特集 2015年3月17日

シイタケ栽培の廃ホダ木で昆虫採集

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シイタケは「ホダ木」と呼ばれる丸太に菌糸を打ち込んで栽培する。ホダ木が畑の役割を果たすわけだ。ただし、ホダ木は畑と違って耕したり肥料を足したりすることができない。一定の量を収穫し終えると生産力が激減し、廃材と化してしまう。

だが、シイタケが獲れなくなると今度はアレが採れるようになる。虫だ。シイタケと虫の二毛作ができるのだ。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

前の記事:凧みたいなエイを揚げたら美味かった

> 個人サイト 平坂寛のフィールドノート

処分予定のホダ木を貰う

少年時代、祖父の家を訪ねるとよく家庭菜園の隅に捨て置かれた処分予定の廃ホダ木をもらっていた。それを納屋から持ち出したボロ鉈で削るように割っていくのだ。

すると、中から様々な虫がポロポロと転げ出てくる。名前もよく分からないような小虫から、運がいいとカブトムシやクワガタまでも捕まえることができた。

これは、シイタケの菌糸でいい感じに分解されたホダ木は、朽ち木を食べる虫にとって素晴らしい食料となるためだ。

特に虫相手の遊びがしにくくなる寒い時季には、これがとっておきの楽しみだった。
シイタケのホダ木にはクヌギやコナラ、クリなどがよく用いられる。
シイタケのホダ木にはクヌギやコナラ、クリなどがよく用いられる。
祖父が亡くなって以来、久しくこの遊びからも遠ざかっていたが、この度ついに再挑戦する機会を得た。
実家の両親が知らぬうちにシイタケ栽培に手を染めていたのだ。数年前に何度か収穫して以来飽きてしまったらしいが、その名残としてホダ木が三本も裏手に打ち棄てられているという。
うわ、あった。隅っこに追いやられて、廃棄物感がすごい。
うわ、あった。隅っこに追いやられて、廃棄物感がすごい。
かなりボロボロに朽ちている。確かにこれではもうシイタケの収穫は見込めそうにない。
かなりボロボロに朽ちている。確かにこれではもうシイタケの収穫は見込めそうにない。
聞くと、もう使い道もないし、放置しておくのも見栄えが悪いので適当に処分するつもりだったらしい。

ならば!ください!有効活用します。個人的に。
実家は一応住宅街にあるのだが、山からもそう遠くない。いろいろな虫がホダ木に飛んできているかも?
実家は一応住宅街にあるのだが、山からもそう遠くない。いろいろな虫がホダ木に飛んできているかも?
何の滞りも無く廃ホダを貰い受けた。両親からしてみれば処分する手間が省けたわけだが、一方の僕は心置きなく昆虫採集を楽しめる。これをWIN-WINの関係と言わずして。

廃棄物なので心置きなく割れる

これから昆虫採集を行いまーす。
これから昆虫採集を行いまーす。
早く割りたいところを抑えて、啓蟄を過ぎるまでは手を着けずにおいた。もし中で冬眠している生物がいた場合、その後のケアをしやすいようにである。

三本のホダ木は捨てられた時期が違うようで、かなり状態に差がある。
このホダ木はまだそこそこ新しいらしく、妙に綺麗。虫っ気をあまり感じないが…。持ってみるとずっしり重く、他の二本に比べて中身が詰まっている感じ。クヌギの幹か?
このホダ木はまだそこそこ新しいらしく、妙に綺麗。虫っ気をあまり感じないが…。持ってみるとずっしり重く、他の二本に比べて中身が詰まっている感じ。クヌギの幹か?
こちらはやや浸食が進んでいる印象。虫食いの穴が表面にまで浮いている。一番期待できそう。樹種はコナラかな?
こちらはやや浸食が進んでいる印象。虫食いの穴が表面にまで浮いている。一番期待できそう。樹種はコナラかな?
一番古い木(四、五年モノ?)に至ってはもうズタボロ。スカスカに軽く、持ち上げると木屑がザラザラ落ちてくる。たぶん、虫の食いかすだろう。まだ中に虫残ってるのか?
一番古い木(四、五年モノ?)に至ってはもうズタボロ。スカスカに軽く、持ち上げると木屑がザラザラ落ちてくる。たぶん、虫の食いかすだろう。まだ中に虫残ってるのか?
朽ち方の程度によって中に棲む虫の種類も変わってくるかもしれない。もちろん、同じ木でも部位によって着いている虫が違うだろう。そういう部分を意識しながら進めていくと、この虫採りはより一層楽しくなる。
まずは手で樹皮を剥がして、隙間に潜り込んでいる虫をチェック。
まずは手で樹皮を剥がして、隙間に潜り込んでいる虫をチェック。
ホダ木に限らず、こういう朽木を削って中の虫を探す方法を昆虫愛好家は「材割り」と呼ぶ。材割りは効率よく色々な虫を観察できて非常に楽しいのだが、朽ち木は中の虫たちにとって食料であり住処である。野外でこれを手当たり次第にかち割っていくと、虫たちにかなり深刻なダメージを与えかねない。

