特集 2019年10月31日

無人島でハブ探しをしたらハブも人もいた

なかなか行けない島で、なかなか見ないハブを見たという伝わりにくい喜びをどうぞ。

久米島の東にある「オーハ島」、2015年に最後の住人が島を離れて以来無人島状態で、久米島の人からは「ハブ天国」と呼ばれるほどハブがたくさん生息しているらしいが実際はどうなのか。構想2年、のわりには行き当たりばったりでそこを目指した。

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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ハブのいる島を巡ります
 

奄美や沖縄諸島に生息する恐ろしくもかっこいい毒蛇、ハブ。ただし、どこに行ってもいるわけではなくて、宮古島や大東島のようにもともとハブがいない島もある。

ハブのいる島の中でも、トカラ列島のトカラハブなど独特なハブがいたり、いわゆるハブ(ホンハブ)でも島によって体色や模様に違いがでたりと多様性があるだけでなく、島の人々のハブとの距離感なども様々で興味が尽きない。尽きないんなら尽きるまで、行けるとこ全部に行こうではないかということで数年前からハブのいる島巡りをしている。
 

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沖縄諸島のハブのいる島(ホンハブ・サキシマハブ・タイワンハブ、ヒメハブはのぞく)踏破マップ。西表島付近がまだ手付かずだ。

最近はちょっと3連休とかがあると沖縄方面の切符を手配するようになってしまった。去年と今年は春から秋にかけて月イチペースである。ぶっちゃけ今めっさ貧乏だ。キャッシュレスではない、マネーレスなのだ。

ハブがいて、人がいない島

ハブ島の中で、貧しくても行ってみたいと思い続けていたのが久米島のすぐ東の「オーハ島」、街も自然もいいわそばはうまいわハブはかっこいいわで最高すぎる久米島だが、その久米島の人がハブの多さゆえに「ハブ天国」と呼ぶ島らしい。もしそうなら私にとってもヘヴンなのである。

久米島から車でさくっと行ける奥武島のさらに東にある島。

ウィキペディアによると明治の末期に人が移り住み昭和35年には134人が住んでいたが以降は減少を続け2015年に最後の住人が島を去り無人島になったとの事。

奥武島から最短距離で約400m程と遠くはないが橋もなく、定期船も運行していないので島に渡るには夏の大潮の干潮時に歩いて渡るか、現地でツアー船を運行している会社などに交渉して運んでもらうしかない。

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海中にそびえる電柱。以前、真夏の干潮時に歩いて渡ったことがあるが潮位が上がる前にすごすごと引き返した。秋以降は潮位がそこまで下がらないので歩いていく事は難しい。

ハブ3兄弟

ハブは夜行性なので探すには島で一晩すごさなければならない。夜更け前に船で渡してもらって翌朝帰るみたいなハブ工船ツアーが組めないかと考えていたら思わぬ僥倖がふりそそいだ。
 

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ハブ好き集合!

いきなりよくわからないスリーショットを見せてしまったが一緒に写っているのはおなじみ当サイトのライター仲間で怪生物ハンターの平坂さん(右)とこの道30年以上のハブ捕り名人、よへん永治さん(中央)である。

沖縄に移住した平坂さんから紹介されハブ探しに同行させてもらったところ、私のハブ島巡りの無駄な熱意をいたく気に入ってくれた。いやあこんな褒められたの初めてですよ、ハブ活で。
 

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その時見つけたかっこいいハブ。よへんさんは沖縄南部を中心に生活圏に出没するハブを捕っている。

中国の壮大な歴史ロマン「三国志」では劉備、関羽、張飛が桃園で「我ら、生まれた日は違えども、願わくば同年、同月、同日に死せん事を」という途方もない誓いを立てた。我々もこれに習い「生まれた日は違えども、スケジュールの都合があったらまたハブ探しましょうね」と糸満市のコンビニの駐車場でゆるく誓ったのある。

そんな経緯でよへんさんにオーハ島への思いを話したところ「久米島に知人のツテがあるので渡りの船を手配してみましょう」と船をチャーターしてくれたのである。

しかもよへんさんも同行してくれるというのだから勇気凛々である。
 

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天気を心配されつつもオーハ島へ

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南海で台風20号が息をひそめる久米島へ(平坂さんは都合が合わず)
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早速船の出るハーバーへ移動。よへんさんは約20年ぶりの久米島との事。

船長によるとオーハ島にハブがいるのは間違いないらしい。釣りで渡った人が2m近いハブを見たり、久米島からオーハ島にむけてハブが泳いでいくのを見たという目撃談もあるという。

泳いでいくってすごいな。そういえば「マリリンに逢いたい」という犬が好きな雌に逢うために海を泳いで渡る映画があった。これから行く無人島はハブにとってどんなマリリンがいるというのか。

しかし、よへんさんの見立てでは「島の大きさや人が住んでなくて餌のネズミもそんなにいないだろうって事を考えると”ハブ天国”というほどはいないんじゃないかな」との事。

とにかく行ってみましょう。港に来て私のテンションはぐんぐん高まったがこまった事に雨雲もがんがん育っていた。
 

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まあ、なんとかなるか、出航!

