特集 2018年9月17日

喜多方ラーメンを喜多方で食べて揺さぶられる

水筒に入れて持ち歩きたいスープだと感慨にふけりながら、ラーメンを4杯食べた話です
水筒に入れて持ち歩きたいスープだと感慨にふけりながら、ラーメンを4杯食べた話です
福島県喜多方市は「喜多方ラーメン」の本拠地だと、いつのまにか知っていた。だけど、どんなラーメンなのかよくわかっていない。

そんな折、喜多方にまあまあ近い街・会津若松にいく用事ができた。喜多方ラーメンを知る、またとない良い機会だ。

食べ歩いてみたところ、最高の夏が過ごせたのでお伝えしたい。
1981年群馬県生まれ。ライター兼イラストレーター。飲食物全般がだいたい好きだという、ざっくりとした見解で生きています。とくに好きなのはカレー。

前の記事:橋みたいな箸をつくってみたい

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知らない街の食べ物を知っているわたしたち

今回の記事は喜多方ラーメン話なんだが、まずはバゲットの話から始めたい。
バゲットさん。故郷はフランス
バゲットさん。故郷はフランス
飛行機で片道約13時間、フランスは遠い。だけど行ったことがなくても、わたしたちの多くはバゲットの存在を知っている。
しかも、行ったことがないはずなのに「バゲットを小脇に抱えながら通りを歩いている人」の姿まで、想像したりしてしまう
しかも、行ったことがないはずなのに「バゲットを小脇に抱えながら通りを歩いている人」の姿まで、想像したりしてしまう
行ったことはないけれど、知っているのだ。

海外に限った話じゃない。以下の3つのカードを見て、共通事項を考えてみてほしい。
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この3つの土地に、行ったことがある人もない人も、心の中に浮かぶ答えはきっと「ラーメン」なのではないだろうか。

わたしも例に漏れず、喜多方と聞くと即座にラーメンを思う。1秒かからない速さだ。なのに、喜多方ラーメンの詳細は知らない……ってなんということなんだ。
知っているけど知らない微妙さよ
知っているけど知らない微妙さよ
というか、ラーメンのこと自体よくわかっていない可能性もある。

ラーメンには奥深い世界があるとちらちら聞く。だがわたしは、その深さについてはよくわからぬまま、ラーメンと名のつくものの大体を美味しいと感じながら過ごしてきた。

しょうゆ味も塩味もとんこつ味も味噌味も好きだ。店主渾身のスープを「うまい!」と言いながら飲む一方で、インスタントのケミカル感あふれる悪魔のような味のスープも「うまい!」とうっかり飲み干してしまう。だって、どちらも大好きだし美味しいのだ。

食べてみたところで違いがわかるか大いに不安だが、知るためにはまず、実際に食べるのが一番だろう。(訳:ラーメン食べたい)

行くぞ、喜多方!

よく似たラーメン感を持つ2人が揃いました

会津若松駅から喜多方へは鉄道で向かう。
乗車時間約30分。だが、もしもこの列車に乗り遅れると次の列車までは1時間以上待つらしい。なんだ、この近くて遠い妙な感じは
乗車時間約30分。だが、もしもこの列車に乗り遅れると次の列車までは1時間以上待つらしい。なんだ、この近くて遠い妙な感じは
乗りながら、同行の編集担当橋田さんに、ラーメンをどう思っているか聞いてみた。

びっくりした。ここに心の鏡があるのではないかと思うくらい、わたしと似たり寄ったりだったのだ。
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「喜多方ラーメン、食べたことありますか?」とお互いに質問しあったところ、2人とも、そもそも食べたかどうか覚えていないこともわかった。
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ごめん、喜多方ラーメン
喜多方駅の階段。あと3段で登り切れるあたりで「元気を出してください」と励ましてくれた。親切だ
喜多方駅の階段。あと3段で登り切れるあたりで「元気を出してください」と励ましてくれた。親切だ
喜多方は蔵の街でもある。そのせいか、色々なものが蔵になりたがっていた。多目的トイレも蔵!
喜多方は蔵の街でもある。そのせいか、色々なものが蔵になりたがっていた。多目的トイレも蔵!
気づき1:
二日酔いの朝に食べたすぎる味である
わからないことは地元の人に聞くのが一番と考えたわたしたちは、前もって知人におすすめのお店を聞いていた。だが、約20分歩いた先に見えたのは、まさかの臨時休業であった。
おいしいらしいが、色々整えるために今日はお休みらしい
おいしいらしいが、色々整えるために今日はお休みらしい
その道の途中にあった「アマゾン」
その道の途中にあった「アマゾン」
あのAmazonとは何の関係もなさそうであった(観賞魚が売られていた)
あのAmazonとは何の関係もなさそうであった(観賞魚が売られていた)
じゃあどうしようかと地図を見回したところ、ある表示に、目も心もうばわれてしまった。