僕はやり始めると止まらなくなるタイプなので、朽ち木につく虫を探す際は倒れた枯れ木を割らずに持ち上げて下にいる虫を観察する、あるいは樹皮だけを持ち上げてまた被せ直すなど、元の状態に復元できる方法しか取らないよう自ら制限をかけている。
樹皮の下を見終えたら、鍬や鉈で少しずつ慎重に削る。虫はデリケートだ。
樹皮の下を見終えたら、鍬や鉈で少しずつ慎重に削る。虫はデリケートだ。
それでもしばしば「粉々に砕いて、中の虫全部ほじくり出したい!」という欲と衝動に駆られるのも事実。

だが、今日は遠慮しなくていい。どのみち、間もなく処分される運命にあったホダ木を相手にするのだから。いや、それどころかむしろ、中にいる虫たちの救出作業と言えるかもしれない。まあ、実際は個人的に虫を探したいだけなんだけど。

よ~し、割るぞ~~!!

樹皮の直下は昆虫以外が多い

樹皮を剥がすと、たくさんのダンゴムシが転がり落ちてくる。ホダ木の中は安全だし、それ自体がエサにもなるので、彼らにとっては最高の居場所だったのだろう。ちょっと申し訳ないが、新しい住処も用意してあるから安心したまえ。
樹皮を剥がすと、ダンゴムシがポロポロと。どの木にもたくさん棲みついていた。
樹皮を剥がすと、ダンゴムシがポロポロと。どの木にもたくさん棲みついていた。
ダンゴムシ軍団の隙間を小さなムカデが駆け抜けていく。きっと、ホダ木につく小さな昆虫やダニなんかを捕食しているのだろう。
ムカデの類は常連。いずれの木にも二匹以上入っていた。写真と矛盾しているが、素手での作業はおすすめしない。
ムカデの類は常連。いずれの木にも二匹以上入っていた。写真と矛盾しているが、素手での作業はおすすめしない。
軍手でもいいので、なにかしら手袋はつけた方がいいよ。ちなみに時季によってはスズメバチの女王が入っていることもある。
軍手でもいいので、なにかしら手袋はつけた方がいいよ。ちなみに時季によってはスズメバチの女王が入っていることもある。
脚が多い系ではダンゴムシ、ムカデに続いてゲジ(無害)も登場。まともな写真も撮らせてくれぬまま逃走。一番ボロい木から一匹のみ。
脚が多い系ではダンゴムシ、ムカデに続いてゲジ(無害)も登場。まともな写真も撮らせてくれぬまま逃走。一番ボロい木から一匹のみ。
その他にも、樹皮の下からはゲジやカメムシ、ミミズ、陸貝などをゲット。
オオモンシロナガカメムシ。朽ち木を食べる虫ではないので、たぶん冬眠のために潜り込んだのだろう。ボロい木と一番新しい木から一匹ずつ確認。
オオモンシロナガカメムシ。朽ち木を食べる虫ではないので、たぶん冬眠のために潜り込んだのだろう。ボロい木と一番新しい木から一匹ずつ確認。
意外にもミミズがたくさん。コンクリートに立てかけておいた木になぜ。
意外にもミミズがたくさん。コンクリートに立てかけておいた木になぜ。
と思ったら、ホダ木が立っていた地面がいい感じの土山に。ホダ木から出た木屑が腐植土になっていたらしい。なら納得。
と思ったら、ホダ木が立っていた地面がいい感じの土山に。ホダ木から出た木屑が腐植土になっていたらしい。なら納得。
細長くて小さい貝も。キセルガイの一種か?他にはナメクジも数匹。
細長くて小さい貝も。キセルガイの一種か?他にはナメクジも数匹。

「食痕」を辿れ!

