口の中にずーっと残る牡蠣の風味
牡蠣を食べた後、口の中がずーっと海の爽やかな味がしたままだった。
大人だと、ここでビールや日本酒で……となるわけだけど、甥っ子は中学生なのでそういうわけにもいかず、ふたりで二十世紀梨ソフトクリームを食べることにした。
二十世紀梨ソフトクリームは、甘くてさっぱりしており、岩ガキのあとに食べるものとしては、これはこれで最高だった。
鳥取に「夏輝(なつき)」というブランド牡蠣がある。
その岩ガキを食べられる直売所が国号9号線沿いにあると聞いたので、岩ガキを食べたことがない甥っ子と、岩ガキ好きなおじさんの二人で食べに行ってみた。
鳥取市青谷の国道9号線沿いに、岩ガキを食べられる店があるという話を聞いた。
(青谷、このあたりです。鳥取市と倉吉市の真ん中あたりです)
鳥取に帰省したついでに行ってみることにしたのだが、一人で行くのもなんなので、甥っ子を誘ってみた。
甥っ子は中学2年生だが「岩ガキ食べに行かんか?」と聞いたところ「岩ガキってなに?」と聞き返してきた。今まで岩ガキを食べたことがないらしい。
「牡蠣っちゅーのは貝の仲間でな、カキ殻をカパッと開けて中のカキをツルッと食べっだけども(食べるんだけど)……貝をよー食わんかったら(貝が苦手だったら)別に無理して食わんでもええけ(無理して食べなくてもいいから)」……というと、興味があったらしく、一緒についてきてくれることになった。
数日前に回転寿司に連れて行ったときは、エビと玉子をひたすら頼んで山のように食べていたが、食の好みが独特というか、子供はみんなこんな物なのだろうか。
僕も子供の頃は野菜や魚介類があまり好きではなく、牡蠣もまったく受け付けなかったのだが、いつの頃からかスイッチが入ったらしく、千葉の牡蠣小屋で食った牡蠣に「こんなに美味いものを今まで嫌っていたなんて……」と、己の不明さに愕然とし、以来、牡蠣の軍門に降った。
鳥取の東西を結ぶ国道9号線。とくに青谷のあたりは海沿いを縫うように走っており、非常に眺めがよい。
この道は昔から何百回も通ったことがあり、ここに「なにか海産物を売っている店があるな」ということは認識していたものの、今の今まで見過ごしていた。
というのも、このお店で岩ガキを売っているのは夏の間だけであり、それ以外の時期で店が開いているのはあまり見たことがなかったからだ。
店はすでに岩ガキを食べにきた観光客が注文の列を作って並んでおり、大盛況である。
店の中には大きな生け簀があり、サイズごとに値段が付けられた岩ガキがつけてある。
450円、500円、600円、1200円、2000円のカキがあった。この値付けは450円〜600円の小サイズ、1200円の中サイズ、2000円の大サイズという感じだろうか。
ここで、2000円の大サイズを……という勇気がなかなか出ない。こんなにデカくて立派な牡蠣をおれみたいなもんが食べちゃっていいのだろうか?
2000円払えば食べていいという資本主義のしくみを超えて、なにか牡蠣にある種の神聖性を見出してしまっているので、そんな畏れ多いことができない。
などと、屁理屈を並べたが、単純に値段の高さにビビっただけだ。
まあ、小ぶりなほうが味が濃くて美味しいという話もあるので……という言い訳を考え、ひとまずは600円サイズの牡蠣をふたつ注文して食べることにした。
注文すると、店の奥で電動ノコギリのでかい音がチュィーンガリガリガリと鳴り響く。この店では牡蠣の片方の端っこを切り落とし、食べやすいように開けてくれる。
しばらくすると、カットされて食べやすくなった岩ガキがでてきた。
サイズが小さいとはいえ、スーパーで売っているような牡蠣に比べるとまったく別物だ。600円でこれなら2000円のやつになったら ルンバぐらいあるかもしれない。
購入した岩ガキは、クール便で各地に発送もできるが、ほとんどの人は店の外に用意されたテーブル席でそのまま岩ガキを食べていた。
我々も購入した岩ガキを食べるべく、店舗横のテーブル席を陣取る。しかし、食べちゃうと、ものの数秒で消えてしまうはずなので、食べる前にじっくり観察しておきたい。ということで、しげしげと600円の岩ガキを観察する。
素人が、いくら眺めても何かわかるということもないのだが、これが600円の岩ガキという事実をまずはじっくり味わいたい。
甥っ子が岩ガキを食べる。一口では口の中に入らないため、何回か噛んで飲み込んでいたが、はたして人生初の岩ガキを食べた感想は……「うん、食べられる。うまいよ」だった。
「クリーミーとかそういうのは?」と聞いてみたところ「クリーミーな感じはする」という。それが「うまい」のかどうかは判断がつきかねている様子だ。
「おいしいけど、たくさんはいらんな」とのこと。
そうか……まあ、その気持はわからないでもない。僕にとっての白子がそうだ。白子はおいしい。おいしいけれど、ドンブリ一杯分白子を食えといわれたらちょっときつい。
いよいよ、ぼくも岩ガキをいただくことにする。岩ガキを手に持ったところを、甥っ子に写真を撮ってもらう。
写真を撮った甥っ子が「ハワイみたいな写真になっとる」と言い出した。撮れた写真(上)を見てみると確かに着ている服と青空、海の色がどう考えてもハワイの色味である。
しかしながら、手に持っているのは岩ガキだ。
ハワイみたい色味の写真だが、岩ガキはうまい。海産物特有の風味と程よい塩味。シャクっという柔らかい歯ごたえの甘い貝柱と溢れ出す旨味の汁。口の中が海の爽やかな風味でいっぱいになる。
しばらくするとクリーミーな部分が出てくる。あ、これがいわゆる「海のミルク」というやつか……となる。
これは、たしかにビールとか日本酒といったアルコールを口に含みたくなる気持ちもわかるというもの。
牡蠣は、一般的に冬の食べ物のイメージがあるけれど、それは真ガキのことであって、山陰地方などで採れる岩ガキとは別物らしい。
岩ガキの旬は6月〜8月の間で、岩ガキは夏の食べ物となっている。
岩ガキは、真ガキにくらべると大きくなりやすいらしい。さっき、2000円のやつはルンバぐらいあるかもしれないと冗談で書いたけど、今あらためて夏輝の大きさをインターネットで調べてみたところ、大きいやつはマジでルンバぐらいありそうな勢いだった。
牡蠣を食べた後、口の中がずーっと海の爽やかな味がしたままだった。
大人だと、ここでビールや日本酒で……となるわけだけど、甥っ子は中学生なのでそういうわけにもいかず、ふたりで二十世紀梨ソフトクリームを食べることにした。
二十世紀梨ソフトクリームは、甘くてさっぱりしており、岩ガキのあとに食べるものとしては、これはこれで最高だった。
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