本当に現代の恐竜かもしれない、ドンタオ鶏
現代に!
恐竜は!!
存在する!!!
と、すみません、お分かりでしょうが、ちょっと嘘つきました。
この鶏はベトナム北部にあるドンタオ区固有の種、ドンタオ鶏。特徴は言うまでもなく、この恐竜のような足。鶏だと侮ることなかれ、最近では「全ての恐竜に羽毛があった」という学説も存在するらしく、もしかしたらこのドンタオ鶏は、数千万年前数億年前の恐竜の姿を限りなく真実に近い形で留めているのかもしれない。
このドンタオ鶏の姿は後半でじっくりお見せするとして、ここに至るまでの経緯を遡ろう。
ドンタオ区はベトナムの首都・ハノイから南東へ30km弱
ドンタオ区はハノイから30km弱、車で片道一時間なので意外に近い。が、私の拠点はホーチミンなので、現地に住む友人に移動手段や通訳の手配の諸々をお願いした。
「Queen's Japan Coffee」というカフェを経営している井上くん、彼にとって本当にタダ働きなのでせめてここだけでも店名を繰り返させていただきたい、クレープと日本食が食べられるカフェ「Queen's Japan Coffee」の店長・井上くんだ。
笑顔が似ているアフロ(井上くん)と坊主(私)。
手配したタクシーでドンタオ区へ。美人通訳、フェンさんのご尊顔は後ほど。
移動中、通訳のフェンさんがネットのドンタオ鶏の情報を読み上げてくれた。
彼女自身も初めて知ったようで、写真を見て「うわー!」と驚いていた。
フェンさん「特徴は、そのクリーチャーのような足である」
ネルソン 「それ以外に何か特徴は?」
フェンさん「特徴は…」
ネル&井上「ゴクリ…」
フェンさん「無い!」
ネル&井上「無いのかよ!」
ドンタオ区に到着すると、至る所にドンタオ鶏の看板があった
到着したと言われるまでもなく、ここはドンタオ区だと気付く。何故なら「Ga(鶏)」と書かれた、ドンタオ鶏の写真がはめ込まれた看板が至る所にあるのだ。姿形はネットで見ても、本当にいよいよ会えるのだと思うとドキドキと胸が高鳴る。
こっちにもガー(↓)!
あっちにもガー(↓)!
ネル「この道、ジブリっぽくね?」 井上「ほんとですね」
と話していたら…解体されたばかりの豚が追い越した。
紅の豚が通ったと思ったら、紅に染まった豚だった。
車でたった一時間とはいえ流石は地方、都市部で見掛けないものがここにある。荷台がガタゴトと揺れる度に、ドンタオ区のマルコは無情にプルプルと震えていた。
いよいよ到着、ドンタオ鶏の養鶏場
電話でやりとりしながら通り過ぎたり戻ったり通り過ぎたりして、いよいよ到着。
ここだ。
ドンタオ鶏を育てている養鶏家のミンさん一家、事前に取材をお願いしたら快く応じてくれた。
ん…?
んん~~!?
ネルソン 「いるよ!それっぽいの早速いるよ!!」
井上くん 「え…うわ!ほんとだ!!」
ネルソン 「あのー、早速撮らせてもらってもいいでしょうか…?」
フェンさん「『まずお茶をどうぞ』って」
ネルソン 「撮らせてほしいんだけど…」
フェンさん「ハノイの習慣です」
郷に入りては郷に従おう…ズズー。
恋し君(取材対象)がそばにいるのに…。
チッ、チッ、チッ、チッ…。
ミンさん「あ、案内するね」
ネルソン「何のための3ミニッツ!?」
まさに恐竜、ドンタオ鶏!抱いてみると、まさか…そんな…!?
同じ鳥という点ではダチョウに乗ったことがあるが、サイズは鶏でも珍獣という意味で緊張が走る。
はーっ、はーっ、はーっ。
いるーっ、いるーっ、いるーっ。
ミンさん 「抱いてみる?」
ネルソン 「えっ、あっ、はい…いきなり!?」
フェンさん「私、私も!」
ハシッ!