樹皮を剥がし終えると、いよいよクワの刃が入っていく。
どこに虫がいるかわからないので、一振り一振りを優しく、慎重に進めていかなければならない。
おがくずの詰まったトンネルのようなものは虫がかつて通った道。虫はこの先にいる…かもしれない。
おがくずの詰まったトンネルのようなものは虫がかつて通った道。虫はこの先にいる…かもしれない。
たった今、虫はどこにいるかわからないと書いたが、実はおおよその見当をつける手掛かりもある。ホダ木を削っていくと、細かい木屑が詰まった坑道が木の中を走っていることに気づく。

この道は虫が朽ち木を食べながら掘り進んだ道であり、木屑はその食べかすなのだ。これを「食痕」という。この食痕を辿っていくと、その主たる虫に行きつくことが多いのだ。
キマワリという甲虫の幼虫が出てきた。
キマワリという甲虫の幼虫が出てきた。
改めてホダ木の断面を見ると、どうも細いものが目立つが食痕自体は少なくない。

少しずつ削っていくと、キマワリという昆虫の幼虫が出てきた。キマワリの成虫はほのかにメタリックグリーンがかった黒いボディーのわりとかっこいい虫なのだが、幼虫にその面影はない。

ちなみに、キマワリは三本の木から計二十四匹も見つかった。そのうち、一番ボロイ木から出てきたのは三匹のみ。朽ち木を食う虫なので当然かもしれないが。
ユミアシゴミムシダマシの幼虫…だと思う。
ユミアシゴミムシダマシの幼虫…だと思う。
続いてキマワリと同じゴミムシダマシ科のユミアシオオゴミムシダマシ(たぶん)の幼虫が登場。こちらは一番綺麗な木から三匹、二番目に綺麗な木から一匹出てきた。
ユミアシゴミムシダマシの成虫らしき死骸が。ホダ木の中でも厳しいサバイバルが人知れず繰り広げられているのだ。
ユミアシゴミムシダマシの成虫らしき死骸が。ホダ木の中でも厳しいサバイバルが人知れず繰り広げられているのだ。
他にもコメツキムシやカミキリムシの幼虫がちらほら見つかる。
イモムシばっかりだな、おい。
コメツキムシの幼虫。新しい木から二匹。
コメツキムシの幼虫。新しい木から二匹。
カミキリムシの幼虫。これもやはり新しい木から二匹のみ。こいつおいしいんだよなあー。
カミキリムシの幼虫。これもやはり新しい木から二匹のみ。こいつおいしいんだよなあー。

クワガタ登場!!

次々に虫が出てくるので個人的にはとても楽しいのだが、ここで一つの懸念が。
これ記事にはできないよな。地味すぎて。

さっきからムカデとかイモムシとか、虫の中でも一般受けの悪い連中しか出てきてないもんな。そりゃそうだよね。朽ち木の中に蝶やトンボがいるわけないもんね。
今日の出来事は僕の心にとどめておくか、せいぜい個人ブログに書き留めて終わりだろう。
コバネハサミムシ。地味だけれど、よく見るとハイソックスを履いたように脚が白くておしゃれ。でも、やっぱ地味。二番目にボロい木から。
コバネハサミムシ。地味だけれど、よく見るとハイソックスを履いたように脚が白くておしゃれ。でも、やっぱ地味。二番目にボロい木から。
それでも何か華やかな、虫に興味の無い読者方も「おっ」と気を引くような虫が一匹くらいいるのではないか。一層神経を集中させてホダ木を見つめるが、顕微鏡が欲しくなるようなサイズの虫が見つかるばかり。あとはひたすらキマワリキマワリキマワリ…。
線虫…?昆虫以外もバリエーション豊富なので、意識してみると面白い。
線虫…?昆虫以外もバリエーション豊富なので、意識してみると面白い。
全体の半分を崩し終えようという時だった。「さけるチーズ」のように割かれたホダ木の断面、大きな食痕の先に何かがモコッと動いた。イモムシの動きではなかった。木屑の隙間から黒いモノが見える。

