特集 2016年6月15日

山人(やもーど)と行く、檜枝岐のサンショウウオ漁

秘境の沢でサンショウウオづくしだよー!
秘境の沢でサンショウウオづくしだよー!
尾瀬への玄関口、檜枝岐村に伝わるサンショウウオ漁とはなんですか、どんな感じなんですか?
そこで見たのはぬるっとかわいいサンショウウオ、 そして山と生きる山人のかっこよさだった。
1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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サンショウウオが食べられる村

5月はじめの檜枝岐村にやって来た。「ひのえまたむら」と読む。福島県は会津の南に位置し、周囲を駒ヶ岳、燧ケ岳、帝釈山に囲まれた村である。
展望台より村を見下ろす。
展望台より村を見下ろす。
檜枝岐川と国道352号線に沿って民家や施設が並んでいる。
檜枝岐川と国道352号線に沿って民家や施設が並んでいる。
役場の建物がかっこいい。
役場の建物がかっこいい。
水芭蕉の花が夢見てにほっている尾瀬への玄関口として、シーズンになると多くの観光客が訪れる。

そんな檜枝岐の名物料理のひとつが珍味山椒魚(サンショウウオ)料理である。
サンショウウオの天ぷら。真ん中の四分休符みたいな一品がそれ。
サンショウウオの天ぷら。真ん中の四分休符みたいな一品がそれ。

正体はハコネサンショウウオ

サンショウウオはカエルと同じ両生類に属する動物だが、ほっそりとしてシッポが長く、見た目はトカゲやイモリに近い。
井伏鱒二の小説で暗所に幽閉されたオオサンショウウオが有名だが、ここで捕られるのはハコネサンショウウオという小さい種だ。
7年ほど前に見つけたハコネサンショウウオの幼生。
7年ほど前に見つけたハコネサンショウウオの幼生。
高い標高の渓流に住み、その生態の多くが謎に包まれている。姿を見ることができるのは繁殖期のわずかな間だけ。昔、東京は奥多摩の沢を死にそうになって探したが見つかったのは幼生だけだった。
これはトウキョウサンショウウオ。頭に地名がつきがち。
これはトウキョウサンショウウオ。頭に地名がつきがち。

漢方薬から名物へ

檜枝岐村文化財調査報告書第1集「檜枝岐の山椒魚漁」(関 礼子編著・福島県檜枝岐村教育委員会)によると、檜枝岐でサンショウウオ漁がはじまったのは大正時代、日光の川俣から伝わったという。
村の民俗資料館で手に入る。膨大な資料と聞き取り調査、考察であふれた感動の1冊。
村の民俗資料館で手に入る。膨大な資料と聞き取り調査、考察であふれた感動の1冊。
川俣の漁師が山を越えて村で漁をしているのを見た、星富吉、富次郎、数三郎の「星3兄弟」によって行なわれた。漢方薬の原料として需要が高く、戦前は支那にも輸出されていた。
漁が盛んだった頃は山中に小屋を建てて泊まりこみで漁が行われた。民族資料館に展示されているムコウジロ小屋
漁が盛んだった頃は山中に小屋を建てて泊まりこみで漁が行われた。民族資料館に展示されているムコウジロ小屋
戦後、村が観光事業中心にシフトしてゆくのに伴いサンショウウオも役割を変え、旅館や民宿で「秘境」檜枝岐の名物料理として観光客に提供されるようになる。

近年では需要の減少や高齢化により人数もかなり少なくなったというこのサンショウウオ漁、なんとか見られないものかとある民宿を訪ねた。
素朴なたたずまいの民宿。
素朴なたたずまいの民宿。
村の北側、駒ヶ岳の登山道近くの民宿「駒口」。源泉かけながしの温泉の他、山菜やきのこ、川魚など、そして山の幸をふんだんに使った山人(やもーど)料理が楽しめる。
岩魚、山菜、熊、このほかにコウタケの炊き込みご飯がちょっとどうかというくらい香り高くて美味。
岩魚、山菜、熊、このほかにコウタケの炊き込みご飯がちょっとどうかというくらい香り高くて美味。
山人とは、稲作に向かないこの村で猟や木工品作り等をして山で働く男達の事を言う。冒頭で紹介したのが駒口自慢の山人料理のひとつ,サンショウウオの天ぷらである。
右側が頭。ちょこんと前足が出ているのがわかるだろうか。
右側が頭。ちょこんと前足が出ているのがわかるだろうか。
期待と不安が入り交じるサンショウウオ食。
む、さっぱり。
む、さっぱり。
肉の味はかなり淡白で、シシャモなどの白身の小魚のようだ。ぐわんと弾力を感じ、のぞいてみると七つ揃えば願いがかないそうなオレンジ色の球体がつまっていた。
ドラゴンな球ではない、これは卵だ。それにしてもでかいな。 山人との出会いは勇み足
ドラゴンな球ではない、これは卵だ。それにしてもでかいな。

