石?
西本さん「いや、地球規模で考えれば確かに取れる場所は少ないんですけど、マントルがぶつかって盛り上がってる場所は、日本列島もそうだし、アルプス山脈もそうだから、いろんな所でとれるんです」
――なるほど。
国会の本会議場で、マントル物質の話になる見学は憲政史上初だろう。
貴重な石を次々と確認
本会議場を出て次の場所に向かっている途中、西本さんが急に座り込んだ。床と壁の間にある幅木の部分に使われている石が気になったらしい。
貴重な石ありましたか?
西本さん「この石は貴重ですよ……大理石ですね、徳島産かな……」
徳島県産石灰岩『答島』
――産地がサクッとわかるのすごいですよね。
西本さん「産地が分かるといっても大雑把にですよ。石材の名前が分かると、産地も確定できるのですが……『答島』かな」
『新版 議事堂の石』によると、答島は「暗灰色~灰色の石灰岩で、方解石の細い脈が多い。六射サンゴ類やウニの棘などを少量含んでおり、おそらく中性代のジュラ紀のものであろう」とある。ただ、西本さんの話によると、この本が書かれた時代から研究が進み、現在はジュラ紀の前、三畳紀に形成されたと考えられているらしい。どちらにしても、もはや恐竜の時代だ。
大広間でボルテージが一気にあがる
国会内の廊下の、壁、扉の額縁などに使われている石材は、すでに同じ石材は手に入らない貴重なものばかりだ。
高知県産『金雲』
写真は、後で大きさを比較するため、できればスケールを入れて撮るのが好ましいが、なければ指やシャーペンなどを入れて撮る
このあたりで使われている石は、はっきりいって岩石としては、どれもみんな同じ石灰岩である。しかし、同じ石灰岩、大理石でも丁場(石を切り出す場所)が違うと、色も模様も微妙にかわってくる。石屋さんが、その色や模様の違いによって、異なった商品名をつけるので西本さんでも、なんという石材なのか即座に同定するのは、なかなか難しいという。
そんななか、ひときわ目を奪われたのが、御休所前広間の床の大理石モザイクだ。
このモザイクタイルすごいですね
金華、茨城白、白鷹、小桜、薄雲、紅雲、鵬足、遠目鏡、美濃赤、土佐桜、新淡雪、貴蛇紋+2種類の、14種類の大理石が使われている
色の違う大理石を、細かく割って形をそろえ、ひとつずつ埋め込んでいって見事な模様をつくりあげている。
西本さん「まさに、採算度外視で作られたものですね、すばらしい。西村さん、ここ化石ですよ」
白っぽいところが化石らしい
――これは何の化石ですか?
西本さん「ウミユリがサンゴかでしょうね。それにしてもすごい、これ昔の石工さんがコツコツ作ったんだろうなあ。すばらしいなあ」
この大理石モザイク模様は、14種類からなる60万個の大理石のかけらをひとつずつ組み合わせていって作ったものだ。さらに、大理石のモザイク模様の床は、ここだけではない。中央広間にもあり、そこは100万個のかけらを組み合わせているという。
これだけ手間のかかる床は、他の建物ではなかなかなない。クッションフロアをパーッと敷いただけのオフィスビルなんかとは次元が違う。国会議事堂という建物が背負っているものの凄みを感じ入るしかない。
撮影した編集部の古賀さんいわく「キューブリックっぽい写真が撮れた」
幅木は、徳島県産「加茂更紗」、壁も徳島県産の「時鳥」
すっかり、貴重な石材の写真を撮るのに夢中になってしまったが、ここで見ておきたいのは、皇族室や御休所の中にある暖炉の石だ。
皇族室の暖炉は北九州産『金華』
御休所内の暖炉は静岡県島田市産の『紅葉石』
中に入って写真を撮ることはできないのだけれど、ガラス越しにみることができる。
どちらも大理石なのだけど、なめらかな縞模様が美しい『金華』と、茶褐色の上等な陶器のような落ち着いた色合いの『紅葉石』、どちらも現在は手に入らない貴重な石である。
紅葉石の方なんかは、その色合いだけでも存在感があるのに、さらに細かな模様が彫り込んで特別感を盛っている。
テレビによく映る「小桜」
またもや衛視さんに促され移動。石ひとつひとつをじっくり観察してしまうので時間がかかりすぎているのである。
すんませーん
しかし、やはり石が気になる。階段の手すりや柱の存在感がすごい。使われている石はなんだろう?