ミンさん「はい」
何気にここで初登場、フェンさんの素顔。
フェンさん「わー!すごーい!」
ネルソン 「す、す、す、」
ネルソン 「すげーっ!!」
ネルソン 「そして…こえーっ!!」
ちなみに顔もめっちゃ恐い。
ハリウッド映画の悪玉感ある。
離した直後に後ずさりするフェンさん。
ミンさん「はい、あんたもね」ネル「おおお」
ネルソン「おおおおおお」
ネルソン「あっ」
ネル「あったかい…」井上「ポイント間違っていませんか」
それにしても、見れば見るほどすごい。
もう、「すごい」以外の言葉が出て来ない。
ちなみに、左がメスで右がオス。
この写真を見ると分かるように、羽毛の下も足と同じくゴツゴツしている。つまり、仮に全ての羽根をむしってしまえば、頭以外は完全に恐竜のミニチュア版だ。あ~恐竜の子孫って鳥だったんだなぁ~と一人で納得。
今後どんな科学的根拠を持ち出して否定されたとしても、「いや、実際に見たし俺!」と反論するだろう。
この写真とか、後方20mくらいで車が宙を浮いてそう。
でも現実はめちゃくちゃ逃げ回っています(う…浮いてる!)。
さて、ひとしきり撮影したので、ミンさんにお話を聞かせてもらいましょう。
ただの珍獣ではないドンタオ鶏、実は高級食材だった
我々を案内しながら、庭に実っていた果物をもぎっていたミンさん。何をするかと思いきやそのままテーブルに並べた、あ…今食べるんだそれ。
龍眼、龍の眼のようだから龍眼。龍、実在しねーじゃん!あ、でも恐竜はいたな…。
味は少し薄味のライチ、実はここのドンタオ鶏に次ぐ特産品です。
本題に入ろう。
ネルソン 「ドンタオ鶏って、買うといくらするんですか?」
ミンさん 「大人で9万円から12万円、最高級になると24万円から30万円だねぇ」(ややこしいのでおおよその円表記にしています)
ネルソン 「30万円!って、日本の物価で考えると100万円相当以上だな…」
ミンさん 「ひよこは一匹850円、生後一ヶ月で1800円、2~3ヶ月で7200円から9000円、この頃に購入して育てる人もいるよ」
井上くん 「えっ、飼おうかな」
フェンさん「死んじゃうよ、かわいそうだよ」
日本に輸入したらビジネスになるかも、と色めきだつ井上くん。
ネルソン 「どういう基準で高級品とされるんですか?」
ミンさん 「足に、キズや凸凹がないこと、そして太くて赤いことだね」
他にも、普通の鶏はモモが美味しいが、ドンタオ鶏はどの部位(足、皮、肉)を食べても美味しいとされるとのことでした。「される」と書いたことには理由がありますが、それはまたこのあとで。実際に食べます。
ひよこ。この頃の見た目は至って普通で、ひたすらにかわいい。
ネルソン 「ミンさんはいつからドンタオ鶏の養鶏を?もしかして家業?」
ミンさん 「家業だよ!祖父の代からで、ドンタオ鶏の養鶏家も家族親戚でやってる」
ネルソン 「へー、完全に一族経営だ。全部で何羽くらいいるんですか?」
ミンさん 「ウチで200羽、ドンタオ区全体で1000羽くらいかな」
ひよこを飼って育てている人や、南部にもあるらしい養鶏場を含めると、実際はもっといるかもしれません。ちなみに今回、南部ではなくわざわざ遠い北部に出向いた理由は、育ちの良いドンタオ鶏の存在を確実に確認できたから。
一区画の柵の中には、オスが一匹とメスが数匹の一夫多妻制。でも手前の檻は交尾ボイコット中なのか。
話は途中で、旦那さんのハンさんにバトンタッチ。
ネルソン「ドンタオ鶏は、外国へも輸出したりしているんですか?」
ハンさん「してるよ!ベルギーやポーランドとか」
ネルソン「意外な名前が出てきた!経緯が謎だな」
日本の皆さんにドンタオ鶏をもっと知ってほしい
ネルソン「日本の皆さんに、何かメッセージはありますか?」
ハンさん「ドンタオ鶏をもっと知ってほしいね!そして直接、来て、見て、食べてほしい。何だったら日本で育ててほしいと思ってるよ」
ネルソン「ありがとうございます!ちゃんと伝えます」
ハンさん「ありがとう!」
ミンさんに途中で写真を撮られていた。facebookページに載せるらしい、現代人~!
