岡山産が有名
初めてそうめんかぼちゃと出会ったのは西原理恵子氏のエッセイ漫画の中だった。
たった1コマで「茹でてほぐして麺つゆにつけて食べると、まずい。」とスピーディーにこきおろされていたのが印象的だった(そうめんかぼちゃとそれを作る農家の名誉のために断っておくが、正しく調理すればおいしく、面白い野菜である)。
味に関しては良い印象を受けなかったが、「麺に変身するウリ!」という点だけでも、僕の好奇心を鷲掴みにするには十分だった。
長崎のスーパーで購入したそうめんかぼちゃ(岡山産)。その後、茨城や東京のスーパーでも見かけた。意外と一般的な食材なのかも。
そうめんかぼちゃについて調べてみると、国内では岡山県で多く生産されていることがわかった。
そうか、岡山まで行かないといけないのか…。自宅は長崎なので、決して近くはないな…。
と思っていたら、近所のスーパーにあった。思ったよりもずっとメジャーな野菜だったようだ。皮の表面には岡山産を示す金色のシールが誇らしげに輝いている。
皮の色は象牙色~薄い黄色といったところだ。
細長くほぐすなら必ず輪切りに
こちらは皮が少し白っぽい。
反射的に二玉のそうめんうりを購入した。
「そうめんうりで実際にそうめんやその他の麺料理を作る」という兼ねてからの野望を実現するために。
とりあえず割ってみようと、カボチャやスイカと同じように包丁を縦に入れる。カボチャ程ではないが意外と硬く、割るのにそこそこ難儀する。ぱっと見た感じ、特に変わったところは無い。ごく普通のウリだ。
一見すると普通のウリ。
…だが、よくよく目を凝らすと、繊維状の果肉が束になっているように見える。もしやこれがほぐれてそうめん状になるのか?
ならまずいな。この繊維は横向きに走っているので、長い麺状にほぐすには輪切りにすべきだった。縦に切っちゃったよ…。
写真だと分かりにくいが、そうめんかぼちゃの中身は繊維状の果肉がみっちり集まって構成されているようだ。
ネットで「そうめんかぼちゃ 茹で方」と検索すると、詳しい解説を載せたページがたくさん出てくる。
それによると、やはり輪切りにして茹で、ほぐせる程度に火が通ったら冷水にさらすことが肝要らしい。
そういうのは前もって読んどけや、自分。
現代における珍食材の取扱説明書はネット上にあるのだから。
輪切りにして茹でるのが正しき手順だったらしい。
まあ、縦に切っても味が落ちるわけではないのだが、やはり一本一本の繊維が短くなり、麺らしさに欠けてしまう。こちらの使い方はまた改めて考えることにして、余分に買ったもう一玉を輪切りにし、茹でていく。
火が通ると、いくらか果肉の黄色が鮮やかになってくる。
火が通ってくると、そうめんうりの果肉は黄色味が強くなり、透明感を帯びてくる。加熱が過ぎると脆くなってしまうらしいので、ほどほどで引き上げる。
鍋から引き上げると、すでに身がほぐれ始めている。
おお、麺だ。麺ができた。
そして氷水にさらして冷まし、果肉をつまむとバラバラと果肉が細長くほぐれていく!
確かにそうめんみたいだ!いや、鮮やかな黄色もあいまって、むしろ鶏卵素麺に近い見た目だ。茹でただけのウリの実だとは思えない。不思議。
製麺完了。黄金色がまぶしいぜ。
これでとりあえず製麺(?)は終わりである。いよいよこの麺を活用した料理を作っていくわけだが、まずはやっぱりその名にも冠するそうめんを作らねば始まらないだろう。
ソーメン
ほぐしたそうめんかぼちゃ麺をさらに氷水にさらし、麺つゆにつけていただく。
そうめんかぼちゃのそうめん。見た目は清涼感たっぷりだがお味は?
……。
うーん…。まあ爽やかで美味いけど、そうめんのイメージとは違う味と食感。当たり前だけど、これ麺じゃねえ。シャキシャキしてる麺なんて聞いたことないぞ。刺身のツマに大根の細切りが付いてくるだろう。あれをウリ風味にして麺つゆで食べている感じ。
聞いた話だと、この食べ方がお好きな方も少なくないらしいが、個人的には物足りないというか、もっと美味しい食べ方がある気がする。
冷やし中華
そうめんかぼちゃの冷やし中華
続いてはそうめん同様、冷たい麺料理の代表格である冷やし中華に挑戦だ。
おいしい!だけど冷やし中華じゃあないなっ!
