特集 2014年12月2日

川に遡上したサケやマスは本当にマズいのか

確かにまずそう!だけど食べてみなけりゃ分からない。
確かにまずそう!だけど食べてみなけりゃ分からない。
サケやマスは美味い。生でも焼いてもすり身でも…。
まあ、まだ産み落とされる前の段階であるイクラや白子ですらあのおいしさなのだから、美味を約束された人生もとい魚生と言えよう。

だが、そんな彼らにも「マズいから」と忌避されがちな時期があるのをご存知だろうか。秋、産卵のために河川へ遡上するタイミングである。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。

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マスの産卵を見に中禅寺湖へ

その時期に味が落ちるとされるのには理由がある。おおざっぱに言うと身(筋肉)に蓄えた栄養が産卵のために使い果たされてしまうためなのだそうだ。

この味が落ちた(と言われる)サケ・マスは普通、市場にそのまま出回ることはない。だがこの秋に日光を訪れた際、僕は幸運にも河川を遡上したマスを味見をする機会に恵まれた。まずはその顛末を。
秋の風が吹く、けれど紅葉はまだ始まっていない中禅寺湖畔。
秋の風が吹く、けれど紅葉はまだ始まっていない中禅寺湖畔。
2014年秋、僕は栃木県の中禅寺湖畔を訪れた。産卵のために川へ遡ったヒメマス(海に降らずに生涯を終えるタイプのべニザケ)およびホンマス(ヤマメとビワマスの交雑個体とされる)という魚を観察するためである。
その中禅寺湖へ流れ込む河川には、この時季になると多数のマスが産卵のために遡上するらしい。それを見るため、東京出張の合間を縫ってやってきたのだ。
その中禅寺湖へ流れ込む河川には、この時季になると多数のマスが産卵のために遡上するらしい。それを見るため、東京出張の合間を縫ってやってきたのだ。
秋の日光といえば紅葉で有名だが、9月下旬~10月初頭はまだモミジもハゼも染まらず、見頃にはほど遠い。しかし、この観光客もまばらなこの時季にだけ、知る人ぞ知る「水中の紅葉」に立ち会えると聞いた。

普段は銀色をしたヒメマスやホンマスたちが産卵を控えて紅色に衣替え(婚姻色という)し、流入河川に大挙して押し寄せると言うのだ。さぞ圧巻だろう。
間違いなく冷たいだろうが、飛び込みたくなるほど澄んだ水が流れている。が、この川は遊泳禁止。防水カメラを握った手だけを沈め、やみくもにシャッターを切ってみると…。
間違いなく冷たいだろうが、飛び込みたくなるほど澄んだ水が流れている。が、この川は遊泳禁止。防水カメラを握った手だけを沈め、やみくもにシャッターを切ってみると…。
到着したとある小川は驚くほど透き通っている。ここが(ネットで調べた限りでは)最も有名なマスの遡上ポイントらしいのだが。
めっちゃくちゃ綺麗!
めっちゃくちゃ綺麗!
流れの中へ防水カメラを沈めてみると、アッと声が漏れそうな水景が広がっていた。南国の海にも負けない透明度と、日本の川ならではの清涼感。遊泳禁止の水域だが、水中メガネを掛けて潜りたい衝動に駆られる。ああ、来てよかった。
バイカモという水草が流れになびいている。この光景だけでもそこそこ満足しかけてしまったが、なぜか肝心のマスの姿は無い。
バイカモという水草が流れになびいている。この光景だけでもそこそこ満足しかけてしまったが、なぜか肝心のマスの姿は無い。
が!だが!けれど!しかし!
マスの姿が無えじゃねえかよ。話が違くなあい?

「水中の紅葉」見られず!