小桜、といわれてもなんだかわからないが
――西本さん、柱のこの石は……加茂更紗ですかね?
西本さん「いや、これは『小桜』ですね……小桜は山口の秋吉台産の大理石のひとつですね」
小桜は、名古屋市役所本庁舎の玄関ホールや手すりにも使われていて、国会議事堂で使 った小桜の余りを使って作ったといわれている。名古屋市役所は、国会と同じ石を使っているということになる。もし仮に国会が名古屋に移転しても、石レベルでは問題がないのではないか。
ほんのりピンク色できれいですねー
――こういった石はいまはもうとれないのですか?
西本さん「いや、石自体は今でもあるんです。でも、例えば国立公園なんかになっちゃうと、掘れなくなっちゃうんです。だから貴重なんです」
丁場によって微妙な色の違いがある大理石、たしかにそこでの採石ができなくなると、同じような模様の石はとれなくなるから、貴重になるわけである。
西本さん「小桜は、議場の回りや議員控室なんかの壁にも使われてるので、テレビのニュースとかで、議場から出てきた議員をつかまえてぶら下がり取材する時に、後ろによく写ってるんですよ」
――やっぱり、後ろの石に目が行くのか。
ニュースで出てきたぶら下がり取材の後ろの石材はなにかを推理するのは、やってみるとたのしい。
例えば
これなんかは、後ろに小桜が写っているし、
こちらの中ほどにある
この写真は、壁が日華石で、扉の額縁が加茂更紗だ。
数年前のニュース映像だが、下の画像に写っている扉の両脇の石は加茂更紗のようにみえる。
衆議院側だと思うが、石材がうつっている(JNNニュース映像より)
台座は温泉の成分が沈殿してできた石
中央広間である。
小学生に混じって見学しています
有名な話だが、議事堂の中央広間には、銅像の台座が4つある。しかし、銅像があるのは、板垣退助、伊藤博文、大隈重信の三体のみで、残りひとつの台座は空いている。
ひとつ空いている理由は「誰にするか話がまとまらなかった」とか「政治に完成はないということを表している」「これからもっと立派な政治家が現れるように」などと、あることないこといわれているが、なぜかはよくわかってない。
空席の台座
しかし、この台座の石が、富山産の『オニックス・マーブル』であることはわかっている。この石は台座だけでなく、玄関の壁にも使われている。
はっきりとした縞模様が美しい
オニックス・マーブルは、生物の死骸が堆積してできた石灰岩とは成因が違っており、温泉の成分から石灰の成分が沈殿してできたものだ。
日本でも富山県の宇奈月でしか産出しない貴重な石で、西本さんの話によると、北陸新幹線の黒部宇奈月温泉駅の待合室にも使われているが、ここまで大々的に使っている建物は他にあまり見かけない。
幻の名石『青梅』
続いてやってきたのは、議員食堂。
この食堂は、見学コースではないのだが、窓際にある貴重な石を見せてもらうため、特別に入れてもらった。
国会議員、こんなところでめし食ってんのか
窓際にあるヒーターの上が貴重な石材である
ここにある貴重な石材とは、東京産の大理石『青梅』である。
きれいな石だ
西本さん「これは別名白倉石ともいわれる石ですね。東京の日の出町でとれた石で、砂や火山の噴出物がまざっている石灰岩です」
――同じひとつの石ですけど、場所によって色が違ってておもしろい模様ですね。窓からの光のあたり具合でまた色味がかわってみえたりして、曜変天目茶碗みたいですね。
白かったり赤かったり色だったりと、色の変化がせわしない
西本さん「この石は、わたしも今日はじめて見ました。実に日本っぽい石灰石だと思います、割れ目(状の模様)がいっぱいあって。おそらく、国会議事堂で使うために切り出されただけで、建材として地元以外ではほとんど使われてないんじゃないかなあ」
――ということは、建物に使われている青梅石が確実にあるとわかっているのは、国会議事堂ぐらいということになりますね。
もう、聞き飽きた感もあるかもしれないが、これも貴重な石である。
都電の敷石?