山人との出会いは勇み足

このサンショウウオを捕ったのが駒口の主人であり、観光業を営むかたわら山に入り猟や山菜、キノコ採りを行う現代の山人「星 清夫(ほし きよお)」さんである。
前述の檜枝岐サンショウウオ漁の始祖、星3兄弟の長男、富吉氏の孫にあたる。
星さんのしとめたツキノワグマ。でかい!
星さんのしとめたツキノワグマ。でかい!
「サンショウウオ漁に同行させてください!」
山人に頼み込んだ結論は「いや、まだ漁には時期が早いですよ」というものだった。
出直してきたまえ。
出直してきたまえ。
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檜枝岐アゲイン

5月の末、私はふたたび檜枝岐を訪れていた。尾瀬の山開きも近づき、多忙をきわめる星さんになんとか漁に同行する許可をいただけたのだ。
トチの花が咲くと漁期の訪れだという。
トチの花が咲くと漁期の訪れだという。
通常は雪が溶ける6月の半ばから7月末にかけて、サンショウウオが産卵のために沢に集まる頃が漁期となる。
しかし今年は雪が少なく気温も高いため、サンショウウオも早めに動くと見て漁に入るのを早めるという。
例の天ぷらを食すライターの玉置さん。今回の取材に同行してもらった。
例の天ぷらを食すライターの玉置さん。今回の取材に同行してもらった。
駒口に宿を取り翌朝6時、小雨がしとしとと降り注いでいた。山歩きにはあいにくの天気だが、サンショウウオは活性化しているかもしれない。星さんが1週間程前に罠を仕掛けた沢へと向かった。
ダート道を車でしばらく走った後、歩いて車道を外れ、沢へ向かう。
ダート道を車でしばらく走った後、歩いて車道を外れ、沢へ向かう。

沢の前に薮に飛び込む

出発時に星さんと。このあと、こんなでかいカメラ持って歩いている場合でない事がわかる。
出発時に星さんと。このあと、こんなでかいカメラ持って歩いている場合でない事がわかる。
「じゃあ、ここから入りましょう」
星さんが指差す先には背丈ほどもある薮がうっそうと茂り、獣道らしきものすら見当たらない。
「入口が簡単にわかっちゃうと登山する人が間違って迷い込んだり、いろいろ都合が悪いので薮は刈ってないんですよ」
おお、秘密基地感があってわくわくしますね。としゃくしゃくだった余裕は薮に飛び込むとすぐにくしゃくしゃとなった。
うおー突撃ー。
うおー突撃ー。
先頭を進む星さんがナタや棒で薮をかき分け、その後ろをひたすらついていく。傾斜はそれほどきつくないが深い薮に足を取られるわカメラを濡らされるわでなかなか消耗が激しい。
この藪の中、迷いなく進む星さん。庭ですか。
この藪の中、迷いなく進む星さん。庭ですか。
先を行く星さんの腰から風流と言うには少しやかましい鈴の音がこだまする。熊よけの鈴だ。サンショウウオの待つ深山幽谷へ踏み込むとはこういう事なのだ。気が引きしまる。
丸太の一本橋を渡る冒険感。
丸太の一本橋を渡る冒険感。
星さんの歩みは屈強にしてしなやか。一分の無駄もない動作で、雨に濡れて独特の静けさに包まれた森と同化するように進んでゆく。
なんていうか、「がさがさ」してないのだ(私はしてる)。
なんていうか、「がさがさ」してないのだ(私はしてる)。
逆にラッシュ時のJRや東京メトロの駅の階段を登るのは山人より我々社畜のほうが上手なのではないか。そんなところに救いを求めてどうする。
沢沿いをゆく。この山深さ。
沢沿いをゆく。この山深さ。
これでも今回は、素人の私のために比較的やさしい沢を選んでもらった。より奥地になると、滝登りなど道のりも険しいがやはりそういった沢のほうがよく捕れるという。

ついに目撃!

