「光と音のハオハオハオ」ができるまで
今回、冒頭で紹介した「光と音のハオハオハオ」の代表を務めるハオハオハオさんにブッダマシーンコレクションを見せていただく機会を得た。一つ一つの特徴を解説していただきつつ、主に中国で行っているという「ブッダマシーン買い付け」に関するあれこれについてもお話を聞いていきたい。
これが今回、ハオハオハオさんが見せてくれたブッダマシーンの数々。中にはブッダマシーンの枠からはみ出すものも含まれるが、約50種類を並べていただいた。全部私物とのこと!
そしてこちらがハオハオハオさん。
というかまず、なんでそもそも「ブッダマシーン」を集めたり仕入れたりするということをしているのか、そのきっかけから聞いてみよう。
――ハオハオハオさんがブッダマシーンと出会ったのはいつのことだったんですか?
「『FM3』っていう中国の音楽ユニット(Christiaan VirantとZhang Jianによる電子音楽ユニット)がいるんですけど、その人たちが『Buddha Machine』っていうのを発売して、メディアとかにも取り上げられたんです。それはアンビエントマシーンというか、いくつかのフレーズがループで再生されるものなんですけど」
――そういうものがあったんですね。これだ。
「これに出会ったのが2005年ぐらいの時でした。この『FM3』の『Buddha Machine』は色々種類があって、世界的にも有名になって『コーネリアス』とコラボした『攻殻機動隊モデル』が出たりして。私も確かヴィレヴァンかタワレコかで買ったんです」
――普通に日本で手に入るものだったわけですね。
「そうなんですよ。この『FM3』の元ネタになっているのがブッダマシーンで、そっちは本当にお経を再生するためのものなんです」
――なるほど『FM3』の『Buddha Machine』の元ネタのブッダマシーンがあると。名前が同じだからちょっとややこしい。
「そのお経を流す方のブッダマシーンも欲しいと思って探していて、中国とかアジアの他の国に行くたびに探していました。色々探してやっと見つけたのがインドネシアのジャカルタの中華街だったんです」
――結構大きい。
「これに出会ったのが2015年ぐらいでした」
――あ、じゃあ、探し始めてからかなりの時間が流れたんですね。
「そうですね。ようやく見つけたんです。これは50曲入りですね」
「このボタンで選曲できます」
――こういう風に、複数の曲が入っているのを選んで再生できるっていうのが基本なんですね。それにしても再生すると光るこのライト、かっこいいですね。
「いいですよね。デザインもシンプルで」
――ジャカルタではこの1種類だけが見つかったんですか?
「はい。結構探したんですけどジャカルタにはこれしかなかったです。でも、これもジャカルタで買ったものですけど中国産だし、どうやらこれ以外にも中国に行けば色々バリエーションがありそうだなと思いました」
――なるほど、ブッダマシーンは中国から生まれてるんじゃないかと見当がついたわけですね。
「実際これまでに見つけたブッダマシーンはすべて中国産なんです。そこから一気に集め出したのは2年前の春ぐらいでした。ちょうど仕事をやめて無職になったんですよ。せっかくだから旅行に行きたいと思ったんですけど、ただ行くだけじゃつまらないと思って、ブッダマシーンを探して“買い付け”って言えるぐらい集めるっていうのを目的にしたら楽しいなと思って、それが『光と音のハオハオハオ』につながりました」
ブッダマシーンはどんなところで売られているのか
――旅の行く先はやはり中国に?
「最初は中国に行って、その足でミャンマーにいってスリランカに行って、ベトナムに行ってとか、色々まわったんですけど、ブッダマシーンは結局中国でしかほとんど見つけられなかったんですよ」
――そうなんですね。中国ではどういうところで売っているんですか?
「中国の浙江省金華市に義烏(イーウー)っていう世界中のバイヤーが買いにくるような市場があって、市場って言っても、大きなビルの中に小さいお店がたくさん入っているような。一つのお店を3分ぐらいかけて見ていったら1年かかるような場所があるんです(笑)」
――巨大な市場なんですね。それはすごそうです。
「そこで色々見つけることができたんです」
――市場の中のどんなお店で売っているんですか?
「仏具問屋ですね。ブッダマシーンの専門店みたいなものがあるわけじゃなくて、仏具店の一部に置いてあることが多いです」
――なんとなく「蚤の市」とかフリーマーケットみたいなところで売られているのかと思っていました。
「そういうところでは売ってないんですよ。タイの蚤の市では見たことがあるんですけど、めちゃめちゃ高い値段で売られてましたね」
――じゃあ、とにかく中国の中でだけ色々なブッダマシーンが作られているっていうことなんですね。それぞれのマシーンに違いはあるんですか?
