特集 2025年7月29日

色んな年代の自分と一緒に顔ハメパネルを撮る

顔ハメパネルはやるのも見るのも楽しい。誰かが顔ハメパネルに顔をハメた瞬間、一瞬で漂う滑稽な雰囲気。ハメてる当人はもちろん、家族や友人、果ては関係ない周辺の人まで愉快な気分になれる。

今回、私は顔ハメパネルがさらに楽しくなるやり方を考案した。顔ハメの新時代、それは「自分自身と一緒に撮る」である。

1980年、東京生まれ。片手袋研究家。町中で見かける片方だけの手袋を研究し続けた結果、この世の中のことがすべて分からなくなってしまった。著書に『片手袋研究入門』(実業之日本社)。

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自分と一緒に顔ハメパネルを撮るためのパネル

観光地やイベントではお馴染みの顔ハメパネル。皆さんも一度はハメたことがあるだろう。

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以前参加したイベントで設置された片手袋顔ハメ

ある日、とっても素敵なアイディアが天から降りてきた。自分の顔のパネルを用意すれば、自分と一緒に記念撮影できるじゃん!

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このパネルを穴にハメて一緒に撮れば良いのだ。色んな年齢の写真を用意すれば、時空を超えた自分との2ショットも可能に!
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浅草へ

早速やってみよう。東京で顔ハメパネルが多く設置されている場所と言えばここだろう。

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浅草にやってきた。暑さと人混みを避け午前中スタートにしたが、既に暑いし人出も凄い
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「このパネルと一緒に撮りますからね」
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不思議な気分

顔ハメパネルを求めて、浅草散策スタート。一瞬で汗だくになるが、ほどなくして1つ目のパネルと遭遇した。

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本当は穴が複数空いてるやつが良いのだが、まあこれでやってみよう
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最初は以前、安藤さんが撮ってくれたこの写真の自分と撮ってみる
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「どう?良い感じ?」。なんか不思議な写真が撮れた
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「ちょっと押さえてて」。正面からマジマジと見つめる。俺だ。なんか凄く変な気分

向かい側にもパネルがあったので、違う写真でやってみる。

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「今度はこの俺でいくね」
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10代後半頃?

なんか思春期が抜けきらない、斜に構えてた頃だ。一度地下鉄のホームで母親に「公二~!電車来たわよ~!」と叫ばれて「恥ずかしいから俺を人前で呼ぶんじゃねぇ!」とキレたことあったな。

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「20数年経ったら人前でこんなことやってるんだもん。母ちゃんに謝りたいよ」

それにしても、さすが浅草。たくさんのインバウンド観光客が通り過ぎていくが、皆不思議そうに私を眺めている。Welcome to Japan !

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若者たち

ところで私はさっきから誰に話しかけているのか?実はこの日の撮影、日本映画大学の学生が同行してくれていた。

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なんと一年生。さっきの母ちゃんにキレてた頃の自分くらいだ…

彼女たちは「人間総合研究」という実習の取材対象として片手袋研究家である私を選んでくれて、一か月くらい密着してくれているのだ。

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インタビューを受ける私。最終的に写真と音声で構成される作品になる。半分くらいはアジア各国からの留学生

日本映画大学の創設者である今村昌平の「人間に興味を持て」という理念に則り、彼らは片手袋研究だけでなく、あらゆる角度から私という人間を掘り起こしたいのだという。

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「本当に“あらゆる角度”なんですね?」
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それでこうなってる。今村監督、若者たちが立派に人間総合研究してますよ!
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幼少期の自分と記念撮影

さて、できれば穴が2つ開いてるパネルを見つけて、過去の自分と一緒にハメたい。

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「みんなもそう思うでしょ?」
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あった!しかも一気に2つも!

