これを何に使うかは一旦おいといて、まずは断熱とは何なのか説明させてください。
断熱とは、あつい空気や冷たい空気が、伝わらないようにすることである。
熱伝導率の低い素材で、モノを包めばより効率的に温度を保つことができる。素材によって断熱性能はぜんぜん違う。例えば木材とコンクリートなどを比較するとこんな感じ。
上の表だと木材の断熱性能がとてつもなく高く感じるが、木材の断熱性能は、およそ0.12 W/(m・K)とそこまで高くない(見なれない単位が出てきたが「ワット毎メートル毎ケルビン」と読むらしい)
それに対し、一般的な断熱材であるグラスウールの断熱性能は、0.045 W/(m・K)。ちなみに数値が低いほど断熱性能が高い。住宅に使われる断熱材の凄さがお分かり頂けたはずだ。
建材などに使用される断熱材は大きく分けると3種類ある。
グラスウールは、繊維の隙間に空気を閉じ込めるしくみ。安くてDIYにもってこいだが、水が染み込むと断熱性能がガクッと下がってしまう。施工時にガラス繊維が刺さって肌が痒くなるのもマイナスポイント。
熱伝導率は0.046とそこそこ。水気には強いが切るとボロボロ崩れやすいのが悩ましいところ。
ちょっとお高いのだが、カッターで切れるし水気にも強く熱伝導率も0.040と良い。一番手軽に手を出せるが、高温には弱い。使う場所には注意が必要だ。
水色のスタイロフォームとピンクのカネライトフォームをよくホームセンターで見かけるが、出しているメーカーが違うだけなので好きなのを選んでほしい。
最後に自然系に属するのは、羊毛や炭化コルクなど。コルクって断熱材になるの?とあなどるなかれ。断熱性能は0.038。スタイロフォームより高性能。調べてみるとスペースシャトルにも使われているんだとか。
断熱材に興味を持ったのは、ガレージの壁に貼り付けたかったから。加工性の高さなどからスタイロフォームを選んだ。
スタイロフォームの基本サイズは、180cm×90cm。いろんな厚みで売っている。3cm厚なら1枚1700円くらい。5cm厚なら2500円!今回必要なのは4枚なので、2500円×4枚=1万円!部屋は暖かくなるが、懐が寒くなった。
スタイロフォームを壁に入れると、外とガレージ内の温度の違いが、はっきりとわかる。外気よりも5℃ほど高い温度を確保できた。
ここまで読んでいただけたら、なんとなくわかっていただけただろうか。
断熱は楽しい
そう、断熱は楽しいのだ。趣味になるくらい。でも、もっともっとめちゃくちゃに欲望のおもむくままひたすら断熱したい。でも断熱材は高い。ハイスペックなものは特に高い。何か手軽に断熱できるものはないだろうか。そんなことを考えていると、使ってみたい断熱材が出てきた。
断熱性能は0.035!ハイスペック!高級なクーラーボックスには、こちらの硬質ウレタンフォーム使われているらしい。
そうか、クーラーボックス!
クーラーボックスなら、断熱材をしこたま入れてもそんなにお金もかからないだろう。
硬質ウレタンフォームは施工方法も他の断熱材とは一味違う。スプレー缶に詰まっている気体をブシュ〜と吹きかけると、あら不思議。
化学実験ぽいのもロマンがある。しかし、難点がある。1缶1500円するのだ。家の壁に使おう!みたいなことは難しいが、クーラーボックスに使うくらいならたいしたことないだろう。
クーラーボックスを調達
安すぎる気がするが、一体どんな断熱材が使われているのだろうか。カバーを外してみる。
1280円なので仕方ないかもしれないが、これなら発泡スチロールの箱を買った方いいのではないだろうか。
通常であれば、この発泡スチロールを外し、代わりに断熱性能の高い硬質ウレタンフォームを吹き込む改造をするだろう。
しかし、こちらとしてもはもう、そんな謙虚で紳士的な断熱で我慢できないのだ。もう、はちゃめちゃに断熱したいのだ。だって断熱は楽しいから。
欲望のおもむくまま断熱したい
練乳風味のアイスにあずき。そして色あざやかなフルーツがゴロゴロ入った九州を中心に人気の名作アイスである。この白熊アイスの冷気を逃さぬように、めちゃくちゃに断熱したい。
パッケージの直径を測ると約95mmであった。そこで木材を100mmの大きさにくりぬいて重ねて円柱にした。
硬質ウレタンフォームは膨らむので、こぼれないように木板製のフタをつける。
こんな感じにしたい