「入っている曲は割と同じようなものが多かったりするんですけど、同じ曲でもアレンジが違ったりします。あとは曲数ですよね。曲数にはかなり幅があります。6曲入りぐらいのものもあれば300曲以上入っているものもあります。それと、機能性の部分ですね。リモコンがついてるのがあったり」
――なるほど、形も色も違うし。奥が深い。収録されてる音源は、単純にお経を唱えているだけかと思ったら、意外ともっと歌っぽいものが多いんですね。
「お経だけ、例えば『アーミータファー(阿弥陀仏)』って何度も繰り返し唱える声も入っているんですけど、だいたいのマシーンにはお経だけっていうのと、念仏ソングが両方入っているんですね」
――「念仏ソング」ですか。
「お経にメロディをつけたものというか、『南無阿弥陀仏』っていう言葉にメロディがついてたりするものです」
――日本の仏教からイメージする感じとだいぶ違いますね。
「例えばさっきのマシーンの2曲目に『大悲咒(ダイヒシュウ)』っていう曲が入っているんですけど、この曲ってほとんどのブッダマシーンに入ってるんです。中国では般若心経ぐらいポピュラーなお経で、それを歌にしてるんです。これがだいたいアンセムていう感じで、1曲目とかに入ってるんですよ」
――みなさんご存知のあの曲っていう感じなのかな。
「これはマシーンによって結構アレンジが違うんで、聴き比べてみるのもいいと思います」
――色んな形のものがありますね。
「ものによっては内蔵曲が入ってるのに加えて、さらにSDカードが入るんです。これもそうです。SDカードに好きな曲を入れれば、それを再生するプレーヤーにもなるんですよ」
――木魚の形だ。これはちょっと欲しい(笑)だって普通にポータブル音楽プレーヤーとしてもコンパクトでいいですもんね。
「もちろん、SDカードなしで内蔵されているお経や念仏を聞いてもいいですし」
――もはやブッダマシーンの枠を超えつつありますね。
「これは最新のモデルで、2年前ぐらいから出て来始めたものなんです。今何曲目を再生してるのかも表示されるし、かなりハイテクなんですよね」
――ブッダマシーンはどんどん進化していってるんですね。
「最近では充電式のものも多いですね」
――充電するっていうことは、携帯する前提なのか。
「そうなんです。傾向的に最近はポータブルのものが増えてますね。さらにSDカードとかマイクロSDカードが入るような」
ブッダマシーンは中国ではポピュラーなもの?
――そもそも中国では、ブッダマシーンは日常の中に当たり前にあるものなんですか?
「どうでしょうね。中国ではお寺に置いてあるのを見るのと、お店の中の、日本でいう神棚みたいなところに飾ってあるのを見かけます。知り合いに中国の人がいて、ブッダマシーンについて聞いてみたら、『こういうのを持ってるのは熱心な仏教の信者か、お坊さんですよ』と。どこの家庭にでもあるようなものではないと思います」
――確かに。このマシーンを身近に置いて繰り返し念仏を聞くわけですもんね。それはやはり熱心な気持ちがないとしないことかもしれない。
「日本でも熱心な仏教徒の方もいるし、宗派としては仏教だけど特に日常的に何かしているわけではない人もいますよね。中国もそんなに変わらないそうです」
――例えば熱心な中国の仏教徒の方がいたとして、このブッダマシーンをどんな時に使うんだろうと思うと不思議なんですよね。お経を唱えるなら自分で唱えてもいいわけじゃないですか。
「そうですね。どんな風に使っているんでしょうね。以前、新大久保を歩いている時に袈裟を来た海外の方がいて、首からブッダマシーンをぶら下げて、音を鳴らしながら歩いているのを見たんですよ」
――おお、そうなんですか!なるほど、そうやって、例えば町を歩いていてもずっと念仏に触れていることができるっていう使い方もあるのか。
「単純に聞いていて気持ちが安らぐというのもあると思うし、そこは色々なのかな……あ、これはリモコン式なんですけど」
「USBも挿せるようになってるんですよ」
――わー(笑)USBにはやっぱり自分の好きな曲を入れるんでしょうね。熱心にお経を聴きたいんだけども、音楽プレーヤーとしても使いたいっていう。どっちなんだブッダマシーン!でもあれか、USBにさらに念仏ソングをたっぷり入れる方もいるかもしれませんね。
「曲数が多くなってもリモコンで選べるので便利です」
――それこそお店の神棚的な位置に置いておいてもリモコンで使えると。
「これは、5個仕入れてきたんですけど3個しか動かなかったです(笑)」
――中には粗悪なものもあるんですね。
「持ってきてみると半分ぐらいは動かないということもありますね。音が出るけど光らないとか。光るけど音が出ないとか(笑)そこはちょっとギャンブルみたいなところがあります」
――そうかー。たくさん仕入れるとなると大変なことも多そうですね。不良品はどうするんですか?
