特集 2018年8月7日

自動車7000台を運ぶ船が完全に立体駐車場

立体駐車場に見えますか。こちら船の中です
立体駐車場に見えますか。こちら船の中です
横浜に自動車を約7000台運べる船がやってきた。

自動車を輸出入するための「自動車専用船」である。やれ関税が、みたいなニュースのなかで、デカい船に車が続々と入っていく映像を見たことがあるだろう。あれだ。

そんな船、一般人はめったに入れないのだが、抽選で当たった1000名様を船内見学会に無料招待するという。

その1000名に家族4人で当選した。
1975年宮城県生まれ。元SEでフリーライターというインドア経歴だが、人前でしゃべる場面で緊張しない生態を持つ。主な賞罰はケータイ大喜利レジェンド。路線図が好き。

前の記事:お菓子は地元の2番手で、空き缶目当てにヨックモック ~出張みやげのこだわり

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幻みたいな船がいる

見学会は「海洋都市横浜うみ博2018」のイベントの一環として行われた。場所は横浜港大さん橋国際客船ターミナル。

ちょっと早めに着いたので、近くの山下公園にきた。そりゃもう暑いので、アイスのひとつも買いにきたのだ。
ご存じ山下公園。左に氷川丸。右にマリンタワー。太陽光を遮る物がないので人が全然いません。
ご存じ山下公園。左に氷川丸。右にマリンタワー。太陽光を遮る物がないので人が全然いません。
山下公園のローソン、からあげクンがKARAGEになっていた。なんでも暑さのせいにしてしまおう。
山下公園のローソン、からあげクンがKARAGEになっていた。なんでも暑さのせいにしてしまおう。
山下公園からは、今回の「うみ博」の会場である大さん橋が見える。ローソンでアイスを買って、外に出たときの光景がこれだ。
これが今回見学する自動車専用船「PISCES LEADER」である。デカい。どれくらいデカいかというと……
これが今回見学する自動車専用船「PISCES LEADER」である。デカい。どれくらいデカいかというと……
このドット2つ分みたいなのが人だ。
このドット2つ分みたいなのが人だ。
カメラを引いてみると、手前にある建物(大さん橋ふ頭ビル)と、どっこいどっこいの大きさ。あれこれ建物かな?と思う。
カメラを引いてみると、手前にある建物(大さん橋ふ頭ビル)と、どっこいどっこいの大きさ。あれこれ建物かな?と思う。
スペックは長さ199.98m、幅35.80m、高さ54.46mである。どうだ、数字で書いてもピンとこないだろう。体感的には海の上にマンションが1棟建った感じだ。

しかし暑い。もうこの時点で「デケぇ」と「暑い」しか言ってない。なんなら目の前に見えるアレは幻かもしれない。蜃気楼と書いてミラージュと読むかもしれない。
大さん橋に近づいてみる(実在しました)
大さん橋に近づいてみる(実在しました)
近づきすぎるとカメラに入らない。首が痛い。ちなみに「PISCES」とはラテン語で「うお座」を意味するとのこと。
近づきすぎるとカメラに入らない。首が痛い。ちなみに「PISCES」とはラテン語で「うお座」を意味するとのこと。
大さん橋国際客船ターミナルの中から。普段は窓の外に横浜港が見えるのだけど、視界が船で埋まっている。
大さん橋国際客船ターミナルの中から。普段は窓の外に横浜港が見えるのだけど、視界が船で埋まっている。
一般公開の受付は船体の後部にあった。このアングルから見ると完全に倉庫。
一般公開の受付は船体の後部にあった。このアングルから見ると完全に倉庫。
このフォルム、芝浦とかの倉庫街にあっても全く違和感ない。「船」と呼ぶにはあまりにも四角いのだ。側面に窓が全くないのも倉庫っぽい。

これが海を渡るのである。次の日になったらここから消えているかもしれない。大掛かりなトリックみたいだ。探偵もまさかこれが船だとは思うまい。

さて、受付を済ませていざ内部へ。積み込まれる自動車と同様に、自力でスロープを渡って船内に入る。
受付でうちわと「ヒヤロン」を1人1セットもらった。熱中症対策。
受付でうちわと「ヒヤロン」を1人1セットもらった。熱中症対策。
口を開けたクジラに飲み込まれるような迫力がある
口を開けたクジラに飲み込まれるような迫力がある

見た目は「立体駐車場」

中に入りました。広すぎて奥が全然見えない。
中に入りました。広すぎて奥が全然見えない。
受付では家族全員分の入館パス(名前入り)を渡され、入場と退場はパスに記載されたバーコードをスキャンしていた。

