腕組み歩きは危険?
わたしは他人と腕を組んだことがない。両腕は常にガラ空きである。理由はいろいろあるが、そのひとつに、いつ転んでも咄嗟に手を付いて身をかばえる状態でいたいことが挙げられる。
小学校の担任からの『ポケットに手を入れて歩くな(顔面からコケるから)』という教えを未だ忠実に守っているわたしにとって、手はおろか、腕まで固定されている状態は危険そのものだ。片方が転んだら、もう片方も道連れ…想像するだけで心の中の学年主任が血相を変えて飛んでくる。
しかしその一方で、腕を組んで歩く人を見ると、素直に『すごい』とも思う。
危険を冒してまで腕を組むのは、何か意味があるのだろう。そもそも危険ではないのかもしれない。
実際にやってみることにした。
経験者に聞く

佐伯:加藤は腕を組んで歩いたことがあるかってのを聞きたくて。
加藤:そりゃあるよ。
佐伯:フーン。やるじゃん。
加藤:逆にないの?
佐伯:ないよ。
加藤:なんで?
佐伯:逆になんで?
加藤:確かにそう言われるとわからない。
佐伯:それを知りたい。
加藤:まず、誰とでもいいわけじゃないでしょ。例えば、中学になると仲良くないのに勝手に腕組んでくる女子いたじゃん。
佐伯:いた!
加藤:ああいうのは苦手だった。でもパートナーと腕を組むのは大丈夫。
佐伯:あと、たまに腕組んで歩いてる母娘もいるよね。
加藤:それあたし。
佐伯:あれ、本当にすごいよね…何故そうなる…?
加藤:最近は、『やらないと危ないかも』という心配でやってる。バスの乗り降りとか…。
佐伯:それはカテゴリーが…。
加藤:介護だね。
佐伯:…とにかく、腕組みOKとNGの相手が明確に別れてんだ。
加藤:当たり前だけど、その境界は心を許しているか否かだよね。加えて、何かに触れることで安心するからっていう気持ちもあってやってる。
佐伯:危なくない?転んだりしたら…。
加藤:別に…?
佐伯:暑かったりさ。
加藤:暑かったらやらなきゃいい。
佐伯:大衆の面前でやることに抵抗は?
加藤:どうでもよくない?それは自意識の問題でしょ。
佐伯:正直そう言われるとその通りで何も言い返せないから、実際に二人で腕を組んでみよう。
いざ腕組み
さっそく公園内で腕を組んで歩いてみることにした。
しかし、いざ『腕を組もう』と言ってみたものの、どうすればいいのか全くわからない。見るのとやるのとでは訳が違う。
佐伯:本当に経験がないので自分から腕を組む方法がわからなくて…。
加藤:こう、ガッといくんだよ。
佐伯:ギャッ!
加藤:何?!
佐伯:ごめんちょっと人すぎるわ。感触が。
加藤:何なんだよ。
てっきり、『腕組み=腕だけ絡める』だと思っていたので、手まで握られてビビった。腕組みにも流派があるのだろうか。
佐伯:隣に肉体があるという自覚が薄いままだったから…。ごめん、気にせず続けて。
加藤:腕組んだら、歩く!普通に!
身体がぐんぐんと引っ張られる。自分の意思がない。なんだこれ。手綱を引っ張られるような感覚。これってほぼ連行じゃないか。腕組みってこういうものなのか?それとも私の問題?相性の問題?思ってたのと違う。
…でも、結構楽かも。足が軽い。いい靴を履いてる時みたい。前に前にと足が出る。そうか、これは歩行を補助されているのか…?そう思うとスッと受け入れられる。
あと、意外と危険性は感じない。片方が躓いたら、もう片方が支えてくれそうな気がする。二人でド派手に転ぶようなことはなさそう。慣れちゃえばこっちの方が安心かも。

佐伯:は~~~……。
加藤:以上。
佐伯:すごい。すごいね。うん。すごい。ハハハ。
加藤:そりゃよかったね。
佐伯:自意識の問題を省けば、案外いいもんかも。ちょっとわかった。こりゃみんなやるわ。