不審に、そして不安に思い、近所のキャンプ場で職員さんたちに話を伺うと、驚愕の返答が。
「あー、今年はなぜか全然マスがいないのよ」
え、ウソ!来るタイミング早すぎたとか?
「いや、今の時期にいなかったら、たぶんもういつまで待っても見られないよ。今年は沖の刺網にも掛かってないし、単純にこの辺りに回遊してきてるマス自体が極端に少ないみたい」


なんでも、稀にではあるがこういう年もあるのだという。運が悪かった…。
だが、諦めずに水面に目を凝らし続けていると、なんとかヒメマスの姿を発見。
ようやく見つけたヒメマス(海に降りず、川と湖だけで一生を過ごすベニザケ)の雄。だが、期待よりも遥かに数は少ない。
ようやく見つけたヒメマス(海に降りず、川と湖だけで一生を過ごすベニザケ)の雄。だが、期待よりも遥かに数は少ない。
キャンプ場の職員さん曰く「いい年は川がマスで埋まって真っ赤になる。」らしいが、この日は数匹のヒメマスを視認できたのみ。

なお、中禅寺湖はもともと魚のいない湖で、このヒメマスは十和田から放流されたものの子孫である。また、ホンマスの元となったビワマスとヤマメも琵琶湖など他水系から持ち込まれたものなのだとか。
こちらはヒメマスの雌。確かにベニザケのミニチュアのよう。
こちらはヒメマスの雌。確かにベニザケのミニチュアのよう。
魚の数は少ないながらも、大変見栄えの良い光景である。何度も言うようだが、ぜひ潜って眺めてみたかった。

一応、動画も撮ってきた。指先とカメラだけ水中に入れて操作しているので、カメラワークが見苦しいですが、よろしければどうぞ。

亡き骸を拾う

結局、川が染まるほどの大遡上は見られなかった。でもまあ、自然が相手ではこういうこともあるだろう。本来は二泊三日で心ゆくまで撮影を楽しむつもりだったが、今回は予定を早めて切り上げた方が得策だろう。また来年に期待しようではないか。
がっかりしてまた別の川を眺めていると…。
がっかりしてまた別の川を眺めていると…。
と言いつつも心残りで、テントすら張らなかったキャンプ場の橋の上から川を見下ろしていると、上流から何かが流れてきた。
何か赤い物が流れてきたぞ?
何か赤い物が流れてきたぞ?
種類まではハッキリしないが、それが魚だということはすぐにわかった。
…マスだ!
…マスだ!
そして、それが婚姻色の出たマスの屍だということも。
マスの亡き骸は石や木の枝にぶつかりながらゆっくりとさらに下流へ流されていく。
並走して追いかけると、ちょうど岸際に茂った水草に引っかかり、止まった。
回収!
回収!
兎にも角にも その姿を拝みたい。
とりあえず木の棒で引き寄せて回収してみる。
水から揚げて観察してみよう。黒い頭部に桜色の縞模様と言った婚姻色(繁殖期特有の体色)は出ているが、かなり肌が荒れており、痛々しい印象を受ける。繁殖にすべての力を使い果たした結果なのだろう。
水から揚げて観察してみよう。黒い頭部に桜色の縞模様と言った婚姻色(繁殖期特有の体色)は出ているが、かなり肌が荒れており、痛々しい印象を受ける。繁殖にすべての力を使い果たした結果なのだろう。
さきほど観察したヒメマスとはかなり異なる容姿。ビワマスとヤマメの雑種とされるホンマスの雄だろうと思われる。確かに、婚姻色のパターンが海に降りたヤマメであるサクラマスやビワマスのそれによく似ている。

上流で無事に繁殖活動を終え、力尽きたのだろう。ボロボロに傷み、変色した肌が壮絶さを物語っている。

いたずらをして悪かったね。さあ、あとはまた湖まで流されてエビや小魚たちの血肉となり、未来の子孫たちへと命を繋ぐがいい…。と、感慨深く手を離そうとしたが、ちょっと待ったあ!!

これは…食えるな!

あれ?でもまだ眼は澄み切っている…。かなり新鮮な証拠だ。たった今こと切れたばかりらしい。
あれ?でもまだ眼は澄み切っている…。かなり新鮮な証拠だ。たった今こと切れたばかりらしい。
おい、これまだ食えるんじゃないか?なあこれ食えるだろ。食える!食えるな!食えるよなあ?なあ!!
鰓の紅色も鮮やか!総合的に見て、まだまだ食えると判断する!我ながらいやしい!
鰓の紅色も鮮やか!総合的に見て、まだまだ食えると判断する!我ながらいやしい!
事切れてはいるものの、まだまだ眼は澄んでるし、鰓の色もほとんど褪せていない。これはこのマスが極めて新鮮である証拠だ。

