「スタミナうどん・そば」というメニューを見かけたらみなさんもぜひ食べてみてください。きっと「スタミナ」にはもっと多彩なバリエーションがあるはず。私も引き続き調査してみます!
また、「立ち食いそばに来たけどそんなメニュー無かったぞ」という方は、「天ぷらうどん・そば」か「肉うどん・そば」に生卵をトッピングしてください。それが「スタミナ」であることは間違いないです!
大阪の立ち食いうどん屋で「スタミナうどん」というメニューをよく見かける。まあ、「スタミナ」っていうからには、なんか元気が出そうな、食べごたえがありそうな、そういうものなんだろうな、とは思う。
しかし、「スタミナ」という言葉から縁遠い生活を送っている私は、実際「スタミナうどん」がどんなものなのか、あまりはっきりイメージできないことに気づいた。
「スタミナうどん」を食べ歩き、「スタミナ」という言葉の意味を探ってみたい。
忘れられない「スタミナうどん」がある。大学時代、兵庫県出身の友人の実家に泊まりに行かせてもらった時のことだ。もう20年以上も前か。
友人の家に数日間お世話になりつつ、神戸、大阪、京都をめぐった。大学に進学するまでを関西で過ごしてきた友人のアテンドしてくれた先は、いわゆる観光地ではなく、そこに住んできた人だからこそ知るスポットや、生活感のある商店街だったりして、すごく印象的だった。
たとえば神戸・元町の高架下にレコード屋、ビデオ屋、古着屋などがひしめいている光景を眺めたり、大阪・梅田の駅前ビルの迷路のような地下街を歩いたり。どこも謎の活気に溢れており、クラクラするほど刺激的なのだった。
そんな数日の中のある日の朝、友人の実家から近い甲子園口駅という駅のすぐ前にある「ほてい」という立ち食いうどん屋に案内された。「ここのスタミナうどんがめっちゃうまい」と友人が言うので、それを注文して食べた。
ふやふやの天ぷらと玉子が乗ったうどんで、ダシが甘くて、本当に美味しかった。以来、ずっと私はそこで食べた「スタミナうどん」のことを憶えていて、ふとした拍子に「あのうまいの、なんだったんだろう」と思い出したりした。
しかし、以来「スタミナうどん」に縁のない生活を送ってきた。立ち食いうどん屋に入ることはあっても、「わかめうどん」ぐらいのさっぱり感を求めるか、あるいは「カレーうどん」の方向に行ってしまう。自分の中に「スタミナ」という選択肢が無いのだ。
でもメニュー表を見るたびに視界の隅に入ってはいて、グラスにちょっとずつたまった水があふれるっていうたとえのように、それが急に今、気になってきたのである。
まあ、とにかくまずはその「スタミナうどん」を久々に食べてみようではないか。思い出の「ほてい」に行きたかったが、残念ながらすでに閉店してしまっていることを知った。
そこでJR天満駅にやってきた。天神橋筋商店街という長いアーケード街があって、その周りに飲食店がひしめく、私の大好きな町だ。
駅の改札を出てすぐのところに「都そば」という立ち食いそば・うどんのチェーン店がある。関西を中心に約40店舗あるという一大チェーンだ。
外の壁にメニュー写真が並んでいる。
このように、「スタミナうどん・そば」がメニューにあるのがわかる。というか、「ある」どころか、看板メニューらしいのだ。
「当店人気No.1!!超絶のうまさ!!」とまで言っている。ここまで言われているものを、なんで今まで食べてこなかったんだろう。早速店に入り「スタミナうどん下さい」と発声する。
その瞬間、私は気づいた。財布を家に忘れてきたのだ。しかし、もう、目の前のお店の人は私のうどんを茹で始めている。すごい速さだ。「スタミナうどん下さい」と言ってから、まだ5秒ほどしか経ってない。
私は考えた。こういう場合ってどうなるんだろう。「あの、キャンセルで!」と言ったところで、麺は茹でてしまっているのである。何もかも、もう遅いのだ。そうしているうちに隣に別のお客さんが来て、「スタミナそば」と告げ、そのそばまで茹でられてしまっているのである。
頭が真っ白になったのだが、「あ!」と思った。いつもリュックに入れている名刺入れ。
そこに、本当にもうどうしようもないほどに困った時のためのお守りの千円札を入れてあったのを思い出したのだ。
あっぶねえ!いきなり背中にドッと汗をかいてしまったが、冷静な顔を作って「スタミナうどん」の完成を待った。すぐに出てきた。
円形のふやふや天ぷらと玉子、ネギ少々。まさにこれが私のイメージする「スタミナうどん」だ。
ちなみにこれの玉子無しバージョンは「天ぷらうどん・そば」というメニューであり、つまり玉子のあるなしがスタミナかどうかを決めていることになる。というか、玉子こそが「スタミナ」なのか?いや、違う。玉子だけが乗ったうどん・そばなら「月見うどん・そば」なのである。だから、えーと、「天ぷらと玉子が融合した時にスタミナが発生する」、と考えるべきだ。
