試行錯誤の末、ようやく野外フェスらしきにおいを手に入れた。が、ふり返ってみるとお店で「自然のにおいがするアロマオイルをください」と言えば瞬殺で作れたような気がしないでもない。
しかし、事前の準備のめんどくささも野外フェスの楽しみのひとつだ。その意味では、こんな風にちょっと遠回りして準備するのも野外フェスらしくてよかったのではないかと思う。
野外フェスにいけなくなって約1年。毎年かならず野外フェスに参加していた身としては、そろそろあの空気を味わいたくてしょうがない。
いろいろ考えてみた結果「空気を味わいたいなら『におい』を作るのが一番なのでは?」という結論にたどりついた。
おうちで野外フェスを味わうために、野外フェスの香水を作ってみよう!
今までいろんな野外フェスに参加したが、野外フェスはどのフェスにもだいたいたくさんの草がある。
草っぽい野外フェスたちの写真。実際はこれよりもっと草っぽい。
つまり、野外フェスのにおいをグラフにするとこんな感じ。
一言でいおう、野外フェスとは草である。つまり、草のにおいをかげばすべてが解決するはずだ。
というわけで、まずはそのへんから草をかき集めてみよう。
あきらかに不穏な液体ができた。見た目がちょっとお茶っぽいのも逆に怖い。
正直、ナベで煮込んでいるときからめちゃくちゃ苦いにおいがしていて怖かった。煮込んでいるだけで口の中が苦くなったし、私が求めていた野外フェスはこんなんじゃない。
完成したものが思ってたのと違いすぎて、しばらく見なかったことにした。
が、ほっておくとさらに進化しそうだったので、意を決してにおいをかいでみることに。
かいでみると、3年間山奥で煮込みつづけた伝説のお茶みたいなにおいがした。普通の人間がかいで無事でいられるにおいではなく、鍛錬を積んだ勇者にしか許されないタイプのにおいである。道端の草を煮込むのは本当に危険だと思う。
最初のプランが撃沈したので、いちから考え直すことにした。
前回の問題点はそのへんの草を適当に煮込んだことだった。つまり、きちんと野外フェスに生えている草を煮込めば大丈夫ではないだろうか?
いちからやり直すため、フェス会場として有名な新潟・苗場の植生をググってみる。
わからなかった。毎年あんなにたくさんの人がフェスを楽しみに来ているのに、フェス参加者はだれも草の話をしていなかった。なぜ我々はいままで野外フェスの草について語ろうとしなかったのだろう。すべては後のフェスティバルである。
しかたがないので、フェス参加者ではなく「登山者」むけのサイトを見てみた。こちらはめちゃくちゃ草と木の話をしており、おかげでいくつか苗場に生えている草がわかった。
全部知らない草だった。「ミネカエデはたぶんカエデみたいな草だろう」ぐらいしかわからない。野外フェス、思った以上に自然豊かなところでやっていたらしい。
よく考えたらこういう自然たっぷりの道も多かった。
野外フェスの草がニッチなものだらけで簡単に入手できなさそうだったので、かわりにこの草たちがアロマオイルに加工されて売られているかを調べてみる。
あまり知られていないことだが、無水エタノールに好きなにおいのアロマオイルを足すと、誰でも簡単に香水ができる。
つまり、苗場でよく見かける草から作ったアロマオイルさえ手に入れられればこっちのものだ!この手でいこう!
そんな都合のいいアロマオイルはどこにもなかった。すべての野外フェスはアロマオイルにされてる草にかこまれてやって欲しいと心底思った。いま音楽ファンが真に求めているものは、ミントまみれの客席とか、ローズマリーだらけの野外ステージで間違いない。
やむをえないので、似ているアロマオイルを探してみる。苗場に生えているベニサラサドウダンと植物的に近いウィンターグリーンというアロマオイルが売られていたので、この際これで良しとする。
それから、香水はいくつかオイルを混ぜた方がいいらしいので、森によくあるスギの木と、干し草のにおいがするアロマオイルも、なんとなくフェスっぽいのでつっこんでみた。
いざ、これでにおいをかいでみよう!
完全に湿布のにおいだった。正確にいうと「ひさびさのフェスにはしゃいで暴れたら想像以上に腰にダメージがきてしまい、やむなく湿布をはって芝生で休憩するハメになったとき」みたいなにおいに仕上がっていた。それはそれで野外フェスっぽくはあるが、まったく思い出したいシーンではない。
なぜ急に湿布のにおいが爆誕したのか調べてみると、よかれと思ってつっこんだウィンターグリーンというアロマオイルは、湿布のにおいで有名なアロマオイルだったらしい。そんなオイルが売られているのか。アロマオイルの世界は広い。
失敗続きでかなり心が折れていたが、スギと干し草のにおいだけならけっこういいにおいだった。問題は湿布のにおいだけだ。
始めから香水を作り直し、湿布のにおいを外してみる。
これが三度目の正直である。いざ、においを嗅いでみよう!
めちゃくちゃ上品な野外フェスのにおいになった。フェスというには少しほこり臭さや土っぽさが足りないが、今までのことを考えるとかなりのクオリティである。
やっと香水が完成した。これをつけて音楽を爆音で聞いてみる。
家中からフェスっぽいものもかき集めた。いざ!野外フェスに出かけよう!!
香水をつけたまま音楽を聞いてみると、自分からめちゃくちゃ草のにおいがした。作ったときは気づかなかったが、あらためて嗅いでみると私が作っていたのは完全に草のにおいだった。
ただ、目を閉じて集中すると野外フェスで音楽を聴いているような気がしないでもなかったし、少なくとも自然の中にいる気分にはなれた。
絶対に目を開かない努力さえできるなら、なかなかの再現度で野外フェスを楽しめるのではないかと思う。
試行錯誤の末、ようやく野外フェスらしきにおいを手に入れた。が、ふり返ってみるとお店で「自然のにおいがするアロマオイルをください」と言えば瞬殺で作れたような気がしないでもない。
しかし、事前の準備のめんどくささも野外フェスの楽しみのひとつだ。その意味では、こんな風にちょっと遠回りして準備するのも野外フェスらしくてよかったのではないかと思う。
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