白虎隊の街・会津若松の木刀ラインナップがすごい
話は今年の5月に遡る。飯盛山周辺で木刀の多さにたまげたのだ。木刀がどの土産屋に行ってもある。ありすぎる。
あまりの多さに興奮し、お店のおばさんに声をかけた。するとおばさんは「会津若松でつくられているからね。全国各地のお土産用の木刀も、会津若松でつくられているって聞いているわ」と言ったのだ。
え、そうなんだ!
それはぜひとも話を聞きにいかねば。数ヶ月後、再び会津に向かった。
お土産としての木刀、スタートは48年前
尋ねたのは、福島県会津若松の「タカハシ産業」さんだ。お土産としての木刀をつくり始め、全国へと展開した会社である。
迎えてくれたのは、会長の高橋さんと社長の高橋さん。余談だが、わたしの本名も高橋なので、この取材、高橋密度が非常に高い。
メードインチャイナの波は武士道にも及んでいたとは。衝撃だがこのまま話をすすめよう。
つまり昭和45年ごろである。当時はまだ「お土産品」を名乗るものが多くなかったそうだ。そこで「木刀を白虎隊のまち・会津のお土産にするのはどうか」と考えたのが始まりだという。
そうだった。生まれた頃から、観光地にいけばお土産があったから、意識して考えたことがなかったのだが、「お土産をつくろう」と思った人がいるから、お土産はあるのだ。
修学旅行の記憶に木刀がある理由は「営業ルート」
会津で生まれた木刀がなぜ全国区になったのか。それは、会長自らが「お土産の木刀」を全国へ営業したからだという。つまり、会長の行動が、わたしたちの修学旅行の記憶に多大な影響をおよぼしているのだ。
もちろん!今だと、ネットでできるけど、その時代はなかったから。職業別電話帳を見て、ピックアップして書き出しておいて歩くんです。
毎年、製造がシーズンオフになる2月に一週間くらいかけて回りました。例えば東京で問屋さんが見つかったら、小田原移動して、歩いて。扱ってくれる問屋が見つかったら静岡に移動して。地域ごとに1軒ずつ問屋さんを見つけていく。
おお、修学旅行の王道の地・トップ2である。ちなみに橋田さんもわたしも、修学旅行は京都と奈良だった。
あまりなかったですが、断られたのは、東北かな。東北地方は、秋口になるともう冬がくるんでね。秋になると仕入れを抑えちゃうんだよね。
でも、そんなに難しいことではなかったんです。当時お土産用の木刀をつくっていたのは、会津だけだったから。静岡や小田原も木工品は盛んなんだけど、木刀はつくっていなかった。つくってもたぶん、単価的に負けてしまうからだろうね。
どうしてこんな値段でできるのかっていうと、自分の会社のなかで、それにスムーズにいくように機械をつくってしまうわけですよ。
ストレートな発想だが、実際にやるとなると結構大変なんじゃないだろうか。そんな「自分たちでつくっちゃおう」が形になったものがこちらである。
一気に動き出すノコギリがかっこいい。機械が切り出す木材はすべて木刀サイズ。木刀のためだけの機械である。
ちなみに、シルクスクリーンを導入する前は、手作業で1つ1つ判子を押していたのだそうだ。奥にしまっていたものを見せてもらった。
木刀は儲からない
そんな木刀だが、ピーク時に比べ、生産数はがくんと減っているという。今タカハシ産業で売り上げの半分を占めているのは、業務用のピザをのせるピザトレー、ステーキ皿の下の木台、木べらなどだ。
おしゃれな雑貨もつくっている
と、先ほど、社長の海外出張の話が少し出た。なぜ海外に行くのかというと、社長の代から始まった事業のためだという。それは、ざっくり言うと、おしゃれな雑貨ブランドの制作である。
ブランド名は「Eau(オー)」。表参道や銀座のショーウィンドウに飾られているような、木製のデザイン小物や家具を想像してほしい。
このブランドを始めるためにデザインを勉強した
なぜブランド雑貨をつくるようになったのだろう。
このブランドを始める前は、別の会社で7年間営業をやっていました。会津に帰ってくる時に、どう会社を飛躍させるのか、競合と戦わないようにするためにはどうしたらいいのかを考えた時に、オリジナルのブランドをつくるのが良いと思ったんです。
でもデザイナーさんにお願いすると、すごく高いと聞いたんです。で、色々計算してみると、あまりにも利益が上がらなすぎるので、じゃあデザインは俺がやろうと。
さっきの会長の「機械を自社でつくっちゃおう」同様、話としてはストレートなのだが、急な坂道をがっしがしと駆け上る展開である。
でも当初はスケッチを描いても、もうそれが、何なのかわからないくらい下手くそだったんです。独学で勉強して、あとはきれいなものをあちこちに見に行きました。
デザインを勉強しようと思い立ってから、巨匠たちが描いた絵画の線や色の美しさを徐々に認識できるようになりました。わからなくても、ひとつ何かわかると、わかりはじめてくる。
まさか木刀の話を聞きにきて、照明を6時間見続ける話を聞くとは想像してなかった。想定外すぎる展開である。
木刀もブランド雑貨も同じ「強み」を持っている
後日、浅草の仲見世通りを探索した。タカハシ産業の木刀があると聞いていたのだ。
「木刀、売れていますか?」と単刀直入にお店の人に聞いてみたところ「修学旅行の時期にはけっこう売れますよ」とのことだった。
先生がOKしているか確認してから販売するそうだ。若干厳しくはなったものの、修学旅行と木刀の関係性は、今この瞬間も健在だった。
バランス感覚がすごい
外野の勝手な意見ではあるけれど、木刀、機械が壊れるまでは続けて欲しいなぁと思う。