特集 2019年11月26日

北海道インディアン水車三都めぐり

そうだ、水車行こう。

北海道の河川でサケが遡上する季節になるとがらんがらんと回り出す鉄製の水車がある。サケを捕るための捕魚車、通称「インディアン水車」である。そうとうかっこよかったので標津、千歳、豊浦と道内三箇所をめぐった。

 

 

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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その1:標津サーモン科学館(標津川)

北海道は標津のサーモン科学館で「サケ捕獲水車」なるものを見学する機会があった。

ざっくり言うとでかい水車を回して水路を進んで来たサケを捕まえるという装置である。

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かっこいい!そして思いのほかでかい!
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水車の用途が揚水でも製粉でもなく「捕魚」とは......。
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標津サーモン科学館のサケ記事ではおなじみ副館長の西尾さんによる解説。

「一般的には捕魚車とかインディアン水車と言われるんですが、これは直径が約4mと捕獲水車では国内最大級のものです」
 

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60尾/分という表現がすごい。よくわからないがものすごい捕サケ力だ!

ーー最大かー、でもジャンルがせまいですね、国内には結構あるんですか?

「我々の知る限り、道内でここ含め3個所と青森の奥入瀬に1個所で計4個所ですね」

ーーせまい!いきなりベスト4じゃないですか。

科学館には標津川から分岐した魚道が通っており、遡上するサケを観察できるようになっている。

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向かって左へサケたちはのぼっていく。※9~10月の展示
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外から見るとこんな感じで水路になっている。

魚道を上りきったサケを待ち構えているのがこの設備なのだ。
 

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サケロードには開け閉めできるゲートが設けられており、水車に入るサケの数を調整できる。

「水車にはカゴが3つ付いていて、回転してサケをすくい取る仕組みになっています。動かしてみましょう」


ゴゴゴ……暴れるサケが鉄板をたたく音がすごい。

間近に見るサケの力強さが半端ない。全身しなやかな筋肉といった感じの60cm、4kgの魚体が殴りつけるように激しく体を振る。私のような軟弱者がこんな動きをしたら瞬く間にハムストリングを痛めてしまうだろう。そんなフィジカルモンスターどもが一斉にカゴをばんばか叩く不揃いなSTOMPがこだまする。 

「ひとつのカゴに10尾ほど入るので3つで30尾、それが1分間に2回転するので理屈の上では60尾/分という捕サケ力となるわけです」

サケは樋のような通路をすべり落ちて隣の蓄養池(サケを成熟させるための生け簀のようなもの)へ送られる。

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ウォータースライダーのようにスーッと。
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ここにどんどんたまっていく。

ーー基本的なことなんですけど、このサケ達は標津川でなくこっち(魚道)に来るから観賞用というわけではないんですよね。

「はい。このサケも増協(根室管内さけ・ます増殖事業協会)の管理下にありますからここからトラックでふ化場へ運ばれていきます」
 

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こうやってでかいタモでどわーっとすくって……。(別の日に撮影)
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オス・メスに素早く仕分けしてトラックに積み込んでいく。
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遡上シーズンには見学会も開かれている。

「ここの捕獲水車は電力でモーターを回して動いていますが本来は水力で回るもので、これだけの設備は水量の安定している川でしか使えません。千歳にある『サケのふるさと千歳水族館』の水車は水力で動いているし、由緒もあるので見に行ってみるといいですよ!」
 

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館内の説明パネルより。そうか、千歳か。
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その2: サケのふるさと千歳水族館(千歳川)

早速!のつもりがなんやかんやで翌シーズンになってしまったが千歳を訪れた。新千歳空港から車で15分程、道の駅「サーモンパーク千歳」と併設された「サケのふるさと千歳水族館」に着く。
 

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道の駅のスープカレーが絶品。
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一杯のかけそばをポップにしたようなラッシーがあった。
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川の方に向かうと水族館が。

石狩川水系の一級河川、千歳川のほとりに立つ国内最大級の淡水魚水族館で、特にサケをはじめ千歳川やその水源である支笏湖の生態を再現した展示と情報が充実している。
 

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マスコットのサモン君と受付の端末に表示されたテンション高き呪文。
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大水槽では主役のシロザケが躍動。
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幼魚も観察できる。

圧巻だったのは窓から千歳川の中を直接覗けるいわば“川底観察ゾーン”だ。
 

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おお、魚道水槽ですか。
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......と思いきや、なに南こうせつみたいな事言ってんの?
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うおー!すごい!川パノラマ。

