特集 2021年3月26日

日本発ブッダマシーン「天界」はこうして生まれた

スイッチを入れたらお経が流れる「ブッダマシーン」と呼ばれる小型の電子機器がある。主に中国で作られているもので、複数のメーカーから様々なタイプが販売されている。

そのブッダマシーンを仕入れて販売する「光と音のハオハオハオ」というショップが日本にあり、以前インタビューをさせてもらった

その「光と音のハオハオハオ」が2021年、オリジナルのブッダマシーンを作った。“オリジナルの”、だ。どうしてそんなことができたのか、聞いてみた。

大阪在住のフリーライター。酒場めぐりと平日昼間の散歩が趣味。1,000円以内で楽しめることはだいたい大好きです。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーとしても活動しています。(動画インタビュー)

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コロナの影響はブッダマシーン専門店にも

ボタン一つでお経を再生してくれる「ブッダマシーン」。中国にはブッダマシーンを作るメーカが複数あり、そこでたくさんの種類のブッダマシーンが製造され、主に仏具店で販売されているという。

ほとんどのものは電子基板に複数のお経を収録し、その中から好きな曲(お経)を選んで内蔵されたスピーカーから再生することができる。数種類のお経を収録しただけのシンプルなものもあれば、お経だけでなく「お経ソング」とでもいうような、歌謡曲に近い音源も含め多数の曲を収録したもの、SDカードを入れることができ、好きな音楽データを再生できるような高機能なものまである。

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ブッダマシーンの一例

その魅力にハマり込み、中国をはじめとしたアジアの各地でブッダマシーンを仕入れて日本国内に向けて販売しているショップが「光と音のハオハオハオ」だ。2019年、私はその「光と音のハオハオハオ」にインタビューをさせてもらい、ブッダマシーンの世界の奥深さを学んだのであった。そしてその模様はデイリーポータルZの記事として公開された。

念仏を唱える続ける機械「ブッダマシーン」の世界を一気に知る

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2019年のインタビュー時に見せてもらったブッダマシーンコレクション

この「光と音のハオハオハオ」さんがついにオリジナルのブッダマシーンを作ったという。「天界」という名のそのブッダマシーン、2021年2月に販売が開始されるとあっという間にほぼすべて売り切れてしまったという。

 

筆者はなんとか販売期間に間に合い、一台購入することができた。

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これが国産オリジナルブッダマシーン「天界」だ!

様々なミュージシャンによって制作された楽曲や仏教の各宗派のお経など52曲が収録されている。たしかにブッダマシーンでありながら、ここにしかないオリジナルなものになっている。これはすごい。

前回のインタビューの最後で「光と音のハオハオハオ」さんが「今度、ブッダマシーンの工場を見学に行ってくる予定です」と言っていて印象的だった。あれからどうなったんだろうか。まずはそこから聞いてみることにした。

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オンラインインタビューに答えてくれた光と音のハオハオハオさん

――前回インタビューさせていただいたのが2019年でした。その後はどんな活動をされてきたんでしょうか。

「2019年の春ごろ、中国のブッダマシーン工場に行くことができました。その時から自分でオリジナルのブッダマシーンを作りたいという気持ちがあって、どういう風に作られているかを知りたかったんです」

――すでにオリジナルブッダマシーンの構想はあったんですね。工場見学はいかがでしたか?

