まとめ
よく聞こえる金属はこんな感じだ。
・ある程度大きい
・塗膜で覆われてない
銀色でピカピカしたやつが狙い目だ。クリスタルイヤホンとゲルマニウムダイオードというのを買えば、それだけでラジオが聞こえる。いろんな金属につけてみて、聞こえるか聞こえないか実験するのはとても楽しい。送信所はたいてい駅から遠いので歩くのが大変だけど。
以前、ラジオの送信所の近くでイヤホンをそこらへんの金網につけたらラジオが聞こえた、という記憶がある。怪しい記憶なのだが、本当だったのか試してみたい。
一部のAMラジオ局が今月から暫定的に止まる、というニュースを聞いて思い出したのだ。
以前こどもとゲルマニウムラジオを手作りしたときに、うまく聞こえなくて送信所の近くまで行ったら聞こえたことがあった。で、試しにイヤホンをそこらへんの金網に直接つけてみたらそれでも聞こえたのだ。なんだこれでいいじゃん、となった記憶がある。
この機に、それが本当だったのか試してみたい。
さっそく現地にやってきた。
埼玉県川口市にある、文化放送のラジオ送信所だ。駅から30分歩いてやってきた。
記憶では、ここに見えているあらゆる金属にイヤホンをくっつけたらラジオが聞こえたのだ。金網とか、ガードレールとか。
ちなみにくっつけるイヤホンはこんなやつだ。
弱い電流でもうまく音に変換してくれるイヤホンだ。両端がクリップになっているタイプで、いろんなものに挟めるようになっている。
さっそく挟んでみよう。
・・・。
なにも聞こえない。くっつける場所をずらすと、ガリガリと雑音が聞こえるだけだ。その他はシーンとしている。違う金網につけてみたり、他のあらゆる金属につけてみてもまったくなにも変わらなかった。
当時の記憶だとバリバリに聞こえたので、今回もどうせ聞こえるだろうとたかをくくっていた。それだけにショックだった。
このままだとらちがあかないので、ラジオの各部がなにをしてるのかの基本を理解することにした。家で、まずふつうの手作りラジオ、いわゆるゲルマニウムラジオを組み立ててみた。
聞こえると感動する。
それはいいのだが、線がごちゃごちゃしているのでわかりづらい。それぞれの部分が何なのか、模式的に並べ直してみた。
部品を並べただけなので、本来はこうつなげる、という線を赤で描いた。こういう部品で出来てるということはこれで分かるが、大事なのは各部が何をしてるかだ。各部の機能で書き直してみるとこうなる。
左上の「受信する」の部分は、空中を飛んでくる電波を捕まえて電流に変える。その下の「選局する」の部分は二人で一組で、いろいろな局の電波がまざった状態から、狙った局の電波だけを選びとる。
その右側の「検波する」のところが大事なゲルマニウムダイオードだ。「選局する」で取り出した電流は交流なのだが、+とーがバランスした状態になっているのでトータルするとゼロになってしまってイヤホンに電流が流れない。ダイオードは一方通行で+のほうだけを通してくれるので、全体としてゼロでない電流が取り出せる、というわけだ。
で、放送局の近くだとなにがいらないかを考えてみる。
まず選局の仕組みはいらない。文化放送の送信所の近くなら文化放送の電波が一番強い状態に決まっている。
つぎにアンテナだ。ここは分からないけれど、うまいことそこらへんの金網だのガードレールだのがアンテナになってくれれば、不要なのではないか。
すると残るのはこれだけだ。
これだけあれば、送信所の近くでラジオが聞けるのではないだろうか。
というわけで、上の最終的な部品を持ってふたたび送信所を訪れた。
奥に電波を出す鉄塔がある。坂道なので、左側に手すりがあるのが見えるだろうか。ここに、イヤホン(につながったダイオード)の先をぺたりとつけてみた。
・・・聞こえる!!!!!!!!!!
「今日は井上眼科の井上院長に、緑内障について伺います。井上さんよろしくお願いします」「はい、緑内障というのは・・」
と、言っている! 手すりが!!!
実際には、部品の先が点でしか手すりに触れていないので、手がうごくと音も途切れがちになるが、確かにちゃんと聞こえる。これは、感動する。むちゃくちゃ面白い。
気をよくしていろんな金属につけてみると、聞こえるのと聞こえないのがあるようだった。
・・・。
側溝の蓋(グレーチング) は、聞こえなかった。そんなものか。
接触をよくするためにダイオードの先にさらに赤いクリップをつなげているので先端が赤いが、話としては同じだ。
公園に来た。
手前の黄色い鉄の枠につけてみたが、聞こえなかった。奥の赤いのもだめだった。少し気落ちする。
鉄棒はどうだ?
「文化放送おとなりさん、今日のパーソナリティは⚪︎⚪︎さんです」「はい、きょうは・・」
と言っている!! 鉄棒が!!
最初の感動ほどはないのだが、聞こえるとうれしい。しかも鉄棒から聞こえるのだ。
しかし金属ならなんでも聞こえるというわけでもないようだ。塗装の膜がしっかりしているやつはだめそうだ。ステンレスとか、銀色のめっきのやつはよさそう。
こんな感じでひたすら試していく。結果だけをさくさくと紹介したい。
公園の蛇口。聞こえなかった。
単管(鉄パイプ) 。少し聞こえる。
縞鋼板(しまこうはん) 。聞こえない。
電柱のバンド。聞こえる! 冗談みたい。
金網。少し弱いが聞こえる。
ガードレール。よく聞こえる!
マンホール。よく聞こえる。
ラジオを聞いているだけだが、何かの調査のようだ。
実は似たようなことは10年以上前に当サイトで林さんが記事にしている。
送信所の敷地内に住んでいた人のブログでの、蛇口やアジサイの葉からラジオ放送が聞こえた、という証言をもとに検証するという内容だ。結論からいうと聞こえなかったが、ダイオードが大事だということは記事でも触れられている。
今回わかったのは、送信所の近くならあとはダイオードだけで聞こえるということだ。錆びた金属や一部の鉱石などもダイオードと同じ役割をするので、本当の偶然でそのようなものが自然にあれば、かつ電流を音に変えるなにかがあれば(あるのか?)聞こえるのかもしれない。
よく聞こえる金属はこんな感じだ。
・ある程度大きい
・塗膜で覆われてない
銀色でピカピカしたやつが狙い目だ。クリスタルイヤホンとゲルマニウムダイオードというのを買えば、それだけでラジオが聞こえる。いろんな金属につけてみて、聞こえるか聞こえないか実験するのはとても楽しい。送信所はたいてい駅から遠いので歩くのが大変だけど。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |