特集 2018年11月21日

取り出せ内臓!サケの解剖グルメ

サケまっぷたつ

今年もサケの遡上に合わせて標津へ向かった。

サーモン科学館館長によるサケの解剖講座を聴いたそばから食ってしまうという「おいしくてためになる」サケの町標津の良さを凝縮した宴がとり行われた。

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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標津番屋に集まる人達

9月とはいえ18時近くになるとあたりは真っ暗になってしまう。北海道の東の端なので当然といえば当然だ。そんな標津町の海沿いにあるキャンプ施設になにやら大人達が参集していた。

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「番屋」とは漁師が泊まり込む小屋の事。
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標津サーモン科学館の市村館長を囲んで、東京海洋大学大学院でサケの研究をしているお二人、標津町役場の商工観光課のみなさん、そして私。

プライベート解剖講座&バーベキュー

昨年、チョウザメに腕をかまれるサケ博士こと市村館長によるサケの解剖講座を受講してものすごく面白かったが、なんせ解剖なのでビジュアル的にエグくて紹介しにくいなあと思っていたら副館長の西尾さんから提案があった。

「食いながらやりましょう」

それが具体的に解決策になるのかよくわからなかったが素敵ではないか、飲み食いしながら生物学。

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準備に余念がない。

こうしてサケの体の構造や機能なんかを学びながらめしを食おうという催しが敢行され、東京都民代表として乗り込んだのである。めざせ、すしざんまいを超える多幸感。

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傍らではバーベキュー部隊が着々と火をくべる。

ビールやおにぎりなどもガンガン運び込まれて、もういいから食っちゃおうかという空気が立ち込めるなか、館長の講義が始まった。

サケは原始的な魚

「まずはサケというより魚の基礎知識なんですが、魚には背ビレ、胸ビレ、腹ビレ、尻ビレ、尾ビレと5つのヒレがあります。中には背ビレや腹ビレがない魚もいますが、それは原始的か、逆に進化している魚です。尻ビレの前には肛門があります」

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背ビレの後ろに1個ヒレあるじゃんと思うかもしれないがちょっと待っててね。

「変わった形の魚でカレイなんかがいますけど、これもちゃんと5つのヒレがあり、尻ビレの前に肛門があります、って今日のはちっちゃいな……」

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スマホみたいですね。

「ヒレを観察する時にひとつ面白い視点があって、ヒレの位置で魚の進化の度合いがおおよそですがわかるんです」

――へー、ヒレの位置で。

「魚は進化にしたがって胸ビレが上のほうに、腹ビレが前のほうにずれていく傾向があります。サケとサバを見比べてみましょう」

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胸ビレに注目、サバのほうがかなり上の位置にある。

――腹ビレもがぜん前にありますね。サバのほうが進化した魚っていうことなんですね。

「はい。サケは原始的な部類の魚です。ただこの法則はあくまで傾向であって、すべての魚にあてはまるわけではありません」

――なるほど、水族館とかでそういう見方をしてみると面白いですね。

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カレイの胸ビレもサケよりかなり上。

ポケモンは変態

「ちなみに進化といえばポケモンが流行っていますがあれは生物学的には進化とはいえません」

――え、なんでですか?

「進化というのは簡単にいうと、何世代にも渡って体の形や機能などが変化することなんです。ポケモンは同じ個体が短時間で姿形を変えていきますが、あれは進化より変態という方がふさわしいですね」

――なるほどー。でもピカチュウがライチュウに変態しましたってのもなあ……。

「ただ注意が必要なのはデジモンってあるでしょ、あれは進化でOKなんです。デジモンは生物じゃなくて機械だから」

――いいですよデジモンまで話広げなくて。

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すこし油断するといろいろぶっこんでくる館長。

「あとサケ科の魚の特徴としてアブラビレというヒレがあります。具体的にどんな役割があるのかは不明でしたが、これがある事によって泳ぐ効率が何%かは向上しているという説もあります」

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背びれと尾びれの間、メスよりオスのほうが大きい。

全身で味を感じる、我々もそうありたい

「人間のように魚にも臭覚や味覚などを感じる感覚器があります。まずは鼻ですが多くの魚の鼻はここにあります」

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うおー、くしゃみ出そう。

「このように前後に2つの穴が開いていて、中でつながっています。泳ぎながらこの穴を通り抜ける水のにおいを嗅いでいます」

「次に味覚です。人間の舌には味を感じる味蕾(みらい)という器官がありますが、魚の口の中にもあります。口以外ではヒゲについている魚もいて、それを使って触角と味覚で獲物を探しているものもいます。また、ナマズなどの中には身体中に味蕾がついているのもいます」

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身体で味覚とは、ハイテンションな仕様だ(ナマズですが)。