無人島じゃないのか!

所要時間はせいぜい10分ほど、グラスボートだったので下をのぞいたが海底が流れてよく見えなかった、そうか、観光の時はだいぶゆっくり走ってるんだな。移動と観光の速度差を体感した。
 

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このスピードでよへんさんがウミガメを見つけた。さすが法定速度で走りながら道ぎわの石の隙間でじっとしているハブを見つける男。
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上陸!

翌朝の時間を確認して船長と別れた。「船着場から奥の集落に抜ける道があるのと、海岸沿いに南北に行く事はできるが歩いて島を1周できる道は無いよ。まあ詳しくは集落で聞いてみたらいい」

ありがとうございます。そうですよね、やっぱり現地で聞くのが一番......いや、ちょっと待て、いるんですか、人? 無人島とか言ってたよ、集合知のインターネットが。

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船長はすでに久米島へ向けて船を出していた。

船長が教えてくれたとおり島の中心の方にうっそうと薮に囲まれた一筋の小道が伸びているが、明らかに人の手によって整備されている。

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クロイワツクツクという騒がしいセミが全力で鳴き散らしていた。
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お腹の発音器(腹弁)がでかく、たくましい。

少し歩くと道端に古いぬいぐるみやサンダルなど生活の痕跡っぽいものが落ちていて、そのうち子供のはしゃぐ声が聞こえてきた。やはり人がいる。

声の方向をのぞいてみると、垣根の向こうにいわゆる沖縄的な家屋があり、そこで暮らす家族がいた。お互いびっくりだ。

よへんさんが声をかけて我々の来島目的などを告げると「こんな天気で大丈夫ですか」と心配をしながらも、この島のハブ事情を教えてくれた。

「6年前くらいに家族でこの島に移り住んで来ました。今ではここに住んでいるのは私たちだけですね。」
 

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よへんさんと郷里が近く話もはずんだ。

畑を開墾して農業したり船で渡って仕事に出たり、町内会どころか隣人もいない静かな島での生活はかなり充実しているという。

「ハブは見るけどこの6年間で4匹ぐらいじゃないかなあ。たしかに久米島ではここはハブどころみたいに言われてるみたいですけど、どうなんですかねえ.....」

6年で4匹か......。やはりよへんさんの見立てどおり、そんなに多くは生息していないのかもしれない。

「この奥にはポンプ室とか、井戸や空き家なんかがあるんで、そのあたりは出やすいんじゃないかなあ」とアドバイスをいただいた。
 

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島内ぶらぶら 

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日が完全に落ちる前にざざっと散策。
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小さな畑の向こうに一軒の家がある。すでに空き家だがそんなに荒れている気配はない。
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ぽつんと街灯が立っていたが点灯はしないようだ。
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住人の方が教えてくれたポンプ室。草木に囲まれ雰囲気ばっちりだがハブは見つからなかった。私がハブだったらスタバなみに通うけどな。
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より奥にある廃屋。こちらはだいぶ荒廃が進んでいる。この周囲にもハブはいなかった。私がハブだったらサイゼリヤなみに通うけどな。
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納屋も元気な植物たちに取り込まれようとしていた。このあたりもハブが好んで隠れそうだと思って探したが見つからず。私がハブだったら富士そばかってくらい通うけどな。

島の内部で歩いていけるところはごく一部、大半は薮が深すぎて足を踏み入れる事ができない。注意深くハブを探しながら回っても1時間もあれば巡回できてしまうほどの狭さだ。状況は把握した。あとは日が完全に落ちるのを待つばかり。

ハブは浜にいた!

18時30分ごろ、街灯もない島はこれぞ闇という具合に真っ暗になった。

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うそくさいほどにダークネス

空をみるとこの闇でもはっきりとわかるほどに雲の動きが早い。台風20号が予報よりもパワーアップして東南の海上を進んでいるらしい。悟空が乗ってますねこれは。私のくだらない一言を無視してよへんさんが提案した。

「風が強くなってきてますね。先に海岸で浜沿いの木にいるハブを探しましょう。風がもっと強くなるとすぐ引っ込んでしまうから」

ハブはどう猛な外見とは逆に実に繊細なヘビで、気温が高すぎたり湿度が低すぎたり(高すぎても)すると活性がかなり低下してしまう。中でもデリケートなのが風だ。

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じぶんほんと風はNGっすね(写真は沖縄本島中部、古宇利島のハブ)

