小出し記事 2020年9月13日

へんな辞典を紹介します その5

事典はひとつの項目が短いからパラパラと読むのにちょうどいい。順を追って読まなくていいし好きなところから読んで、好きなところで放り出せる。

しかも内容が役に立たないものだと最高だ。ひとつも覚えなくていいのだから。醤油のボトルのラベルを読むぐらいの気楽さで読むことができる。

編集部からあらすじ:
YouTubeでやっていた辞典紹介を文章でやる連載。今回で最終回です。普通の文字ではなくなり〼

1971年東京生まれ。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと新宿区で活動。
編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。(動画インタビュー)

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社會ユーモア・モダン語辞典 社会ユーモア研究会 編 鈴響社

昭和7年に発行された辞典。当時の新語や冗談めいた言葉が集まっている。要はおもしろ辞典である。でも、前書きが戦前の本らしく大きく語っていてかっこいい。

滑稽、諧謔、洒脱等の有っている無邪気なる茶気や可笑味は真に純であり、天真爛漫である。(中略)病的や厭世観に傾く悲しみなどサラリと奪い去ってしまうところこれ全くの人生のオアシスである。
(中略)
即ち茲(ここ)に社会のあらゆる茶気可笑味ある単語を網羅し、「社会ユーモア・モダン語辞典」と題し世に問う所以である。

本辞典は倦時にこれをひもといて心気を一転し、元気更新の妙薬となる。
(中略)
これが本辞典の使命である。
社会は文化の進むにつれてユーモラスの表現をますます要求して来る。
此の時にあたり本書は小著ではあるがその先端を切る面白い興味ある辞典であると信ずる。

ユーモアは人生のオアシス、社会にとってユーモアは必須。88年前に書かれた本だがまったくその通りだ。赤べこぐらい頷いた。

デイリーポータルZの大先輩だ、そう思って「和製英語」の欄を見るとどうも僕が知っている和製英語と違う。

アンクルム 大福餅のこと
ヒネルシャー 水道のこと
プートデール 放屁
デルトマケール 弱い力士のこと
ゴハンターク お釜のこと

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あれ、先輩、なんか長音いれたら和製英語だと思ってませんか。

スケベリズムに至ってはかなりストレートである。イヤラシストじゃだめだったのだろうか。

だが、戦前に日本が統治していたパラオではビールを「ツカレナオース」と呼ぶそうなので、雰囲気英語は一般的だったのかもしれないし、これに習ってtiktokiを「カクカクウゴーク」と呼びたい。

ほかにも時代を感じる言葉が載っている。

ワニチ:和製ニーチェの意味で、自分勝手やぶちこわしばかりする人のこと(和製英語)
モンロー主義:自分勝手な人のこと(隠語)
鉄管ビール:水道水のこと(隠語)
ビーシー:アルファベットでBは二番目、Cは三番目にあたる。いろはでロは2番目、ハは3番目にあたる故にビーシーはロハ(タダ)という意味(滑稽)

モンロー主義もニーチェも1932年ではちょっと前の出来事・人ぐらいの感覚だったのだろう。でも学校で習ったモンロー主義(よそに関わらないから自分たちにも関わらないでくれ)とイメージが随分違う。

88年前の「ぴえん」みたいな言葉がたくさん載っているこの辞典、国会図書館のサイトで公開されている。

社会ユーモア・モダン語辞典

いま読んでもなにひとつも覚えなくていい。気楽な読書にはぴったりだ。

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急に屁の分析結果が載っていた。「摂取する主要食物に依って多少の差異はある。即ち(中略)紳士、書生の区別もつく訳である。」だそうだ。ふざけてる。

句読点、記号・符号活用辞典。 小学館辞典編集部

 「」や・※など文章に使う記号の辞典。見たことがない記号がたくさん載っていてぞくぞくする。深海魚図鑑のようである。


大きいか等しいか小さい (p.279)

数学で使う記号。「犯人は20代から30代、もしくは40代から50代」みたいな記号である。

ライターのほりさん(数学できそう、と思って聞いた)に聞いたところ、高校の数学で3回ぐらいしか出てこないレアキャラとのことだった。残念ながら僕は高校の数学の時間の記憶がない(UFOにさらわれていたのだと思う)。

