65℃の保温ができるヨーグルトメーカー、ヨーグルティア
25~65℃まで、1℃刻みで最大48時間も保温ができるという夢みたいなヨーグルトメーカー、それがタニカ電器のヨーグルティアである。
しっかりとフタのできる専用容器が2つ用意されており(ここ大事!)、中身をそのまま運んだり冷蔵庫に入れたりできて、使い勝手がとても良い。
二世代前の炊飯器みたいなヴィジュアルが素敵。
ヨーグルティアというヨーグルトメーカーなので、当然ヨーグルトを作るのに最適化された家電なのだが、納豆や甘酒などの発酵食品を作ることができると説明書にも書かれている。
インフルエンザやらピロリ菌やらと戦ってくれると噂のちょっと高いヨーグルトも、牛乳と混ぜて保温するだけで何倍もの量になるから、食べ放題の菌充生活の毎日である。
市販のヨーグルトと牛乳をませて、なんやかんやすると大量にドーン!
そんなヨーグルティアに備わっているのが、発酵や培養にはあきらかにオーバースペックな65℃という保温機能。これを加熱殺菌に利用して肉を煮ようというのが今回の試みだ。もちろん取扱説明書には書かれていない。
牛の生レバーが禁止になった時に、「
生レバーがダメなら低温殺菌レバーだ」 という記事を書いたが、そこに温度管理の自動化と独自の真空調理法をプラスするのである。
前回は鍋にたっぷりのお湯を張ったが、一定の温度をキープするのが難しかった。
そして直接お湯に触れないように茹でるための良いアイデアがなく、ラップに包んで茹でていた。
ストロー吸引式真空パック製造機を開発
今回の実験はヨーグルトメーカーによる低温湯煎調理を想定しているのだが、まず解決しておきたいのが、食材を真空パックにする手段だ。
ビニール袋などに入れて、水を張ったボールに沈めて空気を追いだす方法が一般的のようだが、私がやると沈めすぎて水が入りがち。そこで考案したのが、昆虫採集の吸虫管を参考にした、使い捨てのストロー吸引式真空パック製造機である。
直径4ミリの細いストローと、同じ太さのドリルを購入。
ペットボトルのキャップ部分と、なるべく下の適当なところに穴を開ける。
難しい名前を付けてみたが、要するにペットボトルの上と下に穴を開けて、そこにストローを刺したものだ。
下のストローを食材の入ったチャック付きビニール袋(ジップロック的なやつ)に刺して、チャックをストローギリギリまで締め、上のストローから空気を吸い出すのである。
上のストローを浅く刺すのがポイントです。
こんな感じで空気を吸い出すと、汁を吸いこまない!
口に当てたストローを直接ビニール袋に刺して吸い込んだ場合、肉汁とか調味料とかが口の中に飛び込んでウェーっとなるが、この方法ならペットボトルの底に貯まるからその心配がないのだ。
袋の中の空気が抜けたら、そっとストローを抜きつつチャックを閉めれば、真空っぽいパックの完成。長期の保存とかではなく、数時間の低温加熱に使うだけなので、この簡易的な真空状態で十分だろう。
真空パックをする便利な機械も持っていたりするのだが、ランニングコストが高いんですよね。
まずは鶏モモ肉を煮てみよう
さてようやく話は本題へと進んで、肉を煮る実験の開始である。最初は一番失敗が少なそうな、それでいて間違いなくおいしいであろう、鶏モモ肉からやってみることにしよう。
チャック付きのビニール袋に、鶏モモ肉と適当な調味料を入れて軽く揉み、例のスペシャルな機械でしっかりと空気を抜く。なんで空気を抜くのか一応説明しておくと、空気の層があるとお湯の熱が食材に伝わってくれないから。
醤油、ナンプラー、酒、おろしショウガでどうでしょう。
専用容器に水を入れ、そこに空気を抜いたビニール袋を沈めてフタをする。
さてここで迷うのが、何度で何分加熱するべきか。前回は厚生労働省医薬食品局食品による「
