特集 2020年1月30日

まっすぐな針で魚は釣れるか

まぁ釣れるんですわ

魚を釣る「釣り針」とは基本的にアルファベットの「J」のように弧を描いているものである。
当然だ。縫い針みたいにまっすぐだったら魚なんて釣れっこないもんね。

…いやいや、実はまっすぐな針でも釣れるんです。

1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

前の記事:ユニコーンを釣って食べる

> 個人サイト 平坂寛のフィールドノート

普通の釣り針はJ字型

まず、この写真を見ていただきたい。国内外で流通している色々な釣り針である。

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釣り針いろいろ。全部シルエットはJ字型だ。

大きさも様々。細かい形状にも差異があり、いかに狙う魚や釣り方によって細分化されている漁具であるかがわかる。

だが、すべてに共通する点として「J字型」をしていることが見て取れる。

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そらそうだよね。この形じゃないと何も引っ掛けられないよね。…ホントに?

当たり前だろう。魚の口に引っ掛けて釣り上げるのだから、J字でなくてはどうしようもなかろう。Iでは絶対に掛からないに決まっている。

…果たして本当にそうだろうか?

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縫い針みたいなI字型の針じゃあ当然魚は釣れない。…とは限らない。

太公望にドヤりたい

まっすぐな釣り針、といえばまず思い浮かぶのはかの太公望(呂尚)にまつわる逸話だろう。

ざっくり、本当にざっくり言うと
・なんかえらい人が旅の道中、水辺でまっすぐな釣り針を使って魚釣りをする太公望に出会う。

・そしたらえらい人が
「まっすぐな釣り針で魚なんか釣れるわけないのにこの男ヤベェ…!超深ぇよマジで…!絶対タダモンじゃねえって…!」
と非凡さに感激。

・太公望はまっすぐな針をもってして見事、めっちゃすごいコネと地位を釣り上げることに成功!やったね!

…という話である。
詳しくはこちらなどを参照してください。

この逸話ではまっすぐな針は「絶対に魚なんか釣れるわけない」漁具としてダメダメなアイテムとして扱われている。

…しかし本当にそうか?案外いけるんじゃないか?

というか、もしまっすぐな針で魚釣れたら僕は太公望よりすごいってことにならねえか?やってみよう。

そう!この記事は太公望に屁理屈でマウントを取りたいという小人物的野望に端を発しているのだ。
(※太公望はまっすぐな針を使用しただけでなく、それを「水面にすら浸さない(!)」という二段構えで「絶対釣らんぞ」の意志を貫いているので念のため)

即、大物が釣れた

というわけで海へやってきた。普通の釣り針は持ってきていない。もし上手くいかなかったら手ぶらで帰宅だ。

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まっすぐな針にイワシを刺し、海へ放り込む

さて、まっすぐな針に小魚をつけて海へ投入、待つことしばし。すると…。

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かかった!魚だ!!
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ウツボが釣れました

はい、開始後わずか10分弱。全長1mを超える大きなウツボが釣れました。
いやー、想像以上に楽勝でしたね。

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喉元を貫通した針。ね?本当にまっすぐな針でしょ?

ヤラセじゃないかって?じゃあ動画でどうぞ。

 

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種明かし ~そもそも釣り針はまっすぐなものだった~

ご覧の通り!正真正銘まっすぐな針で魚は釣れました。…はい。もちろんタネも仕掛けもございます。

使ったのは確かにまっすぐな縫い針だが、糸の結び方がミソ!
針の端ではなく、針の軸の真ん中に結びつける。
つまり、「I字」ではなく「T字」を形づくるのだ。

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縫い針の、両端を研いで尖らせて、真ん中に釣り糸を結ぶ(※ウツボを釣った際は針は畳針、釣り糸にはワイヤーを使用した)

さらに、針は両端を研いで尖らせておく。
こうした細工によってまっすぐな針は立派な釣り針、漁具として成立する。

魚がエサを刺した針を飲み込むと、喉や胃で針が刺さってつっかえる→外れず釣り上げられる、という寸法だ。

針の端に糸を結んだのでは、どれだけしっかり飲み込ませても絶対にすっぽ抜けちゃうからね

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スルッと飲み込んで…
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喉や胃でガチッと引っ掛かる

実はこうした針は「直針(スグバリ)型釣鈎」といい、古くから世界各地で漁具として使用されていた。
現代日本でも地域によってはウナギを釣る際に使われることがあるとも聞く。

なお古代において直針の素材には動物の骨などを使用していたらしい。
たしかにまっすぐな針ならJ字型のものに比べるとはるかに加工しやすいだろう。

ちなみに、直針釣法については太公望の逸話から釣り針の歴史を調べるうちにたどり着いた。
つまり勝利が約束された企画だったのだ。

だが知識として心得てはいても、実際にまっすぐな針で魚が釣れると感激するものである。漁具っておもしろい!!