「ハブは風を感じると木にも登らず奥に引っ込んでしまう。浜の方はこれから時間がたつにつれて乾いた北風が強く吹き付けてくるだろうからその前に探したほうがいいです」

ハブの生態を知り尽くしたよへんさんの金言に異論などあろうはずもなく、浜辺と森の境目でハブを探しながら海岸沿いに北へ歩いた。


 

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なんせ真っ暗なので明るい時の写真を。こんな所を歩きます。
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浜では小さなトビムシのような生き物がうごめき、それを狙って体長3cmほどの幼いヤモリがたくさん駆けずり回っていた。

出会いはわりとあっけなかった。浜を歩き始めて30分ほど、長い蛍光灯が落ちていて、へえ、こんなもんが割れたりせずに打ち上げられたりするんですねえとか言いながら蛍光灯にライトを向けたところ......。 

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まっすぐな蛍光灯の横でなんかくねくねしてるんですが!

 

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見た事ないハブ

「ハブだ!」

「いましたね!」

体長140~150cm程のちょっと痩せ型のシャープなハブだ。しかし何か違和感を感じる。

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こちらにRAW現像したものをご用意しました。

「模様は完全に久米島型ですね、しかし.......」

記事で何度か紹介したように(何度もやるなよ)久米島に住むハブはかなりの割合で体の模様が独特になっていて「久米島型」などと呼ばれている。

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これが沖縄本島に近い模様のハブ(見つけたのは久米島)
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これが久米島型、背中に斑紋がラインのように走るが他の部分はシンプルになる。
 
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それにしてもなんだこの色は......。

「これはあまり見た事がない色だな......」

ハブ捕り歴30年のよへんさんにこう言わしめる。
たしかに、黒というには赤みが強いが茶色とも違う、なんとも言えない色の個体である。

マツダかスズキの車であんなのがあったような......。

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デミオだ。デミオのラディアントエボニーマイカ(カラーの名前です)だ。

ラディアントエボニーマイカなハブはやたら大人しく、こちらと対峙しても首をS字に曲げた戦闘態勢を取ることもしない。

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久米島ハブの特徴である背中の斑紋は体の色と同系であまり目立たない。パッと見単色(のラディアントエボニーマイカ)に見える。

「こんなに浜のほうにいるのもあまりないなあ」

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浜辺ではシギが休んでいた。

以前訪れたトカラ列島の小宝島ではネズミがいなくなって餌に困ったハブ(トカラハブ)が木に登って鳥を待ち伏せていた。さっきのハブは夜に浜辺で眠る鳥を狙っていたのかもしれない。

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小さい島のハブは厳しい環境の中を懸命に生きているのだ。

「この島独特の生態のハブだったりするんですかね」

「あと何匹か見ないとなんとも言えないな」

まだ19時30分、時間はたっぷりある。ここにはスタバもカラオケ館もなく、我々には寝床すらない。朝までやることはハブ探ししかないのだ。このペースならあと何匹見つかるか、心は踊る。

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しかし目の前を横切るのはボトルキャップヤドカリばかり。いい貝ないのかな...

 

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でかいヘビ!と思いきやヘゴ(でかいシダ)の幹。
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ハブが見つからないうちに潮が引き、磯にいたウツボは沖へ還っていった。なんか心の中に蛍の光が流れた。

歓喜の浜辺のハブ発見から数時間、まさかハブどころか1匹のヘビも見つからないままウツボは去り、猛烈な勢いで雨が降り出した。

船着場の倉庫の屋根に逃げ込んだ我々は結局、そこで夜明けを迎えた。
 

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ヤモリを捕まえて遊ぶ。
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暁の電柱が鳥居に見えた。

迎えに来てくれた船で久米島へと帰る。珍しいハブに会えたがまだオーハ島のハブを理解したというには物足りない感じがした。

船長の話では春になると島の浜辺で海鳥が繁殖活動をするらしい。それを狙って今回見つけたようなハブがもっと浜辺を徘徊したり、久米島から泳いできたりするのかもしれない。

おじさんになってからの徹夜はさすがにこたえる。
よへんさんと「また、行きたくなる気持ちが高ぶってきたら、春に行きましょう」とゆるふわに誓った。

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またねー。
 

 

1匹しか見られなかったがオーハ島のハブもシンプルでかっこいい久米島型だった。
久米島型のハブはとにかくいい。今後も機会があればこのハブに言及して「俺、ハブに全く興味ないんだけど久米島のハブが独特っていうのはなぜか知ってるんだよなちくしょう」という人を1人でも増やしていきたい。
 

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民宿のドライヤーもかっこよかった。
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