特集 2024年9月10日

平安時代から続く徹夜イベント「庚申待」をやってみた

平安時代に始まり江戸時代に流行した「庚申待(こうしんまち)」という徹夜のイベントがあるらしい。楽しそうなので知り合いを誘ってやってみた。

1976年茨城県生まれ。地図好き。好きな川跡は藍染川です。(動画インタビュー)

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庚申待をやってみたい

庚申待(こうしんまち)は、庚申信仰というものに基づいたもので、ふだんの自分の悪事を、庚申の日の夜、寝てる間にお腹の虫が神様のもとに報告に行くので、それを防ぐために一晩中起きてるというやつ。

少なくとも初期は信仰に基づいたものだったが、後期には形骸化してただ酒を飲んで徹夜するだけのところもあったとか。すごく楽しそうだ。その形骸化したやつをやりたい。

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会場はカラオケルームで

というわけで以前から庚申待をやってみたかった。しかし問題は会場だ。一晩中貸してくれるレンタルルームは見当たらない。

いろいろ相談したところカラオケルームがいいという。たしかに、カラオケルームなら広い部屋もあるし、朝まで貸してくれる。

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JOYSOUND 品川港南口店

というわけで JOYSOUND にやってきた。じつは JOYSOUND は我らがデイリーポータルZに協賛してくれているので、話が早かった。

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VIP ROOM!

VIP ROOM という少し広めの部屋を朝まで借りて、庚申待ちをやってみることにした。日付は8月24日の土曜日。今年に何回かある庚申の日のうちの一つ。週末の土曜日で、都合がよかった。

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庚申待ちがしたい、ということで誘ったところ、集まってくれたみなさんだ。ぜんぶで6人(後で一人ずつ紹介します)。

ただお酒を飲むよりは、みんなの話が聞きたいなと思ったので、それぞれの方に、手持ちの写真や資料をモニターに写しながらお話しすることをお願いした。カラオケ用のでかいモニターにパソコンからケーブルが刺さるんです。

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最初は民俗学者の吉村さんのお話から

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最初は民俗学者の吉村風さんのお話だ。

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吉村さん(画面左)

吉村さんとは初対面だ。「庚申待がしたい」とSNSに投稿したところ手を挙げてくれた。

まず導入として「庚申待」ってそもそも何?という概要の話をしてくれるという。ありがたい。

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モニターはこんな感じ。

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まずは庚申の「庚」について

吉村さんの話は、庚申待の前に「庚申」とは何か、から始まった。

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吉村:「庚申待」の「庚申」ってそもそもなにさという話ですが、まず十干(じっかん)というものがあります。甲乙丙丁から癸(き)までの10個で10日間を表していて、これを「一旬」といいます。月の初めを「初旬」、中ごろを「中旬」って言いますよね?

会場:えっ、あれってここから来てるんですか?

吉村:そうなんですよ。十干はもともと中国の考え方なんですが、日本ではそれが陰陽五行説と結びつきました。

五行というのは世界が木・火・土・金・水の5つの要素から出来ているという考え方で、陰陽はものごとには2つの面があるとする考え方だ(と思う)。この二つを組み合わせると「木の陽」「木の陰」「火の陽」「火の陰」・・みたいに10種類の組み合わせができる。

陽と陰のかわりに「兄(え)」と「弟(と)」の二つを使って、次のように十干に対応させるようになった。

甲:木の兄(きのえ)
乙:木の弟(きのと)
丙:火の兄(ひのえ)
丁:火の弟(ひのと)
戊:土の兄(つちのえ)
己:土の弟(つちのと)
庚:金の兄(かのえ)
辛:金の弟(かのと)
壬:水の兄(みずのえ)
癸:水の弟(みずのと)

吉村:だから庚申の庚を「かのえ」と読むのは、金のお兄さんという意味なんです。

会場:そうなんだ! 「えと」って兄(え)と弟(と)だったんですね。

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つぎは庚申の「申」とはなんなのか

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吉村:庚申の「庚」は十干ですが、「申」のほうは十二支から来ています。十二支はもともとは月を表す名前だったんですが、後から動物を表すようになったんです。

言われて初めて気がついたけど、十二支ってたしかに全然動物じゃない。午で「うま」、未で「ひつじ」、申で「さる」と読むと教わってからそういうもんだと思ってしまっていたけど、ふつうに当て字だ。

吉村:そしてこの二つを組み合わせると、10かける12で120通りになります。でも干支って60で一周しますよね?

会場:そうですよね、それが不思議で。

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干支はなぜ60種類しかないのか?

吉村:十干の1番目が「甲」で十二支の1番目が「子」なので、最初の組み合わせは「甲子」です。ただ、次の組み合わせは十干の2番目の「乙」と十二支の2番目の「丑」になるので「乙丑」になります。十干と十二支を同時に一つずつずらすルールなので、半分の組み合わせしか網羅できないんです。 

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鯵坂もっちょさんのツイートより

上の図が分かりやすい。左上から右斜め下に向かって進みながらマスに色を塗っていくと(はみ出たら反対側から出てくる)、半分塗り残したまま左上に戻ってしまう。(こうなってしまうのは10と12が互いに素ではないからだ。実際に塗ってみれば体感できる)

極端な話、十干十二支ではなくて三干三支だっとすると話が簡単だ。甲子→乙丑→丙寅と進んだらまた甲子に戻ってしまって3種類にしかならない。

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本来なら9種類の組み合わせがあるところ、3種類にとどまっている。十干十二支の場合も、ここまで極端ではないが似たようなことが起きて60種類にとどまっている。

2024年は庚申の日が6回あり、当日は庚申の日

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吉村:そういうわけで60日一回「庚申」の日が回ってきます。今年は6回あって、今日(8月24日)は4回目の庚申の日です。

会場:あ、今日って庚申の日だったんだ!

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といったあたりでピザが来た。最高の庚申の日だ。

吉村:庚申はだいたい年に6回なんですが、5回とか7回のときもあって、五庚申・七庚申と呼んでいます。

会場:へー!七庚申・・。

一年は365日なのに、60日周期の庚申が7回も来るのか? 420日必要では?とちょっと思ってしまった。

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七庚申の図

でも6回分で360日必要なだけだから、残りの5日のどこかに庚申が来れば7回目になるわけだ。庚申の日は60日に1回しかないので、それが5日間の間に来る確率は60分の5。つまり12年に1回くらいしかないレアイベントというわけだ。

⏩ そして庚申が信仰になる

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