奇跡の千円札を平然とお店の方に手渡し、お釣りをいただいて「都そば」を出た。そのまま天満のアーケードを歩く。
歩き出すとすぐに「大一そば」という店がある。
「ここはどうだっけ? スタミナあったっけ?」と外のメニューをよく見てみると、端の方に「スタミナ」の文字を発見。
入店し、ここは椅子に座るタイプのお店なので空いた席に座って「スタミナうどん下さい」と今日二度目の発声。
さっきより天ぷらが大きくて、あと、海苔がパラパラとふりかかっている。そこに差異があるが、大まかな構成としては同じだ。
ダシの甘みを強く感じる「スタミナうどん」だ。天ぷらの中からは小さなエビが現れ、得した気分。これで360円、安いな。
会計をして店を出ようとしたら、レジの横にこんなものを見つけた。
私が物色していると、お店の方が「よかったらどうぞ。記念に」と声をかけて下さった。大きなどんぶりとちょっと小さなどんぶり、一つずついただく。
さっきまで、「財布忘れた!」と気を失いかけ、千円札一枚で難を逃れた人間が、スタミナうどんを2杯食べた上に、器までリュックにしまっている。「わらしべ長者」じゃないけど、なんかそれぐらいすごいことに思えた。
2杯の「スタミナうどん」を立て続けに食べ、さすがに満腹だ。リュックの中では「大一そば」でいただいたどんぶりが「ガチャガチャ」と歩くたびに音を立てている。お金ももうないし、一度帰宅することにした。
その後、今度は財布をしっかり持ち、別件で外出した。3時間ほどで用事が済み、私は再び天満へ戻ってきた。「もう一杯いけるんじゃないか?」と思ったのだ。
天神橋筋六丁目付近にある「天六うどん」までやってきた。
この店の看板を見て欲しい。
これが大阪、としか言いようがない。
外のメニューを見るとここにも「スタミナうどん・そば」がある。
入店し、「スタミナうどん下さい!」と今日三度目の発声。一日に三回「スタミナうどん」を食べた人間っているのかな?
ここの「スタミナうどん・そば」は、天ぷら無しだ。かわりに牛すじがゴロゴロと入っていて、玉子はやっぱり落としてある。
美味しかった。しかし、どういうことだ。「スタミナとは天ぷらと玉子が融合した時に生まれるものである」と考えていたのに、天ぷらが消え、かわりに牛スジが現れた。スタミナの定義が崩壊した。
ちなみに今さらだが「スタミナ」を辞書で引くと「体力。精力。また、持久力」とある。そのまま置き替えてみると「体力うどん」「精力うどん」「持久力うどん」となる。お餅が入った「力うどん」っていうのもあるけど、あれも「スタミナうどん」とそう遠くないわけか、ややこしくなってきた。
翌日の昼、私はまたも「スタミナうどん」を食べるために外に出た。なんでそんなに立て続けに食べているかというと、原稿の締め切りまで全然時間がなかったからである。
JR西九条駅にやってきた。駅の改札を出たらすぐ、本当にすぐのところに「麺家」という店がある。
4軒目にして初めて、券売機スタイルの店だ。なので「スタミナ」という言葉を口に出せなくてちょっと寂しい。
ボタンに書かれている通り、ここの「スタミナうどん・そば」は「肉・生卵・わかめ」が入ったものを指すようだ。
「うどんでお願いします!」と、そこだけは声に出し、待っていると厨房内でお店の方が手際よく具材を乗っけてくれる。そして最後に「天かすはお入れしますか?」という。びっくりした。「え!じゃあ、はい!」という感じで慌てた。
向かって左の方にわかめ、右の方に牛肉、上部には玉子。刻んだネギと、ちょっと隠れて見えないがカマボコも一切れ乗っている。そして中央部に天かすたっぷり。これは豪華だ!
560円と、今まで一番高価な一杯ではあるが、スタミナ全員集合というか、文句なしの感がある。
が座った席から、改札を行き来する人たちの姿が見えた。誰も私がここで今こんなにスタミナをつけていようとは思うまい。
食べ終えると、とんでもない満足感に襲われた。もう、「襲われた」という感じなのだ。昨日からずっとスタミナを取り続けてきて、今、どうやら私のパワーゲージは満タンになったようだった。これでしばらくは大丈夫だろう。
「スタミナ」とは、天ぷら+生卵、あるいは肉+生卵のことを指すようだった。いや、未知のスタミナがまだまだあるかもしれない。体力が落ちてきたら、またスタミナを探しに行こう。
「スタミナうどん・そば」というメニューを見かけたらみなさんもぜひ食べてみてください。きっと「スタミナ」にはもっと多彩なバリエーションがあるはず。私も引き続き調査してみます!
また、「立ち食いそばに来たけどそんなメニュー無かったぞ」という方は、「天ぷらうどん・そば」か「肉うどん・そば」に生卵をトッピングしてください。それが「スタミナ」であることは間違いないです!
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