厳重な管理なのは無理もない。こっそり船内に隠れたら、そのまま海外まで行ってしまうもの。トムとジェリーでそんな回があったし。

さて、自動車約7000台を運べる船の中がどうなっているかというと、これはもうほとんど「立体駐車場」である。
ビルの地下駐車場に入るとこみたいでしょう。船です。
ビルの地下駐車場に入るとこみたいでしょう。船です。
どこかに「満」とか「空」のランプがありそう。
どこかに「満」とか「空」のランプがありそう。
聞けば、この「PISCES LEADER」は12階建て。さっき入ってきたのは5階部分。ちなみに1階から3階は海面より下にある。見た目以上にキャパがあるのだ。

この立体駐車場、車だけでなく、鉄道やヘリコプターなど、あらゆる乗り物を積み込めるため、高さに合わせて一部の天井が動くようになっている。
この黄色い部分が上下に動かせる。天井を動かすには特殊車両(リフタブルカー)を使う。
この黄色い部分が上下に動かせる。天井を動かすには特殊車両(リフタブルカー)を使う。
このスロープも可変式。右半分のスロープの角度を変えることができる。車両を積み込む場所によって調整するそう。
このスロープも可変式。右半分のスロープの角度を変えることができる。車両を積み込む場所によって調整するそう。
そうそう、先ほどから床に水玉模様が広がってるでしょう。これ全部、床に穴が空いてるんですよ。
エアホッケーの台の表面ってこんな感じですよね。
エアホッケーの台の表面ってこんな感じですよね。
これは、積み荷を固定する「ラッシング」のための穴。

船が揺れても積み荷同士がぶつからないように、先端にフックがついたベルトで固定するのだ。こんな感じで使う。
ベルトとフックで車両をがっちりと固定
ベルトとフックで車両をがっちりと固定
体験コーナーもあった
体験コーナーもあった
他にも救命ボートに入れるコーナーもあるし、
他にも救命ボートに入れるコーナーもあるし、
説明のパネルもいっぱいある
説明のパネルもいっぱいある
このイベント、見学&体験コーナーが豊富なうえに、日本郵船のスタッフの方がそこかしこに立っていて、めちゃくちゃフレンドリー。質問すると気さくに答えてくれる。子供たちも嬉嬉として救命ボートに乗り込んでいた。抽選に当たって本当によかった。

そんなホスピタリティ万全のイベントで、さらにスゴさを畳みかけるのが「荷役(にやく)」の見学コーナーだ。
はじまりまーす
はじまりまーす
「荷役」とは、車両の積み降ろし作業のこと。

自動車専用船で運ぶ車両は、1台1台人が運転して積み降ろしをする。限られた船内のスペースにできるだけ多くの車を運ぶため、ギチギチに詰めて駐車するのだ。

そのプロの駐車テクニックを生で見せてくれるという。

プロの駐車テクニックに腰を抜かす

荷役はチームで行われる。実際に車両を運転するドライバーや、誘導役など約20名で編成されるそう。さぁ向こうからドライバーが運転する車がやってきた。
車がバックで入ってくる。手前の誘導役がホイッスルを吹き、指で左右の微調整を指示する
車がバックで入ってくる。手前の誘導役がホイッスルを吹き、指で左右の微調整を指示する
ためらうことなく進入し……
ためらうことなく進入し……
はい完了。
はい完了。
嘘でしょ。
嘘でしょ。
車と車の間隔は10cm。拳1個分のギリギリまで近づけるため、サイドミラーは終始畳んだまま!

車を運転する人には信じられない光景だと思う。車庫入れなんて絶対サイドミラーで確認するもの。なんなら何度も出たり入ったりして調整するもの。(小心者だから)

さらに、実際はこれから輸出する車を運転するわけなので、オール新車である。そんなプレッシャー耐えられない。「体験会」じゃなくてよかった。

さらに、みっちり駐車するパフォーマンスが続く。
はい、今度は左バックでーす。
はい、今度は左バックでーす。
誘導役の人が吹く「ピッ」というホイッスルを聞いて微調整はするが、切り返すことなくスーッと入っていく。
誘導役の人が吹く「ピッ」というホイッスルを聞いて微調整はするが、切り返すことなくスーッと入っていく。
そのまますっぽり収まった。迷いがない……
そのまますっぽり収まった。迷いがない……
さらに手前に車を詰めていく。前後の間隔は30cm。
さらに手前に車を詰めていく。前後の間隔は30cm。
ただギチギチに詰めるだけでなく、ドライバーがドアを開けて出られるように、入れる順番も考えないといけない。まさにリアル「駐車場パズル」である。

