隧道もあるよ
大阪の港湾部には、巨大な橋がいくつも架かっている。デカい橋は見るのも上るのも楽しい。しかもそれがループ橋となれば、なおさらである。
レンタサイクルを使って、気になる巨大ループ橋を一気に巡ってきた。
大阪に住んでいると、「大阪の観光名所ってどこ?」とよく聞かれる。大阪城、通天閣、道頓堀、USJ……そういうガイドブックに載ってる定番スポットもいいのだけど、水都・大阪の神髄は港湾部にあると言っていい。
大阪の港湾部では、大型船舶が通行できるよう水門は独特なアーチ型をしており、架かっている橋も軒並み巨大だ。そしてそのデカすぎる橋のせいで歩いて川を渡るのが困難なこともあり、いまでも地元民の足として、市営で渡船が運航されている。
当サイトでは、すでにアーチ型水門や渡船を巡っているので、詳しくはそちらを見ていただくとして……今回は「巨大なループ橋」にスポットを当ててみたい。
とはいえ、先に挙げた名所はパラパラと点在しているため、一気に巡るのは体力的にも時間的にも厳しいという課題があった。ループ橋もいつか巡りたいなあと思って目星は付けていたものの、車がないとなかなか行きづらい場所にあって、いままで二の足を踏んでいた。
それが最近、この悩みを解決してくれる頼もしき相棒があらわれたのだ。と言ってもそんなに大層なものではなくて、「電動アシスト自転車のレンタサイクル」である。
最近たまたまHUB chariというレンタサイクルの存在を知った。大阪市内に45ポート(2018年10月現在)あり、どこでも自由に乗り降り可能だという。これを見た私は、まさに水を得た魚である。ループ橋を巡る機運が高まっていると感じた。
徒歩で巡ると、移動距離に制限がかかって、どうしても「点」での観光になりがちだ。でも電動自転車があると、もう少し広がりを持った「面」での観光ができるようになる。特に大阪の港湾部を見て回るには、電動自転車ほど適した乗り物はないだろう。
橋巡りをスタートしたのであった。今回のルートはこんな感じ
夕方17時頃にレンタサイクルのポートを出発。いまの時期の夕方は、暑くもないし寒くもない、「巡り」をするのにピッタリな季節である。心地よい風を体に受けながら走っていると、あれだけ暑かった2018年の夏が、いつの間にか過去の記憶となっていることに驚いた。ここ3ヶ月余り、猛暑でほとんど散歩ができなかった鬱憤を発散させるべく、電気の力を借りながら爽快にペダルをこいでいく。
日の入りが17:30頃だったため、ちょうど暮れなずむ頃合いに橋へと到着した。
ループは巨大であり、これをグルグル回るだけでもかなりの距離がありそうだ。地図上で確認してみると、円の直径は約70メートル。とすると、円周は直径x3.14で、約220メートル。それが二回転しているので、とぐろ部分の全長は約440メートルということになる。
つまりこの橋を渡るためには、440メートルもある長ーい坂を上りきる必要があるのだ。たしかに大変すぎて、歩行者や自転車が日常的に使うにはハードルが高い。渡船が現役で残っているのも うなずける話である。
下りは逆に、440メートルある長い下り坂である。ただずっとカーブで見通しが悪いため、かなり減速して走らないと上ってくる歩行者と接触しそうになって危険だ。もっとも、出会った歩行者は一人もいなかったけれど……。
次に向かうのは「新木津川大橋」。千本松大橋よりひとつ上流にかかる橋で、距離は1.5キロほどしか離れていない。この周辺はグルグル密集地帯なのである。
最初のループ橋よりも、見た目の圧が強い。それもそのはず、千本松大橋は二回転ループだったのに対し、この新木津川大橋は三回転ループなのだ。一回転多いことで、迫力が一段と増している。こいつは強い。
とはいえ、ここもやっぱり相当に長い上り坂なわけである。普通の自転車だと地獄感のあるグルグルは、地図で確認すると直径が約100メートル。それが三回転ほどあるので……長さは実に1キロ近いことが分かった。
単に1キロの道を走るよりも、こんな風に同じ場所をグルグル回っているだけ、という状況ではかなりの徒労感がある。上りながら、「あ、これは修行だな」と思わずにはいられなかった。あまりに険しいためか、私が坂を上りながら写真を撮っていた30分ほどの間に、この橋を通る歩行者(自転車含む)は、ただのひとりもいなかった。