元として含まない

数学で、∌の左辺を集合として「A∌a」のように示し、集合Aがaを要素(元)として含まないことを示す。 (p.260)

説明を読んでの感想が「そんな名前のバンドあったな…」としか思わなかった(凛として時雨)。

こと

カタカナの「コ」と「ト」の合字。「…すること」「…であること」などの形式名詞の「こと」に当て、「こと」と読む。(p.283)

罫線ではない(罫線はこれ ┐)。
2つのカタカナを合わせた文字、なんてものがあってパソコンで変換されるのが驚く。嵐山光三郎のなのでRがオフィシャルになったようなものだ。

吾輩は猫であるの序文に引用されている正岡子規からの手紙にこのヿが使われている。

僕ハ迚(とて)モ君ニ再会スルヿハ出来ヌト思ウ。万一出来タトシテモ其時ハ話モ出来ナクナッテルデアロー。
『吾輩は猫である』中篇自序

「話もできなくなってるであろう。」という重い文章だが「話モ出来ナクナッテルデアロー。」とカタカナで書かれたのでアイアンクローと読み間違えた。


平仮名の「よ」と「り」の合字。動作の起点や比較の基準などを表す助詞の「より」に当て、「より」と読む。

用例 会席コース 御一人様一万円ゟ
(p.283)

ヿ(こと)もそうだったが、どう重なって「よ」「り」が「ゟ」になっているのか分からない。ただ、変換候補にゟが出る。このPCとは古い付き合いだがお前こんな漢字知ってたのか?と驚く。

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しれっと出してくる

波状ダッシュ
主に漫画や娯楽小説などで「ー」の代わりに長音符号として使われる。震え声、凄みのある声、絶叫などを表すのに使われることが多い。
用例 ひえ〰っ!
用例 見ぃた〰〰な〰〰〰ぁぁぁ 

(p.71)

~よりももっと波を打った長音があった。
チャットなどで「お世話になっております~」と書くときに「お世話になっております〰」にするとライバルに差をつけられるぞ。

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おいしさの表現辞典 川端晶子・淵上匠子 編 東京堂出版

いろんな文学作品・まんがなどから食べたときの表現を集めてある。突っ込みどころがある表現が載っているわけではなく、かなりオーソドックス。でもたまにへんなところから真に迫る表現がある。

コロッケ
ブルドックソースをコロッケ全体にまんべんなくだぼだぼにかけてくれた。[椎名誠/気分はだぼだぼソース] (p.53)


蒸し魚 清蒸
舌ビラメの清蒸(チンジョン)が出てきて、レンゲで身をつきくずして、魚の身と、ネギと、豚肉と、シイタケと、そのスープをアツアツのご飯にのっけて食べたら「WOW!」つい英語で叫んでしまった。[開高健/小説家のメニュー] (p.179)

 

魚肉ソーセージ【じっくりいため醤油がけ】
5ミリぐらいの厚さに切って油を引いたフライパンでいためます。忙しくひっくり返したりせず、片側ずつ表面がパリッとなるまで。すると、ふわふわで軟弱だったソーセージが「俺は、おかずだ!」と自分の使命に目覚めます[野瀬泰申/全日本食の方言地図](p.215)

カリカリになった魚肉ソーセージ!
マヨネーズがついて薄暗い居酒屋(鮒忠とか)で380円ぐらいで注文したい。しかし開高健さんってWOW!って言っちゃうようなキャラだったんですね。

【ビーフステーキ】
肉屋を吟味した上でロースを二十匁買った。二十匁はフライパンのなかで、ちーちゅーと焼けた[幸田文/台所の音] (p.225)

ちーちゅー! ステーキでちーちゅー、という可愛さ。
脂が焼ける音だ。


辞典の連載はこれにて一旦終了!
関係ない辞典をふまじめに読もうと思っても、ちょっと関係したり、これ覚えておこうかな…と思うヿがあるので、よりふまじめ道を極めていきたいと思う次第である。
そのうちまとめます〰

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