つらい
来る日も来る日もポエムの打つ日々
上記ふたつの記事は、おかげさまで好評だった。このネタでけっこうな数のラジオ番組に呼ばれてしゃべりもした。
しかしこれね、つらいんだよね。集計。
「マンションポエム」とはまるで詩のようになっているとしかいいようのない、マンション広告特有のコピー表現をさしてそう呼ぶものだ。ぼくはウェブサイトで調べているのだが(資料請求すると営業の電話がたいへんなことになるので)、そのサイトの文字がみんな画像なのだ。だからコピペできない。なので、書き写す。
そうするとATOKに《修飾語の連続》とか注意される。これがほんとうにストレス。ええ、ぼくも連続してると思いますよー。わかってますよー。
そんな苦労の末、今回は執筆時点で広告されている大阪市内の分譲マンションのポエムを50収集できた。下記がその地理的分布である。
マンションの所在地を調べ、ポエムを書き写しプロットした。ピンをクリックするとマンション名とポエムを見ることができます。(
大きな地図で表示)
つらいつらいといいながら、気がつけば神戸市にも手を染めていた。いかんいかん。神戸、京都についてはいずれ改めて分析したい。今回は大阪と東京の比較だ。
というか、やっぱりぼく神戸や京都もやる気なんだ、と今自分で思った。(ちなみに東京のマップは
こちら)
大阪のマンションもなかなかのポエム!
下記がまとめた表の一部だ。
なんとなく、大阪にはマンションポエムはあまりないのではないかと思っていた。東京に比べて大阪はこういう浮かれた調子が好きではないのではないかと。
あにはからんや。どうしてどうして。なかなか粒ぞろいのポエムではないですか!
天王寺あたりにマンションたくさん建ち始めてるんだな、とかも分かった。
前回と同様、これを形態素解析して、ポエムに含まれる語句の傾向を調べるのだが、その前に、ひとつひとつを見てみよう。興味深いことがわかったよ。
ポエムと実利性の共存
やっぱり大阪らしい(と勝手に思った)のは、ポエムをたしなみながらも具体的なメリットも忘れない気質である。
ポエムのお手本のようなのだが(プレサンスロジェ上新庄・プレサンスコーポレーションより)
トップページはこの通り!(同じくプレサンスロジェ上新庄・プレサンスコーポレーションより)
上品と下世話の同居。ポエムだけでは訴求できない大阪の堅実さを見た思いである。さすがだ。
ハルカス=スカイツリー説
2つめにおもしろいと思ったのは、ハルカスがよく登場することだ。これはポエム自体ではなく、ビジュアルの特徴なのだが。
マンション建設予定地の向こうにハルカス(ブランズシティあべの王子町・東急不動産より)
多少遠くても見えるのが超高層のいいところ(ピアッツァタワー上本町・フクダ不動産より)
「あべのハルカス」は2014年の春にオープンした地上60階建て高さ300mの日本一高い超高層ビルだ。この存在を広告に使わない手はない、ということなのだと思う。
ランドマークになる話題の建造物を示すことで気を惹く、というのは空撮写真とCGが手軽に使えるようになった時代ならではの訴求方法だ。ぼくが調べた限りでは、2000年代前半のマンション広告にはこの手法はあまり登場しない。
マンションより手前にハルカス(プレサンスロジェ阿倍野松虫通・プレサンスコーポレーションより)
直線で4.5kmほど離れていても使えるのが超高層のいいところ(ブランズ沢之町公園・東急不動産より)
天王寺から南のエリアのマンションにハルカスフィーチャーが多い印象がある。これで気がついたのは、スカイツリーとの共通点だ。東京の場合、スカイツリーができた後、墨田区のマンション広告のビジュアルがいっせいにスカイツリー推しになった。
ビジュアルのどこかにスカイツリーが入っていることが増えた(ソライエ・プレミアムテラス/名鉄不動産・東武より)
商業施設もあるとはいえ、スカイツリーやハルカスが「見える」ことにどれだけの意味があるのかはよくわからないが、とにかく気を惹くフックにとして機能するだけで充分、ということなのだろう。ポイントは、それまで推せるランドマークがなかった場所にできた、という点である。
そういう意味で、天王寺は押上なのではないかと思う。
あと「それを推すか!」でいうと、みんな大好き
中津の高架下をウリにしているマンションがあった。うれしい驚きである。(ザ・クイーン新梅田/ビジネストラストより)
大阪の高台推しはおもしろい
