特集 2017年10月30日

うどん屋併設の飲めるビリヤード場

あれって夢だったのかなと、まだ思っている話を書きました。
あれって夢だったのかなと、まだ思っている話を書きました。
ある旅の最後に、すごく素敵な時間を過ごした。

ざっくりいうと、ビリヤード場でちょっと飲んで、併設のうどん屋でうどんをすすったという話なのだが、とてもよかったのである。よすぎて場所や店名をはっきりと書けなくてすみません。

ぼんやりとした記憶だけで書くので、半分創作だと思って読んでください。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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ビリヤード場へ飲みに行く

遠方取材という名の一人旅の最終日、その地域に住む友人と4人で、夕方からちょっとどこかで飲もうかという話になった。

そのうちの1人は、変わった場所巡りをライフワークとしているライターの金原みわさんだったのだが、すごいビリヤード場があるらしいからそこにいきたいと提案してきた。ただ、まだ実際に行ったことはないので、どうすごいのかはよくわからないらしい。

私はプールバーというのをプールがあるバーだと最近まで思っていたくらいビリヤードとは縁がなく(ビリヤード台のあるバーのことだそうです)、あとの2人もビリヤードにはそれほど興味はないようだが、金原さんがすごいというのならと行くことになった。

まだ開店まで時間があったので、別の場所で一杯飲んで近況報告などをすませ、ほなそろそろいこかと目的の店へと向かう。

店の場所はターミナル駅のすぐそばで、再開発の流れを断固拒否しているような渋い通り沿いにあった。
すぐそこはギンギラギンの世界という場所。
すぐそこはギンギラギンの世界という場所。
「その店、ビリヤード場だけど、うどん屋もやっていて、飲めるらしいんですよ」

金原さんから事前にそんな話を聞いていたが、まったくピンとこなかった。なに屋だそれ。

そして実際に行ってみると、一つの建物に入り口が二つあり、一つはうどん屋(というか飲み屋)で、もう一つの入りにくい方がビリヤード屋となっていた。
一見さんの我々としては、ビリヤード側はものすごく入りづらい入り口だ。
一見さんの我々としては、ビリヤード側はものすごく入りづらい入り口だ。
これはどうしたものだろうと、4人で入り口からちょっと離れた場所に立って、しばらくぼんやりとした。なんだろうね、この二択の入り口。

一応酒を飲みに来たのだから、大漁とか地酒とか書いてある方の暖簾をくぐるのが正解なのだろうが、初志貫徹ですごいビリヤード場とやらに足を向ける。

たぶん全員、一人だったら絶対に入らなかったと思う。

確かに飲めるビリヤード屋のようだ

慎重に扉を開けると、まず黒いモシャモシャした犬が寄ってきて、すぐに飼い主っぽいおじさんのとこに戻っていった。常連さんだろうか。

いきなりの犬にびっくりしていたら、奥から私と同年代かちょっと上くらいの男性の店員さんが、「ビリヤードですか?」と聞いてきた。

ビリヤード場なのだから聞くまでもない質問なのだが、金原さんが「いえ、飲めますか?」と強いハートで聞き返す。

「はい、大丈夫ですよ」とあっさり通された先は意外と広く、縦に3台のビリヤード台が並んでいた。店員さんは男性2名で、雰囲気が何となく似ている。兄弟だろうか。
ビリヤードのルールはナインボールしか知りません。
ビリヤードのルールはナインボールしか知りません。
ここに来てビリヤードをやらないというのは、本当にありなのだろうか。釣り堀にきて、全員が竿を出さずに眺めているだけのようなものだ。

それは迷惑な客なんじゃないかと不安になったのだが、よく見れば入り口側の二台にはメニューや箸がおかれており、普通のテーブルとして使われているようだ。

ちょっとまだこの店の作法がわからない。
「どうしたらいいんですかね」という顔で、髪質の似た3人がそろって首をひねる。
「どうしたらいいんですかね」という顔で、髪質の似た3人がそろって首をひねる。
「飲み物は?」と聞かれて我に返り、あわててビリヤード台の上のメニューをみる。

