特集 2023年9月11日

プールでグルグル回り続ける「あのタイマー」を作った会社

この夏、子どもとプールに行ったら、プールサイドでグルグル回っているタイマーがあった。

そういえばあのタイマーって昔からある。見た目もだいたい同じだ。いったいどこの会社が作っているんだろう。

直接お話を聞いてきました。

1975年宮城県生まれ。元SEでフリーライターというインドア経歴だが、人前でしゃべる場面で緊張しない生態を持つ。主な賞罰はケータイ大喜利レジェンド。路線図が好き。(動画インタビュー)

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名称は「スポーツタイマー」

お話を伺ったのは、「あのタイマー」を作り続けて40年以上になるというツカサドルフィン株式会社。

取材を申し込むと、ちょうどスポーツ関連の展示会に出展されているということで、東京ビッグサイトにやってきた。

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東京ビッグサイト。何度見ても「変形して都を守りそう」と思う。
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ツカサドルフィン株式会社の橋本さん(左)と中川さん(右)。コロナ禍を経て「大きな展示会は数年ぶり」とのこと。

お二人の目の前にあるのが「あのタイマー」である。正確には「スポーツタイマー」という。

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これだ!「あのタイマー」!

文字盤の大きさは90cm×90cm。スタンドを含めると高さは約120cmで、間近で見ると結構大きい。

プールサイドでグルグル回り続けている姿を初めて見たときは「なんだこれ」と思ったものだった。時計じゃないし、タイムを計るにしては全然止まらないし。

でも、そういう使い方がされているのは理由がある。

橋本さん スポーツタイマーは、泳者が泳ぎながら自分でタイムを把握したり、コーチが「針が30秒のところに来たらスタートだよ」と決めて練習したりするのに使われます。アナログのほうが、パッと見て時間経過を把握しやすいので。

選手によっては、ストップウォッチでしっかりタイムを計る場面もあるだろう。でも、広いプールの中では、いろんな人がいろんな練習をしている。

タイマーをノンストップでグルグル回しておいたほうが、それぞれが「自分の練習」に使えるわけだ。

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「白地に赤と青のデザインは発売ずっと変わってないですね。針の長さや文字の位置は微妙に変わっているんですけど」(橋本さん)

そんなスポーツタイマー、実は20種類以上もバリエーションがある。

針の数によって「1針計」と「2針計」があるし、スタンドタイプや壁掛けタイプもあるし、スタンドタイプにもアルミ製やステンレス製がある。ニーズによって細かくグレードが分かれているのだ。

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​​​​ラインナップのほんの一部。アルミスタンドは高さ調節が可能。
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サッカー用の45分タイプもある!(画像提供:ツカサドルフィン株式会社) ​​​

ちなみに展示会で展示されていたのは、昨年新しく発売された「充電式スポーツタイマー」。

それまでのスポーツタイマーは、コンセントから電力を得ていた。でもそれだと置く場所が限られるし、コードにつまずいて転んだら危ない。そこでバッテリー内蔵式のものを開発したそう。

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背面に設置されたメカボックスに、充電式バッテリーが内蔵されている。箱から上に飛び出た黒い棒はリモコン用のアンテナ。
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こちらがスポーツタイマー用のリモコン。「スタート」「ストップ」「リセット」の3つの動作が可能。


リセットボタンを押すと針が0時の位置に勝手に戻る!

2針計だと分まで計れるので、フィットネスクラブによっては時計代わりに使っているところもあるという。ただ、もちろん本当の時計ではないので……。

橋本さん たまにお客様から「時間が狂う」とご意見をいただくんですが、うちのタイマーはそこまで精度を求められるものではなく……。1日に1秒や2秒狂うのは許していただきたいですね(笑)

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「これなら作れるな」で起死回生

“スポーツタイマーの老舗“といった佇まいのツカサドルフィンだが、実は会社が設立されたのは2019年のこと。

それまでは「ツカサ電工株式会社」という会社の一部門だった(のちに分社化)

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ツカサ電工株式会社のホームページ。主力事業はモーターとポンプ。

ツカサ電工が創業したのは昭和43年(1968年)。東京の中野に、小型モーターを扱う会社として誕生した。しかし最初はなかなか売れなかったという。

モーターが売れないのは困る。困るけどそれはそれとして、創業社長(現会長)はプールに通っていた。趣味が水泳だったから。

そんなある日。

中川さん 大学の水泳コーチから、アメリカ製の水泳用タイマーの修理を頼まれたそうなんです。それを直したあと「これなら作れるな」と思ったみたいで。

なんせモーターの会社である。針をグルグル回すぐらいお手のもの。当時はまだスポーツタイマーが日本に浸透しておらず、ライバルもいない。

さっそく作って販売してみると、これが徐々に売れはじめた。

橋本さん タイマーをきっかけに会社が盛り返していったんです。営業するにもモノがないと話にならないからと、会長はこれを担いで新幹線にも乗ったそうですよ。

90cm×90cmのタイマーを持って新幹線に乗るの大変だ。3列横並びの座席を全部使いそう。

そうこうしているうちに時代も味方した。1970年代に入り、自動販売機やコピー機などが小型化しはじめる。小型モーターの出番がめちゃくちゃ増えていった。

今ではATMや券売機、医療機器、UFOキャッチャーなどなど、幅広い場面でツカサ電工のモーターが採用されているという。高校生の「ロボコン」にもよく使われているとのこと。

ちなみに、モーターの技術を活かしてこんなものも作った。

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水着の脱水機……! そりゃモーターの出番ですよね。

「モーターを売るためもっと働かねば……」と、会長が水泳をやめていたらと思うとゾッとする展開である。

仕事が大変でもやっぱり趣味は大事。人生なにが起きるか分からない。

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