生食用牛肝臓の取扱いについて」に書かれていた「中心部を63℃で30分間加熱」というのを基準にした。
ちなみに食品安全委員会による「
食中毒予防のポイント」によると、鶏肉で気を付けるべきカンピロバクターは65℃以上で数分らしいので、その辺りを考慮したうえで、なんやかんややってみたいと思う。
ということで、まずは65℃で3時間だ。水が温まる時間、そして中心まで熱が伝わる時間を考えて、かなり長めに設定してみた。ヨーグルトメーカー本来の使い方ではないので、もちろん自己責任の範疇であるが、僕はヨーグルティアの魂を信じている。
ヨーグルティアの上限温度である65℃にしてみましょうか。
そして3時間経ったものがこちら。
ある程度冷めるのを待ち、ビニール袋から取り出してみると、びっくりするほどのジューシーさと柔らかさの鶏モモ肉になっていた。不安になるほどの仕上がりだが、切ってみると中までしっかりと火が通っているっぽい。
真空パックと保温機能の共演、素晴らしい。手間に対するリターンがこれほど大きい料理は、めったにないのではないだろうか。
この肉の柔らかさが伝わるだろうか。
肉がうまいのはもちろんだが、ビニール袋に溜まった汁が、素晴らしいタレとなっている。
普通にお湯などで煮ると肉汁がどんどん出ていってしまうものだが、この方法だと肉汁が袋の中に溜まるので、それをソースとして活用ができる。
この調理法、楽しい!
このタレが冷えると煮凝りみたいに固まるんですよ。
続いては鶏胸肉に挑戦
基本的な作り方をマスターしたところで、どんどんと肉を煮ていきましょうか。
鶏のモモ肉に続いては胸肉。加熱しすぎるとパサパサになってしまう加減の難しい食材だが、こいつならきっと適温を攻められるはずだ。
鶏胸肉を軟らかく煮るって、なんだか浪漫ですよね。
醤油、酒、生姜、胡椒でいってみましょう。
今回の肉は塊が大きかったので、65℃で4時間としてみた。
なるほど、こうきたか。
できあがったのは、「ザ・蒸し鶏」という感じの料理で、肉の弾力が素晴らしく、しっかりと火が通っている安心の仕上がりだ。きっとこれが正解なのだろう。
わかってはいる。これはこれで十分旨くて柔らかいのだが、せっかくだからもうちょっと冒険をしてみたい年頃なのだ。そこで無理を承知で、今度は63℃で3時間に設定してみた。
うおーー、危なっかしー!
さすがは63℃である。生の状態とはもちろん違うのだが、しっかりと火が通っているとは呼び難い危なっかしさ。ちなみに肉が白いのは味付けするのを完全に忘れたから。
予想以上にジューシーかつアグレッシブ。それ故に、東南アジアの屋台あたりで出てきたら、食べるのを躊躇することだろう。
自分が食べるための実験としては楽しいのだが、人にオススメはできない感じなので、味は内緒にしておこう。一応ヨーグルトをたくさん食べてみた。
鶏のレバーはどうだろう
続いては前回の記事で絶品だった鶏のレバーである。今回購入したのは、ハツ(心臓)が付いているタイプだ。
レバーは三等分、ハツは半分にカットして血抜きをして、醤油、オイスターソース、酒、ニンニク、ショウガ、胡椒、胡麻油のタレに漬けこむ。
両サイドがレバー、中央がハツです。繋がっているので、セットで売られていることが多いですね。
とても好きな食材なのですが、熱の通し方が難しいのです。
強気の63℃にしたい気持ちを押さえつつ、とりあえずは65℃で3時間。
そしてできあがったのは、十分柔らかくておいしいレバーとハツだったのだが、これでもまだちょっと火が通りすぎている感じがする。
いや、贅沢をいっているのはわかるのだが、こいつらのポテンシャルはもっと高いはずなのだ!
うまいけど、もっとうまくなるはず!
