英語 迷信・俗信事典
イギリス・アイルランドで本、雑誌、個人の日記、手紙に書かれた迷信、フィールドワークで集めた迷信を集めてある。
500ページの本に2段組でみっちりと迷信が載っていて偏執的な迫力がある。
蹄から馬蹄を外したら、それを拾って取っておくとよい。しゃっくりが出ても、馬蹄をしまった場所を思い出した瞬間にしゃっくりは止まる。(p.197)
しゃっくりを止めるためにお湯をゆっくり飲むとか、びっくりさせる話は聞いたことがあるが思い出すだけで止まるのが迷信として新鮮だ。異国である。
こちらの迷信は怖い。
埋葬されていない死人の頭蓋骨にはえた苔は血止めに強い効き目があることが実証されている。(p.224)
ある夏のこと、しばしば鼻血が出たので、いくつかの治療法を試みることになったが、血を止めるのにいちばん効果的だったのは、(アイルランドから贈り物として取り寄せた)死人の頭蓋骨にはえた苔だった。(p.224)
頭蓋骨にはえた苔が効くという迷信は複数載っていた。しかも効果があるのが「鼻血」だ。頭蓋骨にはえた苔なら死人が生き返るぐらいしてほしいのだが、鼻血が止まるだけ。
贈り物として取り寄せるというのも分からない。そんなお取り寄せグルメみたいな扱いだったのだろうか。
迷信事典でおもしろいのはうんこを踏むと縁起がいいことになっていることである。
糞を踏んづけるのは縁起がいいの。
犬が玄関口で粗相をするのはとても縁起が良い
〔婚礼の〕客はその家に招ばれて行く途中汚物を踏みつけるようなことがあったとしても、決してそれを拭き取るようなことをしてはならない。そんなことをすると大変縁起が悪いと考えられているからである。
犬の糞を踏んでずっとあとまで分からずにいるのは縁起がよい。
うんこを踏むのが縁起が良いだけではなく、あとまで気づかないこともいいし、気づいたとしても拭いてはいけないのだ。どれだけいいものなんだろう、うんこ。
うちのマンションの前に犬にうんこさせるなという看板が最近取り付けられたが、あれはラッキーを遠ざけているので外したほうがいいと管理人に言おう。
日本俗信事典 動物編
こちらは日本の俗信辞典。こちらにもうんこについての俗信が載っていて、西洋のそれにかなり近いのだ。
ウマの糞を踏むと足が軽くなる、また速く走れる (p.154)
ウシの糞を踏むと、髪が短くなる(岩手)丈夫になる(奈良)知らずに踏むと力が強くなる(大阪・山口)足が重くなる(富山・愛媛)、走るのが遅くなる(p.131)
洋の東西を問わず、うんこを踏んでラッキー!と言っているのが人間なのだ。しかし、髪が短くなるのは床屋に行くとかそういう話ではないのだろうか。
この日本俗信辞典で気づいたのが、昔の日本人はすぐにおしっこかけることである。
ミミズに小便をかけてはいけない(茨城・埼玉・千葉・福井・岐阜・静岡・奈良)といい、小便をかけると罰があたる(山形・富山・岐阜・静岡・愛知・滋賀・兵庫など)(p.705)
カエルに小便をかけるとちんこが腫れる(山口)罰があたる(栃木)
(p.189)
どれもひどいことになるからやめておけという俗信だが、わざわざそう言うってことはかけていたのだろう。すごくかけてそうだ。
しもねたが続いてしまったので爽やかな俗信も紹介したい。
千葉県東葛飾郡ではウミガメを捕獲した時は、カメを車に乗せて市中を巡り、酒を飲ませ御馳走を与えて帰し、金銭に換えることはしないという。(p.214)
カメは神の使いだから大事にするのは分かる。分かるのだが、そのもてなし方が酒と御馳走、車で市内を走るという帰省したときの父と同じ方法なのが微笑ましい。
きっとマックスバリューでたくさんビールを買ってくれたりするのだろう。
鳥の声の聞きなしはいろいろあるがこれはずいぶん先輩風を吹かせている。
カラス強い!
通知表ポジティブ所見辞典
通知表のコメントの文例集である。完全に趣味で読んだ。例えば体育が苦手な子どもに対してのコメント例はこうだ。
体育の学習では、うまくできない時にも、あきらめずに、一生懸命に練習に取り組みました。粘り強い姿勢に感心しました。(小学校 p.85)
一生懸命練習したところを褒めるのだ。なるほど、これは通知表に書かれた気がする。そんなに一生懸命練習してないんだけどな…と思ったのを覚えている。
「元気いっぱいで怪我が絶えませんでしたが、近頃は落ち着いて行動できるようになり、怪我をすることが減りました」(小学校 p.192)
「発言が活発で、みんなの前で発表する時の声の大きさや態度に自信が感じられました。」(小学校 p.91)
元気をほめるのがポイントだ。元気、声が大きい、目がきれい、姿勢がいい、どれも含みがありすぎてボジョレーヌーボーのコメントのようだ。
中学校編になると、もっと込み入った問題になってくる。
授業中は常にテストに出る箇所を意識して意欲的に質問し、テスト勉強に励もうとする姿勢が感じられました。(中学校 p.179)
テストに出るところだけ覚えようとするなよ!という先生のメッセージが伝わる。
いま仕事柄すぐに「これバズるかな?」と言ってしまうのだが、「ここテスト出るかな?」のマインドに似ている。
本が大好きで、休み時間にも集中して読んでいます。本から学んだことを今度は実践に移してみましょう。まずは友達に本を紹介することから始めてみませんか。(中学校 p.216)
また見に覚えがあるフレーズを見つけてしまったが、まさにこれが本を紹介する連載である。
小学校編、中学校編ともに巻末に言い換え事典があってそれがまたすばらしくて秘密にしたいぐらいなので2つだけ引用する。
食い意地を張る → サバイバル力がある (中学校 p.366)
え、サバイバル? 通知表で唐突にサバイバルの文字が現れたら要注意というか、うちの学校そんなこと教えてましたっけ?と思うだろう。
次回も不要不急の事典をお届けしたい。不要不急の豊穣な世界を。