特集 2021年6月24日

富士山の「まぼろしの滝」を見てみたい!

雪解けシーズンにのみ現れる、「まぼろしの滝」が見たかったのです

富士山には一年のうちごくわずかな期間しか見ることができない「まぼろしの滝」が存在する、という話を聞いたのはいつのことだったろう。

非常に興味深く、ぜひ見てみたいと思っていたものの、期間限定ということもあってタイミングを合わせづらく、長らく訪れることができないままであった。

しかしながら、今回ようやく念願かなって見に行くことができたので、その様子をレポートさせて頂きたい。

※この記事は『デイリーポータルZをはげます会』のサポートによって制作させていただきました。

1981年神奈川生まれ。テケテケな文化財ライター。古いモノを漁るべく、各地を奔走中。常になんとかなるさと思いながら生きてるが、実際なんとかなってしまっているのがタチ悪い。2011年には30歳の節目として歩き遍路をやりました。2012年には31歳の節目としてサンティアゴ巡礼をやりました。(動画インタビュー)

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富士山には川がない

日本最高峰にして日本文化の象徴でもある富士山。その美しい山容は古の頃より親しまれ、現在まで数多くの人々が登ってきた随一の名峰である。

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みんな大好き、私も大好き、富士山

私は高山病にかかりやすいタチなので山頂までの登山はあまり好きではないのだが、豊かな自然が広がる五合目以下を歩くのは好きで、これまで3本の記事を書かせて頂いている。

ところでご存じだろうか。極めて広大な山域を誇る富士山には、川がまったく存在しないことを。

富士山は軽石状のスコリア(マグマの飛沫がガスを放出しつつ固まった火山噴出物)で厚く覆われており、水はけがもの凄く良い。なので降り注いだ雨水や雪解け水はすべて地中に染み込んでしまい、故に地表を流れる川が存在しないのだ。

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スコリアで覆われた富士山はスポンジのようなもので、透水性が極めて高い

では富士山に染み込んだ大量の水はどこへ行くのかというと、地下深くを流れて山麓の各所から湧き出している。

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富士山の湧水地のひとつ「忍野八海(おしのはっかい)」の濁池
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富士山本宮浅間大社の「涌玉池」では、富士山を登る前に禊が行われていた
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「白糸の滝」は地層の境目から伏流水がダイナミックに噴き出ている

このように、富士山麓には数多くの湧水地があれど、富士山自体には川や滝は存在しない。……のだが、一年のうち雪解けシーズンにあたる5月上旬から6月上旬にかけてのみ、標高約2000mの地点に「まぼろしの滝」が出現するというのだ。

いやはや、なんとも実に気になるではないか。それは一体どのようなものなのか、6月上旬に行ってみることにした。

須走口登山道の始点は「冨士浅間神社(須走浅間神社)」

富士山には主要な登山道が四つ存在する。「まぼろしの滝」はそのうち東口にあたる須走(すばしり)口登山道の五合目から20分ほど歩いたところにあるという。

なので「まぼろしの滝」を見に行くには須走口五合目を目指すことになるのだが、富士山域へ立ち入る前に、まずは「冨士浅間神社」(通称「須走浅間神社」)に挨拶しておこう。

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富士登山道の始点には、富士山を祀る浅間(せんげん)神社が鎮座する
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須走浅間神社の拝殿で参拝を済ませ、いざ富士山へ!​​​​​​
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登山道は社殿の前から富士山へと続いていく
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その周囲には富士山登拝の石碑がズラズラと

これらの石碑には「〇〇回登拝記念」などと刻まれており、江戸時代から昭和初期にかけて流行した富士講(富士山を登拝する信仰グループ)の歴史が偲ばれる。

須走浅間神社の境内を出ると、須走口登山道は静岡県道150号(通称「ふじあざみライン」)へと入る。

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須走口五合目へと続く「ふじあざみライン」の入口

早速この車道を進んでいく――とその前に、まずはすぐ近くにある「道の駅すばしり」に立ち寄り、準備を整えるのが良いだろう。

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富士山に一番近い道の駅という触れ込みの「道の駅すばしり」
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富士山のおいしい水が蛇口から飲み放題、汲み放題だ

トイレを済ませ、自販機で飲み物を買い、おいしい水を汲み、さぁ、改めて須走口五合目を目指して出発だ。

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ふじあざみラインは、直線的な道路がしばらく続く

このほぼ一直線に続く道筋は、ふじあざみラインが開通する以前より使われていた登山道を踏襲したものだ。両岸には松の木が植えられていたりと、なかなかに雰囲気の良い道である。

……が、両側には自衛隊の演習場が広がっているので、時おり射撃音が聞こえてきたりと、少し物々しかったりもする。

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旧登山道を踏襲する直線的な道筋は、この鳥の壁画で終わる
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壁画のすぐ側には「旧登山道」と刻まれた石柱が立っているが……

