改めて触れておきたい、スラムとグランドスラム
当サイトで大学の宿舎について書くのは2回目だ。
以前に部屋の形は五角形 昔住んでいた大学宿舎でのアート展示へ行くという記事を書いている。
このときはアートイベントの紹介が主題であったので、宿舎の紹介は基本的なところに留まった。
だが、この宿舎での生活は僕の人生の中でもかなり「濃い」ものであったので、改めて思い出を語っていきたい。
前述の記事と重複するところはあるが、ご容赦願いたい。
さて、大学宿舎での暮らしでそんなに語りたいことがあるかと思われるかもしれない。
が、何といってもまずは部屋の形を語らずにはいられないのだ。
そんなことあるのか、と思うかもしれないが現実に存在するのだ。
宿舎は4つのエリアに点在していて、その中でも平砂エリアにある10棟の中で4棟がこの五角形の部屋となっていた。
なのでほとんどの場合は通常の四角形の部屋に入居するのだが、当選した場合は五角形の部屋に住むことが出来るのである。
この宿舎には基本的には1年生が入居することになっていた(希望すれば2年生以降も住めた)。
16年前に当時18歳だった僕は、初めての一人暮らしで無事五角形の部屋に当選したのだった。
部屋を退去するときに撮った写真だ。
最初にドアを開けたときの衝撃はすごいものがあった。
部屋の奥で角が突き出している、というのはなかなかに違和感がある光景だったのだ。
これまでの人生で「部屋は四角形である」という先入観が知らず知らずのうちに培われていたのだ。
それを五角形の部屋はぶち壊してくるのだった。
この五角形の部屋がある棟のことを、当時の学生は「スラム」と呼んでいた。
容赦がない呼び名である。
そしてスラムの中でも特に湿気がひどくなる1階の部屋のことを、「グランドスラム」と呼んでいた。
- 「お前の部屋、スラムなのかよ~」
- 「いやいや、でもグランドスラムほどじゃないよ」
といった感じで使われるので覚えておいてほしい。
五角形の部屋のレイアウトの難しさ
さて、そんな五角形の部屋でどうやって生活していたのかという話をしていきたい。
節分のときの写真で豆が散らばっているが、そこは気にしないでいてほしい。
この部屋で1年間過ごしてきたのだ。
今回の記事のために見つけてきたのだが、これを見るだけで色々な思い出が瞬時に蘇ってきた。
写真のようにフローリングカーペットを敷くと一気に部屋の質が上がるので、在学生に伝えておきたいポイントである。
部屋のレイアウトをざっくり描くとこのようになる。
このうちベッド、机、洗面台は備え付けのものになっている。
ベランダはないので洗濯物は部屋干しだ。
突っ張り棒を渡してそこに干すのだが、寝ている間に降ってくるということが何回かあった。
そして右下にデッドスペースと書いているが、五角形の部屋はどう頑張ってもデッドスペースが生まれるのだ。
絶妙にものを置けない空間が出来てしまう。
そして図に起こしてみて気づいたのだが、
なんちゅうレイアウトにしているのだ、18歳の自分よ。
どれか1つは寄せられそうだろう。
無計画な若さが微笑ましくなった。
収納スペースの大定番、ベッドの底上げ
宿舎の部屋は狭いため、色々なものが足りていない。
そこを工夫で乗り切るのが見せどころなのだ。
なんといっても収納がない。
衣服を入れるクローゼットなどはないのだ。
ではどうしているのかというと、ベッドを底上げするのである。
20センチくらい底上げすると、ベッドの下に衣装ケースが入るようになる。
人によってはさらに底上げして衣装ケースを二段積みする猛者がいた。
さらにさらに底上げして、ロフトベッドのようにするスーパー猛者もいたが、これは危険すぎるのでやめた方がいいだろう。
実際にベッドの脚の下に入れるのはレンガや木材だった。
前の住民が使っていたレンガが宿舎の外に捨てられているので、それを拾ってくるとコスパが良い。
宿舎の共用棟にある売店で木材が売られていて、僕はそれを買った記憶がある。
冷静に考えると売店で木材を買うってどういうこと?となるが、需要があるから供給があるのだ。
ただし、底上げベッドにも問題はある。
僕は実家では布団だったので、最初のうちはベッドに慣れず2回ほど落っこちてしまったことがあった。
高くなったベッドから落ちるとどうなるか。
答えは「落下中に目が覚める」のである。
落ちてからではなく、落ちながら目が覚めるというのは発見だった。あんまり発見したくない事柄ではある。
料理をするにも一苦労だ
部屋にはキッチンがない。でもお金がないので外食ばかりというわけにもいかない。
自炊をする必要があるのだが、どうするのか。
共用部に調理場があるので、そこを使うのだ。
赤丸で囲んだところが共用部だ。奇数階に洗濯機があり、偶数階に調理場がある。
……。
いま平然と建物の説明をしたが、引っかかったところがあると思う。
構内の案内図の写真をお見せしたい。
何だこの形は!と全員思っただろう。やたらとうねうねしている。
ヘビみたいな構造になっているのだ。
一体この建物にどうやって五角形の部屋がレイアウトされているのか。
信じがたいが部屋の辺の数が増えるのである。
とにかく四角にはしないぞという執念を感じる。
ちなみに七角形の部屋は五角形の部屋よりも広いため、スラムの中でも地位が上であった。
閑話休題。調理場の話に戻ろう。
僕が住んでいた10号棟の外観はこのようになっていた。
……遠くないか!?