具体的な台地名できた!(ピアッツァタワー上本町/フクダ不動産より)
以前から存在はしていたものの、東京では震災以降ウリにされることが増えたのは「高台推し」である。
たとえばこういうの。「高台ポエム」と呼んでいる。(プラウドタワー白金台/野村不動産より)
今回収集して面白かったのは、大阪でも高台推しがたくさんあると分かったことだ。
ただ、東京とは表現がちょっと違う。
「上町台地」と具体的な台地名がポエムに(ローレルコート天王寺堂ヶ芝/近鉄不動産より)
それは、どれも「上町台地」という表記であることだ。東京でも「武蔵野台地」と詠うポエムがあるが、大阪ほど徹底していない。
これは、大阪市の台地は、事実上「上町台地」しかないからだ。
初めて大阪に行った時、「たいらだなー!」って思った。地形図で見るとほんとにたいらだ。唯一上町台地だけが盛りあがっている。こうやってみると大阪城、そりゃあそこに作るわ、ってよく分かる。
それにひきかえ、東京都きたら。(「
東京地形地図」をGoogle earthで表示したものをキャプチャ・加筆加工)
東京山の手の道が大阪に比べてどうしようもなくごちゃごちゃになる理由がよく分かる。
「唯一の台地」と詠うポエムもあった!(プラウドタワー安堂寺/野村不動産より)
現時点での大阪最高のマンションポエム
上町台地を織り込んだすごい名調子(プラウド帝塚山中/野村不動産より)
というように、見どころがたくさんあるのだが、とりあえずここらへんで現時点大阪で最もテンションの高いポエムを紹介したい。野村不動産の「プラウド帝塚山中」である。
上のようにセオリー通り「上町台地」と詠いつつ、そのポエムっぷりがすごい。
「匂いたつ」っていう表現が登場するマンションポエムを初めて見た!(プラウド帝塚山中/野村不動産より)
見るページ見るページ、すべてのポエムレベルがものすごく高い。(プラウド帝塚山中/野村不動産より)
駐車場解説すらポエムにしてしまう!すごい!(プラウド帝塚山中/野村不動産より)
聞けばこの「帝塚山」という場所は高級住宅街らしい。東京でいえば田園調布のような感じか。
東京で暫定トップのマンションポエムは住友不動産の "DEUX TOURS" というマンションのものなのだが(
前回記事の最後参照)、大阪市においてはこの「プラウド帝塚山中」を据えたい。
たくさんマンションポエムを見ていた分かったのは、だいたい4000万クラスになるとポエム熱が高まる、ということ。そういう意味では、もともとブランドの高い土地ほど名調子になるのだ。いかにポエムでも、事実無根の詩を詠うわけではないということだ。
このマンションポエムサイトは、トップページのFLASHローディング画面からしてテンションが高かった。すばらしい。(プラウド帝塚山中/野村不動産より)
さて、それでは大阪と東京のマンションポエム比較分析をはじめよう。
大阪のランキング。上から19番目に「帝塚山」ランクインしているのが興味深い。
ちなみに、最初にも書いたが今回は大阪市内のみを対象とした。というのも、市の外の物件になるとぐっとポエム度が下がるのである。そのかわりなぜかダジャレに走る。
首都圏も郊外になるとなぜかダジャレがやってくる。
それにしてもこういう大阪が大阪の言葉をこういうかたちでネタにするっていうのに対して、現地のみなさんどう感じているんだろうかといつも思う。(パークタワー南千里丘/三井不動産レジデンシャルより)
大阪は偉人に頼らない
で、この大阪市の「ポエムに登場する語句ランキング」を東京のものと比較してみようというわけだ。
前々回記事で実施した東京のランキングは以下である。
こちらは東京のランキング。一見、大阪と東京にあまり違いは見られない。
分析対象となった大阪のポエムの品詞数は1946、東京は1029である。
両方ともマンション数が50程度なので、あまりちゃんとした分析ではない。ご容赦いただきたい。デイリーポータルZは学会ではないのである。
サンプル数が少ないので有意ではないが、ぼくのフィーリング的に面白いとおもったのが、由緒を担保する時代感覚のズレと、過去の偉人に対する東西の態度の違いである。
東京のものでは「江戸」という言葉が出てくる。ビジュアルで見ると江戸時代の古地図は定番だ。しかし、大阪のマンションポエムには「江戸時代」は出てこない。そのかわりもっと近代が出てくるのだ。
そのかわり「明治」「大正」が出てくる!