ここで、冒頭で書いた「産卵で遡上したサケやマスは不味い説」を思い出した。
「こいつを食べれば真偽を明らかにできる!」

このエリアでは資源保護のため、繁殖期のマスを漁獲することは許可されていない。だが、繁殖を終えたマスの死骸の回収なら話は違う。

ただ、拾ったのが敷地内であったため、一応キャンプ場の事務所へ出向き、持ち帰る許可とビニール袋を頂いた。ただし、引かれると思ったので食用にする旨は話さずにおいた。
雲行きが怪しくなってきた。マスも傷むだろうし、今回は早く撤収しよう。
雲行きが怪しくなってきた。マスも傷むだろうし、今回は早く撤収しよう。
マスを持った僕を急かすように、突然雲行きが怪しくなる。急いで内臓を取り除き、何重にもビニールで巻いて氷で冷やし、カバンに詰め込む。いろは坂を下り、予定より2日も早くレンタカーを返却した。

なお、お腹の中身は悲しいほどスカスカだった。精巣(白子)は見る影も無く、胃も腸も空っぽだったのだ。本当に満身創痍だったんだなあ…。
日光名物の天然氷を使ったかき氷も
日光名物の天然氷を使ったかき氷も
せっかく日光まで来たのだから、色々と食べたい名物、名産もあったが、その辺は来年までお預け。

今回はもっと食べたいものが手に入ってしまったのだから。不味いと噂のアイツが手に入ってしまったのだから。
ゆば饅頭も今回はお預けだ。帰路を急ぐ。
ゆば饅頭も今回はお預けだ。帰路を急ぐ。
氷漬けにして冷やしてはいるものの、のんびりはしていられない。大急ぎで東京へ戻って冷凍庫に放り込まなければ。というのも、産卵のために河川を遡上するサケやマスの類の身には自身の筋肉を分解する酵素が多く含まれるためである。精巣や卵巣に脂肪を譲り、やせ細った筋肉までをもさらに分解してエネルギー源とするのだ。

それだけならまだいいのだが、実に厄介なことにこの酵素というのが死後も作用し続けるのである。多くの魚の場合、冷蔵すれば進行を抑えられるのだが、冷水性のマス類では酵素自体がそもそも低温下仕様になっている。よって完全に冷凍するか、思い切って加熱でもしない限り作用を止められない。

つまり放っておくと、酵素の働きによってどんどん身が分解されて傷んでいくのだ。細菌が湧いて腐る前に、である。
ちなみに日光ではヒメマス料理が有名だが、近年はヤシオマス(ニジマスの改良品種)も名物となりつつある。
ちなみに日光ではヒメマス料理が有名だが、近年はヤシオマス(ニジマスの改良品種)も名物となりつつある。
電車から飛び降りると、東京に住む兄の部屋へ急遽押しかける。冷凍庫の大半を占領して一旦カチカチに凍らせ、ようやく一安心。翌日には冷凍便で速やかに九州の自宅へと送る。

見た目からして全然違う!!

(20)問題の遡上マス。調理に移るまで、二週間近くも冷凍したままになっていた。一応念のための駆虫も兼ねてね。
(20)問題の遡上マス。調理に移るまで、二週間近くも冷凍したままになっていた。一応念のための駆虫も兼ねてね。
さらに美味不味を判断するには比較対象として遡上前のマスがあった方がいいだろうと、冷凍のヒメマスを水産小売業者へ注文した。

できればホンマス同士で比較したかったが、中禅寺湖のホンマスを販売している業者が見つからなかったのだ。

だが地元民いわく、ヒメマス・ホンマス両者の味はよく似ており、どちらも大変美味とのことだったので、ここで妥協しておくことに。
こちらは業者から購入した冷凍の若いヒメマス。産卵期に入って赤い婚姻色が顕れる前は、このように銀色をしている。これはホンマスなどでも同様。
こちらは業者から購入した冷凍の若いヒメマス。産卵期に入って赤い婚姻色が顕れる前は、このように銀色をしている。これはホンマスなどでも同様。
購入したヒメマスはまだ若い個体で、水中撮影した遡上個体と比べるとかなり小ぶりだ。全長は30センチに届かないくらい。

