霞ケ浦の貝拾いとその試食、まだまだ身近なところにも知らないことはたくさんあるなと、うれしくなった体験だった。
やっぱり真珠ができる貝とはいえ、野生化したものを一つ開いたくらいじゃ絶対に見つからないよなーなんて思っていたら、後日行った人が2ミリほどの真珠を引き当てたそうだ。 すげえ。

茨城県にあるでっかい湖、霞ケ浦の近くに住む友人のⅠさんから、淡水真珠を養殖するための貝が、霞ケ浦水系の各地で野生化しているという話を聞いた。
その貝はとても大きく、天然真珠が入っている可能性が僅かにあり、しかも食べると美味しいのだとか。そうなんだ、国内で淡水真珠を養殖していることすら知らなかったよ。ありがたいことに貝の捕れる場所を案内してくれるというので、ご厚意に甘えさせてもらうことにした。
今回狙う貝はイケチョウガイ(池蝶貝)。その名前の通り、池(淡水)に住む蝶みたいな貝ということのようだ。
圧倒的なシェアで全国一位の生産量を誇る、霞ケ浦での淡水真珠養殖。その歴史は古く、明治末頃からカラスガイを使った養殖の挑戦は始まり、1930年代になって琵琶湖および淀川水系の固有種だったイケチョウガイを移入することで事業化に成功。
その養殖場からこぼれてイケチョウガイは野生化したが、環境の悪化などで養殖も野生も急激に減少。その対策として1988年に中国から同属の別種であるヒレイケチョウガイが養殖場に導入された。
そのため、現在の霞ケ浦水系に自生するイケチョウガイの仲間は、琵琶湖からやってきた国内移入種の生き残りか、中国からやってきた外来種か、その交雑種となるらしい。
以上、Ⅰさんの話やネットで調べたことをまとめてみた。ややこしいのでここではイケチョウガイ狙いとする。
案内人であるⅠさんによると、イケチョウガイは霞ケ浦水系の至る所に散らばっていて(稚貝はヨシノボリなどの魚に寄生して移動するとか)、その生息しているポイントさえ知っていれば、捕るのはものすごく簡単とのこと。
狙うべき場所は、水中に石や杭などがあり、貝が溜まりやすいところらしいが、素人目にはまったくわからない。
Ⅰさんが網を手に向かったのは、何の変哲もないコンクリートで護岸された川っぺりだった。濁っていてよくわからないが、網が届く範囲にちょうど良い障害物が点在していて、そこに貝が溜まるそうだ。
貝の捕り方は至って単純。手を伸ばして網を川底に沿って這わせ、持ち上げるだけ。そこに貝が存在すれば、ゴロンと網に入るのだ。
半信半疑という訳ではなく、100%信じているけれどやっぱり信じられないということがあるだろう。今がまさにそれである。
この小学生がザリガニを捕まえるような方法で、真珠が入っているかもしれない宝箱が本当に拾えるのだろうか。
こんなことをやっても捕れるのは空き缶くらいじゃないのと疑っていたら、本当に捕れた。
空き缶が……
しばらくザブザブやっていると、同行者たちから悲鳴に近い歓声が聞こえてきた。どうやら目的の貝が捕れたらしい。
本当かよと近づいてみると、想像していたよりも全然大きな貝が拾われていた。大きいと単純におもしろい。
貝殻の蝶番部分がヒレみたいに伸びているので、中国原産のヒレイケチョウガイか、その交雑種なのだろう。
すごい、本当にイケチョウガイが網で拾えている。くじ引きみたいでおもしろいぞ。
魚と違って大人になった貝の移動範囲はとても狭く、一度捕ってしまうと回復には何年か掛かると思われるので、イケチョウガイを持ち帰るのは1人1個までと自主規制。小さいのは戻して貯金ならぬ貯貝をする。銀行の金利よりは高利回りかも。
そして貝に真珠が入っていたら大吉だ。そろそろ私もそのおみくじを引かせてくださいよと願ったら、川底を這う網が何かをすくった感触が伝わってきた!
さっそくⅠさんに確認すると、ヌマガイと呼んでいる別種とのこと。カラスガイかドブガイかも。残念ながらイケチョウガイほど美味しくないとか。この後、私だけ連続して4つこの貝を拾った。なんでだよ。
すでにノルマを達成して暇にしている同行者たちが、そろそろ帰ろうと言い出す前に私も本命を捕らなくては。ちなみにこの日は最高気温35度の酷暑日だ。
ええい、次こそはと必ずと信じて入れた網が重い。うおー、20センチオーバーの大物きた!ヒレがある!