プロが運転する車に乗ることに

見学コースはまだまだある。船のエンジン部分、機関室にもご案内いただけた。ヘルメットを着用し、船内のエレベーターで下っていく。
ヘルメット姿には定評があります。
ヘルメット姿には定評があります。
機関室では現役の機関士の方が説明してくれる。「普段、自分たちは裏方なので、今日はバンバン写真を撮ってSNSでいっぱい広めてください!」って言ってました(みなさんも記事のシェアをよろしくお願いします!)
機関室では現役の機関士の方が説明してくれる。「普段、自分たちは裏方なので、今日はバンバン写真を撮ってSNSでいっぱい広めてください!」って言ってました(みなさんも記事のシェアをよろしくお願いします!)
エンジンルームにも入れてくれる大盤振る舞い。エンジンは3階建ての高さがあり、今見えているのが3階部分だけ。下に残りの部分がもっとある。スケールがデカすぎて麻痺してきた。
エンジンルームにも入れてくれる大盤振る舞い。エンジンは3階建ての高さがあり、今見えているのが3階部分だけ。下に残りの部分がもっとある。スケールがデカすぎて麻痺してきた。
逃げた悪者を追い詰めるとこんな雰囲気のところに出るだろう。足音で「あっちだ!」とか見つけたりするけど、実際はエンジンの音が絶えず轟いていて、近くの人の声も全然聞こえない。体でエンジンを感じる。

機関室をあとにして、最後は運転室だ。運転室は船の最上階にある。これから12階まで登るのか……と思ったら、交通手段があった。「車」だ。
なんとドライバーの方が送り届けてくれる
なんとドライバーの方が送り届けてくれる
船内を車でピストン輸送しているのだ。事前に配られたガイドには「船内をドライブし、船橋(せんきょう)に向かいます」とある。

ドライブできるほど広いんだ。やっぱりこの船はデッカいなぁ~と気楽に乗り込んだ……のだが。
はい出発しまーす
はい出発しまーす
ギュギュギュギュギュギュギュ!!!!!
ギュギュギュギュギュギュギュ!!!!!
グォォォォォォォォォォォン!!!!!!
グォォォォォォォォォォォン!!!!!!
めちゃくちゃ速い……!

運転するのはこちらで働くプロのドライバーさんである。勝手知ったる自動車専用船。迅速な積み降ろしのため、狭い船内を猛スピードで駆け抜けるなど朝飯前なのだ。
帰りも送ってもらえましグォォォォォォォォォォォン!!!!!
帰りも送ってもらえましグォォォォォォォォォォォン!!!!!
遊園地の絶叫マシーンは平気なのだけど、車の場合は「こんな狭いコースをあのスピードで……!」と、自分も運転するだけにその驚異のテクニックがわかる。畏怖の念である。

到着まで違う温度の汗を握りしめていたが、子供たちは「ジェットコースターだ~!」と大はしゃぎ。これもプロのサービスのひとつなのだった

「長さ199.98m」には理由がある

というわけで最上階です。再び太陽の下に。正面の遠くに見えるのが運転室。
というわけで最上階です。再び太陽の下に。正面の遠くに見えるのが運転室。
右奥をごらんください。ベイブリッジです。
右奥をごらんください。ベイブリッジです。
最上階には屋根がついた機械が一列に並び、エンジン同様にブォォォォと轟音を響かせている。

スタッフの方に聞くと、これは「ベンチレーター」という換気設備とのこと。車を大量に積み込むため、その排気ガスが船内に充満しないよう、大型の換気設備が必要なのだそう。そういうのも考えないといけないのか。
運転室(船橋)のなかも大盛況
運転室(船橋)のなかも大盛況
触っていいの!? というくらいオープンである。
触っていいの!? というくらいオープンである。
この角度からみなとみらいを一望できるなんてまず無い
この角度からみなとみらいを一望できるなんてまず無い
「ここから船の先っちょまで22メートル。残りが177.98メートル」の表示
「ここから船の先っちょまで22メートル。残りが177.98メートル」の表示
「PISCES LEADER」の全長は199.98m。もうちょっといけば200mである。ちょっと頑張ったら200の大台にいけたんじゃないか。

なんてことを思いながらプレートを見ていたら、スタッフの方が「これはわざと200ギリギリにしてあるんです」と教えてくれた。

船の全長が200mを越えると、夜間の航行が制限されるなど、いろいろ面倒なことになるらしい。それに引っかからず、なおかつギリギリまで大きく、という結果が199.98mなのだった。
「おれ200mないんですよねー」
「おれ200mないんですよねー」
台詞をつけると、なんだかかわいい奴に見えてくるから不思議である。

充実にもほどがある内容だった

自動車専用船のあれこれを余すところなく知り、プロの技にも触れることができた。充実にもほどがある内容である。無料でいいのか及び腰になる。

心残りなのは、運転室で船長の服を着て写真を撮れるコーナーがあったこと。この日の夕方、小6娘が地元のお祭りに友達と行くため、大急ぎで帰ったのだった。お父さんはもうちょっとはしゃぎたかった、とは恥ずかしくて言えない。
「デッキビリヤード」という遊びらしい。楽しそう
「デッキビリヤード」という遊びらしい。楽しそう
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