特集 2015年3月3日

凧みたいなエイを揚げたら美味かった

凧みたい?なら「揚げる」べし!
凧みたい?なら「揚げる」べし!
「ツバクロエイ」というエイがいる。エイと言えばスペードに近い菱形の薄い魚体が特徴だが、このエイはちょっと個性的。胸鰭が大きくせり出しているために体がやたらと横に広く、「ゲイラカイト」などの凧にそっくりなシルエットをしているのだ。

この度、このエイを捕まえることに成功したので、揚げてみることにした。調理的な意味合いで。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

前の記事:ヤドカリを食べた後に水を飲むと甘く感じる?

> 個人サイト 平坂寛のフィールドノート

凧を追いかけ早半年

僕はこれまでツバクロエイを写真かダイバーが撮影した動画でしか見たことがなかった。そして、見るたびに「これ凧だよなあ…。」と思っていた。一度生で見てみたいと思った。
一口に凧と言っても色々あるが、ツバクロエイは特にこの手の製品に似ている。シルエットが。
一口に凧と言っても色々あるが、ツバクロエイは特にこの手の製品に似ている。シルエットが。
沿岸性の魚で生息域も割と広いのだが、数はさほど多くないため、狙いすまして観察、捕獲をしようとすると意外と難儀する魚なのだ。
ツバクロエイは暖かい時季によく現れると聞く。厚着が必要な季節に突入してからはもう遭遇をほぼ諦めていた。
ツバクロエイは暖かい時季によく現れると聞く。厚着が必要な季節に突入してからはもう遭遇をほぼ諦めていた。
それでも、挑戦してなければわからない。目撃例の多い地域を調べ、昨年の夏から何度か釣り竿を担いで通ってはみた。

結果は半年かけて全敗。アカエイやナルトビエイなど、他のエイの顔は何度か拝めたのだが…。

想定外の場面で遭遇

季節は既に冬。釣り人や漁師さんに話を聞くと、ツバクロエイは水温の下がる冬季よりも春~秋の暖かい時季に多く見られると言う。

うわー、敗けた。シーズン中に釣ることができなかった。それどころか姿も見ていない。まあ、相手は野生動物なんだから仕方がない。一旦諦めて、また暖かくなるまで待とう。

…そう思っていた。
姿が見えた瞬間、心臓が一瞬変なリズムを刻んだ。
姿が見えた瞬間、心臓が一瞬変なリズムを刻んだ。
そう思って身を引いたつもりだった。しかしある休日、まったく違う魚を狙って釣りをしていると、なぜか思いがけずツバクロエイが釣れてしまった。極寒の二月。しかも特に冷え込む午前二時の出来事である。
おお、良いエイ。
おお、良いエイ。

やはり凧っぽい

なんか納得できない部分もあるが、とりあえず嬉しい。ものすごく嬉しい。なめまわすように見て、触って、嗅いで、撮る。

見るほどにみょうちくりんな魚だが、そこがかわいい、かっこいい。そしてやっぱり凧に似ている。
似てない?
似てない?
凧はより上手く風に乗れるよう、先人たちが試行錯誤した末にあの形状に辿りついたのだろう(もちろん、全然エイっぽくない凧もたくさんあるけれど)。

もしかすると、ツバクロエイのあの体型も泳ぐ際に水を掴みやすくとか、水流を受けて労せず移動できるように、などといった凧の進歩と似たような方向性への進化がもたらしたものなのかもしれない。他人の空似にそういった必然性があれば面白い。

…ひょっとして、凧の設計士がエイ類のプロポーションを何かしらの理由で参考にした、ということもあったりして。
一見すると眼のように思える頭部のくぼみは噴水孔という器官。ここから水を取り込んで鰓へ通し、呼吸する。
一見すると眼のように思える頭部のくぼみは噴水孔という器官。ここから水を取り込んで鰓へ通し、呼吸する。
本物の眼は噴水孔の前方に鎮座。意外とつぶらでかわいい。
本物の眼は噴水孔の前方に鎮座。意外とつぶらでかわいい。
体はエイの中でもかなり薄い部類だろう。
体はエイの中でもかなり薄い部類だろう。
面積が大きいせいでものすごい大物に見えるが、実際は薄いので軽々持ち上がる。
面積が大きいせいでものすごい大物に見えるが、実際は薄いので軽々持ち上がる。
ツバクロエイで凧揚げ!ずっとこれをやりたかった!
ツバクロエイで凧揚げ!ずっとこれをやりたかった!
くどいようだけど、似てるよね?
くどいようだけど、似てるよね?
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「ツバクロ」とはツバメのこと

