大祭のときに着る衣冠単
一部の重要な神事に臨むとき、神職は正装である衣冠単を身につける。もとは宮中で夜の警備を行う官人が着ていた装束らしい。現代ではもっぱら神職の祭典用の衣服となっている。

この衣冠単は本来、衣紋者(えもんじゃ)と呼ばれる着付け役が二人がかりで着せるものなのだが、神社の職員数が少なかったり下っ端の神職だったりすると一人で着なければならない。

上に載せた「袍(ほう)」と呼ばれる服を正しく身にまとうのが難しいのだ。
手を通すところはあるものの、洋服でいうボタンに類するものはなく、紐を駆使して自分で形を作っていかなければならない。そもそもどうなってるのかが全くわからない。服というかただの布だよこれ。


正服では冠をかぶることになっている。完全に余談だが、このまえ散髪したときには祭典が近かったので「冠をかぶるからサイドは全部刈ってください」と注文した。
「そこに居られる人々は、どう思われるでしょうか」
これまで生きてきて玉結び・玉止めが成功したことないくらい不器用な私は、袍の着方を神職養成所で一応は教わったものの、実はまったく分かってなかった。分かってないのに卒業できちゃうほうに問題がある。

神社に務めることになっても目上の神職に着付けをしてもらうばかりで、いつかはおれも……と思いながら過ごしていたら6年経っていた。大人の時間は早い。
ふと着付けの教科書を開くと、はしがきに「もし、神職の不心得から、装束を正しく著ることが出来なかったとしたら、そのときそこに居られる人々は、どう思われるでしょうか」とある。
7年目の春、一念発起して練習したらなんとかそれっぽく着られるようになった。
正服の大変さだけをアピールします
ここからは衣冠単を身につける上で大変なこと、珍しいことなどをかいつまんで説明しよう。

まず袴だが、普段のものとつくりが違う奴袴(さしぬき)というものを着用する。裾のところからひょろひょろと長い紐が出ているのがわかるだろう。全長は2mくらいあって巨大イカくらい長い。
この紐(括り緒)を使って袴を自分の足の長さに合わせるのが何よりの特徴である。

腰板のところに輪があり、裾の先にある紐を引っ張り上げて固定することで袴を短くできる。何を言っているかわかりますか。これからもっと分からなくなりますよ。

この袴に限らず、装束はサイズ可変が容易なところがよい。太っても痩せても骨延長してもまったく問題ないのだ。

白衣の上に派手な「単」を着る。十二単のひとえ。この上に袍を着るので単は襟元しか見えない。レイヤードみたいなことだろうか。

単を重ね合わせた前後のあまった部分を重ねて「衣紋ひだ」と呼ばれる形をつくる。外から見えないのにね!
衣紋ひだは袴の腰紐を結びつけることで固定するのだが、これがけっこうつらい。





なんせ腕や肩をほうぼうに動かすので、次第に痛くなってくる。苦労してやっている途中で衣紋ひだが崩れたりするとイチからやり直しとなり、つらい。

袍が本当にむずい
袴と単を無事に着られたら最後に袍の出番である。



はじめに腕を通して、蜻蛉(とんぼ)をひっかけて首元を固定する。ここまでは簡単である。簡単だが、袍の重さがしんどい。量ったことはないが、体感としては1限から6限まで副教科がない日のカバンくらい重い。