「ブッダマシーンですから、捨てることもできないんです(笑) 取ってあります。ちょっと修理すれば直るんだとは思うんですけどね」
――買い付ける時に高い値段をふっかけられたりとかっていうことはないですか?
「それはなくて、ただ、同じものでもお店によって結構高く売っているところがあったりするので、そこは見極めます。たくさん買うと『なんでこんなの買うの?』ってたまに言われるんですけど、自分の通販サイトを見せると納得してくれますね」
――ハオハオハオさんは中国語はお上手なんですか?
「いや、全然で、グーグル翻訳と身振り手振りでなんとかやっています。でも、同じものが10個欲しいって言ってお店の人が『わかったわかった』って言っても、持ち帰って箱を開けてみると違う色のが入ってたりとか、こっちの意図が伝わってないこともあったりしますね」
――仕入れたものはどうやって運ぶんですか?
「船便で送るものもあれば、IKEAのでっかい袋とかに入れて自分で持ち運ぶものもあります」
――これって特に空港の保安検査とかでは何も言われないんですか?
「今まで特にトラブルはなかったです。きちんと手続きすれば問題ないと思います。あ、でも充電式のものはダメなんですよ。充電池が持ち込めないので、そういうものは船便で送ります。でもたまに船便で送る時の手続きで『これは何ですか』と言われて説明に困る時があります。『リズムマシーンです』って説明して、なかなかわかってもらえなかったりして」
ブッダマシーンはこんなに色々ある!
――ハオハオハオさんのお気に入りのブッダマシーンは強いていうとどれでしょうか。
「一つというのは選べないんですけど、この二つは好きです。すごく地味なんですけど」
――デザインが渋いですね。
「色が違うだけじゃなくて、収録曲も全部違っていて、箱も違って、台湾音源と中国語音源、という風に分かれています」
――こういう渋い系統のと別に、ビッカビカなものもありますよね。これなんかすごいなー。
――中国の仏教観って、日本とはまた全然違いますよね。というか日本の仏教だけが極端に渋いのですかね。インドの仏像もビカビカだったりしますもんね。
「やっぱり深く信奉しているからこそ、今の時代にできる最高の崇め方をするというか、テクノロジーを使ってできることはやっておこう、というような思いがあるような気がします」
――なるほど。今なら光をバーッと出して美しい演出なんかもできるから、そうやってさらに仏教の世界を表現すればいいじゃないかっていう。そう聞くと納得です。
「これは光り方を6種類変えられるんですよ」
せっかくなのでハオハオハオさんが用意してくれたブッダマシーンコレクションをダーッと紹介していこう。
すごい……。本当に多種多様である。
「光と音のハオハオハオ」のこれから
インタビューを再開しよう。
――買い付けはいつも長期に渡って行うんですか?
「いや、いつもほぼ一泊二日でいきます。もう、ある程度集めてしまって、もともとこれで『商売をしたい!』『儲けたい!』みたいな気持ちは全然なかったですし、最近は買い付けは無理にせず、中国以外の国の中華街で見たことないものを探す方が楽しいですね」
――そうですよね。最初は知らないブッダマシーンばっかりだったけど、だんだん見たことあるものが多くなるような感じですか?