――身体中で味を感じる、なんだか艶かしい……。周りの味がわかるんですかね。僕らだったら「原宿あまいな~」とか「新橋にがいなー」とか。

「具体的な感覚は魚に聞いてみないとわからないですがそんな感じかもしれませんね、次はいよいよ体の中を見てみましょう」

内臓ざんまい

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まずは成熟して人工授精が終わった、つまりイクラを取り出したメス。

「内臓はだいたい食べられます。せっかくなので今回はシンプルな味付けでいきましょう」

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解剖だけでなく下ごしらえも。重労働ですいません。
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で、内臓系をバーベキュイング!(要するに焼く)

「まず卵巣です。卵巣は左右2個あります。オスの精巣も2個ありますからこれは人間と同じですね」

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卵が抜けてビロンと膜状になっている。
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オスの場合は精巣。

――精巣というと白子ですね。

「白子も塩コショウで焼いておいしく食べられます。ちなみにこのオスは最近標津が売り出している船上活(かつ)じめのサケです。漁師が穫れたてをしめて血抜きをするので鮮度や色つやもよく、臭みもありません」

――あーそういえばポスターを見ました。

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「だから、うまい」どや顔のサケ写真が最高。
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手前の白いのが活じめの白子、明らかに色つやが良くて見るからにうまそう。
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おお、これは!ふわっとした食感とクリーミーな風味が口の中にやさしく広がっていく!という表情ができないダメライター。

「活じめの白子は臭みが出にくいので生の冷凍刺身(ルイベ)で食べられます」

――前にサケ漁に行ったからなんとなくわかるんですが船上でしめるなんて忙しくてたくさんはできないですよね。

「はい。ぜひ味わってもらいたいと思って冷凍しておいたんですが家に忘れてきました」

――言わなきゃいいじゃないですか。

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イメージでどうぞ。

「肝臓は血抜きをして炒め物や汁物に使えます。ただ、サケの内臓にはアニーがいますね、アニーが」

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肝臓を取り出す。アニーの写真は自粛します。

――ブロードウェイの名作みたいに言わないでください。

「アニサキスは内臓に寄生していますが筋肉にもいることがあります。海にいる天然のサケ科魚類はほぼ感染しているので生食はいけないんですが、マイナス20度以下で24時間以上冷凍されれば死滅します。それがルイベですね」

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ルイベはアイヌ民族が古くから冷凍保存食として用いていた。寄生虫対策としても非常に理にかなった方法だった。

「次は消化器官を取り出します。これが胃袋です」

――体のわりにずいぶん小さいですね……。

「成熟したサケは餌を食べなくなるので胃は小さくなり消化吸収機能も無くなっています。今から3ヶ月くらい前の、まだ餌を取っているサケの胃は私の指2本ほどの太さはあったはずです。オスよりもメスのほうが小さくなります。少しでもたくさんの卵を抱えるためなんでしょうね」

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館長の指が成熟前のサケの胃の太さの目安。かなり細くなってしまう。

――胃袋にひだひだみたいなのがついていますが。

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なんだこのべしゃべしゃしたダスキンみたいなのは。

「幽門垂(ゆうもんすい)といって主に消化用の酵素を分泌したりする器官です。中に苦い液が入っているので中身を出してから炒めたりして食べます」

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魚とは思えないコリコリとした歯ごたえとヒダヒダの食感が独特。センマイっぽいかな?

フォトジェニック輸尿管

「人間に腎臓は2つありますが多くの魚はひとつ、背中のほうにあって背わたとか血合いと呼ばれているところです」

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腎臓と言われてもピンと来ない見た目である。

「腎臓はご存知のとおりおしっこを作る器官です。中に通る白い筋を輸尿管といって、腎臓でできた尿はここを通って肛門の近くから排出されます」

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中央に二筋の輸尿管が見える。館長いわく「もっといい輸尿管は細い支流のようなものがたくさん見えてきます」

「……。」

――どうしました?

「そういえばうち(科学館)に輸尿管のいい写真なかったな、西尾さん、撮影しておこうか」

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輸尿管を囲むおっさん達。

「腎臓を塩辛にしたのが“めふん”という珍味です」

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現場では作れないので標津の料亭「武田」の料理で。

心臓は小さいのにパワフル

「はやくビールが飲みたいので内蔵ラストいきましょう。いよいよ心臓です」

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胸ビレの付け根あたりにある。

――思いのほかコンパクトで作りもシンプルですね。

「はい、人間の心臓は2心房2心室ですが魚は1心房1心室です。静脈血は心房から心室を通り、エラでガス交換をして全身に運ばれます。ずっと動いている筋肉なので硬くて力強いです。この辺りでは串刺しにして焼いて食べます」

――心臓っていう事は1匹から1個しか取れないわけですよね、かなり貴重な部位なのでは?