おまけ : リリースできる直針仕掛けを!

しかし!この直針を用いた釣りには弱点もある。

まず、喉や胃に針を刺す前提なので魚にエサをガバッと豪快に飲み込んでもらう必要がある。
上手く飲んでくれないと掛からずにすっぽ抜けてしまうので、その辺りはJ字型の釣り針に明らかな分がある。

その点でウツボやウナギは食物に対して貪欲で、すぐに針ごと飲み込んでくれるので直針釣法に適している。さらに口腔から消化管にかけてが細く狭いがゆえに針がかりしやすいのである。
逆にコイやフグのようなおちょぼ口な魚には向かない仕掛けだろう。

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コイの口。こういうおちょぼ口で泥をハフハフ食んでいるような魚を釣るのは難しいかもしれない。

さらに、喉やら胃やらに刺さると魚へのダメージが大きい上に両端が尖っている構造上、どうしても魚から針を外す際に難儀する。つまり釣れた魚をリリースすることができないのだ。こうなると目当てのサイズに満たなかった場合や狙いと異なる魚種が釣れた場合に困る。

こうした面も直針がJ字型釣り針に席巻され姿を消していった理由の一つだろう。

…ここからは完全に道楽というか自己満足の話になってくるが、直針で魚をなるべく傷つけずに釣ることはできないだろうか。
しかも、ウツボではなく普通の体型の魚を!

まず、条件としては喉や胃ではなく口の中に針を刺す必要がある。
その辺は主にこちらのさじ加減というか、飲み込まれる前に糸を巻いてやればいいのだが一応、魚が口に含みやすいよう短めの針を用意する。

また、針を外しやすいよう片端は尖らせず、極力鈍いままにしておく。この時、結び目を少しだけ尖った側に寄せてやると針先が手前を向き、魚に刺さりやすくなる。

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短めの針を使用。端は尖らせない。

さあ!準備は整った。

ウツボがあれだけ簡単に釣れたのだから、ほかの魚もいけるだろ!
今回、テスト相手として狙うはティラピア。アフリカ原産の魚で、僕が暮らしている沖縄の河川にはうじゃうじゃ泳いでいる。この魚は本来簡単に釣れるし、体型はかなり標準的。
彼らを釣ることができれば、ほかの魚にも応用できるはずだ。

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ここでのターゲットはティラピア。こいつをなるべくレスダメージで釣り上げたい。
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食パンの切れ端を川に群れるティラピア向けて投入!すると…
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うおお!

こっちも動画でどうぞ

 

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釣れた!!でもすぐ針はずれた!あぶねえ!

結果から言うと、ティラピアは釣れた。

しかし、一匹釣り上げるのに20分もかかってしまった(普通の釣り針を使えば20秒もかからないところを)。

苦戦の理由は
①針が長すぎてなかなか口内に収まらない
②上手く咥えてくれても針がなかなかかからない

といったところだろう。

針をもっともっと短くすれば多少は口に含まれ安くはなるかもしれないが、その分だけ口腔内への引っ掛かりも悪くなるので抜本的な解決にはならないだろう。

でも、この一匹が釣れたことには意義があると思う。自己満足以外の何者でもないけど。


まっすぐな針でも魚は釣れました

というわけで、とりあえず直針でも効率は悪いもののなんとか工夫と試行回数次第で魚を(なるべく)傷つけずに釣り上げることができるとわかった。直針釣法にキャッチアンドリリースが可能になる選択肢が見つかったのは収穫である。

…まあそんなこと言いつつ釣れたティラピアはリリースせずに食べちゃったんですけどね。へへへ。

…ところでこの直針釣法、魚種を選ぶし効率はそこまでよくないが、現代でも通じる漁法である。針を竹の破片や魚の骨で自作することも可能なので、サバイバルスキルとして身につけておくのもいいかもしれない。
 

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釣れたウツボは刺身と唐揚げに。ティラピアはムニエルにして食べた。ごちそうさまでした。…特にティラピアよ、今回はリリースを視野に入れる工夫と実験だったのに結局食べちゃってごめんな?
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