「その時に行った工場は、自分が好きで集めているようなどこかチープさがあるようなものというよりはもっと高級志向で高くておしゃれっぽいものを作っている工場だったんです。でももちろん勉強になりましたし、そのブッダマシーン工場とコネクションのある仏具問屋さんを紹介していただくことができて、『光と音のハオハオハオ』で販売しているようなブッダマシーンがその問屋さん経由で仕入れられるようになったんです」

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見学したブッダマシーン工場の模様(画像提供:光と音のハオハオハオ)

――今までは問屋街に行って買い付けをしてくるのが基本だったのが、もっと深いつながりができたということですね

「そうですね。『このタイプのが何個か欲しいんですけど』って依頼するとそれを作っている工場に連絡してくれて仕入れさせてもらえる、みたいなパイプができたのは大きかったです。2017年から期間限定のポップアップストアをやったりしていたんですが、そういう際の仕入れルートが広がりました。2019年以降は『マニアフェスタ』のようなイベントにも参加したりしていました。通販で販売するのと違って、現場でお客さんとしゃべって情報交換できたりするのが楽しかったです」

――たしかに私も「光と音のハオハオハオ」のお名前をあちこちで見かけていました。ブッダマシーンをたくさん紹介するZINEも作られたりしていましたよね。

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「光と音のハオハオハオ」の作成したZINE『念佛機』
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様々なタイプのブッダマシーンが紹介されている

――でもそうやって仕入れて販売したりイベントに参加するというのとオリジナルのブッダマシーンを作るというのはまた別というか、ハードルの高さが全然違いそうです

「作りたい気持ちはずっとあったんですけど、実際にやろうと思ったのは、コロナの影響で買い付けに行けなくなった2020年の6月、7月ぐらいだったんです」

買い付けにいけないもどかしさがオリジナルのブッダマシーンを生んだ

――そうか、買い付けには行けなくなってしまいましたよね

「それでもさっきの仏具問屋さんにお願いして色々なものを向こうから仕入れて販売してはいたんです。でも結局、自分で中国に行ってまだ見ぬブッダマシーンを探しにいくのが一番の楽しみだったので、それがネットでリサーチして問屋さんに頼んでっていう流れで完結してしまうのが、自分的にはあまり面白くなくなってしまって。もちろんそのやり方でも知らないブッダマシーンを仕入れられて嬉しかったことはあったんですけど、ありがたみが10分の1ぐらいになってしまって」

――もともと自分の足で未知のブッダマシーンを探すのが喜びだったわけですもんね

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大阪「月台 platform」で開催された「光と音のハオハオハオ」のポップアップショップの模様
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腕時計型ブッダマシーン、マッサージ機型ブッダマシーンなどの珍品も並ぶ

「仕入れて販売するっていうだけなら私じゃなくてもできることだなと思って、モチベーションが下がってしまって。しかもこの先、まだまだ向こうに買い付けにいくことはできないだろうなと思ったので、時間もできたし『オリジナルブッダマシーンを作るなら今しかないんじゃない?』って思って」

――買い付けに行けず、家にいる時間が増えた、というところが大きなきっかけになったんですね。それでいよいよオリジナルのブッダマシーン作りが始まっていくと

「そうなんです。最初、見学に行った工場に連絡して『こういうのを作りたいと思ってるんですけど』っていうのをPDFにまとめて送ったんですけど」

――ブッダマシーンの仕様書みたいな

「こういうモデルでカラーはスケルトンにして、何曲ぐらい入ってて、サイズはこれぐらいでっていうのを資料にしてまとめたようなものを作って。でもさっきお話しした通り、そこはちょっと高級なブッダマシーンを作る工場だったのでやはり難しいなと。そこからはネットでブッダマシーン工場を探して一つずつ当たっていって、問い合わせても返事がまったくないところも多かったんですけど、対応してくれそうなところが一つ見つかったので、通訳の人を挟みながらやり取りを始めたんです」

――それはいつ頃のことだったんですか?

