特集 2013年8月27日

富士山最大の火口、宝永火口を見に行った

富士山ではわざわざ頂上まで行かずとも、巨大な火口を見る事ができるのです
富士山ではわざわざ頂上まで行かずとも、巨大な火口を見る事ができるのです
泣く子も黙る天下の名峰「富士山」。今年は世界遺産になったという事もあってか、特に大勢の登山者で賑わっているそうだ。

せっかくなので私も登りに行きたい所であるが、しかし登山道が混み過ぎて渋滞のようになっているとも聞く。自分のペースで歩けないのは、ちょっと嫌だ。

それならば、山頂へは登らずに宝永火口を見に行ってみよう。そう思った。
1981年神奈川生まれ。テケテケな文化財ライター。古いモノを漁るべく、各地を奔走中。常になんとかなるさと思いながら生きてるが、実際なんとかなってしまっているのがタチ悪い。2011年には30歳の節目として歩き遍路をやりました。2012年には31歳の節目としてサンティアゴ巡礼をやりました。(動画インタビュー)

前の記事:近所のドブ川を源流まで遡る

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富士山の中腹にある、もう一つの火口

富士山は火山である。すなわち噴火口があるワケだ。富士山の火口といえば、やはり山頂の火口をイメージする方が多いだろう。

昔から、富士山を登頂した人々は、火口の縁を時計回りにぐるっと周る「御鉢巡り」をしてきた。今でも「御鉢巡り」をする方は多く、馴染みの深い火口といえるだろう。

ところが、その山頂火口以外にも、富士山には火口が存在する。江戸時代の宝永4年(1707年)に起きた宝永大噴火の火口、「宝永火口」である。
富士山の中腹にぽっかり開いた宝永火口(クリックで火口表示)
三つの火口が連なる、巨大な火口だ(クリックで火口表示)
山頂火口より大きく、遠景でもはっきり確認できる宝永火口。麓から眺めた事はあれど、火口の側にまで行った事のある方はそう多くはないのではないかと思う。

この巨大な火口の縁では、一体どのような景色を見る事ができるのだろう。何とも気になる話じゃないか。しかも調べてみると、宝永火口へは登山道が通じているという。これはもう、実際に行ってみるしかない。

宝永火口へは富士宮口五合目から

さて、その宝永火口だが、表口とも呼ばれる富士宮口五合目から割と近い位置にあり、意外と簡単に見に行く事ができる。

というワケで、まずは富士宮口五合目を目指す。JR身延線の富士宮駅から出ている登山バスに揺られること約一時間20分、ぼーっと景色を眺めているうちに、富士宮口五合目へ到着だ。

駅を出る時にはそこそこ良い天気であったものの、五合目に到着する頃にはすっかり雲に覆われてしまい、少々残念な感じである。まっこと、山の天気は変わりやすい。
上昇気流で雲がもくもくと立ち上ってくる
上昇気流で雲がもくもくと立ち上ってくる
わずかな雲の切れ目から上方が見えた……が、今回は登らない
わずかな雲の切れ目から上方が見えた……が、今回は登らない
宝永火口が広がっているのは、富士宮口五合目の東側である。バスから降りた人々が登山道への階段を上って行く中、私は駐車場の東端から伸びる別の登山道へ向かう。
トラックやブルドーザーが停車している所が宝永火口への入口
トラックやブルドーザーが停車している所が宝永火口への入口
本当にここで良いのか躊躇したが、道標もあるので大丈夫だ
本当にここで良いのか躊躇したが、道標もあるので大丈夫だ
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わずか30分で宝永火口に到着

さぁ、いよいよ登山開始である。……とはいえ、富士宮口五合目からおおむね水平に移動する感じなので、上り下りはさほど無い。

山頂までひたすら登る通常の富士登山道に比べれば、楽々のイージーコースである。歩く人も少なく、混雑しないのも嬉しいところだ。
森林限界付近、木々が茂る中をてくてく歩く
森林限界付近、木々が茂る中をてくてく歩く
30分程行くと、突然開けた場所に出た
30分程行くと、突然開けた場所に出た
どどーんとすり鉢状に広がる、宝永火口の第二火口だ。正面には噴火で形成された宝永山が見える(雲で見えないが、富士山はこの左側にそびえている)
どどーんとすり鉢状に広がる、宝永火口の第二火口だ。正面には噴火で形成された宝永山が見える(雲で見えないが、富士山はこの左側にそびえている)
江戸時代の宝永大噴火によって、富士山の中腹には三つの火口群が誕生した。標高が高い順に、第一火口、第二火口、第三火口と名付けられている。