…美味い。いや、美味いけどサラダだこれ。見た目以外はぜんぜん麺料理じゃないよ。でもまあ、さっぱりとしていてなかなか美味しく、食感も良いので、(外見が)サラダスパゲッティ(っぽいただの野菜サラダ)もいけるな。
ラーメン&つけめん
…ぶっちゃけて言うと、食感がウリそのものすぎるので、もうスタンダードな麺の代わりに用いるのは難しいだろう。もうこの時点で気づいてはいるのだ。
だが、もしかしたら…というわずかな期待が調理の手を動かしてしまう。
冷たい料理はサラダっぽくなってしまった。ならいっそ、温かいスープと合わせて食べるラーメンやつけ麺ならどうだろう。
そうめんかぼちゃの豚骨ラーメン
そうめんかぼちゃつけ麺
美味い!けど、これってスープや具が美味いだけでは…。
…美味いよ。美味いけど、これはスープやチャーシュー、海苔が美味いのであって、そうめんカボチャはスープを吸って具を絡めるスポンジとしてしか機能していない気がする。シャキシャキしたスポンジ。
あと、つけ麺はまだしもラーメンで重大なことに気づいた。そうめんカボチャ、煮すぎると食感がシャキシャキからホクホクに変わるのだ。より麺らしい食感から遠のく。一度ほぐしたら、もうそれ以上火を通しちゃダメだ。
そうめんうりは低カロリーらしいので、カップ春雨スープに春雨代わりにぶち込んで究極のダイエットヌードルにしようとも思ったけど、この案はボツだな。
皿うどん
温かく煮ようが冷たく仕上げようが、麺料理として食べるには少し無理があった。何度も言うように、食感が麺類らしいツルツルシコシコから程遠い野菜特有のシャキシャキもしくはホクホクになってしまうからだ。
それでも麺として活用したいならいっそ、揚げてしまえばどうか。ということで、長崎名物の細麺皿うどんを作ってみた。
そうめんかぼちゃの皿うどん
水分が多いため、長時間揚げてもパリッとはしない。けれど、ジャクジャクした食感は独特で面白い。そして油の香ばしさと、カボチャの天婦羅に通じる甘みが味わい深い。
これは美味いよ!皿うどんでは決してないけど!これは新しい料理を創ってしまったのかもしれない。
ソーメンチャンプルー
意外と水分を飛ばしてもおいしいのだな。というわけで、ほぐしたソーメンウリをツナ缶とさっと炒める。ソーメンチャンプルーならぬソーメンウリチャンプルーだ。
ソーメンウリチャンプルー
美味い!麺料理としてではなく野菜の炒め物として美味い!!
口に運ぶと、ああ、確かにチャンプルーだ。シャキシャキしたウリは炒めると美味い!
普通に沖縄料理にありそう。つまみにもいい。
ただ、これが麺料理かと言えば絶対120%違うだろう。でもおいしい。それだけは真実。
最後は「喫茶マウンテン」風!
ところで、皿うどんを作る際に揚げたそうめんかぼちゃは、じわっと甘く、さすがかぼちゃと名が付くだけあるなと思える味わいだった。
かぼちゃといえば、おかずとしてだけでなくプリンなどの甘いデザートとしても食卓に上る。ならば、そうめんかぼちゃもデザート路線で活用できるのではないか。
名古屋名物?「喫茶マウンテン」の甘いスパゲティ。
だが、今回はあくまで「麺料理」にこだわりたい。
そこで、以前名古屋の「マウンテン」という喫茶店で食べた甘口のスパゲティを思い出した。抹茶小倉やらイチゴやら、スパゲティを完全にスイーツに仕上げてしまうことで有名なあのお店である。甘い麺料理と言えばあれをリスペクトせずにはおれまい。
そうめんかぼちゃの喫茶マウンテン甘味スパゲティ風
これも正解!
ほぐしたそうめんかぼちゃにたっぷりの砂糖を加えてさらに甘く柔らかく煮込み、つぶあんと生クリーム、黄桃とサクランボの缶詰を添えれば「そうめんかぼちゃのマウンテン風」の完成である。
予想通り、まったくもって麺料理感は無いが、ホクホクと甘いそうめんかぼちゃに餡とクリームが絡んで、いっぱしのスイーツとして成り立ってしまっている。こういう使い方もやっぱりありなんだな。そうめんかぼちゃ。奥の深い野菜である。
正しく料理すれば、とても楽しくおいしい野菜
今回は麺料理に絞って調理したそうめんかぼちゃだが、実際にはそうめん的に食べるほかは和え物や酢の物などにすることが多いとか。僕もいろいろと試してみたが、やはりそうやってウリとしてスタンダードな食べ方が合っているようだ。
とても面白く、工夫のし甲斐がある食材なので、秋のスーパーや八百屋さんで見かけたらぜひ手に取ってみてほしい。
いつか岡山に行ったら、栽培している様子も見てみたいな。