「2020年の7月頃ですね。リサーチにも結構時間がかかって、普通に問い合わせフォームから連絡してみたり、それも私が翻訳サービスを使って書いた謎の中国語で(笑)英語も併記すれば言ってることは伝わるだろうと思ったんですけどね」

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オリジナルのブッダマシーン「天界」を手にする光と音のハオハオハオさん

――苦労の末にようやく話を聞いてくれる工場が見つかったと。っていうかそもそも、外部から「こういうブッダマシーンを作りたいのだが」みたいな依頼なんて、前例が無さそうですよね。

「いや、でも見学に行ったブッダマシーンのメーカーはタイのお寺から依頼を受けたことがあると言っていましたし、声をかけて返事をくれたメーカーも、私が集めたものの中にあったベトナム語のブッダマシーンを作っているところだったりして」

――そうか、つまり自国の言葉でブッダマシーンを作って欲しいみたいな需要はあるわけですね

「そうそう。そういう事例があって、グローバルに対応できる自信があったから受けてくれたんだと思うんです。そこからはメーカー側とのやり取りの中で、たとえば、2時間以内の音声データなら入れられますとか、ある程度向こうのルールが把握できたので、じゃあその条件で音源を用意しようと。そこでようやく、どんなアーティストやお坊さんに依頼しようかと考えていきました」

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ブッダマシーンの中身はこうして作られた

――なるほど、あとは中身の音源を用意していけばいいと

「でもそれと並行して、実物をどんなものにしていくかというのも色々悩んだところがありました。当たり前なんですけど、外箱を作るにもお金がかかったり」

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角度によって虹色に輝くプリズムカラーの外箱

――この箱も同じところで作ってくれるんですか?

「頼むのは同じところなんですけど、そこからまた別の会社に依頼しているみたいです」

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マシーン左上にはめ込まれたプレートのイラストは天久聖一さんによるもの

――このプレートを作るのも大変そうだなと思いました。

「費用もその分かかるのですが、でもそこはやるしかないというか、このプレートの部分がオリジナルにならないと自分の思うオリジナリティにはならないなと思って、こだわることにしました。それ以外の外側の部分は既存の型で、中国にもともと存在するものを流用していますけどね」

――このモデルにしようと思ったのはなぜだったんですか?

「電源を入れると光るっていうのと、このぐらいのサイズのものっていうのがメーカーにはこれしかなくて、ただ最終的にはこれ、最初に話を進めていたメーカーのものじゃなくなったんですよ」

――え、そうなんですか?

「最初にやり取りしていたメーカーのものはここに『佛』じゃなくて『吉祥如意』っていう文字が入っているやつだったんですけど、音声データとか、イラストのデータとか、全部納品した後になって結局『できない』って言われてしまって」

――えー!なぜですか?

「『なんでなんですか?』って聞いてみたい気もしたんですけど、聞いて傷つくのも嫌だなと思って聞いてないです(笑)」

――ははは。たしかに。ダメだっていうんだからダメなんでしょうし。細かい要求に答えられないという判断だったのですかね

「その要求にこたえるだけのメリットがないと思われたんでしょうね」

――なるほど、製造台数の規模も決して大きいわけじゃないし

「ブッダマシーンの売れ筋のやつって、一つのメーカーの一つの商品だけで一年間に20万台も売れるらしいんですよ」

――そんな規模なんだ!

「それだけの需要があるっていうことですよね」

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当初のモデルは「佛」の部分が違ったらしい

――しかし音源も用意して、その後で急にできないってなって、困りますよね

「大変でした。当初はクラウドファンディングを利用する予定だったんですね。クラウドファンディングの準備を進めていて、ようやく始めるっていう前日に『やっぱり無理』っていう連絡がきて、前日だったので始めずに済んだんですよ(笑)」

――それはよかった。よかったですけど、でもそこからどうしようという話ですね

「ゼロに戻ってしまって、また工場探しをして。でも手伝ってくれた通訳の人も熱心に探してくれて、それでなんとか別のメーカーが見つかって無事に生産できたっていう感じですね」

多宗派のお経もミュージシャンの楽曲も混ざって収録されたブッダマシーン

――別のメーカーが見つかって、当初のイメージとほぼ同じモデルで作ることができたと。違いはその「佛」の字ぐらいですか?