富士宮口五合目からの登山道を歩いて行くと、その三つの火口のうち、ちょうど真ん中に位置する第二火口の縁に到着する。

ちなみに、富士宮口登山道の新六合目から通じている登山道を歩いてくると、より上部の第一火口に到着する。宝永火口巡りのコースとしては、そちらの方が良いかもしれない。
南側から見た第二火口(雲で見えないが、富士山はこの正面にそびえている)
南側から見た第二火口(雲で見えないが、富士山はこの正面にそびえている)
第二火口の底は凹凸のある砂地。ちょっとした草も生えている
第二火口の底は凹凸のある砂地。ちょっとした草も生えている
どうだろう。このページの写真だけ見せられて、富士山の景色だとすぐに気付く人はそういないのではないだろうか。

富士山といえば山頂まで滑らかに続くシルエットを想像しがちであるが、その中腹にはこんなにも巨大な穴ぼこが三つも連続しているのである。

幅1kmもの広さを持つ、第一火口

第二火口から火口の縁を15分程登ると、三つの火口の中でも圧倒的な規模を誇る第一火口に到着する。

その大きさもさることながら、第一火口では赤い岩肌や溶岩が流れた岩脈など、「いかにも火山!」というような光景を目にする事ができる。
第二火口の上部に広がる第一火口
第二火口の上部に広がる第一火口
火口の中には巨大な岩石がゴロゴロ
火口の中には巨大な岩石がゴロゴロ
飛び散った溶岩がべちゃっとなって作られた、真っ赤な丘もある
飛び散った溶岩がべちゃっとなって作られた、真っ赤な丘もある
火口底の砂地がボコボコしているのが少々不気味だ
火口底の砂地がボコボコしているのが少々不気味だ
ちなみにこの第一火口の道は、富士山の側火山である宝永山への登山道(下山道)も兼ねている。

富士山の山頂まで登った登山者の中には、宝永山を経由して下山してくる方も多いようで、第一火口付近はそこそこの登山者で賑わっていた。

私もまた宝永山まで登ってみようと思ったものの、軽石の急坂は登るのが思いのほか大変で、なおかつ天気もあまり良くなかったので今回は遠慮しておいた。
宝永山の縁はごっつい岩肌が特徴的
宝永山の縁はごっつい岩肌が特徴的
軽石の登山道はストック無しだと登るのがかなり辛い
軽石の登山道はストック無しだと登るのがかなり辛い
私は子どもの頃、近所に転がる石の中から軽石を見つけては喜んでいたが、ここでは落ちている石の全てが軽石だ。

当時の私がここに来たら、さぞ興奮した事だろう(ただし、富士山は国立公園かつ国の特別名勝、史跡に指定されているので、石等の採取は絶対にダメだ)。
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緑豊かな第三火口

さて、残るは第三火口である。第一火口から第二火口へと戻り、さらに火口の縁を辿って第三火口へと向かう。
第二火口の向こう側に広がるのが第三火口
第二火口の向こう側に広がるのが第三火口
第二火口と第三火口の間に立ってみると、すり鉢具合が良く分かる
第二火口と第三火口の間に立ってみると、すり鉢具合が良く分かる
火口の間に生える木々は、山裾に向かってなびく感じだ
火口の間に生える木々は、山裾に向かってなびく感じだ
第一火口や第二火口より標高が低い第三火口は、ちょうど森林限界に位置している。その為、火口の底にも木々が生えているのが特徴的だ。