そこで翌日再チャレンジ。今度こそはと欲望のままに63℃で3時間である。
僅か2℃の違いがここまで大きくなるのかと、驚かざるを得ない結果となった。
やばい、これはやばいね。
どうだろう、この色艶。人によってはまだ生だと怒るだろうし、人によってはパーフェクトな火の通し方だと喜ぶだろう。
どうやら63~65℃あたりに、肉のタンパク質が大きく変化する境界があるようだ。そしてそれがちょうど食中毒予防の目安となる温度だったりする。ちなみに牛乳の低温殺菌は63℃で30分。
おすすめはまったくできない。だから味の説明もしない。あえて一言だけ言うなら、これはもはや肉のプリンだ。
半分に切ってみると、均等に火が通っているのがわかる。
豪華なローストビーフを作りましょう
次はちょっとしたご馳走のイメージがあるローストビーフである。
肉屋でローストビーフ用の肉をくださいといったら、国産と外国産があるよといわれたので、「じゃあ思い切って国産で!」といったら、個体識別番号が付いた相当なご馳走価格の肉が出てきた。
そんな出会いの高級肉だが、ローストビーフといえばまず外側を焼いてから低温でじっくり加熱みたいなイメージがあるけれど、あれって意味があるのかなと、2種類の方法で試すことにした。
100グラム650円!税別3094円!
半分は周囲に焼き目を付けて、半分はそのままで作ってみます。
焼き目をつけた肉と、つけていない肉をそれぞれビニール袋に入れて、軽く塩と胡椒を振ってヨーグルティアへ。
今度は牛肉だし、勝負温度である63℃で3時間にしてみようかな。やばそうだったら再加熱の方向で。
左が焼いたやつ、右が焼いていないやつ。やっぱり何となく違うな。
左が焼いたやつの肉汁、右が焼いてないやつの肉汁。ほほう。
表面を焼いてある方は、当たり前だが焼き目があってうまそうだ。
焼いていない方も、色はついたけれど、なんだかムニョンとした感じになった。
肉汁の色の違いについては、肉の表面から染み出すものだろうから、その表面が焼かれているかどうかで、その色が変わったのだろうか。
そして見た目的には、焼いた方が断然うまそうに思える。焼いていないと肉から染み出したタンパク質的なものがムニョンとついてしまい、どうもおいしそうじゃない。食べるとどっちもおいしいんだけどね。
表面を焼いた方をわさび醤油で。表面を焼いたことで中に熱が伝わりにくくなったかも?
焼いていない方を肉汁のソースで。なんだかムニョンとしている。そして切る繊維の向きを間違えたかな。
ローストビーフなどでよく言われる、「表面を焼くことで肉汁を閉じ込める」という意味合いがこの調理法であったのかは謎だが、表面を先に焼いた方がうまそうなのは確かだろう。
安い牛肉でも試してみよう
高い肉で作ったローストビーフ的なものは高いだけあってうまかったのだが、あの値段だと日常的には買えないので、今度は安い外国産の肉で試してみることにした。
見事なまでに脂身が一切ない、オーストラリア産の牛モモ肉。そのままだと固そうなので、オリーブオイルに漬けて茹でることで、コンフィ的な感じにしてみようか。
100グラム148円だった。
本当は牛脂でやればいいんだろうが、とりあえずはオリーブオイルでヘルシーに。
今度は油が肉に染み込むように、あえて長く煮てみようかと、65℃で4時間に設定してみた。
その結果、イメージしていたものとは全く違う、ソフトなビーフジャーキーみたいなものが出来上がった訳である。
なるほどー。
なまじ和牛で作ったローストビーフなんていう高級なものを食べてしまった後ということもあり、猛烈に固く感じてしまう。ジャパンとオージーの差こそあれ、牛モモ肉という同じ部位とは思えない歯ごたえだ。
いやいや、これはこれでうまいのだ。山小屋でウイスキーでも飲みながら食べるにはこっちが正解だろう。
でもやっぱり固い肉を柔らかく仕上げてみたいんですよともう1人の自分を拝み倒し、また同じ肉を購入してきて、63℃の3時間で再チャレンジ。
赤い!とりあえずヨーグルトを食べなければ!