そして、何より体の色が違う。赤い婚姻色が出る前はギラギラした銀色なのだ。同じ魚種だとは思えない。これはホンマスでも同様。
かなり見た目が異なる。種レベルで違う魚なのだから当然と言えば当然だが、どちらも同じ湖に暮らす小型のマス類である。サイズや体色は成熟の度合によるところも大きい。
かなり見た目が異なる。種レベルで違う魚なのだから当然と言えば当然だが、どちらも同じ湖に暮らす小型のマス類である。サイズや体色は成熟の度合によるところも大きい。
ところで、マス類は普段の姿こそ種間で似通っているが、繁殖期にのみ顕れる婚姻色は種ごとに大きく異なる。
特にサケの場合は繁殖期をまだ迎えていない銀色の個体を「銀毛」と呼び、婚姻色が出るとブナの樹皮を思わせるくすんだ模様が体表に浮くので「ブナ毛」と呼ばれるようになる。

肉を食べるなら銀毛が良いと言われ、ブナ毛はイクラや白子がたくさん詰まっている反面、身自体の味は落ちるとされる。

さらにブナ毛は放卵・放精を終えて流れの中で死を待つ段階になるか、あるいは完全に絶命してしまうと、もはや使い道がない、捨てるしかないというニュアンスの「ほっちゃれ」という呼び名を与えられる。使命を果たし、天寿を全うせんとするサケには失礼だが、いよいよもって邪険に扱われるわけだ。

つまり、今回拾ったマスはサケで言うところの「ほっちゃれ」なのである。
若いヒメマスは簡単に鱗が落ちる。皮もとても薄い。見た目から受ける繊細な印象の通りだ。
若いヒメマスは簡単に鱗が落ちる。皮もとても薄い。見た目から受ける繊細な印象の通りだ。
さて、いよいよ包丁を手に取り調理に移る。まずは若マス、ほっちゃれマス(と呼ぶことにする)ともに鱗を落としていこう。

と、ここで早くも妙な点に気付く。
「ほっちゃれ」のマスは鱗がなかなか剥がれない。鱗が表皮に密着して鎧のようになっているのだ。
「ほっちゃれ」のマスは鱗がなかなか剥がれない。鱗が表皮に密着して鎧のようになっているのだ。
若いマスの鱗はスルスルと簡単に剥がれるのに、ほっちゃれマスでは包丁の刃を立てて強く引っかいてもなかなか落ちない。単に体が大きくなったから鱗も頑丈になった、ということでもなさそうだ。

鱗が皮に密着し、皮自体もかなり肥厚化している。皮というより革のようだ。調べてみると、これは浅い河川を遡上する際に水底に転がる石や流木などの障害物で魚体が傷つかないよう、繁殖期限定で形成される特徴なのだとか。生物の身体すげー。
(25)買ってきたヒメマスをおろしてみると、淡い橙色の身が!この華やかさ!若いっていいね!
(25)買ってきたヒメマスをおろしてみると、淡い橙色の身が!この華やかさ!若いっていいね!
まあ、鱗は無理に剥がさなくてもいいだろう。そもそも、こんなに厚く硬くなったのでは鱗が剥げても皮をおいしく食べるのは難しそうだ。

というわけで続いては三枚におろしていく 。若いヒメマスの身は淡く品のある橙色で、大いに食欲をそそる。脂もとてもよく乗っていて、乱暴に扱うと崩れてしまうほど柔らかい。うわ、絶対美味なこれ。
一方、ほっちゃれマスでは白っぽく濁った身が露わに。精巣などの内臓もやせ細り、消化管は空っぽだった。全力を使い果たしたことが体内からも窺い知れる。
一方、ほっちゃれマスでは白っぽく濁った身が露わに。精巣などの内臓もやせ細り、消化管は空っぽだった。全力を使い果たしたことが体内からも窺い知れる。
かたや、拾ったほっちゃれマスの身は似ても似つかぬ有様である。こんなにも違うのか。
白っぽくくすんだ身肉には透明感が感じられない。初めて見るタイプの魚肉の色だ。