どうにか炎天下なのに帰れない連帯責任の原因みたいな状況から無事脱出。達成感&解放感。
生きたまま持ち帰らせていただき、真珠の有無とその味を確認してみよう。
持ち帰ったのは、イケチョウガイ(かヒレイケチョウガイか交雑種)とヌマガイ(とⅠさんが呼ぶ貝)。朝晩水を変えて3日間泥抜きをした。
タワシでゴシゴシと洗ったのが以下である。大きさを測ったらイケチョウガイは22センチもあった。
イケチョウガイは真珠が入っているかもしれない貝だけあって、その真っ黒な貝殻は古くなった塗装のように一部が剥がれ、鮮やかなパール色をした内部が見えている。かっこいい。
ええと、ちょっと落ち着こう。
真珠が入っているか、そして私が運を持っている人なのかの答えを確認する前に、ヌマガイで貝を開く練習をしようか。
二枚貝は火を通せば簡単に開くが、それをしちゃうと貝殻の輝きが損なわれるので、生きたまま貝を剥く専用のナイフで開けていく。
なにも期待していなかったのだが、開けてみた驚いた。
ヌマガイの貝殻も内側は鮮やかな真珠層だったのだ。そして身が大きい。
ヌマガイの身を茹でて食べてみたところ、歯ごたえはなかなかの筋肉質でちょっと固く、やっぱり沼の味がするかな。ハズレのホンビノスくらいの泥臭さだ。
というのが第一印象だった。
ただ醤油で味をつければ気にならない程度の沼味(ぬまみ:造語)であり、その奥には貝らしい旨味がしっかりある。
最初はおっかなびっくりだったこともあり、その味が舌に馴染まなかったが、一口食べ進めるごとに淡水食文化が己に刻まれていく。そして食べ終える頃には、霞ケ浦の苔とか藻の香りが個性の一つに思えてきた。
私が感じる、味の、いや美味の許容範囲が広がった瞬間だ。ソムリエだったらどんなワインと合わせるだろうか。
続いては本命のイケチョウガイ。天然物の真珠が入っている可能性はものすごい低いだろうけれど、それでもゼロではないはずだ。
ヌマガイで練習したように、貝剥きでぐるっと一周開いていく。なんだか本当に宝箱を開けている気分だ。
さて問題はヒレの部分である。ここが上下癒着して開くための隙間がないのだ。
さらに何かが中で引っかかって、貝剥きがヒレの手前から奥に入ってくれない。どうなってんだろ。
開かないものは仕方がないので、ヒレ以外の部分にしっかりと貝剥きの刃を入れて、ちょっと強引に開いてしまおう。
貝剥きが入らなかったヒレの内側部分を見て驚いた。
謎のレールみたいない突起があったのだ。これが貝剥きの侵入を防いでいたのだ。
どうにかして貝を開ききると、そこには巨大な身が入っていた。
写真だと伝わりにくいが、私の手のひらよりも大きいのだ。すごい、すごい、すごい。情報量が多すぎて、どこに驚いていいのか混乱する。
そして肝心の真珠だが、残念ながら入っていなかった。まあそうだよね。
その代わりあったのが、謎のレールと、もう少し頑張れば真珠になったかもと思わせる真珠層のでっぱりだった。
身を取り出してパカパカやって気が付いたのだが、このレールは貝殻を重ねた時にちょうど重なる設計のようだ。
なぜわざわざこうなったのかがまったくわからないが、このレールは通常の貝なら外周部分にあり、その先にヒレが伸びているようだ。
貝殻を開いた姿はまさに蝶で、イケチョウガイ(池蝶貝)という名前に納得だ。
残念ながら天然の淡水真珠をゲットとはならなかったが、貝殻からだけでも様々な発見があり、そして十二分に美しかった。
貴金属全般に疎いのだが、今なら真珠の価値というか、ありがたみががちょっとわかるかも。
イケチョウガイの味だが、Ⅰさんによると大味のハマグリということだが、どんなものだろう。
お皿に入れると、なんだかダチョウの卵を割ったような興奮が味わえる。でかいってすごいな。
これだけ大きいと丸ごと食べるのはちょっと不安なので、内臓のフニャフニャした部分は洗い流して、軽く茹でてからバター焼きにしてみた。
ヌマガイを調理した経験上、淡水貝は茹でるだけだと塩分がまったく足りないこともあり、ひと工夫した方が美味しいだろうという判断だ。
焼きたてのイケチョウガイを食べてみると、これが超うまかった。Ⅰさんがヌマガイよりも上だというのがよくわかる。
内臓回りのフニフニした部分は柔らかく煮込んだモツのようだが癖がない。足部分はすごく固いけれど、だからこそうまさが持続する。噛めば噛むほどというやつだ。
遠くの方からバターの海を突破して霞ケ浦の香りが漂ってくるけれど、そこで酒を流し込むわけですよ。ほら最高だ。
なんというか、全体的に濃い。ものすごくパワーのある味。バターじゃなくてオリーブオイルでもよかったか。
食べていて鳥肌が立つパンチ力で、この量を2回の食事に分けて食べることになった。
霞ケ浦水系一帯にいるとはいえ、網でサクッと捕れる場所は限られているだろうから、気軽に食べられる食材ではないけれど、機会があればまた採ってみたい。そしていつか真珠を見つけてみたい。
霞ケ浦の真珠養殖場で剥かれたイケチョウガイの身はどうしているのだろう。コストや流通、食材としての認知度などの問題があるんだろうけれど、近くのレストランなどで食べられたらおもしろそうだ。
霞ケ浦の貝拾いとその試食、まだまだ身近なところにも知らないことはたくさんあるなと、うれしくなった体験だった。
やっぱり真珠ができる貝とはいえ、野生化したものを一つ開いたくらいじゃ絶対に見つからないよなーなんて思っていたら、後日行った人が2ミリほどの真珠を引き当てたそうだ。 すげえ。
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