「ですね。あまり新しいものが見つからなくなってきました。あと、時代の変化というか、チープなものとかギラギラした派手なブッダマシーンがなくなってきて、高級志向のしっかりしたデザインのものが多くなってきて、そうなるとそれはそれでちょっと寂しいというか」
――「なんだこれは!」みたいに驚くようなものは減ってきていると。とはいえ、「光と音のハオハオハオ」では結構頻繁に新しいものが入荷して、すぐに売り切れているような印象があります。
「今はまた別の仕事を始めていて、発送作業も限られた時間にしかできないので、無理のないペースで出品するようにしているんです。一時期はツイッターでバズッたりしたこともあって、出品すると即完売っていう状態だったんですけど、その後は色々な方がオンラインでブッダマシーンを売るようになって、横浜の中華街でも最近は売ってたりして、落ち着いてきましたね。でも、昔は欲しくてアジアを探し回っても手に入らなかったので、良い時代になったなって(笑)」
――「光と音のハオハオハオ」さんはイベントにも出店されることがあると聞きました。
「たくさんバンドが出る音楽イベントですとか、色々なところに呼んでもらうことがあります。そういう時はだいたい10種類ぐらいブッダマシーンを用意して販売しています。そういう場所だと存在自体を初めて知るっていう人が多いので『何ですかこれ?』って驚かれますね」
――これからも新しいブッダマシーンを探していく予定ですか?
「まだ探しますね。再来週はトルコに行く予定なのでまたそこで探してみようと思っています。あと、中国でも今度は深圳市の方に行ってみようかなって。そこにブッダマシーンの工場があるらしいので見学させてもらえないかなと思っています」
――工場見学!それはすごそうです。またお話を聞かせて欲しいです。今さらですけど、ハオハオハオさんは昔から仏教に興味があるんですか?
「いえ、私自身は無宗教なのですが、世界の宗教や宗教に関する文化の違いに興味があるんです。その中でブッダマシーンに特に惹かれたのは、中国がやっぱり好きなんだと思います。海外旅行が好きで今まで37か国に行ったことがあるんです。でも初めて中国に行った時に他とは違う気持ちになって、すごく、帰りたくないって思ったんです」
――へー!中国は私にとってはまだまだわからないことだらけで、でもすごく魅力を感じます。雑貨の色合いとかも面白いですよね。チープさがあって派手でエネルギッシュで、かと思うとすごく落ち着いた色彩のものもあったり。
「私も中国の雑貨はもともと好きなんですよ」
――ブッダマシーンにもそのテイストが反映されてますもんね。「光と音のハオハオハオ」の今後のご予定はどうなっていますか?
「4月末から東急ハンズ新宿店でマニアフェスタというイベントが開催されて、そこに出品する予定なんです。それに間に合わせようと思ってブッダマシーンをテーマにした本を作っているところです」
――それは絶対欲しいです!できあがりを楽しみにしています。たくさんお話を聞かせていただきありがとうございましたー!
ブッダマシーンを色々と紹介してもらう中で、「ソーラーマニ車」というものも見せてもらった。「マニ車」はチベット仏教の仏具で、大きさは様々あるがほとんどが円筒形。それを回転させると経文を唱えたのと同じ功徳がある、とされるもの。日本のお寺にも「輪蔵」という似たものがあって、回転させるとお経を唱えたのと同じご利益があるとされていたりする。
それのソーラーパネル付きのものが「ソーラーマニ車」で、太陽光を受けて自動で回るようになっているのだ。これはすごい。「回すだけで経文を唱えたのと同じ効果」というのもちょっとショートカットな発想だけど、それをもう自分で回してすらいないのだ。勝手にずっと回ってくれる。
くるくる回る「ソーラーマニ車」を見ていて、ふと思ったのだが、もしかしてブッダマシーンにもそのショートカットな発想があるのかもしれない。スイッチを入れれば自動で念仏を唱えてくれる。気が済むまで何度も繰り返してくれる。例えばそれを100回聞いていれば、お経を100回唱えたのと同じだ、というような。
宗教観は人それぞれで、上記のような推測すら失礼に感じられてしまう方もいるかもしれないが、お寺のお線香の煙を手で仰いで「ほら、頭がよくなるようにいっぱい頭に浴びせときなさい!」みたいに母親に言われるような、あのラフな「ありがたみ」が私は好きで、そういうものが私たちの限られた人生を「まあまあ幸も不幸も色々あるけどさ、なぜか生まれて、とにかく生きていくんだし!」みたいに後押してくれているように感じる。
少なくとも、今回ハオハオハオさんが見せてくれたようなブッダマシーンの広がりを許す(あるいは求める)中国の仏教文化の寛容さや、人なつっこい感じは私にはとても魅力的に思えた。
で、すっかり感化されてハオハオハオさんおすすめのブッダマシーンを手に入れ、仕事に疲れた時などポチッと再生している日々である。