自然のサイクル、お見事!
私は飲食店をやっているのだが、毎年「自然のサイクルって凄いな~」と感心することがある。
例年、桜が咲いてからGWくらいまでは、物凄く忙しい日が続く。しかし繁忙期が過ぎ梅雨に入ってやや時間に余裕ができると、今度は手間暇かかる梅やラッキョウや実山椒の仕込みが始まるのだ。
そして、それらが良い塩梅に漬かる頃には、ちょうど身体がこういうサッパリしたものを欲している。本当に良く出来たサイクルだ。
手間暇かかるだけに勿体ない、アイツ…
子供の頃から「甘酸っぱい」が苦手だった私は、ラッキョウをずっと避けていた。
しかし、大学生の時に鹿児島の友人が食べさせてくれた地元の塩ラッキョウには驚いた。ラッキョウと言えば甘酢漬けしか知らなかった私の固定概念は崩れ、あまりの美味しさに次から次へと口に放り込んでしまった。その体験があまりにも強烈だったので、毎年自分で漬けるのも塩ラッキョウだ。
しかし、大量に漬けた塩ラッキョウを食べ切って漬け汁を捨てる時、いつも胸が痛む。
塩ラッキョウの残り汁は、いわば「塩分濃度10%くらいの塩水」なので再利用するほどでもない気がして…(私の場合は業務用に作っているので、漬け汁も大量に残ることが再利用の面倒臭さに拍車をかけている)。
今年はやるぞ!
でも今年は違う。毎年胸を痛めるくらいなら、何かの料理に利用してみよう。
そもそもの漬け汁に対する「塩分濃度10%くらいの塩水」という認識を、「塩分濃度10%くらいのラッキョウの風味がする塩ダシ」とあらためる。それだけで幾らでも可能性は広がる。
というわけで、漬け汁と鰹ダシをあわせて素麵にかけてみた。
ああ、美味しい!私は素麺のことを、「薬味を味わう為の土台」と捉えている節がある。これならつゆ自体にラッキョウの薬味的美味さが染み込んでいるので、最の高。素麺の登板回数が増える夏場には、麺つゆに飽きた口への変化球としてもこの塩味は機能する。
殆ど同じ食材でもう一品。鰹のたたきに漬け汁をかけてみた。
これも美味しい!昨今、鰹のたたきは塩味も人気なので違和感なく味わえると思う。ニンニクやミョウガなど強めの主張をする薬味にも、ラッキョウの漬け汁が負けていない。
この二品だけでもう分かった。この漬け汁、冷奴や納豆にかけても、炒め物やパスタの隠し味でも、万能に機能する塩味の調味料であった。甘酢漬けであっても、そのまま漬け汁に野菜を浸してピクルスにしてしまうなど様々な利用法があるだろう。
残り汁は石油である
例えば「鍋の締めのおじや」を食べるためには、一通り鍋を突いて具材の旨味が染み渡った汁をゲットしないとならない。鍋が終わった瞬間、必死に育てた残り汁を流しに捨てる不届き者がいたら、ドロップキックをお見舞いしても文句は言えないだろう。
ラッキョウだって、そう。漬け汁は手間や一定の時間を経ることでしか手に入らない、石油並みの価値を持つ宝だ。勿論、それはラッキョウだけに限らない。
皆さんは漬物や肉の漬け汁、あるいは肉を焼いた後の油などをどうしているだろうか?SDGsが叫ばれる今。「残り汁の時代」が来た。皆さんの様々な残り汁活用法、是非聞かせてもらいたい。
※この時期の漬物は温度管理を怠るとすぐに傷んでしまいます。残り汁の活用も細心の注意を!