旧登山道の道筋はここからさらに直線的に登って行くようだが、現在は自衛隊の敷地であることから廃道となっており、通ることはできない。

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しょうがないので、つづら折りのカーブが続くふじあざみラインを進んでいく
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その途中、かなり大規模な砂防ダムの工事が行われていた

スコリアが堆積した富士山はもろく崩れやすい。雨風によって簡単に浸食されるし、大雨の際には土石流が発生したりするそうで、富士山の砂防は並大抵のものではないのだろう。

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砂防ダムを通り過ぎ、少し登ったところで「馬返し」に到着​​した

「馬返し」とはその名の通り、傾斜がきつくなって馬が進めなくなる地点のことだ。また馬返しの先は富士山の聖域として、牛馬を通さない結界としての意味合いもあるという。

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「馬返し」からは未舗装の登山道が残っている

須走浅間神社からこれまでは車道を進むしかなかったが、この馬返しからは昔ながらの登山道を歩くことができる。

いわば、ここからが須走口登山道の本番なのだ。さぁ、張り切って行こうじゃないか。

富士山にもある「グランドキャニオン」

馬返しからの登山道は草木が生い茂り、傾斜もまだまだ緩やかで、歩いていて楽しいハイキングコースである。平日とはいえ登山者の姿はまったくなく、実にもったいない感じだ。

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緑が鮮やかで、なかなかに気持ちの良い登山道である
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ほどなくして車道に差し掛かった
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その傍らには「グランドキャニオン」と刻まれた石柱が立っている

これはなんだろうと思って調べてみると、須走口登山道のすぐ近くに「グランドキャニオン」と呼ばれる谷があるらしい。グランドキャニオンといえばアメリカの大峡谷であるが、それが富士山にもあるとは驚きだ。これは気になるぞ。

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「グランドキャニオン」に期待を寄せつつ、再び登山道を進んでいく
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ここで危うく道を間違えそうになった

この場所、パッと見では正面に踏み跡があるので真っ直ぐ進んでしまいそうであるが、正しいルートは左の谷筋である。 最初は直進してしまい、道を見失ってちょっと焦った。

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真っ直ぐ進むのは間違いで、左の谷を進むのが正解だ
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しばらく、谷筋に沿って登っていく
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谷から上がると、根っこごとひっくり返った倒木が
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あちらこちらで木が倒れている

この辺りは木々が生い茂っているものの、スコリアで覆われた富士山の土壌は薄く、深く根を張ることができないようだ。なので強風に弱く、簡単に倒れてしまうのだろう。

だがこれらの倒木もまた朽ちて土壌の一部となり、少しずつ土の厚みが増していくはずだ。そんな自然の摂理を体感しながら進んでいくと、やがて右手の視界が開けた。くだんの「グランドキャニオン」に差し掛かったようである。

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う、うーん、これが……グランドキャニオン……なのか?
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ロープが張られていてこれ以上先には進めず、全貌を眺めることはできない

確かに切り立った深い谷のようではあるが、いかんせん、視界が悪くて見通すことができない。もう少し先まで行くことができれば谷底まで見えそうだが、立ち入り禁止のロープが張られているのでこれ以上は進めない。

衛星写真だとこんな感じだが、やはりイマイチ迫力が伝わらない

後から聞いた話によると、なんでも崖崩れにより立ち入り範囲が規制されているようである。どうやら須走口登山道からでは、グランドキャニオンの景観を堪能することはできないらしい。

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残念であるがしょうがない、登山道を進むとやがて車道に出た
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二合目の「狩休(かりやす)」に到着である
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そのすぐ先の右手から、五合目へと通じる登山道が続いている

何気なく立ち寄った「小富士」からの眺めが凄い!

さて五合目付近に到着である。須走口登山道はここで「須走口五合目」と「小富士」の分岐点に差し掛かる。

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左奥へ行けば須走口五合目、右手前は小富士の分かれ道である

「まぼろしの滝」へ行くにはここを左に進むのが正解であるが、「小富士」というのも何だかちょっと気になるヒビキだ。せっかくなので寄ってみることにした。

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「小富士」へと至る道のりは、木の根っこのインパクトが凄い
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地下に根を伸ばせないものだから、斜面に沿って根を張っているのだ
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岩石を抱えるように取り込んでいる木もある
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神が宿る磐座(いわくら)になりそうな岩石がゴロゴロしてるのも印象的だ
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登山道の土砂が流れ、苔むした根が浮いている箇所もある

土壌が薄く岩石が多い富士山の山肌において、見事に適応しつつ森林を形成する植物たち。そのたくましさと生命力に感心しつつ進んでいくと、やがて木々が途切れて視界が開けた。

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突然、木々のない砂漠のような場所に出た
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この先に見える丘が「小富士」のようだ
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小富士からは山頂が見え――残念、雲がかかってしまっていた
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しかし下方の眺めはすこぶる良く、山中湖や北富士演習場が一望できる
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視線をさらに北へやると――おぉ、河口湖まで見えるではないか!