「北海道の外にがんがん流通するわけではないのでシーズンになればわりと簡単に手に入ります」

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北海道の資源量を見せつけるようにどーんと焼く。白いこぶは動脈球といって流れた血液が逆流しないためのもの。
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さっぱりしとして上質なハツだこりゃ。

「エラを見てみましょう。赤いところがガス交換をするところです。内側にあるトゲトゲは何かというと鰓耙(さいは)といって食べ物をこし取るところです」

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ギーガー!赤い部分がエラ。

「泳いでいる時に口から入った水はエラから抜けて行きます。その時にこの鰓耙(さいは)に引っ掛けて餌を取るわけです」

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サケから切り出す前の状態を鬼HDRで。口の奥に鰓耙(さいは)が見える。

「この間隔だと微細なプランクトンなどは通り抜けてしまいますから食べることができませんね。つまり鰓耙の細かさで食べるエサの大きさがおおよそわかるんです」

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カタクチイワシの鰓耙は細く長く数が多い。「まつげエクステみたいでしょう」そんな血みどろのエクステはいやだ。

サケが白身に戻る時

いよいよサケの主食部分を見てみよう。

「サケは赤身の魚と思われがちですが、れっきとした白身魚です。身が赤いのはエサにふくまれるアスタキサンチンという色素による、というのはもう結構有名ですが、実際に切り身を見るとよくわかります。ではいきましょう、まっぷたつ切り」

――え?何が始まるんですか?

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ざん!
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バラリ(実際はかなりごきごきやってやっと切れます)

「サケの身を赤くしているアスタキサンチンは成熟と共に体表や卵に移動したり代謝に使われたりして筋肉から失われていきます。なので川に遡上している成熟したサケは見た目も白身になります」

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上が成熟前、下が成熟後。並べると一目瞭然。

「これも食べ比べてみましょう」

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塩を振るだけのシンプルな味付けで網焼き。
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こちらが成熟前。

我々がよく食べる塩鮭より塩辛さは薄いがしっかりしたサケ本来の肉の風味と脂ののりを感じられる。対して成熟後の(ブナと呼ばれる)方はどうだろう。

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見た目はサケとは思えない。

こちらはやや臭みがあるのとなんというかパサパサして、やはりエネルギー感がない。正直、無理して食べんでもという感じだ。

「脂の含有量は成熟後が約1%で成熟前の赤い方でも5%ほどと思いのほか差がないんですが成熟後のほうは水分量が多くなるのでパサパサ感が強調されるのでしょう。生での焼き魚ではなく、干したり塩蔵したりするのが多いです」

他の鉄板では半身のサケがオフィーリアのように寝かされていた。北海道の代表的な郷土料理、ちゃんちゃん焼きである。

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脳内に葬送曲が流れる。
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身を崩し、野菜、味噌ダレとぐしゃぐしゃに混ぜていただく。うまくないわけがない。

「サケの頭の部分は煮込みにすればほぼ全て食べられます」

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塩焼きやちゃんちゃん焼でもだいぶ食べられるが煮込みならこれ丸ごと食べられる。

「この煮込みを食べる時に私はよく学生に耳石(じせき)を探させます。耳石とは我々でいうところの耳で聴覚や平衡感覚を司る器官です」

――かなり小さいですね。

「はい、ですがここには魚の成長と共に木の年輪のような細かい線(日輪)が刻まれていきます。含有されたストロンチウムの濃度で海に行ったタイミングが推測できたり、年齢がわかったりと、ここで得られる情報はかなり多いんです」

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わずか5~6mmしかないがマイクロSDカードのごとく多彩な情報が刻まれている。

「捨てるところのない魚」と言われているサケはほんとうに捨てるところがなかった。

「サケの器官は我々人間とは形状や機能が随分異なっていますがなんとなく我々はここから進化してきたんだなという事が感じていただけたかなと思います。ただこれだけ長い間関わってきてもまだまだサケはわからない事だらけです。まあ、ビールを飲みましょう」

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サッポロクラシックで乾杯。みなさんありがとうございました。

まとめ

講座に参加していた羅臼町出身の商工観光課の朝倉さんは「標津の人は同じ北海道に住む人から見ても特にサケを大事に、その全てをいただいている印象があります」と言う。

9月には町内の各家庭にサケが1匹無料配布されるサケの町、標津を訪れた際には静かな街並みに垣間見えるハイテンションなサケ愛を堪能してほしい。

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ハイテンションすぎると思ったいくらソフトクリーム。

取材協力:標津サーモン科学館
北海道標津郡標津町北1条西6丁目1番1ー1号
※12月~1月は冬期閉館
TEL 0153-82-1141
http://www.s-salmon.com
展示やイベントの情報はブログをチェック
http://shibetsusalmon.blogspot.jp/

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