ハンさん「よし、養鶏場の前で集合写真を撮ろう!」
ネルソン「あ、はい!」
ハンさん、黙って私の肩を組む。
ベトナムはそういうスキンシップあるからなぁ…まーいいけど。
パシャッ
と思って見たら肩組んでるんほぼ俺だけじゃねーかよ、何のフェイントだったんだよ。
ドンタオ鶏、食べに行くんだろ?
ハンさん「このあと、ドンタオ鶏食べに行くの?」
ネルソン「そうするつもり!」
ハンさん「俺たちも昼飯だから、一緒に行こうぜ!美味い店を知ってるから!」
ネルソン「そうしましょうか!養鶏家が勧めるレストラン…楽しみだな~!」
着いた。
ハンさん「ほら、あそこで切ってるだろ?」
ネルソン「本当だ」
ダン!ダン!ダン!
二羽目「ワテ切られますね~ん」
二羽目「ワテ切られまして~ん」
テーブルに並べられた、茹でられた高級鶏。
ハンさん「これはウチほどの最高級じゃないけどな。まっ、ドンタオ鶏はドンタオ鶏だ!」
ネルソン「ちなみにこれいくらするの?」
ハンさん「んー、時価だ!」
ネルソン「時価ぁ!?」
まさかコレ全部自分が払うんじゃないだろうな、という不安いっぱいの顔。
ビールまで頼んでるし…。
ハンさん「ビール飲む?」
ネルソン「や、やめとく」
ハンさん「はい!」(目の前に置かれる)
ネルソン「あれ?」
かんぱーい!
とりあえず、食べる予定ではあったし、ここまで来たらしょうがない! 覚悟を決めていただきます!
あぐっ!
かってぇーーーーーー!!
そう…ドンタオ鶏は固い!
だが、ベトナムで鶏肉や牛肉は固いものが良いとされる(限度はあるけど)、つまり固いドンタオ鶏は最高級であるということだ!日本の軍鶏をイメージしてもらえればいいが、だとしても日本人のアゴには固すぎる。
ネルソン「井上くん…噛み切れてる?」
井上くん「はひひれへらいっす…」
訳:噛み切れてないっす…
ただ、噛めば噛むほど肉汁は出る。
茹でただけだと苦労するが、調理方法によっては美味しく食べられる…かも?
うーむ、美味しく食べられるなら救いはあるが、これでもし自分が全額分払うことになったら悲しいにもほどがある。払えてタクシーの運ちゃんの分までだわ、せめて美味しく食べてほしい…と彼に目をやる。
食べてない(遠慮してる)し…。
余計に真実味が増してきたぞ。
払うのか、やっぱり俺は全額分を払うのか。
払わねばならぬのか、この高級食材のドンタオ鶏を。
ネルソン「あの~、ちなみにおいくらで…?」
ハンさん「何言ってんだ!誘った俺が払うよ!!」
ネルソン「シシシ、シンカモーン!!(ありがとうございます!!)」
この瞬間で、この日の評価は決まった。良い一日だった。
また来てくれよな!
ブロロロロ…
ネルソン「まぁ、でも、日本人が好きな味ではなかったね。輸入すんの?」
井上くん「観賞用として…いや、うーん、どうしましょう」
未知との遭遇は、楽しい。
締めの言葉がすごく当たり前だが、本当にそう思った。ドンタオ鶏がミンさんの祖父の頃からの家業なら、50年以上前から確実に人目に触れていたはずだ。
誰が見ても驚く見た目なのに、最近までベトナム国内ですら世間一般に知られていなかった。これだけネットを通して世界中のことが分かっても、知らないことはまだまだある。未知との遭遇は、楽しい。
最後に、恐竜感の出る合成gif動画をつくりましたが、披露するタイミングがなかったのでここで!