こんな調子で1時間弱ほど登ると星さんが流れの前で足を止めた。
「ほら、これが最初のやつですよ」
おお、これが!
おお、これが!
サンショウウオの罠だ!
サンショウウオの罠だ!
重なった岩の間を流れ落ちる水を受け止めるように黄色いネットが仕掛けられている。固定のための枝が侘び寂びの味わいを醸し出していて、漁というよりサンショウウオ道と呼びたくなる。
産卵場所を探して移動するサンショウウオが流れにそって下に落ちる所をこの網でキャッチする。
入口にはペットボトル。
入口にはペットボトル。
昔は竹で作った「ズウ」と呼ばれるものを使っていたが今では漁師がそれぞれ手に入りやすい素材を工夫して罠を作っている。
これがズウ。民俗資料館で見る事ができる。
これがズウ。民俗資料館で見る事ができる。
星さんが使っているペットボトルは焼酎「大五郎」だ。
「ペットボトルだと腐ったりしないんで便利なんですよ。冬の間置いておけるしね」
こうやって雪のかからないところに置いておける。
こうやって雪のかからないところに置いておける。
沢の大きさにもよるが罠の数は沢一つにつき12~13個、全部で50個以上の罠が必要となる。そうなると連夜の大五郎パーティーですね……。
「いやいや、処理場とかでもらってくるんですよ。そんなに飲んだら大変ですよ。俺が飲んだのはせいぜい2,3本ぐらいかな」
東京ではネコよけ、檜枝岐ではサンショウウオ捕り、大五郎と生物の関わりも実に深い。「俺とお前と大五郎」はその多様で重層的な関係を簡潔に表現した名コピーなのだな、あ、罠の様子はどうですか。
「お、入ってますね」
まじですか!
おお!ハコネサンショウウオズ!
おお!ハコネサンショウウオズ!
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じっくり愛でよう

ハイテンションでがんがんのぼってきます。
ハイテンションでがんがんのぼってきます。
漁期を早めたものの、やはりまだひとつの罠で捕れる量としては少ないという。しかし我々の喜びは大きい。
少し強くなった雨の下、一緒にかかった木屑や草、川虫などを冷静に取り除く星さんの横でただただはしゃぐデイリーポータルチーム。
わーい
わーい
飛び出したような大きな目がかわいい。
飛び出したような大きな目がかわいい。
早い流れの中を移動するため足の先には黒いかぎ爪がついている。
早い流れの中を移動するため足の先には黒いかぎ爪がついている。
図鑑でよくあるカット、サンショウウオwith苔。やってみたかった。
図鑑でよくあるカット、サンショウウオwith苔。やってみたかった。
はしゃぎすぎて動画も撮りました。ただ歩くだけ。
オスとメスのわかりやすい見分け方は後ろ足。なんというかオスの方ががっしりと「腰が入っている」のだ。
上がオス、下がメス。オスの後ろ足から尻尾にかけての恐竜感がすごい。
上がオス、下がメス。オスの後ろ足から尻尾にかけての恐竜感がすごい。
「最初はかなりの割合でオスが捕れます。で、だんだんメスが多くなって、ほとんどメスになるとその沢での漁は終わり。」ひとつの沢での漁期はおよそ2週間ほど。取り尽す前に漁を終わらせる。
サンショウウオを捕り、また罠を仕掛ける。これを各ポイントで繰り返す。
サンショウウオを捕り、また罠を仕掛ける。これを各ポイントで繰り返す。
「捕れなくなってきた沢では漁をやめて2年くらい沢を休ませます」
自主的に漁をコントロールして個体数を自然に回復させる工夫がなされているのだ。
罠がまた絵になるんですよ。罠の写真集作りたくなる。
罠がまた絵になるんですよ。罠の写真集作りたくなる。
この沢で100匹ほど捕れた。最盛期はこの倍以上捕れるという。
この沢で100匹ほど捕れた。最盛期はこの倍以上捕れるという。
現在、星さんが年に捕るのは4,000匹程。駒口で料理用に使ったり、希望した地元の民宿などに提供している。

嗅いでみた

サンショウウオの名前の由来は諸説あるが、そのひとつに「山椒のにおいがするから」というものがある。主にオオサンショウウオに関する説だが、いやそんな事ぜんぜんないよとか、いやだって裁いた時に山椒のにおいがしたもん、とかいろいろ言われている。ハコネサンショウウオはどうなのか、サンショウウオを山椒魚たらしめる体臭を持っているのか。
……無臭だな。
……無臭だな。
無臭だね。ってかっこいい自撮りだなおい。
無臭だね。ってかっこいい自撮りだなおい。
まとめて嗅いでみた。
まとめて嗅いでみた。
「山椒のにおい?しないですよ」
年間4,000匹のサンショウウオとふれあう星さんの証言はとどめにふさわしい。ハコネは山椒っぽくありません。
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2つ目の沢へゴー