「そうです。あとはほぼ同じです」

――オリジナルのブッダマシーンを作るにあたって、どんな曲やお経を収録するかというのもすごく大事な部分だと思うのですが、音源の用意はいつぐらいから始めていたんですか?

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「天界」 開発の裏側には色々な苦労が

「最初のメーカーに声をかけたのが7月ぐらいで、そこでいけそうだなというのがわかって、アーティストさんやお坊さんに声をかけたのは8月~9月ぐらいですね」

――参加している方がすごく多彩で面白いですよね

「そう思ってもらえると嬉しいです。ブッダマシーンなのでお経も収録したいし、一方でミュージシャンの方にもお願いしたいとも思って、そのどっちもがあるものを作りたかったんです」

――ちゃんと、というと変ですけど、色々な宗派のお経が収録されています

「そもそも中国の仏教って日本みたいに宗派がわかれてないっていうのがあって、ブッダマシーンにも中国の仏教のお経だけじゃなく、チベット密教のマントラが入ってたり、民謡も入ってたりして間口が広いんですね。そこが自分がブッダマシーンが好きなポイントでもあったので、できるだけ宗派にとらわれず色々なお経を収録できたらなと思って」

――なるほど、それがブッダマシーン本来の面白さということですね

「そこをお伝えした上で賛同して下さるお坊さんを募りたいと思いまして、京都に龍岸寺という浄土宗のお寺があってそこに池口龍法さんというご住職がいらっしゃるんですが、この方が色々な宗派のお坊さんにつながりがある方で、まずはその方に『協力していただけないでしょうか』と声をかけて」

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「天界」には多数のお経が収録されている

――もともとのお知り合いだったんですか

「『光と音のハオハオハオ』で2020年の1月に個展をやったんですけど、その方がちょうど京都から東京にいらしていて、個展にも立ち寄ってくれたんです。それがきっかけで知り合いました」

――じゃあもう、遊び心が分かる人というか

「そうですね。その池口さん自身、ブッダマシーンを持っていたので話が早くて(笑)池口さんがお知り合いのお坊さんたちに声をかけてくれて、その中で手をあげて下さった方たちが今回収録されているお経を唱えてくださったんです」

――宗派を垣根を超えてお経を収録するというのは、できるものなんですね

「池口さんがおっしゃってたのは、他宗派のお坊さんとの交流って、池口さんのお父さんくらいの世代の方にとってはあり得ないことだったらしいんです。だから、新しい世代の考えではあるかもしれないですね」

――そうか。今だからこそできたことなのかもしれない。お経はどうやって録音したんですか?

「本当だったら私が録音しにいきたかったんですけど、参加されているお坊さんが関西の方が多かったので、コロナのことでそっちに行くわけにもいかなくて、みなさんに録音をお願いして」

――なるほど、お任せした感じだったんですね

「環境音が入っていたりしてもそれも味だなと思ったんです。鳥が鳴いたり。ただ、おりんとか、鳴り物とかあると声との音量のバランスが難しかったりしたみたいで、結構難しかったみたいです。少し音が割れてしまったり、まあそれも味かなと思ってるんですけど(笑)」

――色々なお経が収録されていますね

「どのお経を録音するかはそれぞれのお坊さんにお任せしてるんですけど、宗派によって違いがあったりしました。あと、ブッダマシーンの構造上、再生時間が長いものだとバグが生じやすいというところがあって、なるべく2~3分に収まるものにしてくださいとお願いしました」

――このお経でいこうというのはどうやって決まっていったんでしょうね

「基本的にみんなFacebookのグループメッセージを作ってそこでやり取りしていたんですけど『あ、じゃあ僕これ入れます』みたいに」

――ははは。そんな感じなんですか!予想以上にノリノリな雰囲気だ

「『これとかどうですか?』『ああ、いいですね!』みたいな、私もそこに参加してるんですけど、よくわからなくて(笑)」

「これ大丈夫?」と心配された曲も

――お経も収録されているし、「田島ハルコ」「明和電機」「さよひめぼう」と、音楽畑の人も参加していて、それが面白いと思います

「まず、赤坂陽月さんのようにもともと仏教ソングを作ってらっしゃるかたには、これぞというアンセムのような、代表作を入れてもらってるんです。それに加えて、せっかくオリジナルのブッダマシーンを作るからには、この人の曲が入ってたら面白いよなっていう方に依頼をさせていただきました」

