調べることと作ることに精一杯で、作ったもののどこに埋めるかまったく考えていなかった。
たまたま友人と海の方に行く予定があったので海に沈めてこようかと思ったが、事情を知らない友人に「なにやってるの?」と言われ、「確かになにをやっているのだろう?」と思ってしまって答えられず、しかたないので帰ってきてそのまま自分の家の庭に埋めた。
2000年後も私の庭はあるだろうか。いつか「ここは2000年後も安全だ」と思える場所が見つかれば、そこにそっと埋めて未来の人類に届けたい。
ネット用語は移り変わりが激しい。十年ぐらい前までみんな喜んで「orz」を使っていたのに「ショボーン(´・ω・`)」などの新興勢力が現れ、いまはもっぱら「ぴえん」の時代だ。
しかも、ネットは紙と違ってデータなので、モノとして長く残っていくこともない。
このままでは2000年後ぐらいの考古学者が「orz」などの意味がわからず夜も眠れなくなってしまうのではないか。
ネット用語・日本語・英語の3種を刻んだ解読用の石版を作り、2000年後の考古学者の手助けをしたいと思う。
2000年後の考古学者たちのために「ネット用語を解読するための石版」を残してあげたい。
そう思ったとき、当然ながら頭に浮かんだのがこれだ。
エジプトのあの絵文字みたいなかわいい文字(=ヒエログリフ)を解読するのに役立ったというこの石版。同じ内容を3つの言葉で書いてあったおかげで、解読がしやすかったことでも有名だ。
どうせ作るなら実績のあるロゼッタストーンを参考にするのがいいだろう。というわけで作るものはこういうイメージでいくことにした。
あとは材料があればいい。石版というからには石を使うべきだと思い、とりあえず石がたくさんありそうな場所に来た。
海はいい。海には石がたくさんある。
イメージが「石版」だったので、とにかくひらべったくて大きい石を探すことに。
小さい頃によくやった「水切りがうまくできる最強の石」を探すのとまったく同じ作業である。
こうしてひろってきた石を、とりあえず家にあった適当な刃物で掘ってみる。
試しに「あ」と掘ってみたら、限りなくうすい文字になった。
これでは2000年後どころか2日後ぐらいに消えてしまう。
石を平らにしようかとも思ったが、石版をほとんど使わない2021年を生きている私にはそのへんの石をきれいに平らにする方法がわからなかった。石版づくり、思った以上にむずかしい。
ひろってきた石が使えず、ふてくされること約2日。
「ふてくされてても2000年後の考古学者の手助けはできないしな」と考え直し、とりあえず東急ハンズでこれを買った。
オーブンで焼くだけのかんたん粘土。
かんたんすぎて2000年後まで持つかどうか不安だが、質素な土器でもけっこう残っていることを考えると意外といけるような気もする。
石版というより陶器になってしまったが、とりあえず材料は手に入った。次は「何を書くか」である。
本物のロゼッタストーンの方は、プトレマイオス5世の会議の結論(=勅令)が書いてあるらしい。
それにならって自分の会議の結論でも書いておこうかと思ったが「なぜこんな会議の内容をわざわざ石版に残したのだろう?」と思われて、2000年後の考古学者をさらに混乱させる気がしたのでやめた。
他にもいろいろと考えてみたが、結局だれでも共感できる内容の方が解読しやすいだろうと思い、「からあげはおいしい」という文にすることにした。
新旧のネット用語をひっぱり出し、石版に書く文章ができあがった。あとはこれを人類史のために石に掘るのみである。
材料も文章もそろったので、いよいよ粘土で石版をつくる。
いざ文字を書こうとしてから気づいたが、そもそも自分の手書きの字は汚すぎて、同世代の人間にもなかなか読んでもらえない代物だった。
読んでもらえるか不安だが、ここは思い切って2000年後の考古学者の解読能力に期待することにした。
それから、ロゼッタストーンについて調べているときに気になったのが「所有権」だ。
ロゼッタストーンはエジプトで見つかったものだが、いろいろあって今はイギリスにある。それに対してエジプトはずっと「返せ!!」と思っているらしく、ちょっとした揉めごとになっているらしい。
私が作った石版も、いつかこうして国際問題に発展してしまうかもしれない。自分の石版が国際問題になったら申し訳ないので、2000年後の人たちのために「見つけた人用」「土地の持ち主用」の2つ作っておくことにした。
国際問題をさけるための策だったが、2つ目の方が途中でバキバキに割れてしまった。しかたないので2000年後の人類の平和を信じ、1つにしぼって作ることにした。
ちょっと色が変わったが、思っていたより丈夫な石版が完成した。
これで2000年後もネット用語が伝わるはずだ。未来の考古学者たちに期待したい。
調べることと作ることに精一杯で、作ったもののどこに埋めるかまったく考えていなかった。
たまたま友人と海の方に行く予定があったので海に沈めてこようかと思ったが、事情を知らない友人に「なにやってるの?」と言われ、「確かになにをやっているのだろう?」と思ってしまって答えられず、しかたないので帰ってきてそのまま自分の家の庭に埋めた。
2000年後も私の庭はあるだろうか。いつか「ここは2000年後も安全だ」と思える場所が見つかれば、そこにそっと埋めて未来の人類に届けたい。
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