硬質ウレタンフォームが硬化した後にフタを外したら、この円柱の形そのままの直径100mmの穴が空くはずだ。その穴に白熊アイスを仕込むというわけである。
3時間ほど放置してから確認。慎重に吹き込みすぎて量が少なかったようだ。硬質ウレタンフォームのスプレーは一回で使い切る必要があるので、1500円が露と消えた。
その後なんやかんやあって硬質ウレタンフォーム2本と小さいの1本使ってしまった。合計4000円である。最終的にやけくそになって適当に吹き付けたら、サボテンが生えた。なかなかに趣がある。
しっかり充填できたので、筒状の木材を引き抜こうとしたら、これがもう伝説の剣なのかなというくらい全く抜けなかった。どうやってもびくともしなかったので、木材にドリルで大量の穴をあけノミでくりぬいて、無理やり除去した。
全てのステップで失敗している気がするが、白熊アイスを冷やすことに特化したクーラーボックスが無事に完成した。
白熊アイス特化型クーラボックス
上ぶたの断熱材の厚みだけで、33mm。場所によっては厚みが60mm以上ある。元々の発泡スチロールの厚みは約9.4mmだったことを考えると、はちゃめちゃな断熱力である。はやくその性能を知りたくないだろうか。私は知りたい。さっそく実験を開始する。
今回のルール
10月中旬。朝晩は寒いが昼間はまだそこそこ暑い。今の外気温は21.7℃。午後0時をスタートとする。
せっかくなら家で一番熱い場所で実験しよう。庭をうろついているとウッドデッキの上がめちゃくちゃ熱いことに気づいた。測ってみる。
観測史上、最も高かった気温は1913年の7月10日アメリカのデスバレーの56.7℃。
床が52℃もあれば条件として不足はないだろう。改造したクーラボックスの「穴」に白熊アイスを埋め込む。
こんなスカスカでいいのだろうか。これ15分くらいしか持たないんじゃないだろうか。不安になってきたが実験をはじめる
実験開始
【00:13経過】
断熱材でパンパンだからだろうか、改造したクーラーボックスのフタが勝手に空いてしまった。このままでは冷気がだだ漏れ。悲しい結果が待っている。ビニールテープで無理やり閉める。
【01:46経過】
クーラーボックスの表面が、63.4℃に到達。デスバレーを超えてしまった。これもうやばいかもしれない。中身を確認しよう。まずは無改造の普通のクーラボックスをチェック。
シャーベット状にはなっているが、まだアイスの形は保っている。1280円のクーラボックス、スカスカなのに実力がしっかりある。
こちらが溶けていないということは、改造クーラボックスはまだ大丈夫だろう。
【02:57経過】
とはいえ、底面が50℃を超える環境で2時間以上アイスを守っていたのは、かなりすごい。そして、ここからが本題だ。
改造したクーラーボックスの中身はどうなっているのだろうか。
【02:59経過】
左の通常ボックス白熊アイスと比べてみるとその差は歴然。これが断熱の力だ。めちゃくちゃ嬉しい。
せっかくなので、改造ボックスがどれぐらい白熊アイスの冷気を保つのか実験を続けよう。
【04:43経過】
夕方を迎え、気温も下がってきた。これは高記録を期待できそうだ。
【06:11経過】
かろうじて氷が残っているようだ。外気温より家の中の方が暖かいので、家の中に持ち込んで実験継続。できる限り記録を伸ばして欲しいところだ。
【07:09経過】
見たいような見たくないような。ぐっと腹に力を入れてフタを開けてみる。
改造ボックスの圧勝である。しかし、改造ボックスには通常ボックス2個以上の費用がかかっている。通常ボックスも必要最小限の断熱材でよくあそこまでがんばったものだ。
両者よくがんばった。過酷な環境のなかで寡黙に白アイスをひたすら守るクーラーボックス。その姿は、熱い陽射しから我が子を守る母グマのようだった。途中からがんばれがんばれと感情移入してしまった。
断熱材を思いっきり詰めてみて
ホームセンターの素材を使えば、素人でもそこそこ断熱でいることが今回わかった。
今回は断熱材として硬質ウレタンフォームを使用したが、断熱性能がケタ違いに高いとウワサの「真空断熱パネル」も、アルミ真空パックに、ガラス繊維、乾燥剤があれば自作できるらしい。その断熱性能はウレタン0.035に対し、驚異の0.002!いつか挑戦してみたい。
あと、海辺に集まって、落ちてるゴミを断熱材にして誰が一番冷え冷えのビールを6時間後飲めるかみたいなエクストリーム断熱バトルしても楽しそうだ。