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「天界」に収録された音源の提供ミュージシャンは多彩だ(画像提供:光と音のハオハオハオ)

「たとえば田島ハルコさんだったら、ご自身の曲がすごく哲学的だったり、宗教的に見えたりすることもあって、『ブッダマシーンに入れたらどんな曲になるんだろう』と思ったりして。元シャムキャッツの菅原慎一さんとか、普段から『ブッダマシーン聴いてるよ』って言ってくださったりしていたので、そういう方が入れるならどんな曲になるだろうなって思ったりして。そうやって考えた上でみなさんにお願いしていきました」

――依頼に対しては、みなさん面白がってやってくれたんでしょうか

「たぶんブッダマシーンを知らないっていう人は一人もいなかったと思います」

――依頼する方を選ぶのも大変そうですね。キリがないというか

「いただいた音源はもちろん全部入れてるんですけど、『あの人にも声をかけたかったな』とか、そういう気持ちは全然ありますね。Twitterで『あの人の曲も入れて欲しかった』みたいな意見を見かけることもあって、『それ私も思ってたんだよなー』とか、思ったりして(笑)」

――あと、先ほどの話にもあったオリジナルのイラストプレートは、天久聖一さんが描いたイラストですよね。こちらはどういう経緯だったんでしょうか

「天久さんとはお話したこともなくて、今回本当に急に依頼をさせていただいたという感じだったんですけど、個人的にずっと天久さんのファンで、マンガも買っているし、デイリーの記事も読んでいて。最近だと、アルファベットをポップで可愛らしいデザインで表現したキーホルダーを作ってらしたりして、新しい日本のブッダマシーンらしいポップで面白い仏様を描いてくれるんじゃないかと思って。電気グルーヴのMVを手掛けていらしたり、音楽との親和性も高いということも今回のイメージにぴったりだなと思ったんです」

――たしかに普通の仏様じゃない、天久さんにしか作れないようなものになっていますね。これ、3Dというか、角度を変えると動くような感じになっていますよね

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角度によってイラストが動き、3Dっぽく見える仕様だ

「こういう風に見えるようにするためには、本当は何点かの絵のデータを納品しないといけないんですけど、今回は時間が無かったんでメーカー側で作ってくれたんですよ。そういうところもすごく柔軟に対応してくれるメーカーで。だから、最初のメーカーがダメで2社目に頼んだんですけど、それでよかったと思います。イラストの部分とかも『もらったデータだとここが切れちゃうから調整していい?』みたいなのを細かく伝えてくれたり」

――向こうから提案して細かく調整してくれたんですね

「あと、収録曲がちゃんと順序通りに入ってるかどうかも不安じゃないですか。そこについても安心感があって、例えば48曲目に『關PUNKSPIRIT2000』という、『NATURE DANGER GANG』とか『g.a.g』でも活動されている方の曲が収録されていて、それが結構激しめの曲なんですけど、メーカー側から連絡がきて『この曲、大丈夫?本当に正しいデータですか?』みたいに心配までしてくれたりして(笑)」

――ははは。そこまで親身になってくれたんですね

「そういう連絡があるっていうことは、ちゃんと一曲一曲聴いてくれたからこそじゃないですか。すごくしっかりやってくれているんだなーと安心しました」

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現物が大量に届いた後で冷静な気持ちに

――納品データがすべてそろって、現物ができあがるまでにはどれぐらいかかったんでしょうか。

「外箱のデザインなんかは向こうの用意したフォーマットに合わせないといけないので、そういうものが全部整って納品できたのが2020年の12月で、私の方で2月から個展をすることが決まっていて、そこで販売したいというのがあったんですね。中国では旧正月もあって、そうなると1月中には生産を終えてこっちに送らないと間に合わないみたいな結構急ぎの感じだったんですけど、そこもすごくがんばって対応してくれました」

