高級と庶民の狭間
ミッドタウン日比谷にあるTOHOシネマズに週一回は通っているので、ビル自体は頻繁に利用している。だが2018年のビル開業当初から、高級車がずらりと並んでいたこのLEXUSの空間は近寄りがたかった。数年前にリニューアルしてカフェを前面に出してきた時も、気にはなりつつ入店には至らなかった。
だって私は、路上の格好良い車がジャガーかベンツかで友達と言い争っていたら日産だったことがあるんだぞ。車に関する知識がめちゃくちゃ乏しいのに、おいそれと入れるわけないじゃないか。
しかし今年、映画を観終わってエスカレータを下りていたら、店の前のサイネージに気になる物が映し出されていたのである。
LEXUSの乗り心地は知らない。でも団子なら知ってる。めっちゃ知ってる。あのモチモチとして美味しいやつだろ?ここ、団子出す感じの店だったのか。LEXUS=高級、団子=庶民。団子屋なら入れるぞ。
五街道だんご
事前に調べたら昼間も夜もメニューは変わらないようだったので、仕事終わりに妻を誘って行ってみた。入り口で車に関するクイズとか出されたら、過去にトヨタのパッソに乗っていたことや、レンタカーは必ずトヨタを利用していることを訴えて許して貰おうと考えていたが、すんなり入店できた。
本当にこの店で団子を頼んでも良いのだろうか?ベルサイユ宮殿でベーゴマやるようなちぐはぐな行為にならないだろうか?
店員さんが丁寧に説明して下さったので、LEXUSのカフェで団子を出している理由が分かった。ここ「LEXUS MEETS...」は日本各地の魅力を楽しむことをコンセプトにしているそう。
この「日比谷五街道だんご」にもそのコンセプトは反映されていて、五本の団子に乗っている餡は、五街道それぞれの名産品を使ったものなのだ。
団子フルスロットル
早速食べてみる。まずはいちご餡から。
おお、これは「いちご風味の餡」ではなく「いちごの餡」だ。わざとらしいほど赤かったりもしないので恐らく無着色だし、素材そのものを活かした優しい味がする。それに餡も美味いが、そもそも団子が美味い。
一気に勢いがついてアクセルベタ踏み、物凄い速さでパクパクと食べ進んでしまう(正直、「アクセルベタ踏み」という表現が車的に正しいのかビクビクしながら書いています)。
お酒が好きな妻は甘いものがそれほど得意ではないが、それでも「美味しい」と声を漏らしている。下戸の私には分からないが、日本酒を頼んだ彼女曰く、酒と甘味のマリアージュも素晴らしいようだ。
陽の当たる場所
ラグジュアリーな空間で食べる、上質で丁寧な仕事がされた団子。しかも二人で食べることを考えれば、お値段もそれほど高いわけではない。なんか団子から逆算してLEXUSの魅力まで理解できてしまった気がする。
本当のことを言うと、私が大好きだった三信ビルという歴史ある建物を壊してできた場所なので、完成当初ミッドタウン日比谷にはあまり良い感情を抱いていなかった。私は木造の長屋が並ぶ狭い路地などに落ち着きを感じるし、片手袋という社会の日陰に発生する現象を追いかけている人間なのだ。
だから「清潔で綺麗な場所で美しく美味しい食べ物が味わえる」という社会のど真ん中の楽しみに直面すると、受け身が取れずに戸惑ってしまう自分がいる。
だがこれからの人生、陽の当たる場所の面白さにも卑屈にならず素直に目を向けてみるべきなのではないだろうか?
うっかり軽い反省と意識改革を起こしてしまうような、そんな団子体験であった。
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