ところで、ツバクロエイの「ツバクロ」とはツバメのことだという。ヤクルトスワローズのマスコット、ツバメの「つば九郎」の名もツバクロのもじりだ。

このエイにツバメの名が冠されたのは、大きく左右に広がった胸鰭が宙を滑り飛ぶツバメの翼を思わせるからだろう。…でも、正直言ってそんなにツバメっぽく無い気もするなあ…。翼を広げて滑空する鶏ならトビでもミサゴでもよかったのでは。
そういえば、このナンヨウツバメウオもツバクロエイと同じようなシルエット。そして名前には「ツバメ」を冠す。
そういえば、このナンヨウツバメウオもツバクロエイと同じようなシルエット。そして名前には「ツバメ」を冠す。
裏返すと、胸鰭の縁は黄色く染まっている。このカラーパターンはアカエイなどとほぼ同じ。
裏返すと、胸鰭の縁は黄色く染まっている。このカラーパターンはアカエイなどとほぼ同じ。
可愛い顔だが、眼に見える小さな穴の正体は鼻孔。
可愛い顔だが、眼に見える小さな穴の正体は鼻孔。
口元のアップ(解体後の写真)。非常に細かい歯が密集してやすりのようになっている。
口元のアップ(解体後の写真)。非常に細かい歯が密集してやすりのようになっている。

実は有毒生物

ところでこのエイ、やけに尻尾が短い。しかし、これは別にちぎれてしまっているわけでなく、もともとこういうものなのだ。エイの仲間にはこの尻尾に毒針を生やしているものが多く、捕まえる際に警戒しなければならないのだが、ここまで貧弱だと威圧感は小さい。
短く細い尻尾にはやはり弱々しいがちゃんと毒針が生えている。
短く細い尻尾にはやはり弱々しいがちゃんと毒針が生えている。
しかし、よく見ると貧弱なりにしっかりちゃっかりばっちり毒針が生えている。ツバクロエイに刺された場合の症例は聞いたことがないが、絶対ろくなことにはならないだろう。今回は食べるために持ち帰るので、注意しつつ締めて血抜きを済ませる。
毒針を接写。他のエイと同じく、縁に鋸刃状に返しがついている。
毒針を接写。他のエイと同じく、縁に鋸刃状に返しがついている。

刺身でも美味い!

今回は遠方で捕獲したため、ツバクロエイは現地で解体と簡単なクリーニングを終えてから冷凍便で自宅へと送った。
予想通り、台所を占領する凧。ちなみに、肝は予想外に小さかった上、輸送の際に傷んでしまったため泣く泣く廃棄。
予想通り、台所を占領する凧。ちなみに、肝は予想外に小さかった上、輸送の際に傷んでしまったため泣く泣く廃棄。
胸鰭と胴体に切り分けられたエイがキッチンに現れた。さっそく下ごしらえを進める。

エイを調理する際は、まず体表のぬめりを落とす作業が難関となる。普通は時間をかけて念入りに塩もみするのだが、今回は一度冷凍したためか素手でこするだけでするすると落ちてくれた。これいいな。今度からエイ獲ったら一旦凍らせてみよう。
ツバクロエイの胸鰭。エイを料理する上で一番扱いやすい部位だ。
ツバクロエイの胸鰭。エイを料理する上で一番扱いやすい部位だ。
切り取った二枚の胸鰭には頑丈な皮が張り付いている。これが美味いか不味いかはまだ分からない。とりあえず片方は剥いで、もう片方はそのまま使ってみよう。
端から少しずつ剥がしていく。鰭の端は剥がしやすいが皮が薄く破れやすい。付け根側は身に強く張り付いていて剥がすのに力を使う。
端から少しずつ剥がしていく。鰭の端は剥がしやすいが皮が薄く破れやすい。付け根側は身に強く張り付いていて剥がすのに力を使う。
剥き終わると、いわゆる「エイヒレ」が。
剥き終わると、いわゆる「エイヒレ」が。
皮は表と裏でくっきり分かれるツートンカラー。なめして何かに使えないものか。
皮は表と裏でくっきり分かれるツートンカラー。なめして何かに使えないものか。
皮を剥いた鰭から刺身を取る。鰭の中には内輪の骨のように軟骨の条が密に並んでいるので、それに沿うように包丁を入れて肉を剥がしていく。普通の魚とはかなり勝手が違うが、どうにか刺身を切り出すことができた。
ツバクロエイの刺身
ツバクロエイの刺身
刺身は柔らかく、粘りのある食感。だが水っぽくもない。エイやサメにありがちな筋張った感じが多少あるものの、まだ若い個体だったためかさほど気にならない。

また、アンモニア臭などの臭みは一切無い。脂はあまり乗っていないが、ほのかに甘く上品な味わい。これは自信を持って「おいしい」と言える魚だ。
…ただ、エイは節の入り方が独特なので、初めて食べる人はギョッとするかも。
…ただ、エイは節の入り方が独特なので、初めて食べる人はギョッとするかも。
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「凧」なら「揚げ」てしまえ!

