小出し記事 2020年8月23日

へんな辞典を紹介します その3

王様のブランチを見ながら「罰ゲーム」が変だなと思った。

罰なのに「ゲーム」って名前がついているのも変だし、罰ゲームというものをみな自然に受け入れている。

そもそもいつからあるんだろう?と思ってネットで調べたら日本最古の罰ゲームが載っている本があることを知った。

前回までのあらすじ
事典を紹介する動画を作っていたが、記事のほうが向いていることに気づき始めた連載。動画で紹介したものをそのまま記事にするつもりが、連載に必要だからという理由でどんどん辞書を買い集めている。

1971年東京生まれ。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと世田谷区で活動。
編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。(動画インタビュー)

前の記事:へんな辞典を紹介します その2

> 個人サイト webやぎの目

世界遊戯法大全

松浦政泰著 本邦書籍

罰ゲームだけではなく、847種の遊びが載っている本で、1907年(明治40年)の発行。いまから100年以上前である。入手したのは1984年に再販された復刻版。いま1万以上の値がついているが、僕が買ったときは5000円ぐらいだった。

「負の罰」という項目に罰ゲームが100載っている。いくつかピックアップすると…

男の罰(男性向け)
戴き茶碗
仰向けに寝させ、八分目水の入っている茶碗を額に乗せ、「サアそのままで起き上がりなさい」

女の罰(女性向け)
釘打ち
この金槌でこの3つの釘をこの木に打ち込みなさい

男女共通の罰
同音
罰を受けるもの三人を一列に立たせ、合図とともに、ひとりはヒシュ、ひとりはハシュ、またひとりはホシュと叫びなさい。ひどいくしゃみをするやうに聞こえますよ。一同三組に別れ、これに唱和するも面白からう。
顔しかめ
一分間、顔をしかめていらっしゃい。
踊り
一分間、踊りなさい
乳呑み
お母様に抱かれて、乳を呑む風をなさい

けっこうきつい罰ゲームが多いが、ヒシュ、ハシュ、ホシュでくしゃみに聞こえるのは面白そう(なんでこれが罰ゲームなんだろう)なので今年のはじめにプープーテレビでやってみた。

 0:49あたりから

100年前の人も「うーん…」と思っただろう(そういう罰ゲームなのか!)
釘を木に打つのが罰ゲームになっているのかは謎。女性はそういうことをしない時代だったのだろうか。


罰ゲームのほかに今でも面白そうな遊びが載っている。

笑い
一同の真ん中で世話方が白いハンケチを空中高く投げ上げると、それを合図に皆思いきって笑ふので、ハンケチが床に落ちるを合図に、プッと止めてしまわねばならぬので、そのときなお笑いている者があると、遊戯から省かれる。

ハンカチが飛んでいるあいだだけ笑う。それって面白いのだろうか。と思ってやってみたらむちゃくちゃ面白かった。(上の動画の5:46あたり)こういう理由のわからないおもしろさを見せつけられると焦る。

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しっかりもりあがる

百目会(目は目玉じゃなくて、重さの単位。百目で375g)

あらかじめ来遊の客になんでもちょうど重さ百目のものを包んで持参せられたきことを通知しておく。物は食用物でも日用品でも玩具でも何でもよい。
包は玄関で受け取り、番号をつけてさらにこれを客間の真ん中に積み上げる。
やがてくじを引かせて一番と番号を読み上げる。一番のものは出てきて一番の包をつけとる。受け取ってすぐに一同の目の前で、これを開かねばならぬ。ひげの紳士に大根とネギがあたり、梅干婆さんに赤ん坊の玩具があたる。一同腹を抱えて笑い興ずるのである。

 重さ縛りのプレゼント交換だ。これはいい。梅干婆さんは引用するときに漢字をひらいたが原文では「梅干婆三」と書かれていた。バーゾーかと思った。

あ、これ知ってる。という遊びも載っている。

ブウ

一同丸く輪を作って座っており、誰かから123と数をひとつずつ順々に言ふ。ただし7という数火、7に幾倍かする数、すなわち14,21,28,35等の数が当たると、その数を言わないで、その代わりに「ブウ」といふのである。
70はただ「ブウ」というが、71は「ブウ1」、72は「ブウ2」、73は「ブウ3」。それから77は「ブウブウ」というので、これを間違へた者は、遊びから除けられるのである。

3の倍数だけバカになるあれである。英語圏にはもとから3の倍数だけブタになる遊びはあったのだ。説明が遅れたがこの本は著者が英語の遊びの本から面白そうな遊びを翻訳して紹介している。

ちなみにブウの上位バージョンで、3と3の倍数をゲー、5はシュー、11はコッケコーローとするのも載っている。

1、2、ゲー、4、シュー、ゲー、ブウ、8、ゲー、シュー、コッケコーロー、ゲー、ゲー、ブウ、ゲー・シューというやうに、15までに普通にいへる数は、僅かに1と2と4と8の4つだけであるから、堪らない。

 こちらも上の動画、1:57あたりで試している。恥ずかしいぐらいにできてない。

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仮装も載っているが、なかなか大胆
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珍説愚説辞典

J.C.カリエール 、G.ベシュテル
国書刊行会

珍説愚説辞典
珍説愚説辞典
 
J.C.カリエール(著), G.ベシュテル(著), 高遠 弘美(著)

 画像がないとこんなリンクになってしまうんですね。

1960年代にフランスで編集された辞典。過去に刊行された本からおかしなことを言っている部分を集めてある。
前書きに「愚かしさがあるからこそ、知性も存在しうるのである」という考えには賛同するが、フランス人のウイットなのかよくわからない項目が多い。
そのなかからスカッとした愚説を選ぶと

亀は卵をじっと見つけて孵すという。ジャン・モケ『アフリカ、アジア、東西インド紀行』(1617)

すこし考えればわかるように、鳥類の構造は、一般的な気球の構造とはまったく異なっている。
「マガザン・ピトレスク」(1833)

パセリは確かに陽気で活発、かつ繊細な魂を持っている。
ルイ・エステーブ『ニーチェからブエリエまで』(1911)

ウミガメが流す涙は涙ではなく、目を乾燥から守るための粘液だと聞いたことある。それにしてもそれで卵を孵すことになっているのはおもしろい。

こういう考えを安易に過ちと見ないで、発展する過程の礎として捉える……ということがまったくできず、ゲラゲラ笑いながら読んでしまう。


世界遊戯法大全にある罰ゲームを実際にやって記事にしようとしていたが、いつできるか分からないのでさっさと紹介してしまった。

ではまた次回!

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