ご飯を作ろうと思い立って部屋を出たら、廊下を歩いて曲がって歩いて曲がって歩いて階段を上がってようやくたどり着く。
そして、そこでご飯を作ったら階段を降りてまた廊下を歩いて曲がって……を繰り返さないといけないのだ。
僕の部屋が建物の端に位置していたのでこのようなことになり、だいぶ難儀した。
そして、気合いを入れてご飯を作るとこういうことが起こる。
主菜と味噌汁を作ったとすると、鍋とフライパンを両方持つことになる。
すると、部屋のドアが開けられないのだ。
シャワーなくなる事件
最後に、風呂の話をしたい。
もちろん部屋には風呂もシャワーもなくて、共用棟に銭湯のような共同風呂があった。
友人と一緒に行ったりして色々と楽しい思い出がある。
ただし、21時を過ぎると部活を終えた学生が押し寄せるのですごく混雑することになる。
そんな中、夏休み前にたくさん設置されているシャワーのうち3分の1がお湯の出が悪くなってしまった。
不便だなと思っていると、夏休み期間で改装しますというお知らせが貼ってあった。
ああ、では夏休みが終わると元に戻っているのだろうと実家に帰省して、その夏に開通したつくばエクスプレスで宿舎に戻ってくると、驚きの光景が広がっていた。
出が悪くなってしまったシャワーがなくなっていたのだ。
あ、直したんじゃないんだ!
まさかの撤去であった。
そこからは21時過ぎの混雑がとんでもないことになり、シャワー待ち渋滞が起きた。
秋から冬に季節が変わり、寒さに耐えるために湯船のお湯を掛けてシャワーが空くのを待つ羽目になった。
こんな生活を1年続けてきたのだが、2年生になるときにアパートに引っ越した。
そうしたら、全能感がすごかったのだ。
アパートはベッドを底上げしなくても収納スペースがあるし、
フライパンと鍋を持って外をうろつかなくても済むし、
風呂場のシャワーもなくならないのだ。
満足のハードルが下がりすぎていて、こんな生活していいんですか……!?と引っ越したときに本当に思ったものだ。
そしてアパートに越して素晴らしかったのは、なんといっても
ということだ。
四角い部屋に住める、そんなある種当たり前と言ってもいいことにシンプルに喜んだのだ。
とにかくこの五角形の部屋に住んだ1年間というのは僕の人生において濃すぎるものだった。
当時の部屋の1.5倍の広さ(加えて四角形だ)の仕事部屋でこの原稿を書いているが、あのときの部屋にあったちゃぶ台を横目に見つつ筆を置こうと思う。
受験生は注意してほしい
注意しておきたいのが、これは僕の思い出話だ。
僕が卒業した辺りから宿舎棟は改修工事が始まって、多くの建物がきれいになった。
YouTubeで検索したら部屋紹介をしている動画が出てきたので見てみたら、とても過ごしやすい部屋になっていてうらやましくなった。
とにかく1年間過ごしたという記録を残しておきたかったのだ。
この記事を読んで受験やめよう……となるのは本意ではないので、そこのところはよろしくお願いします。
思い出は美化されていくもので、いま思えば楽しかった。狭い部屋なりに工夫のしがいがあったのだ。
ただ、やっぱり部屋は五角形じゃない方がいいと思う。