カクテルやウイスキーが横文字で並んでるのだろうと思ったら、縦書きで日本酒が強く押されていた。カタカナの飲み物なんてビールだけだ。
メニューの「おのみもの」という平仮名が、「おのののか」の妹みたいだなと思ったが、口には出さなかった。
メニューの「おのみもの」という平仮名が、「おのののか」の妹みたいだなと思ったが、口には出さなかった。

この状況についていけず、まったく頭が回らないので、とりあえず生ビールを頼む。まさに、とりあえずの生だ。

ドリンクを頼んで一呼吸したところで、フードのメニューを眺めてみると、こちらもミックスナッツとかサラミではなかった。
誰かがこぼした跡がくっきりと残るビリヤード台の上に置かれた居酒屋メニュー。
誰かがこぼした跡がくっきりと残るビリヤード台の上に置かれた居酒屋メニュー。
ずらっと並んだお造りの数々に、ホタルイカ素干しやエイヒレなど。おでん各種150円というのもある。これはもう完全に飲み屋だ。

ようやくわかってきた。もう一つの入り口のうどん屋とメニューが共通で、こっちのビリヤード場でも同じものが食べられるということのようだ。

しかし、この店の謎はまだまだこれからだった。
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ビリヤード台の上を電車が走っていた

店はL字型になっていて、右奥側にもスペースがあり、そこには唐突だが立派な鉄道模型が置かれていた。Nゲージというやつだろうか。

なんなんだ、この自由さは。
電車はもちろん動く。
電車はもちろん動く。
「まだまだ未完成やけどね。車両はね、お客さんが持ってきてくれる。なかなか走らせる場所がないからね。これは昔のポケットがないビリヤード台」

そんなことを教えてくれながら、ちょっと誇らしげに、そして照れくさそうに電車を動かしてくれた。
これ、ビリヤード台の上なのか。
これ、ビリヤード台の上なのか。
すごい、この店。この空間にいればいるほど、店員さんと話せば話すほど、この店に引き込まれていく。

この秘密基地みたいな店はそっとしておくべきだという思いと、ネタにしたいというイヤらしい考えが、頭の中でせめぎ合う。
花見の時期にまた来たい。
花見の時期にまた来たい。
とりあえず「この店は取材とか多そうですね~」と水を向けてみると、「取材は断ってるな。テレビは全局一通り来たけど、いっときだけパッと来られても、常連さんに迷惑かけるだけ。うどん屋の方は受けたこともあるけど、もうええわ」と、断固拒否の方向のようだ。

うん、そのほうがいい。それで正解だと思う。
架空の「つり掘三平」という看板だけで一杯飲めるな。
架空の「つり掘三平」という看板だけで一杯飲めるな。
店の奥側から。右側の扉がうどん屋の厨房とつながっているようだ。
店の奥側から。右側の扉がうどん屋の厨房とつながっているようだ。
ダーツは無料だよと勧められたのでちょっと投げてみた。たのしい。
ダーツは無料だよと勧められたのでちょっと投げてみた。たのしい。

由緒あるビリヤード場だった

注文したビールを飲みながら店内をうろうろする。お酒を飲んでおいてあれだが、なんだか自分が子供で、大人の秘密基地に迷い込んだ気分だ。時代背景は全く謎なのだが。

店のオープンに合わせてきたので、お店は今のところほぼ貸切状態。邪魔にならない程度に、ちょっとずつお店の方と雑談をさせてもらった。
犬を連れているおじさん、こちらがビリヤード場の店主だった。いやもう引退しているのかな。
犬を連れているおじさん、こちらがビリヤード場の店主だった。いやもう引退しているのかな。
「この店はね、戦前からあるビリヤード場なんやけど、好きなようにしていたら、自然とこうなってしまったんや。内装工事とかは自分らで全部やっているよ。音響も凝っていて、ウーハーも効かせられるんやけど、そうするとクラブみたいになるやろ」と、笑いながらBGMのボリュームを上げてみせるのは、義父から店を譲られた兄弟。

「うちらはビリヤードをやらんけど、でもその台だけは、ちゃんとビリヤードができるようにしてる。この前、クロスを張り替えたばかりや」

基本的には常連さん向けの店なのだろうけど、初めての我々にも気さくに話してもらえたのが嬉しかった。
これがあの犬のおじさん、いやおじさまなのか!
これがあの犬のおじさん、いやおじさまなのか!
ポケットのない台が現役で使われていた頃の写真だろうか。
ポケットのない台が現役で使われていた頃の写真だろうか。
やあ。
やあ。
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ビリヤード場だけどつまみがうまい