「宝夢蘭(ホームラン)」である。なんて清々しい当て字なんだ。3文字全部、夢と希望だ。

その日は甲子園の決勝を目前に控えた8月19日。見てすぐに甲子園が浮かんだのだが、行ってみたら想像以上に甲子園だった。
看板にはバットとボール
看板にはバットとボール
球児のシルエットも
球児のシルエットも
入り口には巨大な野球ボール
入り口には巨大な野球ボール
壁には福島県大会の歴代のトーナメント表がびっしり!
壁には福島県大会の歴代のトーナメント表がびっしり!
もうすでに伝わっている気がするが、店主さんは野球好きである。かつて甲子園で審判をしたこともあるそうだ。

喜多方ラーメンを食べにきたのだが、2人で全く同じものを頼むのももったいない気がして、わたしは「宝夢蘭ラーメン」を頼んだ。
橋田さんは喜多方ラーメンを注文した
橋田さんは喜多方ラーメンを注文した
そしてこれが宝夢蘭ラーメン。味噌味でちょっと辛いという。紅生姜が彩りを添えている
そしてこれが宝夢蘭ラーメン。味噌味でちょっと辛いという。紅生姜が彩りを添えている
宝夢蘭ラーメンの別名は「本塁打ラーメン」、走(味)攻(量)守(価格)、三拍子揃っているという
宝夢蘭ラーメンの別名は「本塁打ラーメン」、走(味)攻(量)守(価格)、三拍子揃っているという
うまい! 辛味と聞いていたが、そこまで辛くはない。ほっとする。あったかい。夏の暑い日にでも、するっと食べられる穏やかなあたたかさだ。さっぱりもしている。
「あたたかい家庭を築きたいと思います」って言葉の中にでてくる家庭、温度測ったらたぶんこのスープくらいだと思う
「あたたかい家庭を築きたいと思います」って言葉の中にでてくる家庭、温度測ったらたぶんこのスープくらいだと思う
一方橋田さんは、喜多方ラーメンをすすりながら「おおおおお……」という顔をしつつ「落ち着いて食べられる」「ガツンとしてない」「やさしい!」と言っていた。食べさせてもらったところ、自分も一気にやさしさに包まれてしまった。

二日酔いの朝、枕元にこれが現れてほしい。できれば日中、スープをあったかいまま持ち歩きたい。長時間持ち歩いても温度が下がらない優秀な水筒を、東急ハンズの店員さんに教えてもらいたい。

ラーメンのスープって、こんなにそばにいて欲しいものだったのか……!

麺は太めで、時々うねうねと曲がっている。
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ちなみにあとで調べたところ「平打ち熟成多加水麺」という、水分が多い麺とのことだった。だからあんなにモチモチしていたのか……!
気づき2:
本拠地の行列はすごい
せっかくなので「行列のできる人気店」と呼ばれる店でも食べてみたい。
が、甘かった。入れそうな気が全くしない
が、甘かった。入れそうな気が全くしない
上の写真ですごい行列をつくっているのは、全国にチェーン展開している「坂内(ばんない)」の本店と、その隣の「松食堂」だ。坂内にいたっては待ち時間の長さを懸念して、お揃いの黒い日傘まで配られている。

駅からけっこう離れているうえ、近隣に大きな駐車場も見当たらない。なのに、ここだけ人口密度が新宿駅並みである。行列文化を甘く見すぎていた。そういえば日本の人口って約1億2000万人だ……と、普段意識していない数字を思い出しつつ、その場からそっと離れたのだった。
気づき3:
お店ごとの試行錯誤という戦い
大量に「喜多」と書いてあるお店が目に飛び込んできた。
この写真のなか、「喜多」って文字が6か所もある
この写真のなか、「喜多」って文字が6か所もある
ここまで「喜多」と書きまくり、喜多方を推しているお店は、美味いか不味いかのどっちかな気がする(偏見です)。気になるので入ってみたい。
するとアスパラが置いてあった。ラーメン屋がアスパラを売る理由はわからないが、アスパラは買いたい
するとアスパラが置いてあった。ラーメン屋がアスパラを売る理由はわからないが、アスパラは買いたい
ここでも、喜多方ラーメンともう1品を頼むことに。
もう一品はつけ麵にした。つけ麺、大好物だ
もう一品はつけ麵にした。つけ麺、大好物だ
ふぁっ! スープから、すっぱいにおいがする!
ふぁっ! スープから、すっぱいにおいがする!
「すっぱいですね!」
「すっぱいですね!」
喜多方ラーメンも運ばれてきた。琥珀(こはく)色だ! 余談だが「琥珀色」ってことばを記事で使ったのはじめてだ。良い言葉ですね。使えてうれしい
喜多方ラーメンも運ばれてきた。琥珀(こはく)色だ! 余談だが「琥珀色」ってことばを記事で使ったのはじめてだ。良い言葉ですね。使えてうれしい
ああああ、こちらはやさしい……うまい……水筒ほしい……
ああああ、こちらはやさしい……うまい……水筒ほしい……
ちなみにアスパラも食べました。壮絶に美味しかった
ちなみにアスパラも食べました。壮絶に美味しかった
2杯目なのがうそのようにお腹にするする吸い込まれていく。なんだこの吸引力は。