でた、おすすめできない系の仕上がり。ほんのりピンクとは呼べない、フルボディのワインみたいな赤さ。
限りなく生肉に近いピンク。大丈夫なのかこれは。やっぱり4時間にするべきだったか。
こんな色なので味について語ることはできないのだが、とりあえず箸でつまんだ感じだけで言えば、前回と同じ肉とは思えない柔らかさ。ここに醤油を一垂らしすると最高なのだろう。
豚肉も煮てみます
鶏肉、牛肉ときたら、やはり豚肉も煮なければならないだろう。肉の三権分立。ここのところ夕飯のメニューが肉に偏り過ぎではあるのだが。
前回の牛肉料理を踏まえて、豚モモ肉の固いところを、ラードと一緒に煮てみようか。
脂の少ない豚モモ肉にしてみました。
醤油、みりん、塩、胡椒という煮豚っぽい味付けをした上で、ニュルリとラードを加えてみたよ。
毎回迷う加熱時間は、低めの長めで63℃の4時間。ラードを多めに加えたのだが、あっさりとした仕上がりとなった。
フワフワしたのが邪魔なので、袋に残った汁を濾せばよかった。
なるほど、なるほど、こうなったか。部位的にホロホロと柔らかい感じとはならないが、適度な歯ごたえとたっぷりと汁を吸った肉の旨さが楽しめる。
これにラードを5倍くらい入れれば、また違う感じになるのだろうか。あるいは豚バラだったらどうなっただろう。ああ、夢は膨らむばかりである。
豚タンという選択肢はどうだろう
次はちょっと変化球で、豚のタンを試してみよう。これも好きな食材なのだが、火を通すと固くなってしまいがちだ。
醤油、オイスターソース、酒、胡椒、ショウガに、丸のまま漬けてスーパーストロング湯煎マシーンにドボン。
切れ込みでも入れようかと思ったが、とりあえずは丸ごと攻める。
上手く火が通れば、そうとううまいはずなのだが。
これを65℃で3時間、ついでに再トライとなるオージービーフと一緒に加熱してみたのだが、今までで一番怪しい仕上がりとなってしまった。
白髪ネギをたっぷり乗せて、熱い胡麻油をジュー。けしからん、これはけしからん!
いかんいかん、これはけしからん。さすがに豚肉でこの感じはやばいだろう。芯まで生の時とは違う色になってはいるが、これでは火が通ったとは言えまい。柔らかくてうまいだろうが、いかんのである。
これはどうも専用容器に肉と水を突っ込みすぎたて、容器内の水の温度がうまく上がらなかったためのようだ。一緒に煮た牛肉も真っ赤。置いておいた場所が人のいなくなった冷たい台所だったといというのも原因か。
ちょっと突っ込みすぎたかな。
いかん、これもまたいかん!
専用容器に一杯の食材を最高温度で何時間も保温するのは、軽トラックが積載量マックスに荷物を載せて最高速度を出し続けるようなものなので、量を減らしたり、途中で容器内をかき混ぜたりといった調整が必要のようだ。
ならばと今度は豚タンだけを入れて65℃で3時間加熱。途中で一回お湯をかき混ぜたこともあり、ムラなく火を通すことに成功。
ナイス豚タン!
前作のような柔らかさこそないけれど、この歯ごたえこそが豚タンの味わいと思い直す。タレに一晩漬けてから火を通せば、また違う感じになりそうだ。
この調理、可能性がたくさんあってとにかく楽しい。低温加熱で中までギリギリに火を通しておいて、さらに別の料理へと展開させることも可能だ。
豚ロース肉を塩麹に漬けてから火を通し、フライパンで表面だけ焼くというのもうまかった。
今回は試さなかったが、きっと肉だけではなく魚や野菜にも応用できることだろう。もしかしたらこの保温ができる機械があれば、ヨーグルトや甘酒なんかも作れるかもしれない。
大人の調理オモチャという感じです
このヨーグルティアクッキングの楽しいところは、温度と時間を設定するという行程があるところ。デジタルな値を入力し、その結果に一喜一憂して、次にフィードバックさせる楽しさがある。
普通に焼いたり煮れば数分のところ、 何時間も掛けて加熱するというのも、なんだかのんびりとしていて楽しい。でも一番作るのはやっぱりヨーグルト。容器が二つあって本当によかった。