情報量が多すぎて脳味噌的にはお腹いっぱいなのだが、だんだんと居心地の良さにリラックスしてきて、酒のつまみがちょっと欲しくなってきた。そこで改めてメニューを見直す。

12種類も並んだ刺身に迷っていたら、「市場にいってきたばかりだから、なんでもうまいよ」と笑う店員さん。
この写真だけみたら、まさかビリヤード場のメニューだとは誰も思うまい。
この写真だけみたら、まさかビリヤード場のメニューだとは誰も思うまい。
右上の「生さばきずし」ってなんだろう。さばいた生魚の寿司かと友人に聞いたら、いやシメ鯖のことですと教えられた。ということはバッテラですかと聞き直すと、いやご飯はなく、酢でしめた刺身のことだよと。お寿司の場合は「さばずし」になるとか。

気になったので、その生さばきずしと、ちぬ造りを注文してみた。ちぬは釣り人がクロダイを呼ぶときの名前として知っていたが、こうしてメニューにあるのは初めて見たかもしれない。

しばらくしてうどん屋の扉からやってきた2品は、どちらもびっくりするうまさだった。程よく締められた脂の乗ったサバに、臭みが一切ない旨味たっぷりのチヌ。まさかこの空間で旅先ならではの味が楽しめるとは。
写真が適当なのは、この時点では記事にする気が無かったからです。
写真が適当なのは、この時点では記事にする気が無かったからです。
ビリヤード場であることを抜きにしても刺身がうまい。もっといえば、カツラ剥きをして作るというダイコンのツマまでもうまい。やっぱりなんらかの記事にしたい。

「テレビはなしでも、ネットとかの記事は大丈夫ですか?」と探ってみると、「取材は受けないけど、ほら今は食べログとかでお客さんが書くでしょ。それは止めることもできんからな」とのこと。

なるほど、取材という形はNGだが、お客が勝手に書く分には黙認のようだ。さて、どうしたものだろう。食べログデビューしようかな。

日本酒もうまい

それはそうと、こんな刺身を出されたら日本酒が欲しくなってしまう。というか、さっきから会話の中で、兄弟の日本酒に対するこだわりがひしひしと伝わってきていたのだ。

お酒を入れている冷蔵庫を見せてもらうと、選挙の立候補者が掛けるタスキのようなラベルが貼られた特別な日本酒がズラリ。私でも知っているようなプレミアムなやつもある。

そんなにアルコールを消費できない体としては、とりあえずビールではなく、いきなり日本酒でいくべきだったか。
食べログ話題のお店なのか。
食べログ話題のお店なのか。
どんなのがいいかと聞かれて、「刺身に合うキリっとしたやつ、あと高くないやつ」とぼんやりした要望を伝えると、錫のおちょこで2種類のおすすめを試飲させてくれた。

はじめて飲んでもらう酒は、こうして必ず試飲をしてから出すとのこと。どちらもうまいが、明らかに味が違う。ドラクエ5のビアンカとフローラ、どちらかを選ぶ気分で迷いながら決める贅沢なシステムだ。

だめだ、この店、良すぎる。
銘柄やラベルだけでは判断つかないので、試飲ができるのはありがたい。
銘柄やラベルだけでは判断つかないので、試飲ができるのはありがたい。
ほとんどのお酒は700円。うまかった。
ほとんどのお酒は700円。うまかった。
こうなると、なにか温かいつまみも欲しいなと、かきボイルという品を頼んでみた。何が出てくるのかはわからないが、この店ではイメージのできない料理を頼んだ方が楽しい気がしたのだ。

そして出てきたのは、たっぷりのだし汁で、大粒のカキをやさしく煮たものだった。
食べたことのない牡蠣料理が出てきたぞ。
食べたことのない牡蠣料理が出てきたぞ。
さすがビリヤード屋兼うどん屋、カツオ節よりも昆布の旨味が効いたダシが見事だ。そこに加わる牡蠣のエキス。注文して正解だった。