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「天界」の製造を請け負ってくれたメーカーの内部(画像提供:光と音のハオハオハオ)

「本当だったら先にまず一個サンプルを作って、それを日本に送ってもらって、こっちで動作確認してOKを出して本生産っていう流れが一番安心なんですけど、それがどうしても間に合わないということになって、メーカーの方が実際にブッダマシーンを操作して音を一曲ずつ出す動画を撮って送ってくれたんです。『こんな感じですけど大丈夫ですか?』と。その映像が、たぶん家で撮ってるんだと思うんですけど、途中でカメラの前に犬が入ってきたりして(笑)ゆるい感じでした」

――ははは。その映像を確認して、OKを出したらしばらくして実物が家に届くと

「2月の頭には届きましたね」

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このダンボールの山が届いたらしい(画像提供:光と音のハオハオハオ)

――それを見て、どうでしたか?感慨深いものがあったりしましたか?

「どうだろう。半年ぐらいかけて作ったので、ちょっと麻痺していて(笑)天久さんのイラストも収録されている曲やお経も最高の人たちにお願いしているのは確かなんですけど、『これ、売れるのかな?』みたいな(笑)こんなキラキラの箱にしちゃったし、冷静に考えると『なんだこれ……』って(笑)」

――ははは!まあ、他に比べるものもないですもんね。正解のない世界ですもんね

「誰にも見せてないので評価も得られないし、『いいね!』みたいな声があってできたわけでもないのですっごい不安で、『絶対売れ残るだろうな』って思いましたね」

――このキラキラの外箱はどうやってできたんですか?

「自分でこういう箱を指定して、デザインしました」

――以前インタビューした際にブッダマシーンの外箱を色々見せていただきましたけど、結構シンプルだったじゃないですか?こういうものって珍しくないですか?

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以前の取材時に見せていただいたブッダマシーンの外箱

「あんまりこういうのは無いですね。それっぽいパッケージにするのも面白いかなと思ったんですけど、私自身ブッダマシーンを買ったら箱もとっておくし、箱の可愛さも重要だったりするんで、そこも楽しんで欲しいなと。おしゃれな雑貨屋さんに並んだり、タワレコに並んでいてもおかしくないようなものにしたいっていうのがあったんです」

――商品名は「天界」ということですが、どうしてこの名になったんでしょうか。

「今回、色々な宗派の方に参加していただいているっていうのもあって、仏教のイメージに合うものでありながら、どの宗派にとっても違和感のないワードにしたいなというのがあって、あと、ブッダマシーンってお経ですから死を連想させる部分もあるんですけど、そこまで暗くならないイメージにできたらというのもあって考えました」

――あと、中身を取り出して背面を見ると、たくさんの曲名が工夫を凝らして印字されていて、それがすごいなと

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全52曲の収録曲名が背面にびっしり印字されている

「背面のデータも私がレイアウトして送ったんですけど、どうしてもスピーカーの部分とか、穴があいてるじゃないですか。この細かい形状に合わせないといけなかったりとか、曲名の文字数も多かったり少なかったり、バランスも難しいので、メーカー側で『こっちでやっていい?』みたいな部分もあって」

――この電池のフタの部分なんかかなり大変だったでしょうね(笑)

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電池カバーのくぼみを避けるように印字されている

「これはもう、現物が届いた時にヒヤッとしたところで、文字の区切り方とか大丈夫かなとか。次の曲はどこだ?と思ったら結構下にあったり(笑)」

――いやーすごいですよ。立派なものに見えます。電池カバーの「光と音のハオハオハオ」マークもかっこいいし。失礼なことを聞くようですが、「ここをこうすればよかった」という点はありますか?強いていうならという

