元書き出し作家、洛田二十日(義ん母)くんが、二冊目の作品集『ダキョウソウ』を出版されました!極上の奇想が詰まった短編集です。面白い本はページをめくる手が止まらないといいますが、それ以上おもしろい本はこちらのイマジネーションを刺激して、つい自分の妄想により道したり、見事なレトリックにため息をついたり、なかなか読み進ませてはくれないものです。そんな体験をぜひ『ダキョウソウ』で!
それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう!
書き出し小説・自由部門
夜なのに外にいる、それだけでこどもは楽しい。
素人がファルセットで歌って申し訳ありません。
たこフェリー
切ない香りだけを残して、彼女はEUから抜けた。
フェノール藤宮
雰囲気だけで読ませる秀作、読後に残るプアゾンの香り。
「そこになかったらないですね」天使は魂の在庫を整理しながらおざなりに言った。
七世
嘘だ、と全員が分かった。教室という空気は残酷だ。
七世
設定と容疑者が一気に浮かぶ。一文で引き込むミステリのお手本。
散らかっているのではない。散りばめたのだ。
団の裏
こんな顔を映すために鏡を磨いたんじゃない!
S.マウンテン
午前2時半。夜行バスの休憩でココアを買って飲んだ。実家に帰るのだ。人生は少しずつ変わっていく。
なかもりばなな
人生は少しずつ変わっていく──こういうナレーション的文章は蛇足になる場合が多いけれど、ここでは見事にハマり続きを読みたくさせる。
チョコモナカジャンボを踏めぬ者は死ね。
白石ポピー
致死量の「うんうんうんうん」「はいはいはいはい」
ねんねこ
コミカルで可愛くてリズムがある。ボカロの歌詞みたいな新鮮なセンスを感じる。
見知らぬ駅で降りる。君を尾行するために。
人馬一体勘
出の悪いシャワーを浴び、逃亡犯の顔になる。
ぐるりん
朝だ。死体に戻ったエリを風呂場へ運ぶ。
正夢の3人目
心にも脂肪はつく。弾まず、ぼとりと落ちる。
正夢の3人目
正夢節としかいいようのない鬱名文。
決して死にたいと思ってるワケじゃない。ただ、来世は人間以外がいいなぁと思っただけで。
もろみじょうゆ
猿寄りの人は律儀で人寄りの猿は自分勝手だった。
ビールおかわり
爆発音、崩れ落ちる天井、遠くから聞こえるサイレンの音……そのような状況にも関わらず、二人の力士はがっぷり四つのままだった。
もんぜん
こんがり焼かれたポンデリングに朝日がうつって、泣きそう。りゅん
弱ってるときってそういうことで泣けるんだよね。分かる。
自分が特別になりたいなどと願わないが貴様は俺のお気に入りだ。喜べ。
井沢
愛した男に捨てられちゃった、わたしの隙間に、山桜の木の根が入ってくる。
さくさく
空き缶を逆さまにしただけじゃ、中の水は完全に出てこない。そういうことだろ?
カズタカ
かっけー(笑)……ん?残尿のこと言ってる?
続いては規定部門。テーマは「〇〇おじさん」。今回はいつにも増して秀作が多く、おびただしい数のおじさんが発生してしまいました!
規定部門・モチーフ『〇〇おじさん』
昔は良かったおじさんの言う昔にも、昔は良かったおじさんはいる。
吉田髑髏
最初に陸に上ったおじさんもそう言ってたよ。
泡と消えゆく入浴剤が、どこか他人とは思えない。バブおじさんか。独り嘯く。
ゆき2
裸おじさんはただ、着たい服がないだけなのさ。
ハリー・ポッターと老夫婦の溝
「泣いてばかりいると袋のおじさんが来るよ。」母にそう言われた姪は、ますます激しく泣き出した。
げたのにつけ
サンタもその言い方だとホラーになる。
半身が浸かるくらいの水を加えることで綺麗な羽根つきおじさんが出来上がります
暖簾の部屋干し
ビッグマックおじさんがついに胃薬を飲んだ。
人馬一体勘
それ、見なかったことにしたい!
⏩ 『〇〇おじさん』続きます