木々が生い茂る須走口五合目付近において、小富士の周囲だけは植物が生えておらず開けている。テラスのようにせり出しているのでその視界は極めて広く、まさか河口湖まで見えるとは思っていなかったのでテンションがかなり上がった。

須走口五合目からさほど苦労せずに来ることができる割には素晴らしい景色を堪能できる、「小富士」はまさに天然の展望台である。

須走口五合目から「まぼろしの滝」へ

小富士からの景色を満喫したところで、いよいよ本題の「まぼろしの滝」へ向かうことにする。まずはその入口にあたる、須走口五合目の駐車場まで行かなければ。

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小富士からの道を引き返し、須走口五合目に到着
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五合目から山頂までの登山道は、7月10日の山開きまで閉鎖中である
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山小屋を横切ると、店番のおばちゃんが元気よく声を掛けてくれる
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駐車場を突っ切ると、「まぼろしの滝」の案内標識が。いよいよ佳境だ​​​​​​
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溶岩層が露出した谷を横切り、背の低い森林を進む
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距離は短いものの、なかなかに傾斜が急なので結構疲れる
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それを乗り越えると水平な道となり、木々もまばらになってきた
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そして完全に視界が開け、山麓を見渡しながら歩くことができる
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やがて植物が茂る谷が見えてきた
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「まぼろしの滝」はこの上部にあるはずだ
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露出した溶岩層に沿って、えっちらほっちら登っていく
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そしてこの先に「まぼろしの滝」が――
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「​​​​​まぼろしの滝」、が……流れていない! カラッカラだ!

谷に差し掛かった時から水の気配がまったくないので半ば分かっていたことではあるが、やはりこの日は「まぼろしの滝」が流れていなかった。どうやらもうシーズンが終わった後らしい。

しかし、水が涸れている状態の方が、どのような地形なのか把握しやすいというものだ。せっかくここまで来たのだから、「まぼろしの滝」の地形をよくよく観察してみよう。

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溶岩が流れた跡がスロープのように続いている

なるほど、富士山の大部分を覆うスコリア層は水が染み込みやすいが、このような溶岩層は逆に水を通しにくい性質だ。

この溶岩流の跡はかなり高い標高から続いており、雪解け水がそのスロープを伝って流れ落ちてくるというのが「まぼろしの滝」の正体というワケである。

もっとも、滝として流れ出るには大量の雪解け水が必要であり、「まぼろしの滝」が出現するのは富士山上部に雪がまだかなり残っている状態、なおかつ天気が良く、雪解けが一気に進む日という条件が必要なのだろう。

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この日は、スロープの窪みに小さな水溜まりが残るのみであった
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こうして見ると、地表を流れた溶岩が固まったものだと良く分かる
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それにしても、いやはや、水がなくても素晴らしい眺めではないか

というワケで、「まぼろしの滝」は6月上旬には既に終わっていました。ちゃんちゃん。

――で終わったら怒られるだろうが、安心して頂きたい。ちゃんと水が流れていた日にも見に行っている。

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5月中旬の「まぼろしの滝」。やや雲が出ているが、​しっかり流れていた
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溶岩層の岩肌を、水が勢い良く滑り落ちていく
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雪解け水なだけあって、触ってみると冷たくて気持ちが良い
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というワケで、念願の「まぼろしの滝」を見ることができました
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このくらい雪が残っている時期の、晴れた日の午前中が狙い目だ!

スミマセン、ズルしてました

今回の記事では、須走浅間神社からまぼろしの滝までの全区間をさも歩き通したかのように書いているが、実はかなりの区間をリトルカブ(50cc原付バイク)で移動しており、実際に歩いたのは「馬返し」から「狩休」までの往復と、五合目駐車場から「小富士」および「まぼろしの滝」までの往復だけだ。

最近は部屋に籠りがちで運動不足に陥っており、帰りの運転のための余力を残すことを考えると五合目まで歩き通すことができなかったというのが真相である。

しかしながら、今回歩いた区間だけでも実に清々しいハイキングができた。富士山の山開きシーズンはマイカーが規制されるが、「まぼろしの滝」が見られる時期は五合目まで車両で乗り入れることができる。まださほど暑くなく、緑の美しい季節でもあるので、この時期の晴れた日は富士山五合目までのドライブやハイキングがオススメだ。

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カブでも富士山五合目くらいは問題なく行けるが、山頂を目指したり、雪山を走ったりするのは絶対にやめようね

 

 

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