新木津川大橋は対岸には渡らず引き返して、次の目的地である「なみはや大橋」へと向かう。そこはループ橋ではないのだけれど、道中にある巨大な橋ということで、合わせて味わっておこうと思ったのだ。
自転車を走らせると、ほどなくまわりの風景が工場から住宅へと変わった。とは言っても静かなことに変わりはなくて、自動車のエンジン音が聞こえる以外は人の気配が全くしない。「ひっそり」と何回言えば気が済むのかって感じだけど、本当にひっそりしている。
なんとなくお察しかと思うが、望遠レンズの圧縮効果によってとんでもない急坂に見えるという、いわゆる「べた踏み坂」である。
有名なのは鳥取・島根間に架かる「江島大橋」だが、そっちは勾配6.1%なのに対し、なみはや大橋は6.9%。実は本家よりも勾配がキツいらしい。いずれにしても、自転車では絶対に渡りたくないレベルの坂であることは間違いない。
ここがほかの巨大橋と決定的に違うのは、「渡船がない」というところだ。この橋を渡らず川を超えようとすると、ものすごく遠回りになるうえ、途中で2回も別の渡船に乗る必要がある。もう観念して渡るしかない、というのがこの橋なのである。もっとも、渡る用事がある人も少ないんだろうと推測する。
この橋は、頂上まで来ると相当怖い。標高はビルの15階相当というが、その割に手すりは簡単に乗り越えられるほどの高さしかない。カメラを掲げて撮影してると、風が吹いた拍子に落下していく様子が頭をよぎって「ひゃー」という変な声が出た。
橋の高さも怖かったけど、本当に怖かったのは下りである。高さ45メートルから、一気に直線で下っていく坂道。位置エネルギーが運動エネルギーへ変わる瞬間を体感したければ、このなみはや大橋に来るといい。
どの橋も見応えがありすぎたため、じっくり堪能しながら写真を撮っていたら、いつの間にか21時を過ぎていた。え、出発してからもう4時間も経ってるの!?
ここで気がついた。今回のルートで唯一乗る予定だった渡船、「天保山渡船」の最終時間(終船?)を過ぎてしまったのである。終船乗り遅れたー! ってやつだ。
予定よりもプラス10キロ。普通の自転車ならへこたれてしまうだろうが、幸い電動自転車であり、バッテリもまだ残っている。いままで「弱」で節電していた電動アシスト機能を「強」に切り替え、全速力で走り出した。ここで急がないと、渡船どころか家に帰るための終電に乗り遅れる可能性があるのだ。BGMが早回しになる音が聞こえた気がした。
安治川大橋を渡ったあとは、ひたすら西に向かって疾走する。途中、USJから出てくる大勢の観光客を横目に見ながら、「あー、もう22時を過ぎてしまった!」と焦り始める(USJは22時に閉場する)。
急いでやって来たものの、時刻はすでに22時を過ぎている。この橋を渡った先にある舞洲(まいしま)は、ゴミ処理場と倉庫とレジャー施設などしかない埋立地である。したがって今ここを通る可能性があるのは、夜中に長距離散歩をしている人だけだろう。
逆に人がいると、驚いて寿命が縮んでしまいそうだ。幸いなことに、私が滞在している間は誰一人としてやって来なかった。
暗がりのなか夢中で写真を撮っていると、やがて23時を回っていた。自転車を返却できる最寄りポートまで5キロ以上あるため、終電を考えるとこの辺がタイムリミットだ。17時に出発してから約6時間。結局5つの巨大橋を渡り、うち3つの橋でグルグルとループを回った。
それで分かったのは、夜に徒歩や自転車でループ橋に上る人はほとんどいないということだ。巨大な橋は、街を見下ろすにはうってつけの高さである。ビルの展望台に匹敵する眺望であり、観光名所になるポテンシャルも秘めている。ただやはり、アクセスの不便さや、上るのがしんどいという理由から、わざわざ見に来る人も少ないのだろう。
でも私たちには、文明の利器・電動アシスト自転車があるじゃないか。道具を使うことで、今まで行けなかったところにも気軽に行ける。できなかった体験ができる。日常以上、非日常未満くらいの、ちょうどいい場所がループ橋であり、そこへ踏み出すアクセラレータとなるのが電動アシスト自転車なのだ。……などという、分かったような分からないような結論に達した。
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