乳酸菌みたいになったらいい
つまり、こんなことがやってみたい。
小さくなってパネルの世界を冒険する主人公みたいになるのだろうか。スポットライトを浴びているように見えるのだろうか。
「胃の中で活躍する乳酸菌」みたいになったらおもしろいなと思う
奥に空間のある顔はめパネルを探す
まず必要なのは、奥行きがある場所に設置された顔はめパネルである。
パネルから遠ざからないと全身が入らないが、大体の顔はめパネルって壁際にある。
編集部の橋田さんに撮影をお願いすることにして、その前日に遠ざかれる顔はめパネルを探すことにした。
良いパネルが昔あったと聞いて来た。しかし見つからない。
サービスセンターで画像を見せながら聞いてみると「これが? あったんですか?」とそもそもパネルの存在を知らない反応。しばらくしたら奥からベテランの職員さんが出てきてくれて「ずいぶん昔になくなっちゃいましたねー!」と教えてくれた。
顔はめパネルって撮影スポットだから、銅像とか記念碑と一緒に考えちゃうけど、そんなにずっとあるものじゃないんだよな。静かに腑に落ちて駅に戻った。
噴水の水の内側でハトが休んでいた。暑いもんな。
検索して見つけたパネル。道に対して垂直に設置されているっぽいので全身が入るはず。
しかし休業日でパネルがしまわれていた。撮影の日は営業しているが、正確な設置場所が分からないのでぶっつけ本番になる。
これだ! 遠ざかれる空間が十分ある。きっとパネルは、撮影の日もこの場所にあるだろう。
ここにしよう。パネルは芸の神様、六芸神の中の一人、話神(はなしがみ)様のパネル。古今亭志ん生がモデルらしい。
話神様が切り取る丸い空間を見て、あそこに全身入れますように、と祈ってこの日は帰った。
変な試行錯誤
「顔はめパネルに全身入れたい」と変な願いを持ってみたら「厳しい条件で顔はめパネルを探す」という変な苦労があった。
ここからもう一つ「穴の中に全身を入れる」という変な苦労がある。
集合写真で欠席した人みたいになった。それか顔はめパネルの使い方を分かっていない人だ。
もっと離れれば全身が入るだろう。しかしあまり遠ざかると、人通りのない瞬間を見計らうのが難しい。
ならば今の大きさでフレームに収まるように僕の足が上がればいい、とこの時は思った。
ジャンプして膝を抱えてみたが、全身入りそうで入らない。
「もっとギリギリまで膝を抱えたまま着地したら入るかもしれませんね!」とか相談しながら人通りがなくなるのを待っていた時。カメラの位置をほんの少し高くすると、パネルの穴から地面が見えることに気がついた。
…ジャンプじゃないよな。カメラの方を高くすればいい。
顔はめパネルに全身入った!
すごく小さい人間にも見えるし、心の底から顔はめパネルを間違えている人にも見える。カメラ目線で満足そうだ。
顔で、穴で、フレームだ
いい写真が撮れた。
そして撮ってみて分かった。「顔のところに穴がある」というパネルの違和感を埋めないまま、それを写真のフレームにも使っているので違和感にブーストがかかっているのだ。
顔であり、穴であり、フレームである。そんな写真が撮れて嬉しい。
喜んでいたら車や人がない瞬間が来て、通りの向こうまで行くこともできた。
顔はめパネルの穴を通して、通りの向こうの人がこっちを見ている。これは怖いな。
やっぱり狙って撮った雰囲気が出た方がいい。
結論が出た。顔はめパネルから全身を出す方法はこうだ。
- パネルの5、6メートル後方でしゃがむ
- カメラは少し上から角度をつけて撮るようにして、被写体を穴の中におさめる
観光の思い出として、より深く記憶に刻まれると思う。やってみてほしいし、できたら見せてほしい。