見学もいよいよオーラスだ。最後は国会の前庭に案内してもらう。
この敷石、もしかしたら……
西本さん「この石畳ですが……もしかしたら茨城県産の『稲田石』という石かもしれません」
――えーと、これは御影石ですよね。
西本さん「そうです。稲田石は、都電の軌道内の敷石に使われていた石なんです、都電が廃止されて大量に余った稲田石は、銀座の歩道の敷石なんかに転用されていますけれど、もしかしたら、この敷石もかつて都電で使われていた稲田石を再利用しているかもしれないですね」
――わー、これはロマンしかない。ぜひそうであって欲しい……。
稲田石だったらいい
西本さん「ちなみにリニューアルした東京駅の丸の内広場の一部の敷石が稲田石ですよ、これは笠間市がTwitterで「稲田石が使われた」ってつぶやいてたから確定ですよ」
Twitterのつぶやきで石の種類が確定される。30年前には思いもよらなかった21世紀である。
国会議事堂、本当はピンク色
改めて国会議事堂を眺めてみると、上と下で色合いが微妙に違っていることに気づく。
ちょっと見難いけれど、下と上で色が違う(中央塔の階段に見える屋根部分だけは、テラコッタ(陶製)です)
上下で色が違う
西本さん「下の方、ちょっと灰色に見えるのは最初に見た『徳山石』ですね。で、上の白っぽい方は広島県産の『尾立石』です」
――もしかしてあの尖塔のさきっぽまで尾立石ということですかね。
西本さん「そうですね、尾立石は、国会議事堂の外装に使われたので別名「議院石」とも呼ばれるんです」
――石は別名が多いですね……。
西本さん「おもしろいのが、西日本は、徳山石、尾立石のような白っぽい御影石を墓石に使うことが多く、墓地が白っぽいんです。ところが関東の古い墓は、神奈川県真鶴産の小松石などのような黒っぽい安山岩を墓石に使っていることが多く、墓地が黒っぽい。私、広島出身なんですが、東京にはじめてきたとき、墓が黒くてびっくりしました」
いわれてみれば、たしかに東京の墓地は黒っぽい墓石が多いようなきがする……。あとで、自分の墓巡りの写真を見返してみると、東京でも古い墓石は黒っぽい墓石が確かに多い。
東京の墓。たしかに黒っぽい(写真の墓石は小松石ではないかもしれません)
でも、よくみるとほんのりピンク色
――たしか、参観ロビーの展示物に雷にうたれて落ちた花崗岩のかたまりも尾立石と書いてありましたね。
雷の瞬間と崩れた尖塔のかけら
実は、遠目でみると白っぽい尾立石だが、近くで見ると薄いピンク色をしており、別名「さくら御影」とも呼ばれている。御影石なので、徳山石などと成分は同じだが、粒がそろっていて長石が桃色に見えるのだ。
よく見ると、ピンク色
グーグルで国会議事堂のイラストを検索してみてみると、国会議事堂の色は黄土色かクリーム色などで表現されていることが多い。しかし、本当の色はピンク色である。
国会議事堂、本当はピンク色。色をばか正直にかいてみた。地方にあるふざけた名前の風俗店の看板っぽい
石材目線でみると新しい世界がひろがる
国会議事堂にかぎらず、地下鉄銀座線の駅や、老舗のデパートなど、石材に注目してみると、実にさまざまな石が使われていることがわかる。
ただ、大雑把にわけると、使われている石材は、ほとんどが御影石か大理石かのどちらかである場合がおおい。それだけでも覚えて「この石は御影石、大理石のどちらだろう?」と考えながら散歩すると、新しい目が備わった感覚が体験できる。
御影石、大理石の見分け方、おそらくみんな中学校の理科で習っているはずだ。うっかり忘れちゃってたひとは、いますぐ思い出して外に飛び出た方がいい。
おもしろいから。
■参考資料
『新版 議事堂の石』工藤晃・大森昌衛・牛来正夫・中井均(新日本出版社)
『街の中で見つかる「すごい石」』西本昌司(日本実業出版社)
『東京都日の出町産大理石石材「青梅石」』中澤努・上野勝美・乾睦子・鎌田光美
『徳島県産国会議事堂大理石の研究 -その 3.衆参両院における石材使用の比較-』石田啓祐・中尾賢一・香西武