小出し記事 2020年8月31日

へんな辞典を紹介します その4

デイリーポータルZを見ているかたらから珍しい辞典の情報をもらった。

その辞典がかなりおもしろかった。健康ランドに持っていってまんがコーナーで読んでしまったほどだ。

今回はその教えてもらった辞典を入れて強力な3冊を紹介したい。

前回までのあらすじ
動画(プープーテレビ)で家にある辞書を紹介していたが、記事向きのコンテンツであることに気づいて改めて小出し記事で紹介することにした4回目。
動画で紹介した辞書はとっくに終わっていて、記事オリジナルのコンテンツになっている。

1971年東京生まれ。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと新宿区で活動。
編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。(動画インタビュー)

前の記事:へんな辞典を紹介します その3

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刑事弁護人のための隠語・俗語・実務用語辞典

下村忠利著 現代人文社

「被疑者・被告人との正確なコミュニケーションと信頼関係を築くために」と帯にある通り、刑事事件を担当する弁護士のための辞典である。

シュン太郎
今まで強がっていた者が、急に元気がなくなり、おとなしくなること。「あいつオレを見たとたんにシュン太郎になりよったわ」(p.11)

ダボシャツ
かつて、ヤクザや獄道者が着ていた古風なシャツ。フーテンの寅さんが愛用している。「ダボシャツで歩いとったら職質されました」「えらい時代になったもんや」
(p.74) 

この辞典は用例が味わい深いのだ。ダボシャツの「えらい時代になったもんや」はほぼ用例に関係がないが、味わいである。


盗人用語で「犬」のこと。(中略)
「庭に黒い大きな姑がおるんや」。そして「先生、姑に吠えられてパクられました」。
(p.45)

 そしてのあとの「先生、姑に吠えられてパクられました」は被告人が弁護士に言っているセリフだろう。
「姑」「パクられました」と隠語だらけのセリフだが、シーンとしては泥棒が犬に吠えられていてサザエさん的である。

純正ナビ
トヨタのカーナビ。高額で売れるので、窃盗犯に人気がある。「ナビ行こか」まるで風呂屋にでも行くように気軽に窃盗に行く。(p.52)

まるで風呂屋にでも行くように、という描写にリアリティがある。洗面器にナビを入れて帰ってきそうだ。

ムキムキ
無期懲役が2件の受刑者。無期懲役の仮釈中に事件を起こし、更に無期の判決を受ける。当然、仮釈は取り消され、先の無期が復活する。そして新たに無期でムキムキとなる。
(p.131)

ヌリ物
バターやマーガリン、チョコクリーム等パンに塗る物のこと。共同室内で賭け事をし、「ヌリ物」を賭ける。(p.144) 

花輪和一の「刑務所の中」でもマーガリンがすごくうまいものとして描かれていた。ムキムキは本当かなと思うがだじゃれがおもしろい。(状況としてはまったくおもしろくない)。 

誕生会
組の親分の誕生日を祝う行事。
(p.74)

なにかの隠語かと思ったらどストレートだった。ほっこり。

女子大生から見た老人語辞典

米川明彦 編 文理閣

新語辞典の逆で、消えゆく言葉を集めた辞典。女子大で教えている編者が大学生と共に作ったようだ(ゼミかな)。挿絵が大学生が描いたイラストで手作り感がある。

すいちゅうめがね[水中眼鏡] ゴーグル

「水中眼鏡」は明治時代いらい使われている語。「ゴーグル」は英語 gogglesで、水中以外に雪よけ、ちりよけにも使う眼鏡。
コメント
おばあちゃんは今だに「ゴーグル」という者が何なのかわかっていない。(p.81)

そんな家庭内の話を辞典で書くなよという気もする。

このほか、ちょうめん[帳面] 、えりまき[襟巻き] 、ねまき[寝巻]など最近言わなくなった言葉がならんでいる。だが、たまにわからないものもある。

ドンゴロス
例文
孫「この服いいなあ」
おばあちゃん「こんなドンゴロスみたいなの、やめとき」

解説
「ドンゴロス」は英語、dungarees で、麻袋。梱包、テント、日除けに使う。滋賀や大阪方言で悪い織物、悪い着物の意で使われる。(p.108) 

コーヒー豆が入っているような袋だろうか。しかしそんな物に例えられる服っていったいどんな服だろう。

最後にコメントがよかったもの。

なんば とうもろこし

解説
「なんば」は「なんばん(南蛮)」の変化した語。
北海道・東北・北陸・四国・九州では「とうきび」と言う。中部地方では「もろこし」「とうまめ」「とろなわ」、名古屋辺りでは「こうらい(高麗)」関西では「なんば」と言う。標準語では「とうもろこし」であるが、このように使用地域が狭い。

コメント
最初は何のことかと思ったが、今は私も使っている。(p.109)

「今は私も使っている」。老人語だけど復活しているのだ。

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異名・ニックネーム辞典

杉村喜光 編 三省堂

アンドレ・ザ・ジャイアントの「人間山脈」、にきび「青春のシンボル」、品川祐の「おしゃべりクソ野郎」などの新旧あらゆる別名を集めてある珍しい辞典。

エピソードがそのままネタになっていてほぼ読みものである。この連載で紹介している辞典は全部そうなんですが。

島崎藤村
【蟹の横ばい】明治女学校で教師をし始めた時、恥ずかしさからなのかなぜか毎回黒板側を向いたまま横向きで入って来て、時間が来ると横向きのまま教室を出て行ったことから。

ほぼインベーダーだ。島崎藤村のもうひとつのニックネームも良い。

【石炭ガラ】
教え子に恋をしたが彼女に親の決めた婚約者がいると知り、ショックと葛藤から四ヶ月で退職。その生徒の卒業後に職場復帰したが、気が抜けたようになっていたことから。

これぞ自然主義という弱々しさ!

ルイ14世の太陽王は有名だが、王をつけただけでそれ悪口じゃん、みたいな王もいる。

ルイ 六世【肥満王】
太っていた。(p.561)

シャルル二世【禿頭王】
毛深かったことから皮肉で逆の名を与えられたとも、領土を失ったことからとも。(p.247)

エゼルレッド二世【無策王】
十歳で王位に就いたが侵略してくるノルマン系民族デーン人に対して何も手を打てなかった。無思慮王とも。(p.80)

無思慮王とも。と追い打ちをかけるような「とも」である。だが日本も負けてなかった。

徳川家重【小便公方】
病弱で頻尿ぎみだったためこう揶揄された。江戸城から上野寛永寺へ参詣する際、四キロメートルほどの距離に二十三ヶ所も便所を設置した。(p.341)

頻尿を抑えるサプリのCMに出てもらいたいほどのエピソードである。

すべて紹介したくなるが(いまこの原稿を書いている間も30分ほど読みいってしまった)、この辞典、「武蔵の小京都」「北の小京都」など小京都は37、「オホーツク富士」「神戸富士」など各地の富士は217ヶ所も載っている。それを読んでいるだけで1時間が5分で過ぎる。

ちなみにグアテマラ富士はアグア山だそうだ。

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グアテマラ富士ことアグア山 photo by Rrmsjp 

けっこう富士山だった!
高さ3,760mで富士山とほぼ同じなのも富士山だ。きっとグアテマラの人は静岡で「アグア山だ!」と言っているだろう。

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