「それはもう、色々ありますよ。このモデルだと今何曲目が再生されているかが表示される窓が無いので、やっぱりそこはなーとか。でもまあ、収録曲は全部聴いて欲しいから、その窓がないからこそ、頭から最後までずっと聴くことになっていいかなと思ったりしますけどね」

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側面の「通電」「休止」といった文字もかっこいい

販売スタート直後にもう完売状態

――現物が届いて2月から販売し始めて、反響はどうでしたか?

「2月6日の土曜に販売を開始して、日曜の夜には通販用に用意した数量が完売したので予想以上の反響でしたね。参加してくれたアーティストの方々が宣伝して下さって、それで一気に広がったというか」

――すごい。もう在庫はほとんどないんですよね

「そうですね。何かあった時のために残しておいた50台ちょっとがあるので、それを4月に通販サイトで出して終わりにします!」

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様々なブッダマシーンが並ぶポップアップショップは今後も開催予定とか

――実物を見て、参加者のみなさんも喜んでくれましたか?

「すごく喜んでもらったようです。参加して下さったマンスーンさんは『家宝にします』って言ってくれたし、『まさか自分の声がブッダマシーンから流れるとは』っていう感想がいただけたり、あと、これは冗談ですけど、お坊さんの一人が『今後、風邪をひいた時はこれでお経を流せばいい』って言ってくれたり(笑)」

――はは。まさにブッダマシーンの正しい使い方かもしれないですね

「通販分は一気に完売してしまったんですけど、むしろ個展とかで実際にお客さんが手に取ってくれている姿を見てやっと『本当に作ったんだなー!』みたいな実感がやっと湧いてきましたね。これを機にみんながもっとブッダマシーンを知ってくれたらいいなと思います」

――いやー、コロナで今まで通りにいかないことが多い時期を活かして、こんな風に形にしたというのは、本当に立派なことだと思います

「私、一人っ子っていうのもあるのかもしれないんですけど、人に頼ったりするのが苦手で、なんでも自分で完結したいんですよ。だから今回これだけの人を巻き込んだっていうのがめちゃくちゃしんどかったですね(笑)クラウドファンディングやろうとして急にやめて謝ったりとか大変でしたね……でもコミュニケーション能力がかなり高まったと思います(笑)」

――また作ることはあり得ますか?

「今は全然考えられないですけど、一回こういう実績ができたので、たとえば音楽関係のアーティストの方が特に仏教に関係なく、こういうマシーンの形態で音源をリリースするのを手伝ったら面白いかもしれないとか、お寺のお守りコーナーにおいてあるようなもっと普通のブッダマシーンみたいなのものを作るのもいいかなとか、色々考えています」

――今後もしばらくは中国に買い付けに行けないかもしれないですが、こういう時期だからこそ色々また考えるということですね

「そうですね。国内のイベントであれば色々できることもあるかもしれないですし、面白いことを考えていきたいです」

――ありがとうございました!また今後も楽しみにしています!


2019年にインタビューさせていただいてから2年。その時はまさか世の中がこんな風になるなんて思いもよらなかったが、仕入れに出かけられない時間を無駄にせず、光と音のハオハオハオさんはオリジナルのブッダマシーンを作り上げた。

その舞台裏のことを聞いてみると、光と音のハオハオハオさんがブッダマシーンをただ単に珍グッズとして面白がっているのではなく、人間の宗教文化が生み出した一つの宝物のように大事に思っているのが改めて伝わってきた。

実際に自分でそれを制作してみることによってブッダマシーンのことがより深くわかったという光と音のハオハオハオさん、今後もきっとブッダマシーンを使って新しいことに挑戦していくのだろう。「天界」のスイッチを入れ、流れる曲やお経を聴いていると「私も頑張らなきゃな」と思うのであった。

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