間違いなく新鮮ではあるのだが、ちょっと食べるのを躊躇してしまう。
違いは歴然!正直、買ってきたヒメマスの方がずっとおいしそうだ。
違いは歴然!正直、買ってきたヒメマスの方がずっとおいしそうだ。
海や湖で採れるマス類の身が橙色なのは、主食となっているプランクトンに起因すると言われる。食べたプランクトンの色素がどんどん筋肉に溜まっていくのだ。

で、産卵に際してエサを摂らずに筋肉の栄養をどんどん卵巣の育成や遡上などに使い続けていると、養分やエネルギーとともにだんだんこの色も抜けていくようだ。

イクラがあんなに鮮やかなオレンジ色なのは、母親の身からあらん限りの色素と養分をもらい受けたからなのかもしれない。
写真左が遡上前のヒメマスの刺身。右が今回拾ってきたマスの刺身。
写真左が遡上前のヒメマスの刺身。右が今回拾ってきたマスの刺身。
…感動的な話ではあるが、涙で腹は膨れないし、舌を楽しませることもできない。
そういうことは一旦忘れて、さっそく味見をしてみよう。まずは刺身で、間違いなく美味であろう若マス、そして不味いと噂の遡上マスの順に箸をつける。

若いマスは絶品!!拾ってきた方は…うん…。

ところで、話は変わるがサケやマスの刺身というと「寄生虫とか大丈夫なの?」と懸念されがちだ。

実際、サケを生で食べる際は、特に危険な寄生虫として知られるアニサキスや日本海裂頭条虫を避けるためにルイベにするのが一般的である。しかし、これらの寄生虫は海に降ったマス類が航海中に取り込んでしまう連中。今回食べるような、海の代わりに湖へ降るようなマスには感染しようがないのだ。
淡い橙色にきらめく透き通った遡上前ヒメマスの身。見ただけでわかる。これは絶対美味い。
淡い橙色にきらめく透き通った遡上前ヒメマスの身。見ただけでわかる。これは絶対美味い。
また、吸虫症の原因となる肝吸虫もマスにつくことはない。なので、この手のマスは刺身で食べても問題ありません!

…というのが水産業者の見解らしい。今回利用した業者さんも同じことを言っていた。なるほど。僕から推奨するようなことはしないまでも、プロの言うことなら信じよう。刺身、どうせなら思い切り食べたいし。
こここここんなに美味いのか…。
こここここんなに美味いのか…。
…ヒメマスの刺身を一切れ口に運ぶと、イヤでも顔がほころんでしまう。そんな美味さ。
脂が乗っていて、口の中でとろけて、甘みが広がって…と陳腐なグルメレポートそのままの感想しか出てこない。

分かった。もう他の料理法を試すまでもない。これは煮ても焼いても揚げても、もうどうしたっておいしくなってしまうやつだ。
お前、川魚のくせにやるなあ…。
鮮やかさにはまったく欠ける「ほっちゃれ」マスの刺身。遡上前ヒメマスを見た後だと、お世辞にもおいしそうだとは言えないが…。
鮮やかさにはまったく欠ける「ほっちゃれ」マスの刺身。遡上前ヒメマスを見た後だと、お世辞にもおいしそうだとは言えないが…。
いただきます!どんな味か、ちょっと怖いな…。
いただきます!どんな味か、ちょっと怖いな…。
お?想像していたよりはすんなり食べられる味だな…。
お?想像していたよりはすんなり食べられる味だな…。
…おや。若いマスほどではないが、ほんのりと甘みがある。うっすらだけど、確かに「マス感」残ってるよ。出涸らしですら旨みを含むとは、さすがはマスといったところか。

ただし、若いマスと比べると、味はやはり格段に劣る。ハッキリと。
脂が抜けたせいか、 食感は若いマスよりいささか固くなっているが、同時に水っぽくもなっている。これもマイナスポイントだろう。

そして、若干の生臭さもある。これは死後の細菌繁殖による腐敗ではなく、酵素による自己消化としての傷みが原因だと思われる。あるいは、血抜きが出来なかったために悪い血が全身に回ってしまった結果か。
続いて作ったのは「ほっちゃれ」マスのムニエル
続いて作ったのは「ほっちゃれ」マスのムニエル
うーん、生では食べられないこともないが、正直言ってたくさん食べたいと思えるような味ではなかった。やはり火を通したほうがよいだろうと思い、マス料理の定番であるムニエルを作ってみた。