大阪に江戸が出てこないのはあたりまえといえばあたりまえだが、逆に東京のものに「明治」「大正」は出てこない。近代好きのぼくとしては東京にはもっとがんばっていただきたいと思う。
これに関連してもうひとつ面白いのは、東京には「家康が愛した土地」とか出てくるのに、大阪ではさっぱり偉人が出てこない点である。
東京では家康登場。しかし大阪には秀吉とか出てこない。
秀吉ぐらい出してもいいのではないかと思う。時代がもっと下らないとだめというのなら、いっそ松下幸之助とかどうだろう。
しかしこの大阪の「偉人に頼らない」態度はちょっといいな、と思った。
これが神戸になるとさらにさかのぼって清盛の登場。(ワコーレ神戸湊山グランアリーナ/和田興産より)
大阪が重視するもの・しないもの
さて、上の表のままだと東西比較がよくわからないので、グラフにしてみよう。このグラフの表現が適切かどうか分からないけど。
すごく悩んだ結果、こういうグラフになりました。
もっといい見せ方があるのではないかと思うんだけど、とりあえずこんなんなった。
大阪と東京でサンプル語句数がけこう違うので、あくまでそれぞれのランキングで比較することにした。縦軸がランキングである。下から1位、2位~このグラフでは80位までを示している。
横軸が語句なのだが、これは大阪のランキングを元にしている。なので、緑色の大阪の線は右に向かって1位ずつ上がっているだけだ。
で、この大阪の上位ランキング語が、東京ランキングでは何位か、を示しているのがオレンジ色の線だ。
えーと、つまり、赤い矢印で示した、ランキングが大きく隔たっている語句が、東京と比べて大阪が重視しているポエム用語ということだ。
これを見ると、「美しい」「楽しみ」「感じる」などの語が大阪では重視されていることが分かる。特に「楽しみ」のへだたりが大きい。というか、東京の高級マンションは楽しくなくていいんだ!と思った。
これとは逆に東京の上位ランキングを元にしたグラフは以下だ。
前のグラフの東京と大阪を入れ替えた状態。つまり、こっちは東京が重視している(あるいは大阪が重視していない)語句が分かる。
同様に、赤い矢印が大阪と東京で重視度が大きく違っている語句だ。つまり「上質」「景色」「継承」などといった言葉は、東京に比べ、大阪のマンションポエムではあまり重視されていない。
面白いのは「歴史」や「時間」といった語句は東西共に上位ランクインしているのに、それが「継承」という言葉になると、大阪はとたんに使わなくなる。
つまり東京の場合は過去の文脈を引き継ぐことに価値を見出していて、それはもしかしたら「失われた貴重なもの」だからではないだろうか。逆に大阪ではそういう時間的繋がりは日常にあたりまえのようにあると感じている、とか。まあ、適当な憶測ですが。
以上をまとめると上のような感じだろうか。なんかすごくそれっぽいまとめになって満足している。だからなんだ、って話ですが。
引き続き収集して分析します
ちょっと集めただけでも、神戸と京都のマンションポエムがすごいということが分かっているので、そのうちまた分析して記事にしてみたいと思います。
やたら感謝する「ありがとう系」ラップの歌詞みたいなマンションポエムが神戸に!(ワコーレシティ神戸三宮/和田興産より)
【告知:今晩大阪で!このマンションポエムの話しますよ!】
そして今夜、心斎橋でトークイベントやります。もちろんこのマンションポエムの話もします。心斎橋「
digmeout ART & DIENR」にて。20:30スタート。予約は会場へ電話してくださいませ→ 06-6213-1007
マンションポエム以外にもDPZで書いてきたいろいろについてしゃべります!大阪にみなさん、ぜひ!(詳しくは
こちら)