「ダシがうまいやろ。このダシで煮るから、おでんもうまいよ」
今年食べた汁もので一番うまいかも。
今年食べた汁もので一番うまいかも。
もうここで終電まで飲んでいたかったが、私以外の三人はこのあと別件があるため、もう出なくてはならない時間である。

でももうちょっとだけと引き留めて、最後にさいぼしという馬の燻製もいただいた。
和風ジャーキーといったところか。これが日本酒に合う。
和風ジャーキーといったところか。これが日本酒に合う。
すっかりこの場の雰囲気にとろけている友人のスズキナオさん。
すっかりこの場の雰囲気にとろけている友人のスズキナオさん。
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うどんを食べにきた

3人を駅まで見送った後、私だけで店へと戻り、今度はうどん屋の暖簾をくぐってみた。

あのだし汁を使ったうどんを、どうしても食べてみたかったのだ。ここで食べなかったら、ずっと夢見が悪くなる。
今度はうどん屋に入ります。
今度はうどん屋に入ります。
ちょっと前に出ていった客が、またすぐ戻ってくるというのもなんだか照れ臭かったが、正直に理由を話して席に着く。

うどん屋はカウンターだけで10席ほどという広さだった。さっきまでこの壁の向こうで飲んでいたのか。

このキッチンの奥がビリヤード場に続いているのを、ここに訪れた客の何割が知っているのだろうか。
すみません、また来ました。
すみません、また来ました。
ビリヤード場で日本酒が飲めますよという、たぶん日本でここだけと思われる案内。
ビリヤード場で日本酒が飲めますよという、たぶん日本でここだけと思われる案内。

うどんもやっぱりうまかった

うどんはなにがおすすめですかと聞いてみたところ、「あっさりとこってり、どっちにします?」と、ラーメン屋の天下一品みたいなことを聞かれた。

じゃあとあっさりを頼んだところ、おぼろ昆布と溶き卵という、フワフワしたものが2つも乗ったうどんが出てきた。ただでさえうまいだしに、さらに旨味が増している。そして肝心のうどんももちろんうまい。
やっぱり戻ってきてよかった。
やっぱり戻ってきてよかった。
もはや半笑いになってうどんを食べていると、「これ試してみて」と、小皿を差し出された。

飲んでみると、だしにダイコンや練り物の味がプラスされて、またうまくなっている。おでんの汁である。

もうこっちの胃袋に余裕がないのをわかった上で、汁だけでもとすすめてくれたのだ。
ビリヤード場もいいけど、こっちのうどん屋でじっくり飲むのもいいだろうなー。
ビリヤード場もいいけど、こっちのうどん屋でじっくり飲むのもいいだろうなー。
おでんの汁を大事に飲み干すと、「これはわかる?」と、もう一皿でてきた。だし汁のフルコースだ。

今度は色がしっかりと濃く、飲んでみると醤油ではなく赤みその味で、そこにブリの風味がしっかりと染みだしていた。うわー、うまい。
私の舌が触れたことのない食文化が凝縮された一皿だった。
私の舌が触れたことのない食文化が凝縮された一皿だった。
「それはな、これや」

見せてもらった鍋には、濃厚な赤みその汁で大量のブリが煮込まれていた。ビリヤード台に置かれたメニューにあった、ブリの赤だしというやつなのだろう。
なんで腹ペコじゃないんだろう。
なんで腹ペコじゃないんだろう。
これがどんな状態で盛られて出てくるのかが気になる。おでんも注文したかった。裏メニューだというカレーとじうどんというのも絶対に食べたい。

「ぼくらが4代目なんやけど、やりたいことを足していったらこうなった。ラウンドワンみたいなもんです。電車は好きやね。あの模型もまだ途中やけど、お魚もさばかなあかんし」

もう誰かに話したくてしょうがない。でも話すのは苦手なので文章にしたい。今日のことを、ぼやかしつつネットの記事に書いてもいいですかねと、店を出る前に聞いてみた。

「それはお客さんの自由やな。さて、どんな人がたどり着くかな」

自分が旅に出る理由の半分は、こんな人達とたまたま出会うことなんじゃないかなと思った。

新幹線が東京駅に近づいて目を覚ました時に、あれ今の夢だっけなと思ったが、ちゃんと写真は残っていた。この記事を書いた今も、まだあの店は夢だったんじゃないかなと、ちょっと思っている自分がいる。
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