これまでの岩石岩石とした火口とは、一味違った印象である。
すり鉢の傾斜がなだらかという事もあるのだろう
すり鉢の傾斜がなだらかという事もあるのだろう
火口の底にはカラマツが生えている
火口の底にはカラマツが生えている
登山道は、第三火口を下って行く
登山道は、第三火口を下って行く
背の低いカラマツ林に出た
背の低いカラマツ林に出た
さて、これでお目当ての宝永火口を全て見終える事はできた。引き返して富士宮口五合目に戻っても良いのだが、同じ道をまた歩くというのも芸の無い話である。

地図を見ると、この第三火口の登山道は、富士山の森林限界付近をなぞるように続いており、御殿場口五合目まで行けるようである。

せっかくなので、第三火口を突っ切ってこのまま進んでしまおう。五合目から山頂を経由せず、別の五合目まで歩く。そういう富士登山も面白いじゃないか。
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森林限界を歩いて御殿場口五合目へ

富士登山といえば、岩石がゴロゴロ転がる中をひたすら歩くというイメージがあるものの、その山麓は自然豊かなものである。

特に森林限界の付近は岩石とカラマツのコントラストが面白く、景色の変化も多いので、歩いていて飽きる事がない。
天気が良ければ、眺めも良かったのだろう
天気が良ければ、眺めも良かったのだろう
溶岩で根を深く張れず、吹き下ろしの風も強いので倒木が多い
溶岩で根を深く張れず、吹き下ろしの風も強いので倒木が多い
ふと、溶岩の沢のような場所に出た
ふと、溶岩の沢のような場所に出た
溶岩や噴出物が積み重なった、「幕岩」と呼ばれる岸壁だ
溶岩や噴出物が積み重なった、「幕岩」と呼ばれる岸壁だ
この幕岩には驚かされた。後で調べてみると、なんと30メートルの高さがあるという(ビルでいえば10階の高さだ)。

宝永火口と登山道のルートしか事前知識が無かった私は、思わぬ巨大な岸壁の出現に「すげーすげー」と大興奮である。
道標に従い溶岩の枯れ沢を下る
道標に従い溶岩の枯れ沢を下る
足元に、ちょろちょろとした水の流れがある事に気が付いた
足元に、ちょろちょろとした水の流れがある事に気が付いた
溶岩に滴る水を見つけ、私のテンションはさらにうなぎ上りだ。これはアレか、川の源流ってやつか。

どうやらこの沢は溶岩で覆われていて水が土深くに染みこまず、溶岩の上に積もる土に含まれる水分が染み出しているようである。

この水は少し下流で再び土に染みこんで消えたので、この水が川の源流というワケではないようだが、水が土から染み出す原理を確認できて、個人的には嬉しかった。
溶岩の沢の先は崩壊した崖であった
溶岩の沢の先は崩壊した崖であった
沢を離れ、再び山道を行く
沢を離れ、再び山道を行く
気持ちの良い森林地帯だ
気持ちの良い森林地帯だ
しばらくして森を抜け、視界が開けた
しばらくして森を抜け、視界が開けた
御殿場口五合目に到着である
御殿場口五合目に到着である
山頂から降りてきた人、山頂に向かう人々で賑わっていた
山頂から降りてきた人、山頂に向かう人々で賑わっていた

景観が楽しく人も少ない、かなりオススメなコースです

というワケで、富士宮口五合目から出発して宝永火口を見学し、御殿場口五合目まで歩き通した。晴れていれば左手に富士山の巨体、右手に麓の眺めを見ながら、もっと楽しく歩く事ができたのだろう(曇っていても十分楽しかったが)。

今回のこのコース、宝永火口のダイナミックな景観もさることながら、御殿場口五合目への登山道も想像以上の良さであった。登山道はしっかり整備されて標識も多く、比較的平坦なのでそれほどきつくもない。

にもかかわらず、なぜか歩いている人の数は少ない。平日だった事もあるのかもしれないが、宝永火口を出てからは誰一人会う事がなかった。のんびり富士山の自然を満喫しながら歩くには、最適のルートだと思う。
宝永火口というアクセントがあって、富士山はより魅力的な姿なんだろうな、と改めて思った
宝永火口というアクセントがあって、富士山はより魅力的な姿なんだろうな、と改めて思った
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