窓をのぞくと消失点までつづく一面の砂利、水槽の壁もわざとらしい魚の大群もない、自然の川の中を覗けるのだ。

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サケやウグイ、ヤマメが現れたり、消えたり。

動画でただ千歳川を見よう。

かなり早く、たくましい流れに乗って落ち葉や水泡が形を変えながらどんどん通りすぎていく。たとえ魚がいなくてもぼーっとこの眺めを眺めながら1日中酒が飲めそうだ。

「一級河川の川の中を直接のぞけるのは世界でもここだけだと思います。私はここに来て26年になりますがまったく飽きないですからね」

館長の菊池基弘さんがその特性を加味してレコメンドする。

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話に夢中になりすぎてちゃんとした写真を撮り忘れてしまった。

「冬になるとこの前で遅く遡上してきたサケが産卵をして、その卵を狙って次々と水鳥が潜って来たり、このあたりに定着したミンクが飛び込んで魚を捕ったりと季節に応じて自然のドラマチックな営みを楽しんでいただける、かもしれません」 

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千歳川の左岸に観察窓が付いている。川の右岸、左岸の基準は下流方向を向いて右、左となる。ちなみにサガンは「悲しみよこんにちは」の作者だ。

ーー「かもしれません」というのはやはり......。

「はい。何せ水槽ではなく自然の川なので魚を足したりみたいなコントロールが効かないんですね。お客様がいるときに鵜(う)がやって来て魚がみんな逃げ去ってしまったり(笑)」

ーー個人的にはそういうのも含めて良さしかないですけどねー。インディアン水車はどのあたりに設置されているんですか?

「ここの少し上流です。これから水車で捕獲したサケを取り出す作業が始まります。特別に許可を取ったので近くで見ましょう」

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橋から上流方向を見るとカラフルな水車が。

「水車は7月の中旬に設置されて8月の下旬から12月の中旬ごろまでサケを捕獲します。年間およそ20万尾が捕獲され、ふ化事業に用いられます。つまり、卵を採るんですね」

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ウライとよばれる柵でサケの通り道を制限して水車に誘導する。

ーーそういえば水族館の入り口近くにも水車が展示してありましたね。

「あれは今の水車の前に使用していたものです。1996年に設置100周年を記念して今の水車を作り、それまで使っていたものを当館で預かって展示しています」

ーー1996年で100周年という事は、もう120年以上という事ですか……。

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標津の無骨な水車に比べてポップでかわいい感じ。

「インディアン水車による漁は国内では千歳川が発祥で、その歩みは官営によるサケの人工ふ化事業の歴史と共にあるんです」

この漁法を日本に紹介したのは水産界の先駆者で、北海道庁水産課初代課長となった伊藤一隆である。

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伊藤一隆。各方面でマルチな才能を発揮しているタレントの中川翔子さんの高祖父(ひいひいおじいさん)にあたる。※写真引用:「鮭の文化史(秋庭鉄之 1982北海道新聞社)」

1886(明治19)年、水産事情調査のためにアメリカに渡った伊藤は、翌年帰国すると千歳川で自ら適地を求めて調査を行うなど人工ふ化場のプロジェクトを推進、1888(明治21年)には官営の千歳中央ふ化場が建設され、官民一体のふ化放流事業の始まりとなった。

伊藤は渡米時に西海岸のコロンビア川で「フィッシュ・ウィル」と呼ばれる捕魚水車を目撃し、設計図を日本に持ち帰っている。

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1896(明治29)年にはじめて千歳川に水車が作られた。以来設置場所の移動や水車の交換、改良が行われ、今に至る。※写真引用:「鮭の文化史(秋庭鉄之 1982北海道新聞社)」
 

「原名のフィッシュ・ウィル(Fish Wheel)を伊藤は『捕魚車』と訳しました。インディアン水車という呼称はアメリカで原住民族が使っていたからということで昭和40年代から使われましたがどうもその話には誤解もあるようで、今では『インディアン地区のある川で使っていた』と解説し、元の捕魚車という呼び名もあわせて紹介しています」

ーー当時インディアン水車が用いられた理由として「ホギョシャ」という音では一般にわかりにくいと考えた、とありますね。いい感じだと思うけどなあ、捕魚車。

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なんてお話を聞きながら作業を見学しに捕魚車のそばへ。
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作業前にウライにたまった落ち葉などのゴミを取り除いている。

「この時期、原則水車は24時間回っていて、捕獲されたサケはすぐ前の生け簀に溜まっていきます。これから始まるのはそこからサケを運搬用に仕分けて、ふ化場に運ぶために活魚車に積み込む作業です」

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ざっくりとこんな感じ。

生け簀にクレーンで吊られた大きなタモ網が突っ込まれた。パンパンにつまったサケが板場にぶちまけられる。

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ドササササーッ!
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で、こっちへ入れる。

動画でどうぞ。

 作業中も捕魚車は回り続けてサケを捕らえている。

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石狩川河口から支流の千歳川に上ってここまで約70kmと遡上距離はかなり長い。そのため他の河川に比べ体の傷みが激しい。
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さらにトラックに積まれ、上流のふ化場へ運ばれる。