…さっそく食べてみると、刺身で気になった臭みはもはや感じられない。加熱により消え去っている。
後味は確かにマスのそれである。食感はマスにしては柔らかいが、白身魚にしては固い。フワフワ感が足りず、しっかりした歯ごたえがあるのだ。ムニエルに合う肉質と言えるかもしれない。
ほっちゃれマスのフライ
ほっちゃれマスのフライ
ムニエルがおいしいなら、きっとフライにしても合うにちがいない。パン粉をまぶして揚げてやると、香ばしい匂いがキッチンに広がる。
加熱すると真っ白に。
加熱すると真っ白に。
ナイフで切ってやると、断面は白かった。普通、サケやマスを加熱すると、身の橙色が多少なりとも残るものだが、こちらはアジフライのように真っ白。生の状態ですでに白濁してくすんだピンク色だったのだからもはや意外でもなんでもないが。
買ってきたヒメマスは焼いてもうっすら橙色が残った。この写真だと分かりにくいけど。
買ってきたヒメマスは焼いてもうっすら橙色が残った。この写真だと分かりにくいけど。
臭みも抜けて美味いね!あんまりマスっぽくはないけど。
臭みも抜けて美味いね!あんまりマスっぽくはないけど。
食味に関してはムニエル同様、やはり後味に独特の苦味とも旨味ともつかない「マス感」を覚える。とは言え、食卓で黙ってこれを出されたら、食べても即座にマスとは判別できないかもしれない。
だが、決して臭みも感じないし、揚げ油で油脂分が補われただけ、ムニエル以上に食べやすい。遡上済みのほっちゃれマスに対するベストな調理法かもしれない。
まあ、揚げれば大抵の魚はおいしくなるんだけどね。

そして最後に、「ブナ毛」や「ほっちゃれ」といえば!というメニューを作って〆るとしよう。
一度塩焼きにしてほぐすと…。
一度塩焼きにしてほぐすと…。
一度塩焼きにしてほぐすと…。
一度塩焼きにしてほぐすと…。
市販の安い鮭フレークの一部には人口採卵後の卵や精子を抜き取られたブナ毛が使われると聞いたことがある。
あれを再現してみようと強めに塩を振って焼き上げ、ほぐしてみたのだ。だが予想通り、ご覧の通り。まったく似ても似つかないものが出来上がった。鮭フレークよりサバのほぐし身に近い見た目である。やたら水っぽいし、味も物足りない。

思い返すと、瓶詰めの安い鮭フレークは筋肉の繊維が毛羽立って見えるほど、やたら細かくほぐされている。その上、後付けの調味が強く施されてサケらしい味は薄れている。あれは加熱した身を細かく粉砕して余計な水分を飛ばし、着色料と調味・香料を足した結果なのではないだろうか。個人的な想像だけど。

だが、あれはあれで美味いので、イクラや白子を取り出したブナ毛の利用法としては非常に優秀なものだと思える。

確かに味も色も落ちてました

「産卵のために河川に遡上したマスは美味しくない」という噂は、やはり概ね真実だった。確かに味も色の鮮やかさも落ちていた。
生活の様式や環境がここまで露骨に味に変化をもたらすとは。魚って不思議だね。

だが、調理次第ではそれなりに美味しく食べられたこともまた事実。
鮭の場合、一口にブナ毛と言っても、採れる水域やブナ毛化の進行具合によっても味が違うとされる。例えば、沿岸から河口付近にいる婚姻色のまだ薄いものは、さほど味や身の色落ちていないといった具合である。

「ほっちゃれ」状態のマスでさえ、さほど悪くはなかったのだ。ならば、遡上が始まっても個体によっては調理法次第でバッチリおいしく食べられるに違いない。
二種類のマスの刺身をアボカドと刺身醤油で和えたものをどんぶりに。とても美味いが、正直に言うとほっちゃれは抜いたほうがベター。
二種類のマスの刺身をアボカドと刺身醤油で和えたものをどんぶりに。とても美味いが、正直に言うとほっちゃれは抜いたほうがベター。
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