刺身が合格ラインを超えたとなると、他の調理法を試すのも楽しみになってくる。

とりあえず、刺身を取った後のほぼ軟骨だけになってしまった鰭を片付けよう。
肉を削いでしまった鰭は適当な大きさに切って酒とみりんと塩で味付けして炙ることにした。
肉を削いでしまった鰭は適当な大きさに切って酒とみりんと塩で味付けして炙ることにした。
軟骨の条に沿って適当な大きさに切り分け、酒で拭く。あとは適当に塩とみりんを振って炙るだけ。
ツバクロエイヒレの炙り
ツバクロエイヒレの炙り
ゼラチン質がとけてねっとりとしている。また、軟骨はサクサクと軽い食感に。まあ、簡単に言うと良いエイヒレの味である。食べだすとなかなか止まらないやつだ。

さあ、もう片方の鰭にも手を付けるぞ。
皮付きのまま揚げてみようか。
皮付きのまま揚げてみようか。
こちらはあえて皮を剥かずにおいた。火を通せば柔らかくなって素敵な食感を楽しませてくれそうな気がしたからだ。
こういう鱗が無くて丈夫な皮は剥かずに揚げると美味くなることが多い。…気がする。
こういう鱗が無くて丈夫な皮は剥かずに揚げると美味くなることが多い。…気がする。
まあ、おいしくなるのは分かりきっていた。サメでもエイでもウツボでも、この手の皮を持っている魚は皮ごと唐揚げにするとモチモチして美味いのだ。ツバクロエイとて例外ではあるまい。
ツバクロエイのから揚げ、名付けて「凧揚げ」。
ツバクロエイのから揚げ、名付けて「凧揚げ」。
凧っぽいエイのから揚げだから凧揚げだぜ~と妙なテンションで作ったそれは、予想通りの味だった。肉はフワフワ、軟骨はサクサクでコリコリ。そしてあの堅かった皮はもっちりでねっとり…。大成功。これは美味い。オススメします。もしツバクロエイが手に入ったら。
ツバクロエイのあら煮。
ツバクロエイのあら煮。
残るは胴体と頭部であるが、これが厄介。肉はそれなりについているのだが、それだけを綺麗に切り出すのが難しいのだ。

というわけで、そのまま豪快に煮つけて箸でむしって食べることに。味は「まさにエイの煮つけ!」といったもので悪くはないが、割と早く飽きがきてしまい、食べきるのが大変だった。ただでも肉の量がすごいしね…。
どれもおいしい!でも特に気に入ったのはから揚げかな。
どれもおいしい!でも特に気に入ったのはから揚げかな。
いくつかの調理法を試してみて、ツバクロエイは見た目もいいが味もいいエイであることを確信できた。他のメジャーな近海産エイと比べると、ツバクロエイ≧アカエイ>ナルトビエイくらいだろうか。

「凧焼き」にしてみたらどうか

試食も概ね満足したが、「凧揚げ」を食べている際に一つのアイディアが浮かんだ。

コリコリした食感の軟骨をタコの身に見立てて、たこ焼きの具にしてみてはどうか。
鰭の軟骨が密に走る部分を適当なサイズに切り分けて蒸し、タコの代わりにたこ焼き生地へ投入する。
鰭の軟骨が密に走る部分を適当なサイズに切り分けて蒸し、タコの代わりにたこ焼き生地へ投入する。
たこ焼きならぬ「凧焼き」の完成。
たこ焼きならぬ「凧焼き」の完成。
タコは一切入っていません。全部凧みたいなエイです。
タコは一切入っていません。全部凧みたいなエイです。
あー、普通にタコ入れるべきだわ。身も蓋もないけど。
あー、普通にタコ入れるべきだわ。身も蓋もないけど。
タコの代わりに凧みたいなエイが入ってるからこりゃあたこ焼きならぬ凧焼きだな!と凧揚げに続いて今考えると割と本気でキツい駄洒落ネーミングをノリノリで考案してしまうほど高めのテンションだった。しかし、完成した凧焼きを齧って目が覚めた。

コリコリした歯ごたえをイメージしていたのに、現実は「ヂャキッ、ヂャギッ!」というやたら硬質な歯ごたえ。たこ焼きの記事とまったくマッチしていない。なんだこの微妙な食べ物は。

結論:たこ焼きには素直にタコを入れるべし。エイの軟骨は焼くべし、揚げるべし。

エイ料理の注意点

ようやく出会えたツバクロはやっぱり凧っぽく、意外と美味しかった。

エイが美味しいと言うとびっくりする人や信じてくれない人も多いが、たくさん獲れて味も良いアカエイやガンギエイ(カスベ)は実際、色々な地域で食べられている。

もし魚釣りをしていてエイが釣れたら、試しに食べてみると意外な発見があるかもしれない。ただし、先ほども述べたがエイの仲間には尻尾に毒針を持つものが多い。食べようとして返り討ちに合わないよう、ゆめゆめ注意されたし。また、大きなエイからは結構な量の肉が取れるので、大物を軽い気持ちで持って帰ると後悔するので気をつけよう。
このサイズのエイからは何人前の肉が取れるんだろうか…。
このサイズのエイからは何人前の肉が取れるんだろうか…。
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