店員さんに、つけ麺の汁の味に驚いたことをどうしても伝えたく、「つけ麺の汁、すっぱいんですね。美味しいです!」と話したところ、「美味しいでしょう。人気なんですよ。他のお店も、いろいろ工夫してやっていると思うんですけどね」と返ってきた。
たしかに工夫を凝らしているお店は多そうだ。これは別のお店の「ラーメンバーガー」である
たしかに工夫を凝らしているお店は多そうだ。これは別のお店の「ラーメンバーガー」である
本拠地で、名物で勝負するって大変だ。競争社会だ。
気づき4:
店に奥行きが
ありまくったりする
ここからは橋田さんとわかれ、一人での探索だ。急に、行列のあるお店に並ぶのもいいかと思い、並んでみた。

さっきの行列とはまた別の「まこと食堂」というお店の行列だ。15時閉店のお店に、14時すぎに並びだしたので「間に合わなそう」とも思ったのだが、想像以上に列の進みがはやい。
わたしの前方に並んでいる人たち
わたしの前方に並んでいる人たち
30分待っただろうか。こんなに早く対面できるなんて
30分待っただろうか。こんなに早く対面できるなんて
これまでの2つは醤油ベースだった気がするのだが、これは塩味っぽい
これまでの2つは醤油ベースだった気がするのだが、これは塩味っぽい
そして、トイレに行くまでの道のりが長い。店に奥行きがありすぎる
そして、トイレに行くまでの道のりが長い。店に奥行きがありすぎる
味もおいしかったが、それ以上にびっくりしたのがお店の大きさだった。ふだんよく行くラーメン屋が、カウンター席しかないからか、「広いラーメン屋」という概念に免疫がなさすぎる。

おばあちゃんちの居間みたいな部屋で、他のお客さんと長方形のちゃぶ台を共有しながら食事をしていたら、法事の集まりを思い出してしまった。不思議な居心地だ。
「カツ丼のごはんなし」も気になった
「カツ丼のごはんなし」も気になった
気づき5:
ぴかぴかだからって
新参とは限らない
最後に行ったお店はピカピカだった。
ピカピカのガラス面が多い、2階建ての建物の1階部分がお店。名前は「丸見食堂」。今日巡った4店舗で一番駅に近い。徒歩3分くらいか
ピカピカのガラス面が多い、2階建ての建物の1階部分がお店。名前は「丸見食堂」。今日巡った4店舗で一番駅に近い。徒歩3分くらいか
目の前にピカピカのアイパッドが放置されているのが気になる
目の前にピカピカのアイパッドが放置されているのが気になる
ラーメンとの相性は悪そうだが、欲望のままに注文した日本酒(結果、日本酒はおいしかったけど、ラーメンとは合わなかった)
ラーメンとの相性は悪そうだが、欲望のままに注文した日本酒(結果、日本酒はおいしかったけど、ラーメンとは合わなかった)
ラーメンは、ほっとする醤油味だった
ラーメンは、ほっとする醤油味だった
一見、新参者っぽいピカピカさなのだが、ちがうらしい。レジを見て衝撃を受けた。
こういう形。写真撮り忘れたので、メモを参考に描いた。本物はもっと古めかしくて風情がある。気になる人は「大正」「レジ」で画像検索してほしい
こういう形。写真撮り忘れたので、メモを参考に描いた。本物はもっと古めかしくて風情がある。気になる人は「大正」「レジ」で画像検索してほしい
あまりに古いため、税務署に注意されたので使わなくなったらしいが、つい最近まで現役だったらしい。見た目で判断してはならぬというやつの、真髄を見た気がする。
気づき6:
あっさりしているので
大量摂取できてしまう
それで、結局4杯食べたのである。

大盛りという言葉が大好きな一方で、実際は並盛りで食事することが多い。だけど、約5時間のうちに4杯も食べてしまった。なんと恐ろしい麺なのだろう。

ある地元の人は「週一で朝食べるよ」と言っていた。この街には「朝ラー」という文化があるらしいが、たしかにこの味なら、朝から食べたい。

喜多方ラーメン。味はさっぱりしているが、心には油染みのようにばっちり残った。

東京で食べたら「なんか」がちがった

数週間後、東京で見かけた喜多方ラーメンのチェーン店に吸い込まれるように入店した。だけどあの時の高揚とは違った。美味しいけどなんか違う。

そういえば、アスパラ売ってたお店の人が「喜多方は水が美味しいから、何を調理しても美味しいのよ」と言っていた。水の違い、やっぱ大きいのか。
スーパーでお土産に買ってきた小西製麺の生麺も最高に美味しかった
スーパーでお土産に買ってきた小西製麺の生麺も最高に美味しかった

そういえば、本場で食べるバゲットは「違う」という話を聞く。つい最近、イギリスで食べるスコーンは全然ちがうのだという話も聞いた。どんなスコーンも分け隔てなく「美味い美味い」と食い尽くしてきたわたしには衝撃だったが、そういうものなのかもしれない。

といいつつ数日後には、東中野の路上で、クロワッサンうめえ!と叫んでいる自分も想像できるし、別にそれでいいとも思う。本場を思う心とそうでもない心は、矛盾しっぱなしだ。
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