ーーちなみにサケは残らず水車で捕まるんですか?ウライを飛び越えて水車に入らず上流に向かうツワモノがいたり……

「さすがにそこまで跳躍力はありませんが水車から生け簀に落ちずに粘って上流側に落ちて逃げ延びたりするのがたまにいますね」

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ここで落ちずに頑張って上流側(写真右手)へ逃れる、そんなジャッキー・チェンみたいなやつがいるのか。

ーーなるほど。でもその程度じゃ自然に産卵するのは厳しいですね。

「ところが最近になって千歳川にも野性のサケがかなり存在する事がわかってきました。12月から1月の遅い時期に遡上してくるサケはほぼ野生のサケだと調査で判明したんです」

ーーへー!

「毎年3千万匹もの稚魚を放流する千歳川に上ってくるサケはほぼ全てふ化場生まれの放流魚だと考えられていたのでこの発見はインパクトがありました。きっかけはサケの捕獲が終わった後に上って来て、観察窓の前で産卵するサケが確認された事でした。この生態の研究がサケの資源回復のために新たな知見をもたらすことが期待されています」

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つまり、冬も見どころって事ですな。※このサケは11月の個体です。

水車を見に来たらさらに興味深い話を聞いてしまった。

※今回は特別に許可を得て水車の近くで撮影しています。通常は関係者以外立ち入り禁止のため見学は橋の上からとなります。

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3:豊浦町インディアン水車公園(貫気別川)

千歳からさらに西、定山渓や羊蹄山、洞爺湖などジオ的な名所を横目に見ながら豊浦町へ、渡島半島の像の鼻のように曲がったところの海、噴火湾に注ぐ貫気別川(ぬっきべつがわ)の上流に「インディアン水車公園」といういかにもインディアン水車がありますよといった公園がある。

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風光明媚な山あいの道を走る。

もっというと、ほぼインディアン水車しかない公園である。

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公園の駐車場。右手み見えるのは工芸品販売なども行うレストハウス「すいしゃ」

サケを水車の下に呼び込んで捕えるのは標津や千歳と同じだ。

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ウライで川をせきとめ、左岸(写真手前)の魚道に誘導する。

豊浦町の産業観光課によると「遡上の最盛期は例年10月なので11月になるとあまりサケが見られないかもしれないです」との事だったが魚道をのぞくと結構な数のサケがタピオカミルクティー屋のように列を作っていた。

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水路の先に見える赤いランドマークがインディアン水車。
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まあ、われわれにはタピオカでなくともイクラがありますからね。

名曲「石狩番屋」では失われたかつてのニシン漁による豊穣を「あれからニシンはどこへ行ったやら」と歌っていたが現代におけるニシンはタピオカなのではないかと思った、今じゃ浜辺でオンボロロ、オンボロボロロ。

水車へ向かう水路は途中から階段型の魚道水槽になっており、サケを間近に観察できる。

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観察窓の上でがんがん回っているのが水車。
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水車にもかなり近づける。

観光のみの施設っぽく見えるが先に紹介した標津・千歳と同じく捕獲したサケはふ化場行きとなる。水中での水車の様子も見えるので回る水車と上るサケ、捕らえるものと逃げるものの息詰まる攻防(言い過ぎ)を目の当たりにできるのだ。

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死角に逃れて水車をかわしたりもしている。

水車で捕われたサケは隣の細い水路に落ちていく。

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正面から見るとこんな感じ。これ、もとの水路に戻るやつもいるのでは……。流れるプールのようだ。

豊浦インディアン水車公園の醍醐味はなんといっても山に囲まれた景観の良さだった。サケの上る時期には多彩に色づいた木々の紅葉も味わえる。

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浅瀬をじゃばじゃば上るサケも近くで観察できる。
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で、レストハウス「すいしゃ」でサケランチすればパーフェクツ。写真は秋季限定のサケいくら丼。醤油と塩、2種のいくらが盛られて多幸感すごい。

最後に北海道を東西につらぬくインディアン水車ベルトのマップを掲載しておく。1日で全て回るのは厳しいがぜひ三車三様の捕魚っぷりを堪能してほしい。

標津めっちゃ東だな。


冒頭で少し触れたが北海道以外では青森県の奥入瀬川に、水力で動くインディアン水車が設置されるのでなんとしても訪れてインディアン水車スタンプラリーをコンプリートしたい。

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千歳水族館では床面のプロジェクションマッピングにもインディアン水車が登場して推し度がすごい。

◾️取材協力
・標津サーモン科学館 http://s-salmon.com

・サケのふるさと千歳水族館   https://chitose-aq.jp

・インディアン水車公園(豊浦町)  http://www.town.toyoura.hokkaido.jp/hotnews/detail/00000353.html
 

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