特集 2023年8月21日

東京23区内でヒグラシの声が聴ける場所を探す

ヒグラシというのはセミの種類で、夕方ちょっと暗くなってきた時間に鳴き始める。

その声は暮れていく夏の一日を惜しむような、なんとも言えない物悲しい音色。それがすごく心に染み入るのだ。「風情」などと繊細げな表現をするには強力すぎるほどのガチ風情がある。風情を固めて作った10tハンマーみたいなものだ。

あの声をぜひ、身近で聞きたい。風情の10tハンマーで殴られたい。

インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

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山で鳴ってる音、ヒグラシ

先日、岐阜の実家に帰省した。すぐ裏が山で、久しぶりに登ってみたところ見事なヒグラシの大合唱を聴くことができた。

高い音で「シシシシシシ…(間をおいて)シシシシシシ…」と繰り返しているのがヒグラシ。カナカナカナ…と表現されることも多いが、シシシシ…の方が近くない…?

さっき「ヒグラシの大合唱」と書いたけれども、実際ヒグラシの鳴き声に包まれてみると合唱のようにたくさんの声が集まっているという印象ではない。ヒグラシの声というひとつの音響が、空間をふわっと満たしていくような感じがする。それが満ちては引いていく。そこに包み込まれる心地よさ。

なんとか東京で、それも23区内でこの声を聴けないものかと思い、探すことにした。

最有力候補、明治神宮

東京で生活していてヒグラシの声を聞いた記憶は全然ない。また体感だけでなく、統計的にも23区内の生息数は非常に少ないそうだ。難しい捜索になるかもしれない。

いろんなサイトやSNSを読み漁ったところ、最頻出だったのが明治神宮(渋谷区)。ただし「いるとしたら明治神宮くらいですかね…」というような言及のされ方が多く、確実にいるという感じではない。まずはこれを確かめに行こう。

森!いそう~

日を暮らすには少し早めの15時半ごろ到着。たしかにこれほどの広さの森にヒグラシがいなかったら、もう都内のどこにもいないのではないか。

どれも背が高い立派な木だ

参道は柔らかな木漏れ日に包まれていて、気温も街中より2段階くらい涼しい。ヒグラシは時間によってではなく温度や明るさなど総合的な条件で鳴き始めるらしいので、このようすなら夕方を待たずして鳴き始めるかもしれない。

木々をガン見しながら参道を歩く

それにしてもここは音が多い。

360度からアブラゼミの「ジー」という声が聞こえ、森の手前の方からはミンミンゼミの「ミーンミンミン」という声、少し奥まったところからツクツクボウシの声がまばらに聞こえてくる。

そして上空からはひっきりなしに飛行機の音、そして一定周期でJRの電車の音がする。ヒグラシの声を探ろうと耳を澄ますと、原宿駅のホームの発車チャイムまでが聞こえてくる。

思った以上にずっと飛行機が飛んでる

ヒグラシが本当にいるのか、できれば誰かに聞き込みをしたいところだが、あいにく周りは外国人観光客ばかりだ。誰かいないかな…と探したところ

料金所が

有料の庭園、明治神宮御苑の料金所だった。お金を払うついでに受付の方に聞いてみる。

「このへんってヒグラシいます?」
「たまに聞こえるよ。もうそろそろかな」
「夕方からですか?」
「どうかな。虫の勝手だからね。」

100%の保証は得られなかったが、証言としては十分ではないか。
しばらく御苑の中を散策してみることにした。

中もけっこうな森だ
これは菖蒲田
清正の井戸。毎分60リットル湧いているとのこと。ペットボトル2本分が毎秒!?
すごく背が高くて変わった形の松が1本だけあった。有名な木なのだろうか(調べてもわからなかった)
これはミンミンゼミかな
セミ以外の虫もたくさんいる。クエン酸に浸した10円玉みたいにピカピカなカマキリ
東京にアメンボって全然いなくないですか?ここにはいる!
いやー、庭園っていいものですね……

なんかこう、大自然的なものが欲しくて東京でヒグラシを探し始めたのだが、すでに完全に自然を満喫してしまった。まだヒグラシ見つけてないけどこの記事終わりでよくない?

そんなことを思いつつ30分ほどフラフラしただろうか、ついに聞こえてきたのである。

この辺りから、ヒグラシの声が…!

動画でどうぞ。ヒグラシの声がするタイミングにはヒグラシの絵が出てきます。

ここで鳴いていたところに僕が歩いてきたのではなく、夕方が近づいてきていま鳴き始めたという感じだった。

空間を埋め尽くすほどの数ではないけど、単体ではない何匹かがタイミングを合わせて鳴いている。これこそ合唱っぽい。

鳴き声の真ん中で包み込まれるような音響とは違うが、客席から聴いて愛でるという感じで、これはこれで違った風情があって良かった。

再現性があるかわからないですが、場所はこの辺。

というわけで都内ヒグラシスポット、1カ所発見!

いやー御苑の中を探して正解だったわ。俺の先見の明~とか思って調子に乗っていたが

御苑の外に出ると、参道の方でも普通に鳴いていた

御苑内で鳴き始めを観測した時刻は16:20ごろ。そのあと外に出て駅まで歩く間にどんどん大きくなっていたので、ピークはさらに後だったのかもしれない。天気や気温(この日はかなり涼しかった)、また時期(本記事は8/17~19に撮影)によって変動があると思うが、聴きに行く際は参考にしてほしい。

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成城大学脇の遊歩道

続いて成城大学(世田谷区)。敷地内に池があり、その周りでヒグラシが鳴くことがあるという。(参考文献

大学構内となると部外者が聴きに行くにはちょっとハードルが高いのだが、ちょうどいいことに池は敷地の端にあり、遊歩道が隣接しているのだ。

この階段を降りると
左を成城大学、右を仙川に挟まれた遊歩道

大学と川に挟まれた遊歩道で、ジョギングの人がひっきりなしに通っていく。 

川にせり出す立派な桜。春はお花見スポットなのだろう
ここが、目的の池

幸いなことに高い塀や壁で仕切られてはおらず、よく音を通しそうな柵があるだけだ。

柵の隙間から失礼します、とカメラのレンズを向けた瞬間…

あ、聞こえた…!!
声から察するに2~3匹だろうか。ヒグラシがコール&レスポンスのように鳴いている。

明治神宮のヒグラシとくらべてもずいぶん控えめなサウンドだが、動画で聞き取ることができるだろうか。 

かなり聴きづらいかも!現場で生で聴くともっとわかりやすいです

柵を挟んで単純に遠かったのもあるし、セミ自体の数も少ないのだろう。広いホールの店を、少数精鋭でシフトを回している感じだ。

大音響で浴びるような楽しみ方は難しそうだが、無数の他のセミの声をかき分けてヒグラシの声を探すような、そんな宝探しのような楽しみ方ができそうだ。時間は17:30~18:00ごろだった。

余談だが柵の外から大学の敷地内にカメラを向ける姿はかなり純度の高い不審者で、ほかの場所に増して「早く鳴いてくれ…!」という切迫感を感じるスポットだった。

⏩ 明治神宮に匹敵するスポットがもう一つ!

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