コレはアレか?アイツ来ちゃったか?
黒いサムシングが動いた!
黒いサムシングが動いた!
クワガタカミーーーーーーング!!
クワガタカミーーーーーーング!!
指先で木屑を払うと、ぴょこっと二本の大アゴが振り上げられた。クワガタだ!小さいけど、クワガタだっ!
大アゴを広げてこちらを威嚇するコクワガタのオス。夏を迎える前に無理矢理起されたのでむかついているようだ。
大アゴを広げてこちらを威嚇するコクワガタのオス。夏を迎える前に無理矢理起されたのでむかついているようだ。
このクワガタはコクワガタといって、実家のある九州では一番よく見られる種類である。
実は今回、作業に取り掛かる前から「コクワガタくらいなら採れても不思議じゃないよな」と思っていた。
それでも、いざ見つかるとやはりびっくりしてしまうものだ。やっぱアレやね。クワガタには男の心を躍らせる魔力があるね。大きさに関係無く。
クワガタがいた場所は「蛹室」という部屋。通常はここで蛹から成虫へ羽化し、夏までスタンバっておくのだ。
クワガタがいた場所は「蛹室」という部屋。通常はここで蛹から成虫へ羽化し、夏までスタンバっておくのだ。
クワガタが登場すれば話が違ってくる。そして、興奮冷めやらぬうちにまたも黒い塊が!
メスも出てきた!
メスも出てきた!
これまたコクワガタ!しかも今度はメスだ。ペアが揃ったぞ。
雌雄が揃ってしまった。二匹とも、起こしちゃってごめんね。
雌雄が揃ってしまった。二匹とも、起こしちゃってごめんね。
しかし、両親しかいないと思っていた実家に、いつの間にかクワガタが同居していたとは…。ちょっと不思議な思いを抱いてしまう。

採った虫たちは旅立ちの時まで保護!

いやー、削った削った。削り尽くした。これで「処分」の名目もクリアしたし、虫たちのサルベージにも成功した。あとは、彼らの行き先を決めてやるだけだ。
髄まで削り尽くしました。
髄まで削り尽くしました。
まず、ミミズやダンゴムシ、ムカデやカメムシなど、ホダ木の中でなくとも生きていける者は我が実家が誇るミミズコンポスト(と呼んでいるが、すでにダンゴムシやカタツムリは多数定住している)へと引っ越してもらう。彼らの参入によって生ゴミの分解速度がより一層向上するかもしれない。
父が趣味で作ったミミズコンポスト。ダンゴムシやミミズなど、朽ち木の外でも生きていけそうな生物はこちらへ移動してもらう。木屑ももちろんここへ。
父が趣味で作ったミミズコンポスト。ダンゴムシやミミズなど、朽ち木の外でも生きていけそうな生物はこちらへ移動してもらう。木屑ももちろんここへ。
では、ホダ木から追い出されたら確実に食いっぱぐれる幼虫たちはどうなるのか。
幼虫たちはホダ木の削りカスをプラスチック容器に固く詰めて飼う。これでもまだ一部。
幼虫たちはホダ木の削りカスをプラスチック容器に固く詰めて飼う。これでもまだ一部。
羽化するまで飼うことにした。元の住処は崩してしまったが、その削りカスを容器にギュッと詰め込んでやればホダ木をある程度再現できるのだ。あとは適度に水分を補給しつつ成虫になるのを待つのみ。万が一削りカスが不足したら、クワガタ飼育用のマットを買って足してやればいい。

それから、二匹のクワガタも本来の活動期間である夏までは保護しておくことにした。もっとも、それまでに愛着が湧いたらそのまま飼い続けてしまうかもしれないが…。

キャンプ場の薪もオススメ

と、こんな感じで古いホダ木の二、三本もあれば結構ガッツリ昆虫採集が出来てしまうのだ。もちろん、立地や置き場所によって着く虫の種類は変わってくるので、そのあたりにも着目してみると面白いかもしれない。

また、ホダ木だけでなく、キャンプ場に積まれている薪にもカミキリムシやタマムシ類がよく住み着く。気になる人は注意して観察してみよう。
樹皮の表面に着いていたコカマキリの卵のう。外側とは想定外だった。
樹皮の表面に着いていたコカマキリの卵のう。外側とは想定外だった。
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