それではまず、思春期をこじらす前、ひょうきん者だった小学生の頃の自分と撮ってみよう。

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誰かのお誕生日会ではしゃぐ私
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「行くよ~」
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「はい~」
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「もっと近くで撮って~」
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「はい~」
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パシャッ!
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「どんな感じ?」。写真をチェックする男の視線は厳しい
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子供の自分の方に「まってたよ‼」の台詞。なんだかSFっぽさがあり良い写真だ
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か、母ちゃん?

だがSFっぽさということなら、一緒に撮りたいのは過去の自分だけではない。

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そう、今はAIがある。未来の自分とだって撮れてしまうのだ

爺さんになった自分を生成してみて、本当に驚いた。母親とまったく同じ顔なのである。母親に大声で呼ばれてキレてた公二は、いずれ母親と同じ顔になるのだ。

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人生!
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「これ、母ちゃんそっくりなのよ」。人生を語る男の視線は厳しい

大団円

それにしても暑過ぎる。日本の学生もだけど、留学生なんてどう思ってるんだろ?いきなり「片手袋研究家を取材する」とか言われたら日本人でも戸惑うよな。しかもそのオッサンが片手袋ですらなく「自分と顔ハメ撮りたい」とか言い出して、猛暑に連れ回されてるんだから。

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「嫌になって離脱してないよな」と不安になり振り返るが、みんなちゃんと付いてきてくれてる

さすがにこれ以上迷惑を掛けたくない。(もう終わらせないとな)と考え始めた、その時。ラストを飾るのにふさわしい顔ハメパネルが姿を現した。

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なんと穴が5つ!

用意してきたパネルを総動員して、あらゆる年代の自分と記念撮影して終わりにしよう。だが5つとなると、当然自分ひとりではパネルを固定できない。

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その結果、結局迷惑を被る若者たち

この時、私は皆にササっと適当にパネルを配った。しかしそれを見た中国からの留学生が、私に言ったのである。

「石井さん、ちゃんと年代順になるように並べましょう」

…ありがとな。確かにその方が絶対に良い。こんな企画の勘所を私よりちゃんと押さえてるなんて、優秀にもほどがある。

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エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス!

こうして、私たちの暑い夏の一日が終わりを告げた。

大人の背中

酷暑の中歩き回ってぐったり疲れたが、肝心の新しい顔ハメパネルの楽しみ方はとてもうまくいったと思う。

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「爺さん・赤ちゃん・現在」、三世代共演顔ハメ。なんかエモい写真になる

だが学生達はどうだったのか?後日送られてきたこの日の写真を見ていたら、私の背中が多く写されていた。

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「人間総合研究」。若者たちは私の背中を見て、人間のなんたるかを学んだと信じたい。

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バイクで帰っていく私の背中まで撮ってた。「なんだったんだ、アイツ」という戸惑いが写真に出てる感じがする

大志を抱け

後日、学生たちからこの日の感想が送られてきたので、最後にご紹介しよう。

顔ハメパネルを見つけた瞬間、早歩きで向かっていく石井さん。持参した歴代石井パネルを取り出し、「これ一緒に持ってもらってもいいですか?」と私たちに渡してきた。 後ろから見ると不思議な光景が広がっていて、私は何をしに来ているんだろうかとふと思った。

私たちが撮った写真を見ながら「これいいっすね!!何がいいんだか分かんないけど」と誰よりも爆笑して楽しそうな石井さん。こんなに顔ハメパネルを楽しんでいる大人がいるだろうかと思った。大学生の私たちよりも1番無邪気な石井さんを見て、私たちも石井ワールドに引き込まれ、その楽しさに気づいてしまった。

やっぱり背中で伝わってた。石井冥利に尽きる。

編集部からのみどころを読む

編集部からのみどころ
先週掲載したトルーの「顔はめパネルに全身入れる」と同じ浅草で同じシリーズの顔ハメです。トルーは身体、石井さんは幼い自分を入れています。顔ハメの新しい使い方を毎週お送りしています。
最後の学生コメントに「私は何をしにきているんだろうか」とありますが、読んでいる人もそう思ってるので安心してください。(林)

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