蜜蝋とは蜂蜜を収穫したあとの蜂の巣から、虫の死骸などの不純物を取り除いたもの。
この蜜蝋と植物油を混ぜ合わせることで「蜜蝋ワックス」ができる。蝋もワックスと同じ意味なので、蜜ワックスワックス。不思議な名前である。この蜜蝋ワックス、簡単にできるわりに、めちゃくちゃ幸せになれる。ざっくりまとめるとこのような効果がある。
撥水と防汚については、化学塗料のペンキに劣る。しかし、素材の呼吸を妨げないので、木が本来持っている調湿機能を保つことできる。
なにせ、人類初のワックスは、蜜蝋であり、ワックスの語源も蜜蝋にあるらしい。その歴史は紀元前4200年頃の古代エジプトにまで遡るんだとか。
自然由来だからかニスほどのテカテカ感もなく、見た目も自然な風合いに仕上がる。しかし、しかし、なんといっても特筆すべきは……
蜜蝋ワックスを塗ることにより、素材は湿気を帯び、しっとりとした、それはそれは、心地よい手触りになるのだ。
塗る前の板をおっさんの肌だとすると、塗ったあとは子供の肌くらいになる。柔軟剤を使ったタオルくらいの違いがある。
テーブルなんかに塗って、一晩置いておくとしっとりとした気持ちのよい質感に変わる。毎日ふれるたびにちょっと幸せ気持ちになれる。この蜜蝋ワックス、木製品はもちろん、革製品にも使える。
自然由来なので、ハンドクリームやリップクリームなど、人間の肌に対しても利用されている。植物油が繊維にまで浸透することで潤いが生まれ、蜜蝋が表面をコーティングすることにより潤いを守るらしい。
「あれ?生きとし生きるものすべてに有効なの?」と感じられるが、注意も必要だ。1歳以下の幼児に対して、はちみつは危険であることはよく知られている。蜜蝋にもはちみつと同様、問題となるボツリヌス菌がふくまれている可能性がゼロとは言いきれない(幼児向けの蜜蝋クレヨンなどは高熱処理がされているから大丈夫らしい)。
また、蜜蝋には花粉も含まれているため、花粉によるアレルギーの心配もある。不安を煽りたいわけではないが、全ての対象に対して安全なものなんてないのでそのあたり留意して使っていただきたい。そんな蜜蝋ワックスですが必要なものはこちら。
蜜蝋はAmazonでも売っているし、メルカリでも買える。
私は養蜂農家さんがメルカリで出品されているものを購入した(ちょっと安かった)植物油だけ、一点注意が必要だ。植物油には、乾性・半乾性・不乾性がある。
不乾性を使うと、なかなか乾かずに、まだらになったりホコリがついたりする可能性もある。ただ、乾性油の方が高価。不乾性油のオリーブオイルはご存知の通り安い。調べてみると、特にこだわらずなんでもいいよと言っている人もいるので悩ましい。
食用の亜麻仁油はそこそこのお値段だが、木工用だと500mlで1300円くらい。Amazonで買った。
作り方は、ざっくりまとめるとこんな感じ。
まず、蜜蝋が大きいカケラのままだと溶けにくいので、細かく砕く。(小さな粒になっている蜜蝋ではこの工程はいらない)
蜜蝋が砕けたら、植物油との割合を決める。割合は
「蜜蝋1:植物油5〜6」くらい。
蜜蝋の割合を増やせば、ワックスは固形っぽくなり、素材の凸凹を埋める能力があがる。油の割合を増やせば液体っぽくなりさらさらと塗りやすくなる。とりあえず作るぶんには割合はだいたいで問題ない。
大ぶりな容器に、小さめの容器を入れる。小さめの容器には蜜蝋を入れ、大ぶりな容器にはお湯を入れる。お湯の温度が65℃〜70℃だと蜜蝋が溶け始める。
直接火にかけると焦げ付く可能性があると聞いたので、1回目はそれ従ったが、1時間くらい時間がかかってしまった(しかも、うまく溶けきらず蜜蝋のダマが残った)。
なにかやりかたが悪かったのかもしれないが、2度目は、めんどくさかったのでえいやでガスコンロで加熱した。
めんどくさがりの人は、火力に頼ってもいいのではないだろうか。
売り物だと100gで1000円以上くらいするこの蜜蝋。自分で作れば、100gあたり300円くらい。安いので気兼ねなく塗りまくれるのがよい。塗る際には、ふるくなった靴下や布切れに蜜蝋ワックスをつけて、素材になじませる。
ニトリル手袋の上から靴下をつけると、トゲも刺さりにくいし、手も汚れないのでいい感じ。トゲのないつるつるの木材の場合は手で塗るのもいい。
すごいぞ蜜蝋ワックス
蜜蝋ワックスはペンキみたいに養生とかしなくてもいいのも気楽でよい。多少手や足についても問題ないどころかスベスベになる。
ちなみに、ギターなどの木製の楽器や、木刀に塗りこむ人もいるらしい。分身のような愛用品に蜜蝋ワックスを塗りこむのは、それはそれは、楽しいだろう。想像するだけでヤバイ。楽器も剣道もやっていないのが悔しい。
蜜蝋生活を続けているうちに水分が抜けてガサガサの木(駅のくたびれた木製ベンチなど)なんかを見るたびに、「蜜蝋ワックスぬりて〜!」と思うようになった。今、お寺の秘仏のご開帳に立ちあったら、感想が「蜜蝋ワックスぬりて〜」になるだろう。
今回1200gの蜜蝋(3600円くらい)を作ったのだが、まだ1/3も使えていない。