一度下りて、罠をしかけたもうひとつの沢へ向かう。
「次のところは薮があまりないから楽だと思いますよ」
お、ほんとだ。
お、ほんとだ。
砂防を越えてヘイヘイ進む。
砂防を越えてヘイヘイ進む。
しかし、やはり難所はある。
ちょっといい感じで滑落しそうな急斜面。
ちょっといい感じで滑落しそうな急斜面。
落ちたらやばいと身体は緊張していたが、なぜか頭の中には「滑落大通り」というわけのわからないフレーズが浮かんだ。休日はセレクトショップでお買い物、行きつけのバルで舌鼓、しかし一歩ふみ外せば地獄の底へ真っ逆さま、それが滑落大通り。
滑落せずに着いた!罠あった!
滑落せずに着いた!罠あった!
こころなしか黄色がかった個体が多いような気がする。サイズも大きめ。
こころなしか黄色がかった個体が多いような気がする。サイズも大きめ。

招かざる客も

この罠にかかっているのはサンショウウオばかりではない。大きいものだとヒキガエルやアカガエル、そして、サンショウオの天敵である哺乳類も……。
カワネズミ!罠の中でおぼれてしまった。
カワネズミ!罠の中でおぼれてしまった。
渓流に住み、水中を移動するカワネズミが罠の中のサンショウウオを食べ、ネットまで食い破ってしまう事もあるという。
「一度だけですがウサギが入っていた事がありました」
ウ、ウサギ…….あんなピョンピョンしてかわいいものがずぶ濡れでこの中に……。
前日の夜、見かけた野ウサギ、これがあの網の中に…。
前日の夜、見かけた野ウサギ、これがあの網の中に…。
この沢はまだ数が出ないなー。
この沢はまだ数が出ないなー。
先の沢よりも収穫が少ない。沢によって捕れる時期が違う。ここはもう少し漁期が遅いようだ。
それでもだいたい50匹くらい捕れた。
それでもだいたい50匹くらい捕れた。
サンショウウオは濡らした布の袋に入れて持ち帰る。
今日の収穫は2つの沢で150匹くらい。この状態で持ち帰っても元気に生きている。
今日の収穫は2つの沢で150匹くらい。この状態で持ち帰っても元気に生きている。
暑さに弱く、手に乗せたりしていると体温で弱ってしまうが、生命力はかなりのもので冷水に戻すとすぐ元気になるという。
「活きたまま冷凍したサンショウウオを解凍したらまた動き出すことがあるらしいです」
スターウォーズのハン・ソロも顔負けだ。漢方に用いられるのもよくわかる滋養強壮感である。
持ち帰ったサンショウウオは塩水で締め、洗ってぬめりを取り、天ぷら用に冷凍する。こうなるとさすがに復活は不可能だ。
お名残惜しいが戻ります。
お名残惜しいが戻ります。
そして漁のフィナーレをかざったのはサンショウウオではなくあの動物だった。
「これ、熊の足跡ですね」
ひー!動揺してたのかちゃんと写真が撮れていない。
ひー!動揺してたのかちゃんと写真が撮れていない。
こんな感じで星さんはいくつかの沢を使い分けながらサンショウウオ漁を続けている。
「昔と違って今はほとんど地元の消費で捕る数も減っています。商売としてこれで食べて行くのはもう無理ですから、皆伝統を守るためとか、面白いからとか、そういうのでやってますよ」
村の生活の変化に寄り添うように、その関わり方を変えながらサンショウウオ漁はそれでも続いてきた。
最近、少しだが新しく漁をはじめた人もいるという。
サンショウウオ、熊、カワネズミ、この時間が止まったような静寂の中に潜む山の住人達と山人の対話が、永く続いていく事を願う。
また会おう!
また会おう!

7月になると、村内にある「ミニ尾瀬公園」ではジェラートにサンショウウオの薫製がぶっ刺してあるという、どうかしてるサンショウウオスイーツが数量限定で楽しめる。
これを体験してサンショウウオ漁体験の最後の1ピース(なにが)を埋めたいと切に思うのだった。
山菜の写真を撮る玉置さんがビームを出しそうでかっこよかった。
山菜の写真を撮る玉置さんがビームを出しそうでかっこよかった。

取材協力:桧枝岐温泉 山人(やもうど)の宿 民宿 駒口
TEL/0241-75-2146 FAX/0241-75-2163
ホームページ:http://komaguchi.com/
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