特集 2020年10月1日

「肉」フレーバーのウイスキーをつくる

「焼いたお肉の香りだけでお米が食べられそう」と言った人がいる。

実際肉の香りさえすれば、人は肉を食べたような気持ちになれるのではないだろうか。

ではもし、肉の香りの酒を作ることができたら…?
海外のバーボン直瓶巨漢男性にならい、肉フレーバーのウイスキーを作ってみた。

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本記事は、デイリーポータルZ新人賞2020の「記事部門 優秀賞」受賞作品です。オリジナルはこちらです↓
『肉』フレーバーのウイスキーをつくる」(受賞者:JUNERAYさん)

肉の香り

“嗅覚は想像力の感覚である”
- ジャン=ジャック・ルソー

いまこの瞬間、肉の香りを鮮明に思い出してほしい。
あなたにはそれができるだろうか。
焼いた肉、血の滴るような生の肉、燻製されたベーコン…なんの香りを思い出そうとするかは人それぞれだが、「香りそのもの」を掴むことは難しい。
「家の近くの路地で一瞬だけする花の香り」「元彼が使っていたシャンプーの香り」「小学校の香り」など、世界には名前のない香りがたくさんある。
どこにあるかといえば、記憶の中だ。
私たちは香りを思い出すとき、自分の記憶を辿って、その残像を再生することになる。
そこで、一つの疑問がある。

記憶を呼び起こして香りをイメージできるのであれば、
香りさえあれば記憶は蘇るのではないだろうか。
つまり、肉の香りを保存しておけたら、いつでも肉の気分になれるのでは?
そしてその保存されたものが美味しかったらめちゃくちゃヤバいのでは?スーパーマジカルビッグハッピーでは???
ということで、肉フレーバーの酒をつくる。

肉の可能性

以前、スーパーで買える材料でオシャレっぽいカクテルが作れないかという試みをしたことがある。材料を探しながらスーパーを歩いた際、明らかなホットスポットとコールドスポットがあることに気がついた。

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カクテルメイキングを念頭に置いて歩くと、フルーツや野菜、乳製品などは避けては通れない棚だ。
飲料コーナーに至っては往復しすぎてシャトルランなのかと思った。

その中でもコールド中のコールド。
酒モクスーパーパトロールにおける絶対零度スポットがある。

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何度カクテルを作るシミュレーションをしても、「インターネットおもしろ記事のやつ」か、「料理が下手なヒロインが主人公に作るやつ」になってしまう。

そんなはずはない。
肉や魚も酒になれる未来があるはずだ。

肉と技術

肉の香りを抽出する方法を模索していたところ、海外のYouTuberが最高のバイブスの動画をアップしていたので、わたしもそれにならうこととした。

髭の巨漢が肉汁をバーボンに注ぐ様は、昔の人が見たら稲妻かと思うだろう。

これはファット・ウォッシュと呼ばれ、インフュージョンと並んで世界中のチャレンジ精神溢れるバーテンダー達が実践している技法だ。
脂と酒を混ぜ、酒の不純物を取り除く(ウォッシュする) と同時に香りを移す。
ちなみにインフュージョンとは、酒にハーブやフルーツなどを漬け込んで香りを移すテクニックであり、梅酒なんかも広い視点で見ればインフュージョンかもしれない。

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レモンとローズマリーをウォッカに浸漬させたインフューズド・ウォッカ

肉を焼く

使用する肉はこれだ。

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スーパーで買える一般的なベーコンブロック。
燻製の香りも一緒に閉じ込められたら旨いに違いない。

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脂身を液体にして取り出すために、ブロック状に切って焼く。
表面積が大きいと脂が出やすい気がする。

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油ハネがすごい
弱火でじっくり焼くと、脂がしっかり溶け出たカリカリベーコンが作れる。
ちょっと焦げたくらいの方がいい香り。

途中からふらっと現れた夫に「脂身だけ焼いたら早いよ」と囁かれ、ベーコンから脂身だけ削ぎ落とすダイエットの悪魔のような所業に出た。

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おれはダイエット・デーモン。
手作業で丁寧に脂身を削がれたベーコンは、まるでロースハムだ。

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脂身の脂すげーー!!!
肉を沢山焼いていると5種類以上の単語が使えなくなる。

そして酒にしてしまうといっても、貴重な命をいただくわけである。
肉本体も美味しく食べられなければ豚が夢枕に立ちめちゃくちゃ怖いであろう。わたしは君たちを絶対に粗末になんかしない。
というわけで、焼いたベーコンは美味しくいただく。
カリカリに焼いた脂身部分はビールのつまみとして最高だった。
丁寧な偽ロース部分は夫の手によってカルボナーラになった。

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うまい!

肉に合う酒

肉を焼き始めたあたりで、やはりバーボンしかないなと決めていた。
あのYouTuberの方もFour Rosesを直飲みしていたし。
ケンタッキーの文化に敬意を払い、今回はわたしのお気に入りバーボンMaker’s Markを使用する。

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近所のスーパーで2,000円だった。こんなに美味しくてかわいいのに…?

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洗ってよく乾燥させた瓶に取り出した脂を入れ、

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バーボンを注ぐ。

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よく混ぜる。振ってもよい。(手は夫の)

こうして脂と酒を触れさせておくことで香りが移るが、このまま飲むと胃もたれで苦しむことになるため、冷やして脂のみを固める。
冷蔵庫で1晩。

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こちらが翌朝冷え固まった肉バーボンである。

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コーヒーフィルターを使用し、バーボン部分のみを取り出す。
残った脂でパンなどを焼くとめちゃくちゃいい香りでおいしい。

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完成
肉フレーバーのウイスキーができた。

肉フレーバーのウイスキー

まずストレートでテイスティングする。

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バーボンの甘やかな香りに、オイリーかつ熱い喉越し。後味にふくよかなベーコン。
すごい。
完全に「ベーコンを食べながらウイスキーを飲んだ口」になる。
無意識に焼いたベーコンを探してしまうが、そこにはまっさらなテーブルがあるばかり。
ベーコンの不在によって、むしろベーコンを強く感じてしまう。

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ソーダで割ってレモンを絞ってみた。
ベーコンウォッシュド・ハイボールである。
勝手なイメージだが、ケンタッキー州の小さいお洒落な宿で出てくる朝食っぽい。
ここじゃ朝からハイボールよ!!とキッチンのおばさんがサニーサイドアップ、うっすいパサパサのパンと共に運んできてくれる朝食。
シーザーサラダとフルーツ。
そしてカリカリのベーコン。
どうしても、どうしても飲むたびにお腹がすいてしまう。


肉の不在

肉フレーバーのウイスキーを作ることで、より肉の不在を感じてしまうという不条理な結果になってしまった。
日本人は肉の脂を避ける傾向にあるというが、香りの成分は油溶性のものが多い。
スパイスカレーを作ったことがある人ならご想像に容易いと思うが、脂(油) はフレーバーをたたえた命の海になり得るということを忘れてはならない。
オリーブオイルで香ばしい香りを放つローズマリーやガーリック、胡麻油に投じられる葱。
それら全て、ファットウォッシュによってフレーバードの酒になれる可能性を秘めている。
興味を持った方がいたら、ぜひチャレンジしてみてほしい。
大人にしかできない自由研究ほど楽しいものはない。

では、わたしはこれから魚フレーバーの酒をつくる方法を考えますので、この辺で。

(お酒は20歳になってから).

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